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第4話 出撃 

 赤いバラの屋敷の玄関前、ブルーイスカのメンバーと見送りの人たちが集まっている。30分前に元気よく出発した、フェネとアニマを見送ったばかりだというのに、多くの人たちが集まっている。


ブルーイスカのメンバーたちは、ヴェーヌが青色の、他の4人は緑色の飛行服を着ている。青色はステラ家の色であり、編隊長を表している。5人は、マントを着用している。


そのマントは青色の布地に、赤いマフラーとリボンを身に着けたワシ5羽が、V字に配置された構図で刺繍されている。ガリレが製作した、ブルーイスカのマントである。


「お嬢様方の無事のお帰りをお待ちしております」


執事のサタールの言葉にヴェーヌが代表して答える。


「ありがとう、気をつけるわ。でも、お兄様やお義姉様方が一緒だから、大丈夫よ。それにガリレさんが作ってくれたマントも守ってくれるわ。夕食はご馳走を用意して待っていてね」


楽団の演奏する『双頭の鷲の旗の下に』が始まる。曲名に鷲があるいくつかの曲の中からヴェーヌたちが選んだ曲だ。ブルーイスカの5人は大きな声を発して、手を振る。


「「「「「では、行ってまいります」」」」」


見送りの人たちも手を振り、声援を送る。それを背に、5人は転移陣へ向かった。



5人はペイン伯爵領の星魔法軍団駐屯地の転移陣に姿を現した。5人がアースたちの方へ歩いていく途中で、ピエラが驚きの声を上げた。


「あ、あの金髪の輝く美人は誰ですかぁぁぁ?」


ピエラが見ている場所には、青い飛行服に身を包むアースとアイーダ、バービレ、レジェラがいる。金髪はアイーダだけだ。


「フフフ、アースお兄様の第一夫人のアイーダお義姉様よ。紫髪が第二夫人のバービレお義姉様、赤髪が第三夫人のレジェラお義姉様よ」


「……」


驚きのあまり言葉が出ないピエラを放置して、ヴェーヌはアースに挨拶をする。


「遅れて申し訳ありません。待ちましたか、お兄様?」

「いや、俺たちも最終打ち合わせが終わり、今ここに来たばかりだ」

「そうですか。なにか変更点などがありましたか?」


「ああ、レーヴェが家の禁書庫で徹夜して調べてくれた結果、キュラドラについて新しくわかったことがある」


「まあ、さすがレーヴェお兄様です。10万冊以上ある禁書庫から、わずかな時間で必要な情報を見つけ出すなんて。本当にインドアの仕事は超一流ですわ。それで新しくわかったことは何でしょうか?」


レーヴェは戦闘実技に関しては不得手だが、不得手といってもアースに比べればの話だが、参謀、軍師としては超一流なのだ。


「それはだな、コウモリ型魔物キュラドラが現れるとき、3体で現れるという事。1体は体長10mで体色はブラック、人を操る魔法の有効範囲は100m。これをブラックキュラドラという。他の2体は体長5m、体色はグレイ、人を操る魔法の有効範囲は50m。これをグレイキュラドラという事だ」


「では、キュラドラと戦うときは、距離をとる必要があるのですね」

「そうだ。大昔は音楽魔法でキュラドラの魔法を無効化できたそうだが、その音楽魔法については、今のところ不明だ。


その3体は、コウモリ型魔獣の体長1mに比べれば、すぐにわかる。大きな個体を見つけたら気を付けろ。お前たちの任務は白鳥の下部の防御だ。だから、お前たちは白鳥の下から離れるな。航空軍の兵士たちにも、キュラドラを発見したら、白鳥の近くに集合するように命令してある」


ラッパの音が響いた。集合の合図である。遠くに置いてある指揮台の前に、兵士たちが走って集合する。全力疾走である。そして、整列。隊列は少しの乱れも無く、きれいに揃っている。首に巻いたスカーフの色で3つのグループに分かれている。


黒色のスカーフ組48名は戦闘部隊。黄色のスカーフ組40名は爆撃部隊。水色のスカーフ組8名は雷撃部隊だ。指揮官が台に登り何か話始めた。出撃前のブリーフィング、情報の提供や作戦の確認、そして激励だろう。


それを見たアースが詠唱した。


「星魔法 はくちょう座」


いつもより大きな白鳥が現れた。体長50m、広げた羽の長さは40mほどである。その白鳥に2人の工兵が転移陣を積み込む。今回は、組み立ての完了した転移陣を運ぶ。行先は戦場だ。悠長に組み立てている時間はないのだ。


そして、転移陣の調整も、白鳥が静止してから行わなければならない。位置座標が確定してからでなければ、調整ができないのだ。だから、転移陣を調整する工兵も2人搭乗させ、時間短縮を図るのだ。


「よし、次だ」


そう言ってアースは続けざまに詠唱する。


「星魔法 ぼうえんきょう座」

「星魔法 らしんばん座」

「星魔法 とけい座」


白鳥の前部に望遠鏡が現れ、索敵担当のバービレがその前に立つ。その少し後ろに羅針盤、方位磁針とも呼ばれる真北を示す装置が現れ、航海担当のレジェラがその横に立つ。


白鳥の中央部に時計が現れる。通信・記録担当のアイーダが兼任で担当する装置だ。白鳥は一定速度、時速80kmで飛行するので、飛行時間が分かれば飛行した距離が計算できるのだ。

 

指揮台の前に集まっていた兵士たちが、走ってこちらにやって来た。アース、アイーダ、バービレ、レジェラ、ブルーイスカの5人、工兵2人が白鳥に乗った時、時計から音がした。 ボーン、ボーン、ボーン。時計を見たアイーダが報告する。


「午前8時、発進時刻です」

「よし、空中空母白鳥発進」


アースの号令に、空軍兵士たちが見送る中、白鳥は真南に向けて飛び立った。



ソーミュスタ王国ペイン伯爵領のレク軍港午前7時。巫女服姿のフェネとアニマの姿が転移陣に現れた。


「お待ちしておりました、巫女様方」


緊張した声で挨拶をして、頭を下げる若い男。身を包む海軍の軍服、階級章から判断すると将校だろう。


「出迎えご苦労様です。案内をよろしくお願いします。私はフェネ、こちらがアニマです。あなたのお名前は?」


巫女服姿であるから、立ち居振舞いもそれに相応しいものだ。しかし、それは山中の村人に過ぎないアニマには無理なことだ。だから、アニマは他人がいるときは口を開かないことになっている。


「ハッ、王国海軍第一艦隊所属ケリー少尉であります。本日は巫女様方の案内役を務めさせていただきます」

「最初に帰還用の軍艦に案内して欲しいのですが、よろしいでしょうか?」

「ハッ、こちらへどうぞ」


ケリー少尉の案内で、3人は駆逐艦ゼカキュの後部甲板に来た。


「アニマ、大丈夫そうかしら」

「大丈夫よ。これだけ平らで広い場所なら簡単、必ず成功するわ」


1ヵ月に及ぶ訓練の結果、アニマの転移可能距離は5kmに伸びた。今回は1kmの転移予定だから、余裕で成功するはずだ。


フェネがアイーダから敵艦隊の情報を音楽魔法で受け取って、連合艦隊司令部に伝えた後、この駆逐艦に転移するのだ。そして、レク軍港に帰還する。艦隊戦になれば、フェネたちは役割がないのだから。


駆逐艦ゼカキュの下見を終えた後、フェネとアニマは連合艦隊旗艦トマヤの応接室に案内された。さすが大戦艦の応接室である。貴族の館の応接室にも負けない豪華さである。赤いふかふかな絨毯、高価な応接セット、動かないよう固定されている点だけが、異なっている。


「今は出航準備中で忙しい最中ですから、こちらでお待ちください。出航して状況が落ち着きましたら、艦橋にご案内します。ドアの外で控えておりますから、御用があれば、お呼びください」


ケリー少尉は、そう言って敬礼すると出ていった。


「ふぇぇぇ~、こんな部屋が軍艦の中にあるなんて、ビックリだわ~。」

「ホント、ビックリだわ。逆に落ち着かないわね」


そんな会話を交わした2人は、テーブル上の焼菓子とお茶に視線を移す。


「この焼菓子、いい香りがする。フェネ、これ食べていいのかな?」

「うん、食べよう。海軍の食べ物は美味しいって評判なのよ」

「えっ、なぜ?」

「航海が長くなると、食事は大切な楽しみになるのよ。逆に食事が美味しくないと、航海が辛くなるのよ」


なるほどと頷きながら、焼菓子を1つ口に入れたアニマは、次々と焼菓子に手を伸ばす。それを見たフェネも負けじと焼菓子に手を伸ばした。これから艦隊決戦に臨む大戦艦の中にいるのに、緊張感が全くない2人である。



レク軍港に海軍軍楽隊の演奏する『軍艦行進曲』が響き渡る。駆逐艦が錨を上げて出航し、軽巡洋艦、重巡洋艦が次々と続く。駆逐艦と巡洋艦の出航が終わると軍楽隊の演奏する曲が変わる。『大戦艦トマヤ』だ。曲は低音の楽器が奏でる、ゆっくりとしたテンポで始まる。


その曲に合わせるように連合艦隊旗艦トマヤがゆっくりと岸壁を離れる。岸壁で見送る人たちが大きく手を振る。甲板に並んだ水兵たちも手に持つ帽子を大きく振る。


やがて、連合艦隊の軍艦群はレク軍港を出て、戦場である南の海、ウサス海へ出撃して行った。



お読みいただきありがとうございます。

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参考

「双頭の鷲の旗の下に」 作曲 ヨーゼフ・フランツ・ワーグナー  

「軍艦行進曲」   作曲瀬戸口 藤吉 



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