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第12話 弦楽部族の子神殿 

 お土産で盛り上がっている家を後にした俺たちは、部族長に案内されて子神殿の前に立っている。子神殿は縦横高さが10mほどの小さな建物だった。正面の扉の上には、アニマが言った通り文字が表示されていた。


キーワードは下の文の〇〇。

ソラノウエニハ〇〇ガアル。


俺の頭にすぐ浮かんだのは、音楽魔法一族は倭国にルーツがある。だから、倭国の言葉で考えるということだ。ソラは倭国の言葉で空、スカイのこと。ならばホシだ、ということだ。空の上には星がある。


星魔法一族ならほとんどの者がそう思うだろう。いや待て。ツキ、月でもいいのではないか。月も星の1つと考えてもいいからだ。どうも何かしっくりこない。

そもそも空とは何だ。草原や山の頂きから上を見上げた時、目に映るものが空だ。


星は空にあるのだ、上ではない。空の上を考えるのは無意味だ。だから、ソラは空では無い。では、ソラは何だ。これは音楽魔法一族の子神殿。そうか、わかった。アイーダを見るとニッコリ笑っている。アイーダが扉の前に一歩進み、大きな声で言った。


「シド」


扉がゆっくりと開いた。おおぉぉーと歓声が上がる。


そうなのだ。答えはシド。音には高さがある。ドレミファ『ソラ』シド、ソラの上にある2つの音はシドだ。


開いた扉から中を見ると、神殿には窓がないし、照明もない。入り口から差し込む光で、ぼんやりと内部が見える程度だ。入口から少し入った所でアイーダが立ち止まり言った。


「最初は私とフェネで奉納演奏して、警備の兵衛佐を覚醒させますから、みなさんはここで待っていてください」


弦楽部族の3人が頷くと、アイーダとフェネは神殿の中央部へ進む。そこで立ち止まると、少し言葉を交わし、収納魔法で横笛を取り出す。


「黄金のクラーフル アウト」

「シルバーコローフル アウト」


2人は横笛を口に当てる。そして、


「「奉納演奏 アイネ クライネ ナハト ムージク」」


2人で声を揃えて曲名を口にしてから、演奏を始める。


小さな夜の曲という意味の曲だ。とても長い間、休眠状態にあることを考えての選曲だろう。横笛の美しい二重奏が終わると、神殿内が少し明るくなり、上から男性の声がした。


「おはようございます。私はこの神殿の警備の兵衛佐です。本家の巫女様方、ありがとうございます。おかげさまで長い間の眠りから目覚めることができました。早速ですが、弦楽部族の巫女様、統制補助の小納言の覚醒のための奉納演奏をお願いします」


その言葉にアイーダとフェネが入口付近まで下がる。すると神殿の中央部に虹色に輝く円陣が現れる。その円陣の中にピエトーラとアニマが進む。ピエトーラがアニマに一言呟くと、アニマが頷く。


そして、ピエトーラが金色のヴァイオリンを、アニマが銀色のヴァイオリンを準備して、詠唱する。


「「奉納演奏 メヌエット」」


2人が演奏を始めると、穏やかな曲が流れ出した。まるで朝、美しい女性にやさしく起こされる感じだ。神殿の中にキラキラ光る球が飛び回る。演奏が終わると上から女性の声がした。


「おはようございます。私はこの神殿の統制補助の小納言です。巫女様方、ありがとうございます。おかげさまで長い間の眠りから目覚めることができました。本家の神殿との連絡も復旧いたしました。転移の音楽魔法のための曲を知りたいとの伝言を受け取っていますが、間違いないでしょうか」

「はい。是非お願いします」

「承知しました」


神殿の奥の空中に1本のヴァイオリンが現れ、スポットライトが当たる。弓が動き始め曲が流れる。『Fly Me to Another Land』だ。ピエトーラとアニマは集中して聴いている。やがて演奏が終わると、ピエトーラとアニマが顔を見合わせてコクコクした。どうやら会得できたようだ。ピエトーラが尋ねた。


「転移できる距離はどれくらいでしょうか?」


小納言が答える。


「個人の保有魔力量によります。現時点で、金色のヴァイオリンをお持ちの巫女様は5kmほど、銀色のヴァイオリンをお持ちの巫女様は1kmほどでしょう」

「現時点で、ということは保有魔力量が増えると転移可能距離は伸びるの?」


「はい、例えば後ろの若い男性なら一万kmほどでしょう。もっとも、こんな方はほとんどいませんが」

「え、えぇぇぇ~。で、では若い女性の方はどうかしら?」


「背の高い巫女様が100km、もう1人の巫女様が30kmほどでしょう」

「そ、そう、ありがとうございます。それで奉納演奏はどれほどの頻度で必要ですか?」


「最低、3ヶ月に1度はお願いします。それ以上は何回でもかまいません」

「わかりました。これからよろしくお願いします」


神殿を出た後、すぐに転移を試してみることになった。100mくらい先への転移である。最初はピエトーラだ。ピエトーラがヴァイオリンを肩に乗せて詠唱する。


「音楽魔法 Fly Me To Another Land」


『Fly Me to Another Land』を演奏し始めて10秒後、ピエトーラの姿が消えて、100m先に現れた。ピエトーラが笑顔で手を振っている。成功だ。ピエトーラは走ってこちらへ帰ってくると、アニマと抱き合って喜んだ。そして言った。


「身体に異常はありません。魔力がほんの少し減った感じがするだけです」

「それじゃあ、今度は私が試してみるわね」


アニマも転移を試み、無事に成功した。ただ、実験して検証すべき点はある。それは、今回手に持ったヴァイオリンと足元のケースも一緒に転移した。では、周囲の物体が一緒に転移するための条件とか、人間も一緒に転移できるための条件などだ。これは、試行錯誤して確認するしかないだろう。


そして、アイーダとフェネも同じ曲を演奏したが、転移できなかった。どうやら弦楽部族固有の魔法らしいこともわかった。


その後、部族長から朝食を誘われて朝食がまだだった事を思い出し、ご馳走になることにした。倭国風の朝食である。ご飯に味噌汁、焼き魚、卵焼きのメニューだ。やはり、弦楽部族も倭国にルーツを持つ音楽魔法一族なのだ。


途中で呼ばれた転移陣の技術者は、食べるのに苦労している。それを見た部族長の夫人が、ナイフとフォークを用意してくれ、なんとか朝食をすますことができたようだ。


転移陣が使用可能になるまであと30分ほど、と技術者から聞いたので、俺とアイーダは部族長の案内でアンカアの森の村の見学に出かけることにした。フェネとアニマは何やら相談があるそうで別行動だ。



馬牧場の柵近くにフェネとアニマがいる。 


「ねえアニマ、なぜ馬をたくさん飼っているの? こんな森の中では馬は少ししか必要無いでしょう」

「それは馬の尻尾は弦楽器の弓の材料になるからよ。それよりフェネ、私、魔力のことで教えて欲しいことがあるの」


「何かしら? 私に答えられることならいいけど」

「転移可能距離は私が1km、フェネが30km。という事はフェネの保有魔力量は私の30倍ってことよね。年齢は同じなのにおかしくない?」


「私は長い間魔法の訓練をしているし、バランスのいい食事もしているわ。最近はピーマンも頑張って食べているし」

「魔法訓練は、私も頑張っているわ。でも、ピーマンは嫌い、ナスもニンジンも嫌い。いつもお姉ちゃんに食べてもらっているわ」


「ダメよ。ちゃんと食べなきゃ。いい音楽魔法使いになれないわよ」

「わかった。これからは食べるわ。ナスもニンジンも。ピーマンは少しだけ」

「ピーマンも食べるのよ。大事なことよ。ピーマンも食べるのよ」


アニマはとても嫌そうな顔をして考えていたが、やがて言った。


「うん。でも、それだけで30倍も差がつくかな~。他には何かないの。」

「ウフフ、あるわよ。でも恥ずかしいから、どうしようかしら」

「もう~、教えてよ。絶対ナイショにするから」


「ホントウに絶対ナイショよ。毎朝アース様にホッペチューしてもらっているの。そうすると、アース様の甘~い魔力が体に入ってくるの。何日かすると、身体の中の魔力が入っている袋が柔らかくなって、たくさん魔力が貯まるようになるの」


それを聞いたアニマは顔を赤らめた。しかし、決心したようだ。


「ねえ、フェネ。私もホッペチューして欲しいわ。毎朝転移陣でお屋敷に通うから。ダメかしら」

「第一夫人のアイーダお姉様が許可すればいいわ」


「私と一緒にお願いして、フェネ」

「いいわよ。じゃあ、お願いしに行こうか」


どうやらアースの朝のお勤めが増えそうである。



転移陣の設置作業が完了した。赤いバラの屋敷経由ではあるが、アルタイルの森へ行けるようになったのだ。もちろん、他の場所へも転移できるのだから、弦楽部族の村の交通事情は飛躍的に便利になった。最初にフェネが転移した。


音楽魔法一族の本家に、弦楽部族長の来訪を先ぶれするためだ。次にアイーダと弦楽部族長夫妻が転移、最後にアースとピエトーラ、アニマが転移した。多数の者が突然押しかけて迷惑だろうとの判断で、残りの者は後日、訪問することになったのだ。


アルタイルの森では、転移陣前で族長と第一夫人が部族長夫妻を出向かえ、アルタイルの森を案内して回った。その後会談を行い、ゆっくり時間をかけて移住するか、どうかを決めることになった。


一方、フェネとアニマはアイーダに頼み事をしていた。


「お姉様、アニマも朝のホッペチューの儀式を受けたいそうです」

「お願いします。音楽魔法がもっと上手になりたいのです。」


アイーダは、しばらく考えていたが、やがて口を開いた。


「ピエトーラはどうなの?」

「まだ話していないけど、お姉ちゃんも、喜んで儀式を受けると思います」

「そうなのね、2つ条件があるわ。1つは、私には、やりたい事があるから、それに協力してくれる事。これはいいかしら?」


「それは、私もお姉ちゃんも大丈夫です」

「じゃあ、2つ目の条件ね。このお屋敷かアルタイルの森の薬草園で働く事。もちろん、お給金も出すし、休みもたっぷりあげるわ。通うのが大変だったら、このお屋敷に部屋を用意するから、住み込みでもいいわよ」


「それは、こちらからお願いしたいくらいです」

「ちゃんと、ピエトーラに話して、ご両親にも許可をもらうのよ」

「はい、では、すぐにお姉ちゃんと両親に話してきます」


アニマは満面の笑顔で走り去った。



お読みいただきありがとうございます。

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参考 

「アイネ クライネ ナハト ムージク」 作曲 モーツアルト 

「メヌエット」   作曲 ポッケリーニ


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