第2話 コンドル型魔獣討伐
軍務省大臣室
「大臣、デスアン子爵から、コンドル型魔獣による領内の被害が増えているので、討伐して欲しいとの嘆願が来ております。いかがいたしましょうか?」
次官の問いかけにステラ軍務大臣が顎を撫でながら答える。
「鳥型魔獣の数が少ない場合の討伐は容易だが、デスアン子爵領の場合は、数が多すぎるから難しい。現在訓練中の航空軍を参加させて、討伐するしかあるまい。あと1週間ほどで訓練が終了するから、その後すぐにコンドル型魔獣の討伐に取りかると、デスアン子爵に伝えてくれ」
「ハッ、かしこまりました」
デスアン子爵領はソーミュスタ王国の北西部に位置しており、西の隣国との間には、高い山々が連なるデスアン山脈が横たわっている。山はなだらかで、涼しく過ごし易いので、住民が多い。
農業が盛んで、トウモロコシやジャガイモが主要な生産物である。また、牧畜も盛んで、牛や豚、羊などが育てられている。ところが、最近コンドル型魔獣が異常発生して、飼われている牛や豚を足の鋭い爪で掴み、奪っていく被害が続出しているのであった。
*
アルタイルの森、族長の家
「お母様、コンドル型魔獣を追い払うための曲をご存じですか?」
アイーダは、アースからコンドル型魔獣を音楽魔法で追い払えないかと、相談されたが、知らなかった。そこで巫女長である母親ディーナを訪ねて来たのである。
「知っているわ。すごく古い曲でギターとたて笛の二重奏の曲よ。古くなった木製のたて笛の音色かオカリナの音色で演奏すれば、横笛だけでもいいけど。できれば、弦楽部族のピエトーラさんかアニマさんに、ギターの音色で伴奏してもらった方がいいわね」
「今度、アース様とコンドル型魔獣の討伐に行くので、教えてください」
「いいわよ。では、私は弦楽器パートのパートリーダーを呼ぶから、あなたもピエトーラさんかアニマさんを呼んできてちょうだい。1時間後にこの屋敷のスタジオに集合よ」
「わかりました。では1時間後に」
*
デスアン山脈麓の森近くの草原に、星魔法軍団の兵士たちが集合している。少し離れた場所にアースと弟のレーヴェ、アイーダ、バービレ、レジェラ、ピエトーラ、ブルーイスカの5人がいる。これからコンドル型魔獣の討伐作戦が始まるのだ。
指揮台に立った現場指揮官が討伐作戦のブリーフィングを始める
「作戦名 『エル コンドル パサー』について説明する。作戦の柱は、音楽魔法一族の巫女様の音楽魔法により、森からコンドル型魔獣を飛び立たせる。それを我々星魔法軍団が攻撃して、煙に変える。以上だ。次に作戦の詳細を説明する。
コンドル型魔獣の大きさは、小さいもので体長1m、大きいもので体長5mほどだ。その武器は、他の鳥型魔獣と同様、鋭い足の爪と嘴である。近づかない限り、攻撃を受ける事はない。だから、攻撃は魔法や弓による遠距離攻撃とする。
攻撃は2段階で実施する。最初の段階は、飛び立ったコンドル型魔獣に対して、地上の星魔法軍兵士からとワシに乗った航空軍から、魔法と弓の一斉攻撃を行う。
次の段階は残敵掃討だ。残ったコンドル型魔獣への攻撃も最初と同じく2通りの方法で行う。1つは、地上からの弓による攻撃。もう1つはワシに騎乗した航空軍の魔法攻撃だ。ただし、一斉攻撃ではない、各個撃破だ。注意すべきは、航空軍の兵士は高度50m以下には立ち入り禁止の点である。
弓で発射された矢の最高到達高度は50mだ。よって、航空軍の兵士は高度50m以下には立ち入り禁止だ。高度50m以上の飛行高度を保つように。その際、ワシ3羽でチームを作る、これを3羽編隊と呼ぶ。3羽編隊を決して崩さないこと。3羽編隊でコンドル型魔獣に対して攻撃を行え。
万が一、3羽編隊の誰かが負傷した時は、編隊全員で救護所に行くように。攻撃の終了や不測の事態が起こった場合の合図は、現場司令部において、10連発の火球を打ち上げる。その時は速やかに、討伐開始の位置に戻るように。以上だ、質問はあるか?」
しばらく待ったが、現場指揮官からのブリーフィングに対する質問は無かった。現場指揮官は続ける。
「今回は軍団長閣下も観戦される。全員、気を引き締めて行け。では、全員配置につけ」
「「「ハッ」」」
出席していた星魔法軍団航空軍の隊員たちは、駆け足で自分の配置場所へと急ぎ、星魔法のワシで空に舞い上がった。
「俺たちも行くぞ」
アースはそう言うと、横にいた弟のレーヴェが笑顔で言った。
「兄上、いってらっしゃい」
まるでピクニックに行くアースを見送るような言い方だ。アースも同じ様に気楽な口調で答える。
「ああ、行ってくる」
そして、アースは少し離れた場所に行き、詠唱する。
「星魔法 はくちょう座」
現れた白鳥に、アース、アイーダ、バービレ、レジェラ、ピエトーラが乗り飛び立つ。ブルーイスカの5人も、それぞれワシに騎乗して後を追う。そして、白鳥は航空軍のワシ100羽ほどが横一列に並んでいる、その後方の少し高い場所に位置する。
ブルーイスカの5羽は白鳥の右隣に並ぶ。航空軍と地上の兵士たちを見て、戦闘準備が整ったと判断したアースがアイーダに告げる。
「コンドル型魔獣を飛び立たせてくれ」
アイーダはコクリと頷き詠唱する。
「黄金のクラーフル アウト」
そして、現れた横笛を口に当てて、ヴァイオリンの演奏準備を整えたピエトーラを見る。2人でコクリと頷き、詠唱する。
「「音楽魔法 コンドルは飛んでいく」」
アイーダの横笛から、どこか哀愁を帯びたメロディが流れ、ピエトーラが伴奏すると、森が騒めいてコンドル型魔獣が飛び立って来た。何百いや何千だろうか、その数はとても数えきれない。
コンドル型魔獣の群れに向かって、航空軍のワシの隊列中央から1個の火球が放たれると、それを合図に一斉に多数の火球が航空軍から放たれる。多くのコンドル型魔獣が煙となって消えるが、まだまだ数は多い。
地上に向かったコンドル型魔獣は、地上の兵士から放たれた矢で煙となる。空に残ったコンドル型魔獣は、次々に航空軍の火球により煙となる。残りが少なくなったと見るや、航空軍中央から3羽編隊1つが、突撃した。
どうやら、指揮官先頭で残敵掃討に入ったようだ。次々と3羽編隊が飛び出して行く。その時、ヴェーヌが山脈の方を指さして、アースに問いかけてきた。
「お兄様、あのコンドル型魔獣を私たちが討伐してよろしいでしょうか?」
ヴェーヌの指さす方を見ると、体長10mはあろうと思われる、1体の巨大なコンドル型魔獣が小型の10体ほどを伴って、山脈の方に飛び去って行くのが見える。アースが答える。
「いいぞ。ただし、あまり近づくな」
「はい。では討伐してきます」
そう言うや、ヴェーヌを先頭にブルーイスカの5羽編隊は飛び出す。途中、行き掛けの駄賃とばかりに数体のコンドル型魔獣を煙に変える。標的まで100mほどに近づいた時、ヴェーヌが指示する。
「まず、邪魔な小型のコンドル型魔獣を煙に変えて排除するわよ」
ブルーイスカから、次々と火球が飛び、残るは巨大コンドル型魔獣1体となった。再びヴェーヌが指示する。
「全員、胴体中央部に攻撃を集中して」
「「「「了解」」」」
火球が巨大コンドル型魔獣の胴体中央部に次々と命中する。すぐに巨大コンドル型魔獣は灰色の煙になって消えた。
*
赤いバラの屋敷の食品工房の食堂でブルーイスカの5人が、イチゴジュースを手にしている。
「「「「「カンパーイ」」」」」
ヴェーヌの音頭で5人がグラスをカチーンと合わせて、発声する。コンドル型魔獣討伐の祝勝会である。
「魔獣に魔法を命中させて煙に変えるって、快感だ~~~」
プレヤの言葉に残り全員が、コクコクする。次に口を開いたのは、ピエラ。
「特に最後の大きい奴が煙になった時は、気持ち良かったわ」
「的が大きかったから、命中させやすかったしね」
クレモラが同意する。更にミュレが続ける。
「そうですね。もし、もっと的が小さかったら命中させる自信はありません」
「そうね、それは課題ね。誰か良い指導者を探しておくわ」
その不安に、ヴェーヌが答える。それに対してプレヤが言う。
「でも、僕たちブルーイスカは半年間の期間限定の編隊だよ」
「そうだったわ、今回のコンドル型魔獣討伐が目的だったという噂もあるし」
ミュレが同意すると、シュンとするブルーイスカ一同。その雰囲気を破ったのはヴェーヌだ。
「それを言っても仕方ないわ。今やれる事を精一杯やりましょう」
*
同じ頃、赤いバラの屋敷のティルーム
「アース、私とレジェラは白鳥に乗っていただけニャン」
「そうですわ。何のためにコンドル型魔獣討伐に参加したのかわかりませんことよ」
それに対してアースは苦笑して言う。
「まあそう言うな。今回は単なる予行練習だ。白鳥に乗って、空を飛ぶ事に慣れてもらうのが目的だった」
「それは本当かニャン? 本番って何ニャ?」
「まだ、話せない。軍事機密だ。本番では重要な役割を果たしてらうから、楽しみにしておいてくれ」
その言葉を聞いて、バービレとレジェラはしぶしぶ納得したのであった。
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翌日の軍務省大臣室
「アース、昨日のコンドル型魔獣討伐は成功だったそうだな」
「はい、父上。星魔法軍団航空軍は実戦に投入できるレベルに達しました。ブルーイスカも護衛なら合格点でしょう」
「そうか、レーヴェはちゃんと仕事をしたようだな。これで、コンドル型魔獣の問題も解決したし、あの件への対応もできるな」
「あの件は、どうなりそうですか?」
「うむ、どうやら現実になる可能性が高いようだ」
「やはりそうですか。あの国の皇帝は何を考えているのでしょうか?」
「わからん。我々としては、万全の準備をするだけだ」
何やら不穏な空気が漂うソーミュスタ王国であった。
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参考
「コンドルは飛んでいく」 作詞・作曲 ロブレス・ダニエル・アロミア
(アンデスのフォルクローレ)




