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第10話 アンカアの森へのお土産 

「何これ、美味しすぎる。初めてだわ、感動の味よ、感動の味!」


そう言ってイチゴクレープをパクパク食べているのはアニマ。


「そうね。どうして、今までこんな美味しい食べ物との出会いが、無かったのかしら? 今までの分も食べないといけないわ」


答えるのは姉のピエトーラである。


ここはソーミュスタ王国の王都ソミスのクレープ店。クレープはソミス名物なので、2人が食べたことが無いのも当然だ。バナナクレープを食べながらフェネが訪ねる。


「アニマ、さっきの洋服店で服を何着買ったの?」

「子ども用の服30着くらいかな」

「大人用は買わなかったの?」


セルクが不思議そうな顔をして、ミカンクレープを食べながら尋ねる。


「大人は身長も体形もいろいろだから、選べないだろうってことで、服は要らないらしいわ。その代わりに、長く保存できる食べ物を買ってきて欲しいって」

「村には何人が住んでいるの?」

「120人くらいかな」

「じゃあ、お屋敷で作っているハムがいいと思います。美味しいですよ」

「う~ん、美味しいのは欲しいけど、重いと持って帰れないわ」


そこでフェネがニッコリして申し出た。


「私が携帯魔法で持って行ってあげるわ」


キョトンとしたアニマが言うと、フェネが服の入った袋を持って詠唱する。


「服の袋 イン」


服の袋が消えると、アニマが驚いたがフェネはもう一度詠唱する。


「服の袋 アウト」


服の袋が再び現れた。


「こうやって私が運んであげるから、大丈夫よ」


フェネがそう言って胸を張る。


「すっご~い。フェネって凄い魔法が使えるのね」

「まあね、アニマも音楽魔法が、転移魔法が使えるかもでしょう」


するとアニマが悲しそうに言った。


「私は音楽魔法があまり使えないの」

「大丈夫よ。聖なる響きの館で巫女認定されたし、お姉様にレッスンしてもらえば、すぐに上達できるわ」

「本当? 嬉しいわ。私、魔法のレッスンを頑張る」


アニマが素直に喜ぶと、ピエトーラがおずおずと口を開いた。


「申し訳ありませんが、私もお願いできるでしょうか?」

「もちろんです。お姉様も喜ぶと思います。それで次はどこに行きますか」


「ありがとうございます。楽器店は最初に行きましたから、次は魔導具店を見に行きたいです。お土産で魔音盤を買いたいので」


「そうね。あの楽器店に行って良かったわ。私たちがワルワル楽器店に持って行って売ったヴァイオリンが、ワルワル楽器店への売値の100倍の値段で売られているんだもん。ワルワル楽器店に騙されていたのがはっきりしたわ」


フェネがコクコクして同意する。


「そうよ。これからは転移陣もできるから、屋敷商会に買い取ってもらえばいいわ。あの商会は音楽魔法一族の商会だから大丈夫よ」

「そうするわ。さあ、魔音盤を買いに行こう、買いたい魔音盤があるの」


アニマの言葉で、一行は魔音盤を買いに店を出た。



「あった、あったわ。これよ、これ。え~と、たしか15枚だったわね」

「私も見つけたわ。私も15枚だったかしら?」


アニマとピエトーラがニコニコして魔音盤を抱えている。アニマが抱えているのは『赤いバラ』の『あなたとバラと』、ピエトーラの抱えているのは『コラール』の『神秘なる宇宙のスキャット』だ。村の子どもたちの希望するお土産らしい。村でも『赤いバラ』と『コラール』が人気を二分しているのだとか。そこにフェネがやって来た。


「あなたたちに、この魔音盤をプレゼントするわ。私たち、『星とバラの妖精』のデビュー魔音盤よ」


アニマとピエトーラは驚いて1枚ずつ魔音盤を受け取った。


「フェネたちって冒険者だけじゃなく、アイドルグループでもあったのね」

「まだデビューしたばかりで、これからアイドルを目指すのよ。頑張るから応援してね」

「そう、どんな曲かしら? 早く曲を聴いてみたいわ」

「いい曲よ、自信あるわ。じゃあ、すぐにお屋敷に帰ろうか」



お屋敷のダンスホールで『星とバラの妖精』の魔音盤を聴いたアニマが言う。


「と~てもいい曲だわ。ヒット間違いないよ。でも最初の部分は、なぜあんな感じなのかな。説明してよ」


「それはね、曲のタイトルが『恋のキューピットの矢』だからよ。出だしの静かなメロディは、女の子の平穏な生活を表現しているの。続く弦楽器のメロディと打楽器の音は、キューピットの射た矢が風を切る音と矢が、女の子のハートに命中する音を表現したつもりよ。その後は燃えるような恋を表現しているのは、わかるよね」


「うん、良くわかったわ。もう1つ感じたことがあるの。フェネの横笛の演奏は赤いバラのセンターの人の演奏にすごく似ているわ。フェネもあの人のファンなのかしら?」


「う~ん、ファンと言えばファンだけどね。似ているのは当然よ。だって、赤いバラのセンターはアイーダお姉様、つまり姉妹だから」


次の瞬間、アニマとピエトーラは固まった。たっぷり1分ほどしてからダンスホールに大きな声が響いた。


「「え、えぇぇぇ~、本当なの~」」

「本当よ。お祭りに行って舞台を見ない限り、顔は知らないから驚くのは当然だけど」

「それは大変、魔音盤にサインをもらわなきゃ」


それを聞いたピエトーラが羨ましそうに呟いた。


「いいな~、私もコラールのサインが欲しいわ」

「コラールのサインもすぐに貰えますよ。6人中3人はお屋敷に住んでいますから。バービレさんのサインがもらい易いと思いますよ」

「もらうわ、バービレさんのサインをもらうわ」


セルクのアドバイスに、顔を輝かせてピエトーラが言った。



赤いバラの屋敷に帰り、アイーダを捜すと自分の部屋にいた。15枚の『あなたとバラと』の魔音盤へのサインをお願いした。すると、アイーダは喜んで、さらさらと15枚全部にサインを書いてくれた。


バービレは捜すのに苦労したが、野外訓練場にいた。バービレも、快諾してくれて、『神秘なる宇宙のスキャット』15枚全部にサインをくれた。サインではなくて、猫のスタンプだったが。それでも大喜びするピエトーラであった。



アニマとピエトーラが、フェネとセルクの案内で王都観光をしている頃、アースは屋敷商会会頭のマーチャと執務室で相談していた。


「アース様、弦楽部族の者が現れたというのは本当でしょうか?」

「ええ、聖なる響きの館で巫女様として認められたそうですから本物です」


「そうですか、では間違いありません。私も弦楽部族については何も知りませんでした。昔の文献や言い伝えを調べましたが、ほとんど何もわかりませんでした。ただ1つ、我が国のどこからでもここへ転移できるペンダントには、弦楽部族の転移魔法を参考にして、製造された魔導具であるだけがわかりました」


以前から俺も不思議に思っていたのだ。あのペンダントは、どうして転移陣がない場所からでも転移できるのだろうと。その疑問も弦楽部族の出現で解き明かされるかもしれない。


「ペンダントのことも含めて、いろいろ新しい事がわかるかもしれません。楽しみです。ところで、打楽部族もいるそうですが、ご存じですか」


「いえ、それも初耳でした。現在調査中です。弦楽部族から、なんらかの情報が得られるといいのですけど。さて、転移陣の件です。転移陣と技術者1人を弦楽部族の村へ運ぶ方法ですが2つあります」


そう言ってマーチャは、この国近隣の地図をテーブル上に広げる。そしてコチェ王国トーイス領の湖近くの1点を指さして説明する。


「1つはここから直接、アース様の白鳥で運んで頂く方法です。ベガの森の時と同じです。2つ目は領都プリフまで転移陣で運び、そこから白鳥で運んで頂く方法です。どちらがよろしいでしょうか」


1つ目の方法は、手間がかからないが、星魔法の白鳥が長時間、他国の人間の目に触れるという欠点がある。2つ目の方法は手間がかかるが、白鳥が他国民の目に触れる時間は少ない。


「白鳥をあまり人目にさらしたくないので、転移陣で領都プリフまで移動して、そこから白鳥でいきましょう」

「わかりました。では出発時間はいつにしますか?」

「夜明けの少し前に出発しましょう。その方が人目に触れにくいですから」


そう言って、アースは再び地図を見て考えた。アンカアの森の村も湖の近くか。人が生きていくには水は必要だから、それは当然だ。打楽部族の村も湖の近くにあるのだろうか。


「マーチャさん、もっと広い範囲の地図を出してもらえますから」


マーチャは現在知られている国すべてが描かれている地図を広げた。東は倭国までだ。この国から倭国までの間には大きな湖が2つあった。打楽部族を探すとしたら、ここからか? その近くに打楽器製作の材料となるカシ、ヒノキ、ケヤキ、ブナ ヒバなどの森はあるだろうか?


そう考えていたら、アルタイルの森とアンカアの森を結ぶ直線を伸ばすと倭国に届いていることに気がついた。アルタイルの森から真東に伸びる直線上に倭国がある。そう言えば、星魔法の六分儀座で測定した、アルタイルの森とアンカアの森の緯度は同じだった。


「マーチャさん、音楽魔法一族が倭国で住んでいた場所をご存じですか? アイーダの聖音の宝珠によると、倭国の南部らしいのですが」

「はい、言い伝えによるとこの辺りと思われます」


マーチャが指さした場所は倭国の南部で、そこは火山と半島が陸続きになっている場所だ。火山の爆発で流れ出した溶岩で、海が埋め立てられて陸続きになったと言われているらしい。そして、そこはアルタイルの森とアンカアの森を結ぶ直線の延長上の場所だった。可能性はかなり低いが、1つの仮説が思い浮かぶ。


音楽魔法一族は倭国からアルタイルの森まで一直線に来たのではないかという仮説だ。直線上には海や大河、大森林、大砂漠があり、そこを真っすぐに進むのは困難だろうから、かなり無理な仮説だ。


「マーチャさん、打楽部族を探す場所についてです。地図のこの直線付近の湖で、

カシ、ヒノキ、ケヤキ、ブナ ヒバなどの森がある場所を優先してもらえますか」

「わかりました。少し時間がかかるかもしれませんが、そうします。」

「お願いします。気長に待っています」


こうして2人の打ち合わせは終わった。



お読みいただきありがとうございます。

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