閑話 王都の森(第一章最終話)
赤いバラの屋敷のフェネの部屋でフェネとアニマが薬草について話をしている。
「ふ~ん、王都の森にはアンカアの森には無い薬草が生えているんだ」
「そうなの? 例えばどんな薬草が生えているの?」
王都の森の薬草図鑑を見てアニマが呟く。それにフェネが応じると、アニマが答える。
「そうね、解毒用のエンシル草とかピンピン草とか。あっ、乾燥させて粉末にして孔雀の羽で混ぜると、解毒作用が増加するって書いてある」
「エンシル草とピンピン草は知っているけど、孔雀って見たことないわ。歌なら知っているけど。羽って事は鳥かな?」
「孔雀は珍しい鳥よ。オスの孔雀が羽を広げると、とってもきれいな鳥なの」
アニマの言う孔雀を知らないフェネは、本棚から鳥類図鑑を取り出す。パラパラとページをめくって、孔雀の絵を見つけると叫んだ。
「きれい~~~。とってもきれい」
フェネが見ているのは、羽を広げたオスの孔雀の絵だった。しばらく孔雀の絵を見ていたフェネが、アニマに尋ねる。
「王都の森にも孔雀はいるかしら?」
「さあ、私にはわからないわ。誰か知っている人はいないの?」
「そうね、ヴェーヌなら知っているかも。ヴェーヌの部屋に行きましょう」
2人がヴェーヌの部屋に行くと、プレヤとセルク、レア、パシファもいた。フェネがヴェーヌに尋ねる。
「ねえヴェーヌ、王都の森に孔雀がいるかしら?」
「孔雀は知っているけど、王都の森にいるかいないかは知らないわ」
「そう、ヴェーヌでも知らないのね。誰か知っている人はいないかな?」
「姉さんなら知っているかもしれません。聞いてきます」
パシファはそう言うと部屋を出て行ったが、すぐに帰って来て結果を報告した。
「姉さんも知らないそうです。でも、冒険者ギルドに行けば情報があるはずだ、と教えてくれました」
それを聞いたプレヤが、頷いて提案する。
「そうだね。みんなで冒険者ギルドに行って、王都の森に行こう!」
みんながコクコクするが、フェネが更に提案する。
「ねえ、アニマ。アニマも『星とバラの妖精』のお揃いの防具と赤い靴を持っているから、アニマも『星とバラの妖精』に入らない? 冒険者ギルドに行くなら、加入手続きもついでにできるから」
「うん、いいわよ。なんか面白そうだから」
即答したアニマに、プレヤが嬉しそうに言う。
「僕たちはアイドル活動もしているから、大歓迎だよ」
ヴェーヌが冷静に言う。
「森に遊びに行くには、お兄様かお義姉様の許可が必要だったはずよ」
「アース様とアイーダお姉様は外出中ですから、サタールさんの許可をもらってきます」
ヴェーヌに答えて、フェネが部屋を出て行き、しばらくして帰ってきた。
「護衛として、イスリさんが同行するなら森に行ってもいいそうです」
「「「「「わーい」」」」」
こうして、一同は冒険者ギルドに行く事になった。
*
転移陣を使って冒険者ギルドに移動した『星とバラの妖精』とアニマ、イスリは、まずアニマの冒険者登録と、『星とバラの妖精』への加入手続きを済ます。次に王都の森の案内図の前で孔雀の記事を探していたら、見るからに悪そうな男たち3人が近寄り、話しかける。
「お嬢ちゃんたち、王都の森の案内なら俺たちのパーティ『送り狼』が一番だぜ。特別に無料で案内してやるけど、どうだい、へへへ」
イスリが即答する。
「間に合っています。お構いなく」
「なんだとー。もう1回言ってみろ」
イスリの返事に、男たちは剣に手をかける。それを見て、イスリ、プレヤ、セルクも剣に手をかけるが、フェネが止める。
「ダメよ、ダメ。冒険者ギルドで剣を抜いたら大問題になるわ。みんな私の周りに集まって」
全員が集まると、フェネは詠唱する。
「バリア オン」
フェネの周囲に結界が張られる。しかし、それに気づかない男たちが剣を抜き、切り付けてきた。男たちの剣は結界に弾き飛ばされる。それと同時に、冒険者ギルドの職員用ドアから身長2メートルほどの男が飛び出してきて、あっという間に3人の男たちを倒してしまった。
そして、続いてドアから出て来た職員たちに指示する。
「こいつらを地下牢に放り込んでおけ」
「はい、ギルドマスター」
職員の一人が返事をして、『送り狼』の3人を連れて行く。ギルドマスターは結界をトントン叩いて、話しかけた。
「なかなか強い結界だな。でも、もう大丈夫だ。結界を解除してくれ。」
フェネが結界を解除すると、ギルドマスターは続けた。
「『送り狼』の連中はギルド内で剣を抜いたから、冒険検者資格の永久停止になる。それに、あいつらは女の子を誘拐して、人買い商人に売り渡している疑いがあるから、それが事実なら終身強制労働だ。」
それを聞いてヴェーヌが言う。
「そんなに悪い人たちだったのですね。捕まって良かったです。ところで、ギルドマスターさんは、孔雀がいる場所をご存じですか?」
「孔雀か、あまり目撃情報はないな。最後の目撃情報は1年前、王都の森のこの辺りだ」
ギルドマスターは、王都の森の獲物、魔獣分布地図の一点を指さす。そこは王都の森の東区域の中央付近だ。ギルドマスターが続ける。
「ここに行きたいなら、王都の森の正面の転移陣に転移するのが一番速い方法だな。アドレスは『王都の森』だ」
「ありがとうございます。早速行ってみます」
8人は冒険者ギルドの転移陣から転移した。
*
王都の森の転移陣を出ると、平原の向こうに大きな森が広がっていた。森の中央、東側、西側に行く道がある。ちゃんと整備された道ではない。これまでに多くの冒険者たちが、歩いた場所が踏みしめられて道になったのだろう。
8人は森の東側へ向かう道を森へと進み、森に入る。最初は薬草もあまり生えていなくて、獲物の動物も魔獣もいなかったが、奥に進むと少しずつ薬草が見つかるようになってきた。
「あっ、あそこにエンシル草が生えているわ」
フェネが指さす方を見て、
「うん、図鑑に載っていたエンシル草と同じね」
そう言うと、アニマはエンシル草の方へ走りだした」
その後をセルクが慌てて追いかける。
「アニマ~、単独行動は危ないですよ。猛獣や魔獣、悪い冒険者がいるかもしれないですから」
「そうだったわ、ごめんね。気を付けるよ」
その後、薬草採取をするフェネ、アニマ、セルクとハープの葉を採取するパシファの周りを、残りの4人が護衛して30分ほどその場に留まった。
再び森の奥に歩き出した8人の前にイノシシ型魔獣1体が現れた。イスリが叫ぶ。
「みんな下がって。あれは私が討伐します」
「風魔法 風槍」
イスリが詠唱すると、槍の太さほどの風の渦巻きがイノシシ型魔獣に飛んで行き貫通する。そして、イノシシ型魔獣は煙となって消え、魔石を落とした。それを見たプレヤが言う。
「イスリさん、次に魔獣が出たら僕たちに討伐させてください」
「わかったわ。あまり強くない魔獣だったらお願いするわ」
その後、ピンピン草を採取したり、狩りをしたりして、森の中を進むと、少し空が見える草地に出た。8人はここで一休みして、ドーナツを食べながら、お茶を飲む。欠伸をしながら空を見上げたレアが呟いた。
「あれっ、西の空から何かが飛んで来るわ」
その言葉を聞いて、西の空を見たイスリが驚いて言う。
「あれはコンドル型魔獣です。ここよりずっと西の方に生息していて、この付近にはいないはずですが」
「イスリさん、あの魔獣は僕たちに任せてください」
プレヤはそう言うと、ヴェーヌの方を見る。ヴェーヌもコクコクと頷く。プレヤは右手をヴェーヌの左手とつなぎ、左手にロータスワンドを持つ。ヴェーヌは右手にスターワンドを持つ。そして、同時に詠唱する。
「「星魔法 いて座」」
現れたケイローンが矢を放つと、矢は凄い速さで飛び、見事にコンドル型魔獣に命中する。コンドル型魔獣は煙になり、魔石が落ちた。
「よし、魔石を拾いに行こう」
それほど遠くない場所に落ちた魔石を探していると、鳥の大きな鳴き声が聞こえてきた。
「クェー クヵー カー カー」
その鳴き声には威嚇するような印象があり、尋常ではない事態が起きていると感じられた。8人はセルクを先頭に、鳴き声のした方へ走る。すぐに、木の生えていない場所に辿り着いた。
そこには、3羽の小さい黒褐色の鳥を後ろに庇い、大きく美しい羽を広げた体長2メ-トルの鳥と、その鳥たちの前に3体のブタ型魔獣がいた。すでに1回は戦ったのだろう、鳥は傷つき、周囲には数本の羽が落ちている。フェネが叫ぶ。
「あの鳥は孔雀よ。図鑑で見たのと同じ姿をしているわ」
それを聞いたレアが、サターンワンドを手に持ち詠唱する。
「土魔法 土壁」
孔雀とブタ型魔獣の間に高さ1メートルの土壁が盛り上がる。ヴェーヌとプレヤ、セルクが剣を抜き、ブタ型魔獣に斬りかかり一振りで煙に変える。そして、8人が孔雀に近づいて土壁越しに孔雀を見るが、孔雀は鋭い目で睨み警戒している。
セルクが手のひらを孔雀に向けて詠唱する。
「回復の光」
孔雀が淡い光に包まれて、光が消えると傷は消えていた。それを見たフェネが詠唱する。
「シルバーコローフル アウト」
そして、銀色の横笛の演奏を始める。童謡の『美しい孔雀さんの歌』だ。それを聴いていた孔雀の鋭かった目が、優しい目に変わった。フェネがお願いした。
「ねえ、孔雀さん。落ちている羽をもらってもいかしら?」
すると、孔雀はコクコクして鳴いた。
「クー クー、クー」
「ありがとう、孔雀さん」
フェネがお礼を言うと、孔雀はもう一度コクコクして、小さな鳥たちを連れ、森の奥へ去って行った。
*
冒険者ギルドに帰った『星とバラの妖精』が採取した薬草と魔石を提出すると、受付の女性が祝ってくれた。
「おめでとうございます。C級パーティに昇格です」
「「「「「「「やったーーー」」」」」」」
大喜びの『星とバラの妖精』であった。
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