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第2話 山賊退治

 全速力で駆けてきたセルクは、倒れている女の子の身体を診察した後、回復魔法をかける。


「回復の光」 


すると、ケガの部分が一瞬白く光り、手や足のケガは治癒する。


「大きなケガはありません。小さなケガだけでしたから、もう大丈夫です」

それを聞いて、俺は安心する。後からやって来たメンバーもホッとした表情だ。フェネが首をかしげて、つぶやく。


「こんな森の深い所に、何故女の子が倒れているのでしょう?」

「そうだね。服装から判断すると、僕には冒険者には見えないよ」

「服の生地は上質なものです。まるでアルタイルの森のシルクのようです」

「それより、もっと寝心地のいい所へ運びましょう」


そんな事を話していると、倒れていた紫髪の女の子の口からう、う~んと声が漏れて目がゆっくりと開いた。俺は女の子から少し離れる。気が付いた 時に、周囲が同年代の女の子だけの方が安心するだろう、と思ったからだ。


「ここはどこ? あなたたちは誰?」


フェネが落ち着いた声で、ゆっくりと答える。


「私たちは冒険者よ。この森で薬草採取をしていたら、倒れていたあなたを見つけたの。大丈夫? どこか痛い所はないかしら?」


紫髪青目の女の子は目をパチクリさせていたが、ハッと気づいた様子で上半身を起こした。


「そうだった。私、男たちに追われて、後ろを気にしながら走っていたら、そこの木にぶつかったんだった」


そこまで言うと、あわてて立ち上がりペコリとお辞儀をした。


「助けていただいてありがとうございます。私はアンカアの森のアニマです。今朝、村を出て森の中で薬草を探していたら、知らない男たちに捕まって、小屋に閉じ込められたのです。


でも、小屋は古くて壁の木の腐っている所を壊して逃げ出しました。その途中でそこの木にぶつかって倒れてしまったのです」

「それは大変な目にあったわね。身体は大丈夫?」


「はい、痛い所はありません。それより小屋の中に女の子が5人閉じ込められていました。あの子たちを助けなくては」


この子は誘拐事件の被害者だったのだ。他の誘拐された女の子も助けなくてはいけない。そのための情報が欲しくて、俺は尋ねた。


「小屋の場所はわかる? 男たちの人数は何人?」

「あっちの方角へ走って20分くらいの場所です。3人の男たちがいました。いかにも盗賊って感じでした」


「俺たちを案内できるか?」

「はい、すぐに行きましょう。日が沈む頃、人買い商人が来るらしいです」


俺たちはアニマの案内で小屋へと急いだ。日没まであと3時間くらいしかない。それまでに女の子たちを助けなくてはならないからだ。遠くに小屋が見える所で女の子たちに止まるように言い、小屋の周囲の様子を探る。


星魔法で望遠鏡を出して調べると、小屋の近くには男が2人しかいない。2人は同じ場所にいる。たぶん出入り口の前だろう。残の1人はおそらく小屋の中で女の子たちを見張っている。男たち2人の反対側の小屋の壁に小さな穴が開いている。あれはアニマが抜け出した穴だろう。さて、どうするか。

 

最優先すべきは、囚われている女の子たちの安全だ。小屋の外の男2人を強襲して倒しても、小屋の中の男が女のたちに危害を加える可能性がある。最初に倒すのは小屋の中の男だ。小屋の中に時間をかけずに飛び込むには、あの穴は小さい。少し考えて検討すべき作戦を思いついた。


「ヴェーヌ、プレヤ、セルク、星魔法のさそり座は使えるか」


俺が問うとセルクは使えない、ヴェーヌ、プレヤは使えるとの答えが返ってきた。


「プレヤ、お前のさそりの毒はどうだ?」

「10分ほどしびれさせるくらいです」

「ヴェーヌ、お前のさそりの毒の人間に与える効果はどれほどだ?」

「人間を1時間のほど気絶させるくらいです」



ヴェーヌのさそりを採用だ。俺のさそりの毒は人間なら即死させるから使えない。悪事の証人として、生きたまま捕らえる必要があるからだ。


人実を助け出し、山賊を捕らえる作戦をみんなに説明する。


「これから、小屋まで100mくらいまで慎重に近づく。そして、身を隠せる場所で一旦停止する。そこから俺とヴェーヌだけで小屋の穴が開いている所へ行き、ヴェーヌのさそりで中の男を倒す。


その間、残ったものは周囲を警戒して、残り1人が小屋の中以外にいたら、その1人をパシファの水魔法で攻撃してくれ。それを合図に小屋の出入り口の男2人は俺が倒す。残り1人を見つけられなかったら、そのまま待機だ」


その後、小屋まで100mくらいまで進むが、発見された様子はない。予定通りヴェーヌと2人だけで穴までたどり着く。中から男が女の子たちに話している声が聞こえて来た。


「あと2時間すれば、人買い商人が来る。お前たちは全員かわいいから、さぞかし高値で売れるだろう、俺たちがお前たちに手を出さなかったのも、高値で売れるようにだからな。へへへ」


残り1人の男は小屋の中にいるようだ。穴から中を覗いてヴェーヌが詠唱する。


「星魔法 さそり座」


さそりが男の足元に現れて刺すと男は倒れた。俺は急いで出入口の方へ向かい、男2人を倒す。不意打ちだったので、拳と蹴りで一瞬で終わった。小屋の中に入ると縄で縛られた5人の女の子たちがいた。その縄を解き、男たちをその縄で縛りあげた。


女の子たちは目隠しをされていたせいか、何が起こったか分からず、ポカーンとしている。その中の2人はドレスを着ている。1人はオレンジ髪に水色のドレス、もう1人は赤髪に青色のドレス。ドレスを着ているから貴族令嬢かもしれない。

残りのメンバーもやって来たので、後は彼女たちにまかせて、俺は出入口で見張りの役目につく。人買い商人が来るまで、まだ時間があるけど、念のためだ。


小屋の中では、フェネが携帯魔法で出したお菓子やパシファのお茶を全員で囲んでいる。捕まっていた女の子たちの中で話をしているのは、アニマだけで、『星とバラの妖精』のメンバーとはかなり打ち解けたようだ。特にフェネとセルクは薬草の話でアニマと盛り上がっている。


残りの捕まっていた女の子たちは、あっという間にお菓子を食べてしまうと黙り込んでいる。きっと不安なのだろう。無理もない、誘拐されてきたのだ。早く家に帰りたいのだろう。


「すまない。しばらくすると人買い商人が来るから捕まえて、その馬車で町まで送るつもりだ。待っていてくれないか?」


俺がそう言うと全員コクコクしてくれた。


「こんな時は歌を歌うといいわ。『あかいめだまのさそり』の歌を歌おうよ。みんな知っているよね」


空気を読んだフェネが提案した。この歌は『星めぐりの歌』としても知られている曲だ。囚われていた女の子たちに、明るい曲をいきなり歌うのは無理だろう。『星めぐりの歌』のような落ち着いた曲はいい選曲だ。


フェネが横笛を演奏して、女の子たち全員で合唱する。


♪あかいめーだまのさそりー ひろげたわしのつーばさー

あをいめーだまのこーいぬー ひかりのへびのとぐろー


少し元気が出てきたようで、だんだん声が大きくなった。合唱が終わると、貴族令嬢と思われる、ドレスを着た2人の女の子たちが小声で話し始めた。


貴族令嬢にとって、このような事件に巻き込まれる事は致命的だ。同じ境遇の2人だけで話し合って、少しでも気持ちが楽になってくれればいいのだが。その様子を見て、アニマが安心して言う。


「フェネって横笛がとても上手ね」

「フフフ、お姉様ほどじゃないけど。私は音楽魔法の一族だからね」


それを聞いてアニマは目を大きく見開いた。


「お、お、音楽魔法の一族は大昔に行方不明になったのでしょう?」

「そうよ。でも1年くらい前に帰ってきたのよ。知らなかった?」


「知らなかったわ。他国の事なんてかわら版に載らないから。えっと、村のみんなが心配しているから、私は帰っていいかしら。今出れば、明るいうちに帰れると思うの」


俺が了承すると、フェネとアニマが小屋の外へ出て来た。


「今日はありがとう。お菓子もとっても美味しかったわ。お礼に行きたいからフェネの家の近くの転移陣のアドレスを教えて欲しいわ」


「いいわよ。アドレスは『赤いバラの屋敷』よ。転移陣を出たら私の家は目の前だから。楽しみに待っているわ」

「ありがとう。しばらくして、落ち着いたら行くから。じゃあまたね」


そう言うとアニマは森の中へ走って行った。それを見送ったフェネが、


「アース様、予定では夕方帰ることになっていましたが、無理のようです」

「そうだな、鳩を飛ばして連絡しておくか」


「はい、それでもいいのですが、私とお姉様、2人だけの間の連絡用に開発した音楽魔法を使えば一瞬で連絡できます。手紙を書いてもらえますか?」

「じゃあ、手紙を書くからその音楽魔法を使ってみてくれ」


俺がアイーダへの手紙を書いてフェネに渡すと、フェネは詠唱した。


「手紙 イン」


携帯魔法で手紙を収納すると、横笛を口に当てて詠唱した。


「音楽魔法 乙女の速達便」 


やさしい感じの曲が演奏された。手紙を大切に配達してくれる気がする。しばらくすると、フェネが言った。


「これでお姉様に手紙が送られました」


驚いた、アイーダとフェネによって音楽魔法がどんどん進化している。新しい音楽、文化や文明に触れて刺激を受けたのかもしれない。



予定より早く人買い商人がやって来た。それぞれ護衛を1人連れた人買い商人が2人だ。倒すのは簡単だった。彼らはそれぞれ箱馬車1台と荷馬車1台で来ていた。御者は臨時雇いの御者で、人買い商人とは無関係だったので、素直に俺の指示に従った。


荷馬車に縄で縛った人買い商人と山賊と護衛を乗せて、俺が監視した。箱馬車には捕まっていた女の子たちと『星とバラの妖精』が乗って、近くの町に向かう。御者には、騎士団の建物に向かうように指示を出した。

 

日が沈みきる前に森を抜けて、満月の照らす平原を進む。1時間ほどで町に着くと、そこはトーイス領の領都プリフだった。町に入ってしばらくすると、騎士団の建物の前で馬車が止まる。建物の入り口に槍を持つ騎士がいたので、話しかけた。


「誘拐されていた女の子たちと犯人を連れてきました。どうしたらいいでしょうか?」


最初、騎士は信じてくれなかったが、箱馬車の女の子たちと荷馬車の縛られた犯人たちを見ると慌てて建物の中に入り、20人ほどの騎士を連れてきた。騎士たちが誘拐されていた女の子たちと犯人たちを連れて行き、その場に残った上の立場と思われる騎士が申し出てきた。


「ありがとうございます。私は騎士団長のトーマスです。最近誘拐事件が起こっていて困っていたのです。これまでの経緯をお話頂けると助かるのですが、お時間はございますか」

「わかりました。でも手短にお願いします」


その後、アニマを発見した時点から、魔法の事を除いて話をしておいた。もうしばらく待ってくれ、と言われたので、『星とバラの妖精』たちと別室で待っていると、さきほどの騎士が入室してきた。


「お待たせしました。犯人たちを取り調べたところ、この事件は奥が深いようでして、解決には時間がかかりそうです。どうやら、我が国とソーミュスタ王国、両国にまたがる誘拐組織があるようです。事件の真相については、解決後ご連絡させて頂くことでよろしいでしょうか」


どうやら大きな事件に巻き込まれたようだ。乗り掛かった船だ、できるだけ協力することにしよう。


「はい、それでお願いします」


「もう1つお願いがあります。囚われていた女の子たちの事です。5人の中で4人はこの国の者で捜索願が出ていましたから、親の所へ戻すことになりました。残りの1人はソーミュスタ王国の者で、12才の子どもです。


ソーミュスタ王国で捜索願が出ているようです。この1人も親の所へ戻すことになりました。もし、その子の親から救助当時の説明を求められたら応じて頂けますか?」


「はい、わかりました。できるだけ丁寧に対応します」

「以上で終わりです。ご苦労様でした、そしてありがとうございました」


こうして、長い1日が終わった。



お読みいただきありがとうございます。


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参考

星めぐりの歌/イーハトーヴ歌曲集 作曲・作詞 宮沢 賢治



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