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第13話 天岩戸(最終話)

 サユリと『星とバラの妖精』たちが海岸に着くと、異様な風景が広がっている。ビーチパラソルが並んでいて、その下の砂の中から人の頭だけが出ている。アニマがサユリに尋ねる。


「あれなあに? 人の頭の畑?」

「違うわ。砂蒸し風呂です。身体は砂の中よ」


サユリが答える。どうやら人が砂の中に寝て、頭だけ出しているらしい。サユリが説明を続ける。


「ここの砂は地熱で温かいのよ。ああやって砂の中に埋まっていると、体が芯から温まるの。普通のお風呂に比べて、出る汗の量がかなり多いので、それが健康や美容にいいと言われているわ。どうする、入ってみる?」


砂蒸し風呂を経験するか? と訊かれた『星とバラの妖精』たちは全員が首を横に振る。ただでさえ暑いのに、これ以上暑い思いはしたくないらしい。海に視線を移したトルリが叫ぶ。


「あっ、魚が飛んでいる。魔獣かな?」

「トビウオね。魔獣じゃないわ。ここは倭国でも1,2を争うくらいトビウオの漁獲量が多いの。塩焼きにして食べると美味しいのよ。脂の少ない淡白であっさりとした食感がいいのよ」


「えっ、羽を羽ばたかせて飛んでないの?」

「よく見て。羽じゃないわ、胸ビレよ。水中から勢いよく飛び出して胸ビレを広げているだけでしょう?」


言われてよく見ると、たしかに羽ではなく胸ビレである。トルリがう~んと考えている。アニマが尋ねる。


「トルリ、何を考えているの? どうせ、ろくなことではないでしょうけど」

「星魔法の夏の大三角形を見たでしょう? 音楽魔法でも同じように相手を囲んで逃げられないようにできれば、トビウオを捕まえられると思ったのよ」


「そんな音楽魔法は知らないわ。もしあれば、狩りに行った時に動物を生け捕りにできたり、いろいろ便利よね」


そう言うとアニマも考え込む。何か使える音楽魔法がないかを考えているのだろう。パシファが手を上げた。


「『かごめかごめ』はどうでしょう?」


トルリがポンと手を打った。


「それよ、試してみようよ。楽器はフェネだけでいいわ。サユリも歌うのよ」


全員がコクコクしたが、フェネが海を見て言う。


「でも、今はトビウオがいないわ」

「じゃあ、僕がトビウオを出してあげるよ」


フェネの言葉にプレヤが言い、詠唱する。


「星魔法 とびうお座 10体」


海の上を10体のトビウオが飛ぶ、いやジャンプする。それを見てフェネが横笛を取り出して、フェネとアニマ、トルリ、サユリが詠唱する。


「「「「音楽魔法 かごめかごめ」」」」


♪かーごめかごめ かーごのなーかのとーりーは いついつでーやる

よあけのばーんに つーるとかーめがすーべった うしろのしょうめんだーあれ


フェネの横笛に合わせて、サユリとアニマ、トルリが歌う。すると、トビウオの群れの周囲に輝くドームが現れる。ドームに衝突するトビウオがいる。しかし、ドームの前で海に沈んだトビウオは、ドームの外に現れてジャンプする。それを見て2人はガックリとうなだれる。しばらくして、フェネが言う。


「大丈夫よ。森の中なら上手くいくわ。今度試してみましょう」


3人は元気なくコクコクする。プレヤが言う。


「さあ、帰ろう。そろそろ転移陣を設置する場所が決まっているかもしれない」



神殿の正門から入って少し歩くと、アイーダたちが歩いている。プレヤが駆け寄って尋ねる。


「転移陣を設置する場所は決まったのですか?」

「あら、もう設置は終わったわよ」


アイーダが呆れた顔で答える。どうやら設置場所についての話し合いは短時間で終わったらしい。設置した場所は、人が子神殿に近づかないように、子神殿とは遠く離れた場所に決まったようだ。そして、すぐに設置作業をしたらしい。転移陣周囲の建物は、これから大急ぎで建てる予定とのことだ。驚いているプレヤたちにアイーダが言う。


「さあ、宿舎に帰って軽い夕食を食べるわよ。昼食が遅かったからね。今夜は天岩戸に行くわよ」


食堂に入ると、すでに準備は整っている。全員が席につくと侍女さんが説明を始める。


「軽いお食事として、あくまきを用意しました。灰汁に一晩浸したもち米を、竹の皮に包んで煮たものです。きな粉や砂糖をつけてお召し上がりください。本来は男の子の節句である端午の節句に食べるものですが、日持ちがするので、武士団の携帯食としても利用されています」


説明が終わると、アニマがすぐにあくまきに砂糖をつけて口に入れる。


「美味しいわ。もちもち、ぷるぷるしているのがいいわ」

「きな粉味もいいわよ。お腹にたまるわ、これ」


トルリにも好評のようだ。すぐに皿のあくまきはなくなり、アイーダが話始める。


「聖音の宝珠によると、天岩戸への訪問は暗い夜の方がいいらしいわ。また、子神殿の少納言に尋ねたら、今日の日没は午後7時頃、月の出は午後9時半頃。だから、天岩戸の前に立つのは午後8時頃が望ましいの。


天岩戸はここから北東へ5キロメートルくらいで、現在大昔の住居跡の発掘調査が行われている場所付近で、大きな池の近くらしいわ。だから、アース様の白鳥で行くことになったの。声楽部族からはサユリさんが参加するわ。だから、午後7時半に宿舎を出発の予定。誰か質問はあるかしら?」


全員が緊張した面持ちである。誰からも質問はなく解散となる。



一行は午後7時半に宿舎を出発する。真っ暗なので、アイーダが音楽魔法の『月の光』を使い周囲を明るく照らしながら歩く。アイーダとフェネが交代で音楽魔法を使う予定だ。池の畔でアースが星魔法の白鳥を出して、全員が乗り込む。


しばらく飛んで、天岩戸近くの池に白鳥を着水させて上陸する。アイーダが携帯魔法から聖音の宝珠を取り出す。そして、アイーダは聖音の宝珠の上に手をかざして、魔力を注ぎ込む。すると、聖音の宝珠は虹色の光を発する。アイーダが聖音の宝珠に命じる。


「天岩戸まで案内してちょうだい」


ここからはフェネが『月の光』を演奏して進む。10分ほど歩くと、平らな土地にポツンと存在している小山の前で聖音の宝珠が言う。


「止まってください。この場所でアイーダ様の横笛の演奏に合わせて、管楽部族と弦楽部族、打楽部族、声楽部族の巫女様方は『故郷』を歌ってください」


アイーダが横笛の演奏を始め、フェネ、アニマ、トルリ、サユリが歌い出す。


♪うさぎおーいし かのやまー こぶなつ- りし かのかわー

ゆーめはいーまも めーーぐりてー わすれがーたき ふるさとー 


真っ暗な中、歌が終わると、小山が中央から2つに割れて左右に開いて行く。明るい光が中から溢れて、周囲を照らし出す。小山の断面を見ると、岩の上に火山灰や軽石などの火山噴出物が積もっている。大昔は巨大な岩だったのだろう。その巨岩の上に火山噴出物が積もって、外見が小山になったのだ。


一行は小山の中に進む。そこで見たものは翼を広げた巨大なワシの像だ。一行が立ち止まりワシの像を見つめていると、笙、箏、鉦鼓などの倭国の古楽器による『越天楽』の演奏が始まる。


すると、ワシの像が頭は上に、尾が下になるように回転を始める。回転が止まると、ワシの嘴から星々の輝く空に向けて赤い光が伸びる。その光の指し示している先を見て、ヴェーヌがポツリと呟く。


「わし座のアルタイル」


アイーダも呟く。


「そうね。音楽魔法一族はアルタイル付近からこの星に来たのだわ。だから日巫女様は移住先の森を、わし座の一番明るい星のアルタイルから、アルタイルの森と名付けたのね」


長い間、言葉も交わさずにワシの像の前にいた一行が外に出ると、天岩戸は再び閉じる。一行はそのまま宿舎に帰った。



翌朝、アイーダたちは帰国の挨拶をしに神宮へ出向く。応接室に通され、部族長のアキラと巫女長のアオイ、副巫女長のラン、サユリにアイーダが挨拶をする。


「大変お世話になりました。これからアルタイルの森へ帰ります。帰ったらすぐに転移陣の設置に取りかかりますので、明日にでも転移陣の使用が可能になると思います」

「いやいや、お世話になったのはこちらの方です。お願いがあるのですが、サユリを連れて行ってもらえませんか? 転移陣を最初に使いたい、と我がままを言っておりまして」


答える部族長のアキラの横で、ニコニコしているサユリの顔を見て、アイーダは笑って承諾する。


「もちろん構いません。フェネとアニマ、トルリも最初に転移したいと言っていますから、4人で転移することになりますが」


フェネとアニマ、トルリもニコニコする。どうやら4人で話し合っていたようだ。ここで部族長は顔を引き締めて言う。


「実はもう1つお願いがあるのです。1ヶ月後に今回の鬼討伐の凱旋式があります。その時に、管楽部族、弦楽部族、打楽器部族にオーケストラを編成していただき、声楽部族と合同で歌劇の1曲を演奏してもらいたいのです」


「場所と声楽部族の参加人数はどれほどでしょうか?」

「場所はこの神宮正門前の広場です。人数は、声楽部族の血縁の者をかき集めて200人ほどの予定です。それと、指揮は音楽魔法一族の巫女長様にお願いしたいのですが」


「わかりました。帰りましたら父と母に伝えますが、多分大丈夫でしょう。詳しいことは後日打ち合わせることでいいでしょうか?」

「ありがとうございます。それでお願いします」


その後、オンラク神宮の神官や巫女たちに見送られて、アイーダたちは倭国から飛び立った。



アルタイルの森に到着後、すぐに転移陣を赤いバラの屋敷の正門前に設置し、転移ステーションとしての建物の建築を屋敷商会に依頼する。さすが、屋敷商会である。あっという間に建物は出来上がる。


アイーダとフェネがサユリを連れて両親へ報告を行うと、声楽部族との面会はいつでも可能、歌劇の演奏も大丈夫と快諾を得る。その返事を伝えるために、サユリとフェネとアニマ、トルリはオンラク神宮に転移する。その後は順調に事が進んだ。



1ヶ月後、オンラク神宮の正門前広場。来賓席には、音楽魔法一族の族長で

管楽部族のヴェル、弦楽部族の部族長のペザン、打楽部族部族長のサムシ、声楽部族部族長のアキラの姿がある。


アースとバービレ、レジェラ、ヴェーヌ、プレヤ、セルク、レア、パシファの姿も見られる。


オーケストラの中には、アイーダとフェネ、アニマと姉のピエトーラ、トルリがいる。合唱団にはサユリとランの姉妹、ミチコ先生、マサミ、ヨシコ、チエがいる。

 

指揮者はアイーダの母であり、音楽魔法一族の巫女長ディーナ。ディーナが一礼して指揮台に上がる。そして、タクトを振り始めると、アイーダとフェネの横笛から、アイーダ・トランペットの音色のファンファーレが鳴り響く。


『歌劇アイーダ』の第二幕第二場、テーベの広場のシーンの演奏の始まりである。アニマと姉ピエトーラのヴァイオリンが演奏を盛り上げて、合唱が始まる。グローリア、グローリアと歌われる前を、北西方面軍侍大将のサイヤマと北東方面軍侍大将のオオゴウを先頭に、兵士たちが足音を高くして、胸を張って行進する。


それを迎える民衆も誇らしげだ。女声三部合唱ではサユリと姉ランの美しいソプラノが響く。合唱の最後にはトルリがシンバルを打ち鳴らす。そして、再びアイーダとフェネの横笛から、アイーダ・トランペットの音色のファンファーレが鳴り響く。


美しく、力強い音楽魔法一族の演奏は大地に、海に、そして快晴の空へと響き続けた。


               完


第1話から第100話(最終話)までお読みいただきありがとうございます。

最後まで投稿できたのは、お読みくださったみなさん、特に評価して頂いたみなさんのおかげです。

いいなと思ったら、評価等お願いします。


なお、この作品は『星魔法使いの少年と音楽魔法使いの少女』シリーズの3作目です。

1作目の『星魔法使いの少年が出会った女の子は音楽魔法使いでした(改)』と2作目『音楽魔法使いの少女は第一夫人の座を目指す 』のページへ移動するには、目次ページの作品タイトル上部に、小さい文字で「星魔法使いの少年と音楽魔法使いの少女」の文字列があります。そこをクリックして移動先の作品を選択してください。


参考

「かごめかごめ」 日本のわらべ歌

「月の光」 作曲 ドビュッシー

「故郷」 作曲 岡野貞一 作詞 高野辰之

「越天楽」 作曲 日本古謡

「歌劇アイーダ」から凱旋行進曲  作曲 ヴェルディ

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