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第13話 聖女たちのララバイ ・ ロスベ子爵領での再会

 早朝のコチェ王国の王都とロスベ子爵領との境近くの草原。新加入のレアを含めた『星とバラの妖精』の6人とB級冒険者イオが大きな池の畔に立っている。


先日D級パーティに昇級した彼女たちは、驚異的な速さでポイントを稼ぎ、あと少しでC級パーティに昇格できる。だから、速くC級パーティに昇級しようと魔獣退治に来ているのだ。冒険者はC級になって、一人前、中堅冒険者と見なされる。彼女たちは背伸びしたいお年頃なのである。


魔獣相手なら護衛など必要ない彼女たちだが、悪い男対策として、普段は護衛にアースが付く。しかし、星魔法軍軍団長の仕事が急に忙しくなり、イオが護衛をしている。イオが傍にいるだけで、悪い男は近寄ってこないのだ。


イオは狩りの手助けはせず、周囲を警戒するだけ。魔獣討伐のポイントをすべて、『星とバラの妖精』の物とするためだ。ときおり、剣術の指導をしているけど、これは彼の暇つぶしである。他には、なぜかヴェーヌが希望している、ということもあるが。


池の岸から20mほどの場所でヴェーヌとレアが相談している。


「厚さは薄くてもいいと思うのですが、高さはどれくらい必要でしょうか」


レアの問いにヴェーヌが答える。


「冒険者ギルドで見た資料によると、カエル型魔獣の平均ジャンプ高さは30cmらしいから、2倍の60cmくらいでいいと思うわ」

「はい、では長さはどうしますか?」


「余裕をとって、1人当たり100mくらいかな?」

「私には50mが精一杯です。すいません」

「じゃあ、50mにしましよう。気にしなくていいわ。それでも十分のはずだから」


池から上陸してくるカエル型魔獣を通せんぼするための土壁について、土魔法の使える2人の相談が終わったようだ。2人が詠唱する。


「「土魔法 土壁」」


2人の左右にドドドと土壁が出来上がっていく。あっという間に長さ100mの土壁が出来上がった。それを見て、プレヤが満足そうに言う。


「ヴェーヌとレア、凄いよ、さすがだ。みんな準備はいいかい。フェネ、お願い、演奏を初めてくれ」


それを聞いたフェネがコクコクして横笛の演奏を始めた。曲は子どもがよく歌う『カエルの合唱』だ。池をカエル型魔獣が岸に向かって泳いで来る。岸に着くと、ピョンピョン跳ねて土壁に向かって来る。


カエル型魔獣は長い舌を伸ばして獲物を捕らえ、毒を吹きかけるD級魔獣だ。数えきれない、体長50cmくらいのカエル型魔獣が土壁に達すると、魔法が放たれる。


「さあ、どんどん来い」


とプレヤが火魔法を乱射する。


「これがカエル型魔獣ですか」


とヴェーヌが冷静に火魔法を放つ。


「気持ち悪~い」


とフェネが水魔法を当てる。


「こっちに来ないで~」


とパシファが水魔法の氷針を飛ばす。レアとセルクは無言で土魔法と風魔法で攻撃している。20分くらい経って、これで終わりかと思っていた頃、体長2mくらいのカエル型魔獣が上陸してきた。


「私にお任せを」


叫ぶと同時にセルクが剣を抜いて、土壁を越えて飛び出す。ずる~い、とか待ちなさい、とか声が飛ぶが、セルクが剣を一振りすると大きなカエル型魔獣は煙となって魔石を落とした。


これ以上カエル型魔獣が上陸して来ない事を確認してから、落ちている魔石を拾い集めると300個ほどあった。それを魔石が50個入る袋6つに保管して、ヴェーヌの携帯魔法で収納する。そこまで終わったところで、プレヤがイオに尋ねた。


「イオさん、ギルドに持って行くと、いくらになるかな」

「だいたい魔石1個が銀貨1枚だから、銀貨300枚つまり金貨3枚だな」


それを聞いた全員がやったあ~、と歓声を上げる。それが収まったところで、プレヤが提案する。


「いつもの通り8割、銀貨240枚はパーティ預金にして、残り銀貨60枚を6等分して、1人に銀貨10枚を配る事でいいわね」


「「「「「賛成~~~。」」」」」


全員が笑顔で答えた。それを見ていたイオがあきれ顔で言う。


「お前たち、効率が良すぎるぞ。こんな短時間で銀貨300枚稼ぐなんてな。他のハンターに獲物を残すために、今日はここまでだな。さあ、街道横の休憩エリアに戻るぞ」


転移陣があるのは大きな都市だけである。中小の都市間の移動は、徒歩や馬車なのだ。旅人や馬が、休憩するための場所が休憩エリアである。


お菓子を食べ、ジュースを飲みながらワイワイおしゃべりをしていると


「まだお昼前ですよ。これからどうしますか」


フェネが尋ねると、プレヤが提案する。


「ロスベ子爵領に行こう。僕はまだ行ったことが無いから行ってみたい」


他のメンバーも行ったことが無かったのだろう、全員同意した。そんな時、到着した箱馬車から1人のメイドが降りて、こちらへ駆け寄ってきた。


「お嬢様の具合が悪いのです。何かお薬をお持ちではありませんか?」


メイドは青い顔をして、訴えてきた。この休憩エリアには他に誰もいない。ワラにもすがる思いなのだろう。フェネが立ち上がった。


「まずは様子を診させていただけますか?」

「はい、もちろんです。どうぞこちらへ」


メイドに案内されて、セルクと一緒にフェネは箱馬車へ向かった。


30分後、フェネとセルクが戻って来た。


「どうだった? 病人は大丈夫かな?」


プレヤの問いにフェネが答える。


「病気やケガではありませんでした。過労、いえ心労でした。栄養ポーションとセルクの回復魔法でなんとかなりました。ただ、心労の根本的な理由はわからないし、解決していないから、完治ではないけどね」


「そう、とりあえず良かった。ご苦労様、もう少ししたら出発できる?」

「ええ、大丈夫よ」


しばらくして、出発しとうとする彼女たちの所へ、再びメイドがやって来た。


「ありがとうございました。お嬢様もすっかりいつも通りになりました。何とお礼を言っていいものか」

「どういたしまして。お礼は先ほど頂きましたから、これ以上は」


フェネが返事をすると、メイドは首を横にブンブン振った。


「いえ、このままお別れすると、旦那様と奥様に叱られてしまいます。皆様はこれからどこへ行かれる予定ですか」

「ロスベ子爵領へ行く予定ですが」


「まあ、お嬢様はロスベ子爵家の令嬢です。是非、ロスベ子爵家にお寄りください。せめて午後のお茶だけでも、奥様とご一緒して頂けませんか」


その後、来てください、行きません、の綱引きがあったが、結局短時間だけお邪魔することになった。休憩エリアを出発して1時間、中規模の町に着いた。早いが昼食を取ることになった。そこでロスベ子爵家の令嬢、セリナが話してくれた。

 

姉のリララが誘拐されて、トーイス領で救出された。医者から、身体的危害は一切加えられていないことが証明されたのに、傷物令嬢の噂が立ち、部屋に引きこもってしまったこと、妹のセリナが姉を慰めようと、必死に頑張ったこと、今日は姉の部屋に飾るための花を摘みに来ていたこと。


それを聞いたレアが、ためらいがちに尋ねた。


「ひょっとして、お姉様は赤髪青目で、事件当日は青色のドレスを着ていたのではありませんか?」


それを聞いたセリナが目を大きく見開いた。


「そ、そうですが、なぜご存じなのですか?」

「実は、私も誘拐されて、リララさんと2日ほど一緒でしたから。そして、この仲間たちに助け出されたのです」


その後、レアは自分が男爵家令嬢であることを明かして、是非リララに会わせて欲しいとお願いした。すると、セリナは是非と応じるのであった。その町からは、星とバラの妖精の6人とイオは荷馬車を借りて、領都まで1時間で到着した。


子爵家に着くと、イオはこの領の魔獣と話がしたい、とのことで少しだけ離れた場所で騎士とお茶をしている。女の子たちは第一夫人、セリナの2人とお茶会である。


「この度はセリナを助けて頂き、ありがとうございます。そればかりか、先日はリララも救出して頂いたそうで、誠にありがとうございます」


第一夫人とセリナが深々と頭を下げる。


「当然のことをしただけです。どうか頭を上げてください」


プレヤの言葉に2人が頭を上げる。


「姉のリララは帰って来てから、部屋に閉じこもっているばかりで、顔も見せてくれません。家の外に出なくてもいいのです。せめて食事の時だけでも顔を出してくれるといいのですが。もう心配で、心配で」


「食事はどうしているのですか?」

「部屋の前に置いておくと、ほんの少しだけ食べてくれます」

「部屋の中では何をしているのですか?」


その質問に答えたのはセリナだ。


「『赤いバラ』の魔音盤ばかり聴いています。熱狂的なファンですから」


会話を聞いていたヴェーヌが、第一夫人に断りを入れてから、パーティ会議を招集した。


「フェネ、お義姉様の午後の予定はダンスホールで、バービレさん、ピエトーラさんと魔法の研究でしたよね」

「はい、心を癒す魔法の完成までもう少しだそうです。ピエトーラさんがいるのは、横笛とヴァイオリンの二重奏の方が、飛躍的に効果が上がるからだそうです」


ヴェーヌは次にレアの方を向く。


「レア、リララさんとお話できるかしら?」

「私もお話したいです。誘拐犯に囚われていた時もチャンスがあれば、よくお話していましたから」


「そう、赤いバラのセンターの人に会わせるから、という理由でリララさんをお屋敷に誘ってくれるかな?」

「はい、頑張ります」


その後、第一夫人とセリナに協力してもらえることになり、リララの部屋の前に来た。みんなで『星めぐりの歌』を歌う。誘拐された後、収容されていた山小屋で歌った歌だ。そして、レアがドアをノックして呼びかける。


「リララ、リララ、私よ、レア、レアよ」


しばらくは何の反応も無かったドアが、やっと少しだけ開いた。そこへレアがもう一で声をかける。


「リララ、私よ、レアよ、会いに来たわ。部屋に入れて」


ドアの向こうから、ハッと息をのむ音がして、ドアが開きリララが飛び出して来た。髪は乱れ、毎日泣いていたのか、目は赤く腫れ、疲れ切った顔だ。2人は涙を流して抱き合った。


その後、2人は部屋に入って30分ほど話した後、赤いバラの屋敷へ出かけた。リララも落ち着いたのか、身なりも整えている。『星とバラの妖精』とイオとリララ、そして、付き添いのセリナも一緒だ。



赤いバラの屋敷のダンスホールに入ると、アイーダとバービレ、ピエトーラが話し合いをしていた。フェネがアイーダに近寄り、なにやら話した後、すぐに部屋を出ていった。アイーダはリララに話しかける。


「リララさん、『赤いバラ』のファンだって、フェネに聞いたわ。一番好きな曲は何かしら?」


リララが顔を赤らめて答える。


「デビュー曲の『赤いバラの恋 ―乙女座宮の女の子―』です」

「そう、今残りのメンバーを呼びに行っているから、その間私たちの魔法の実験を手伝ってくれるかしら。ただ、目を閉じて、イスに座っているだけでいいから」

「はい」


リララが答えると、セルクがイスを持って来て、それにリララが座る。アイーダとピエトーラ、バービレが少し離れて立ち、横笛とヴァイオリンの演奏準備を整えてから、アイーダとピエトーラが詠唱する。


「「音楽魔法 聖女たちのララバイ」」


横笛とヴァイオリンの二重奏で、子守歌のようなやさしい曲が流れる。次にバービレが両手の手のひらをリララに向けてから詠唱する。


「回復の光」


リララの身体が光に包まれる。いつもは数秒で光は消えるが、曲が終わるまで光続けた。音楽魔法と回復魔法が共鳴したのだろう。横笛を口から離したアイーダが尋ねる。


「気分はどうかしら?」

「とても晴れやかな気持ちです。暗い気分が吹き飛びました」


それを聞いた3人が顔を見合わせてニッコリする。その時、『赤いバラ』の残りのメンバーとフェネが部屋に入って来た。アイーダが弾んだ声で言う。


「じゃあ、みんな少し下がってくれる。『赤いバラ』の恋を歌うから」


そして、曲が始まるとリララの目が輝き、身体が揺れる。癒しの魔法は成功したようだ。


場所をヴェーヌの部屋に移して、『星とバラの妖精』とリララ、セリナがおしゃべりをしている。レアがリララの両手を取り、嬉しそうに言う。


「リララが元気になって本当に良かったわ」

「ありがとう。『赤いバラ』の歌を、あんなに近くで聴けて幸せ。でも、レアがここで働いているのは羨ましいわ」


「そうでしょう、そうでしょう。リララの働き先はどうなの?」

「しばらく引きこもってうたし、あえて言えば、婚活中かしら、アハハ」


自分の境遇を明るく笑えるあたり、完全復活したようである。それを聞いていたヴェーヌが提案する。


「隣の土地、『星の輝く赤いバラとコラールの里』が今開発中で、文官を探しています。かなりの好待遇ですけど、良かったらどうですか?」


「あら、私、王立の文官学校を卒業しているから、お力になれると思います。詳しい説明をお聞きしたいわ」

「お姉様だけずるいです。私も是非」

「セリナ、あなたはまだ学生だから、卒業してからね」


その後、リララは執事のサタールから詳細な説明を受けて、採用の内定をもらって帰宅したのであった。



お読みいただきありがとうございます。

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参考

ララバイ(lullaby)(英語)=子守歌(日本語) 


「かえるの合唱」 作曲 ホフマン(ドイツ民謡) 訳詞 岡本敏明

「星めぐりの歌」  作曲・作詞 宮沢 賢治 


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