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第1話 ブルーイスカ 

「火魔法 火球乱舞」


イスリが詠唱すると、100個以上の火球が5kmほど先に着弾して、盛大に土煙を上げる。


「すごい威力ね。寝室デビューすると保有魔力量が倍増するって本当なんだ」


秋風の吹き抜ける『星の輝く赤いバラとコラールの里』の魔法訓練場でヘルミがあきれ顔で言う。興奮したイスリが、それに答える。


「私もビックリだわ。ここまでとは思わなかった。お屋敷の野外訓練場じゃなくて良かった。この訓練場だから、全力が出せたわ」


「驚いたって言えば、夜着を買いにいくから付き合えって誘われ時も、ビックリしたわ。イスリが夜着の買い物をするって信じられなかったから。まあ結局、満足のいく夜着が見つからなくて、ガリレに作ってもらったけどね」


「だって、アイーダ様から、愛人頭になる気はないかって訊かれた時、すぐに喜んで~、と答えたけど、寝室デビューは次の週だって突然言われたから、もう焦っちゃって。それにレジェラ様の寝室デビューが凄かったって話も聞かされたし」


「それはそうね。レジェラ様の、夜着は女の戦闘服、この言葉は伝説になりそうよ。私も頑張らなきゃ」

「ヘルミの結婚式も、もうすぐだったわね。星魔法軍団の彼とやっと一緒になれるから、嬉しいでしょう」


「うん、結婚式の会場も決まったし、魔法学園の同級生、職場の友人としてスピーチよろしくね、イスリ」

「まかせなさい。あっ、ほら、あそこ鉱石運搬車が出てきたわ」


鉄鉱山と金鉱山の開発が進み、現在では鉱山の奥から、外の鉱石倉庫までレールが引かれているのだ。そして、鉱石の採掘に止まらず、精錬用の施設も建設

中である。


「鉄も金も良質な鉱石らしくて、莫大な利益を生み出すそうよ」

「そうね、私たちの給金も大幅アップするらしいわ。嬉しいわよね、イスリ」

「そうなるといいわ。向こうの水田も区画整理と用水路の工事も終わったし、音楽学校の校舎の建設も始まったし、ここはドンドン発展するわ」


その時、訓練場の荒地にドドーン、ドドーン、ドドーンという火魔法の爆発音が響いた。ヘルミとイスリが驚いてそちらを見ると、V字編隊の5羽のワシが飛び去って行くのが視界に入った。


「ブルーイスカね。イスカって意味がわからないけど」

「古代神話に出てくる戦いの女神の名前らしいわ。先頭の隊長機はヴェーヌちゃんで、2番機はプレヤちゃんね。あとの3人は誰だか知っているかしら、イスリ。」


「知らないわ。最近よく飛んでいるけど、編隊飛行がだんだん上手になってきたわね。何のための訓練かしら。まさか、戦争が起きるとか」

「そう言えば、軍団でそういう噂があるって、彼が言っていたけど」


「どこと戦争するのよ。この大陸には、この国と戦争して勝てる国なんてないから、侵略してくる国はないし、この国が他国を侵略するはずがないし」

「そうよね、疲れたからそこの無料喫茶店で休まない?」

「いいわね。魔力ポーションでも飲もうかしら」



 編隊長が右手を水平に出した。右旋回の合図だ。90度回った所で右手を前に出した。直進ね、了解。さて、次は何だろう。両手を前方斜め下に出してから、2回グルグル回して、前方斜め上。これは、急降下して、地面に魔法攻撃して急上昇だね、了解。


火魔法で攻撃って気持ちいいわ~。さあ、今度は何? って思ったら、両手を頭上でクロス。基地へ帰還の合図だ。えっ、もう終わりなの? 30分たったの?後ろを振り向いたら5番機のミュレがずいぶん疲れた顔をしている。大丈夫かしら?


この茶髪黒目の女の子は、かわいい雰囲気の女の子で、見た目はか弱そうで、上目使いで見られたら、守ってあげたくなる。でも、この娘はそんなことはしない。最後まで自分で頑張る娘だ。好感が持てる。


4番機のクレモラを見ると涼しい顔で、背筋を伸ばしている。赤髪緑目で凛とした雰囲気は、いかにも貴族令嬢。少し話をしただけで、頭の良い娘でやさしい女の子であることがわかる。将来、きっと良き夫人、母になることは確実だ。


ミュレとクレモラ、この2人とは短い付き合いだが、大の仲良しだ。これだけでも、ブルーイスカに入って良かったと思う。


訓練終了後、赤いバラの屋敷の敷地内にある食品工房の食堂で、3人で夕食を取った。ここの食事はとても美味しい、何より無料なのがいい。今日のデザートは、王都名物のクレープ。こんな美味しい物が毎日食べられるなんて、王都に住む人が羨ましい。


「ミュレ、大丈夫だった? 魔力がなくなりそうな時は、ちゃんと竜王丸を飲むのよ」


クレモラが尋ねている。今日の訓練のミュレの様子が心配だったのだろう。ミュレが恥ずかしそうに答える。


「はい。心配をかけました。竜王丸を飲むのが、もったいなくって。次からはちゃんと飲みます」


その返事に、クレモラも私もホッとする。


「ところで、ブルーイスカは何故、結成されたのかな?」


私の質問に、クレモラが反応する。


「よくわからないわ。ただ、異常発生しているコンドル型魔獣の討伐と関係があるかもね」

「そうか~、空を飛ぶ魔獣の討伐のためには、こちらも空を飛ぶ必要があるか」

「まあ、そのうちに説明があるでしょう。私たちがやるべき事は訓練を頑張る事だけよ」

「そうね、私たち3人と同じ伯爵令嬢のプレヤさんとは、かなり差があるものね」


ミュレが同意する。


「そうです。同じ12才なのに、不思議です。何か、竜王丸のような秘密があるのでしょうか?」


クレモラが、ヤレヤレという感じで、会話を締めくくった。


「とにかく、明日も頑張ろうよ」



 私はピエラ フォン エンケ。エンケ伯爵家の3女、青髪緑目の12才。ブルーイスカで3番ワシのポジションを務めている。ブルーイスカは星魔法のワシ5羽で構成される編隊だ。その目的は知らされていない。まあ、いいけど。


 1ヵ月前のことだった。夕食後、お父様から執務室に呼ばれて、封筒を渡された。表面には「ブルーイスカ隊員募集要項」の文字が書かれている。


「お父様、これは何ですの?」

「中の書類を見てくれ。話はそれからだ」


封筒の中には書類が2枚、1枚は募集要項で、もう1枚は受験申込書だ。


ブルーイスカ隊員募集要項

募集人員 3名

応募条件

1星魔法一族の貴族家の10才から14才までの令嬢。

2星魔法わし座を30分以上継続使用できること。

3火、水、風、土魔法いずれかの攻撃魔法が使えること。

4魔獣討伐の経験があること。

選抜試験内容

実技試験と面接試験


応募条件の1は問題ない。2と3も問題ない。4の魔獣討伐が少し問題ありだ。貴族令嬢、それも伯爵令嬢は魔獣討伐なんてしない。私の魔獣討伐経験は、庭で偶然遭遇したアリ型魔獣とミミズ型魔獣だけだ。これらの魔獣はとても弱い魔獣で、誰でも簡単に討伐できる。


「どうだ、受験資格はあるか?」

「魔獣討伐の経験があまりありませんけど、他は大丈夫です」

「そうか、これは期間限定の星魔法軍団の隊員募集の書類だ。雇用期間は最長半年。雇用条件はとても良い。今すぐここで受験申込書に必要事項を記入しなさい」


その後、お父様に詳しいことを聞きたいと思ったが、お父様も詳しい事は知らされていないらしかった。ただ、南部方面軍司令官の厳命で、受験資格のある令嬢は全員受験することになっているらしい。


ただ一つ、南部方面軍から最低1名は合格者を出すことが、南部方面軍の面子に関わること、それだけが分かった。師団長であるお父様でさえ、それしか知らされていないのだから、超極秘事項なのだろう。


自室に戻ってから、考えた。受験することは決定事項なのだから、合格するように頑張るか、不合格になるように手を抜いて受験するかを考えた。


1週間でやっていることを振り返ってみる。1日は魔法学園で魔法の勉強、1日は乗馬訓練。この2つの内容はほとんど習得している。1日は貴族令嬢としての教養とマナーの学習。これも止めていい。残り4日はその日の気分で過ごしている。


この生活にも飽きてきたし、星魔法軍団の仕事をしてもいいかもしれない。では、その仕事の内容はどうか? 星魔法を使うには好きだ。魔獣討伐はわからないが、攻撃魔法を使うのはスカッとするだろう。悪くないかもしれない。普通に受験してみるか。よし、結論が出た。


実技試験の攻撃魔法は気持ちよく終わった。久しぶりのストレス発散になった。星魔法の内容は予想外だった。30分間ワシで飛んでいればいい、という試験ではなかった。宙返りや急降下、まるでアクロバット飛行が課題だった。疲れた。ダメかもしれないと思っていたが、結果は合格だった。


実技試験に合格した後の面接試験当日。受験者控室には、6人の令嬢がいた。1人目の令嬢が面接試験から帰って来た。かなりかわいい令嬢だが、下を向いてブツブツ呟いている。あんなかわいい、とか私よりかわいい、とか呟いている。


そして、無言で退室していった。2人目と3人目は、顔を真っ赤にして帰って来た。何か恥ずかしいことでも聞かれたのか。彼女たちも無言で退室していった。4人目が面接試験に部屋から出て行った時、残った茶髪黒目の令嬢が話かけてきた。


「あの~、皆さんが赤い顔をして帰って来られるのは、不思議ですよね」

「そうだよね。怒っている様子でもなさそうだし、まるで素敵な舞台俳優に会ったような顔だわ」

「ですよね~。もしその通りだったら、楽しみです」


そこまで話したところで、私の順番になる。面接室に入ると2人の面接官がいた。お願いしますと下げた頭を上げたら、左の面接官の顔が目に入った。かわいい、うん、かわいい。でも気が強そうだ。ガンガン質問してきそうだ。右の面接官を見た。



そこには奇跡の美少女様がいらっしゃいました。後光がさしています。顔が赤くなるのが、はっきり分かりました。昨夜お父様と特訓した想定問答は、どこかに転移して消えました。そこまでは覚えているのですが、気がつけば伯爵屋敷の自室でした。


2日後、鳩が試験結果を届けに来た。恐る恐る中を見ると、まさかの合格だった。お父様に知らせると、お父様は驚き、歓喜した。


「でかした、でかしたぞ、ピエラ」


私を抱きしめて叫ぶと、お父様は執事に豪華な夕食を用意するように申しつけて、方面軍司令官に報告に屋敷を飛び出した。


1週間後、軍務省内の一室で入隊式が行われた。募集人員は3名のはずだったが、5名の貴族令嬢がいた。1人は左にいた面接官だ。そして、もう1人は、あの奇跡の美少女様だった。嬉しかった、また会えた。天にも昇る気持ちになった。

 

辞令交付は家名を付けずに、名前だけ呼ばれて行われた。奇跡の美少女様の名前を知ることができた。ヴェーヌ、いやヴェーヌ様だ。そして、彼女が編隊長らしい。魔法の実力も1番なのか。かわいいは正義なのに、その上力もあるのか。


もはや女神様だ、そう思った。もう1人の面接官が2番機で名前はプレヤ。自分は3番機、4番機はクレモラ、5番機はミュレと名前が分かった。ミュレは面接試験の時に話した茶髪黒目の令嬢だった。


辞令交付後、レーヴェと名乗る黒髪青目の若者から説明があった。試験的に創設された、期間限定の星魔法軍団航空軍の統括責任者らしい。この編隊も航空軍所属で、その名前はブルーイスカであること、任務は護衛、1カ月の訓練期間があること、その間は自宅からの通いでも、赤いバラの屋敷に住み込みでもよい。


住み込みの場合は1人1室与えられ、メイド1人の同行が許可される、などが説明された。


入隊式終了後、勇気を振り絞って、女神様に話しかけた。


「あなたのようなかわいい女の子がいるなんて、とても信じられません」


すると、女神様は一瞬キョトンとした顔をした後、プレヤと顔を見合わせてニッコリされた。そして、私を見て言われた。


「そういうセリフは、お義姉様を見てから言ってね」



家に帰って、両親と一緒に夕食を頂きながら、お母様に女神様の話をしたら、


「ヴェーヌって女の子の名前は聞いたことがあるけど、誰だったかしら?」


次に、入隊後に自宅からの通いにするか、住み込みにするかを相談したら、自宅からの通いにするよう言われた。伯爵令嬢が住込みで働くのはありえないからだ。更に、辞令交付の話をした時、レーヴェという名前を出したら、お父様が、


「それは確かなのか。それで、住み込み先の名前は?」

「え~と、たしか赤いバラの屋敷でしたか」

「馬鹿者、なぜそれを言わない。住み込みにしろ、これは命令だ」


それを聞いたお母様が、困惑した様子で言う。


「旦那様、いったいどうされたのですか。住み込みなんて」

「レーヴェという名前はステラ公爵家次男様のお名前だ。彼が出てくるという事は、ブルーイスカはステラ家が直接関わっているということだ。更にだ、赤いバラの屋敷はアース様が住んでいるお屋敷だ。アース様はわかるな。ステラ家の次期当主で、星魔法軍団の軍団長、最高司令官だ。」


「そう言えば、ステラ家の長女の名前はヴェーヌ様でしたわ。あっ、アース様の夫人は全員決まっていますけど、レーヴェ様は婚約者はまだ1人もいらっしゃらなかったはず。


ピエラ、これはビッグチャンスです。レーヴェ様の婚約者を目指すのです。そのために、まずヴェーヌ様によくお仕えしなさい」

「はい、もちろんです」


婚約者なんてどうでもいい。女神様にお仕えするのは当然なのである。そう思って私は返事をした。


お読みいただきありがとうございます。

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