第12話 声楽部族の固有音楽魔法
宿舎の食堂で遅めの昼食が始まろうとしている。侍女さんが説明する。
「ここ倭国南部は鶏肉の生産量が倭国で一番です。本日の昼食の肉料理は鶏のもも肉のから揚げを用意しました。お好みでマヨネーズかレモン汁で美味しい鶏肉をお楽しみください。
また、倭国南部はブリの養殖量も倭国で一番です。ブリは成長するにつれて名前が変わります。小さい方から順に、ヤズ、ハマチ、メジロ、ブリです。どうぞ、美味しいブリの刺身をお召し上がりください。倭国南部特有の甘い醤油をたっぷりつけてお召し上がりください」
全員が一斉に食事を始め、美味しいと声が上がる中、アニマが侍女さんに尋ねる。
「鶏肉のフライとから揚げはどう違うの?」
「フライは鶏肉をパン粉と卵の衣で包み、油で揚げた料理です。唐揚げは鶏肉に醤油、しょうが、酒などで下味を付けてから、小麦粉の衣で包み、油で揚げた料理です。
参考までに、から揚げはカラの国から伝わった揚げ物という意味です。この地域のイモで、石焼きイモにすると、とても甘いカライモがありますけど、こちらもカラの国から伝わったイモという意味でカライモといいます」
侍女さんの説明に、アニマはニッコリ笑顔で言う。
「よくわからないけど、から揚げはとっても美味しいわ」
食事が終わり、ティルームに移動すると、アースが話を始める。
「酒呑鬼・魔王の討伐も終わったし、残りは天岩戸と声楽部族の子神殿だな。どちらを先にする?」
「聖音の宝珠によると、天岩戸を訪れるのは夜がいいそうよ。声楽部族の子神殿を呼ぶのなら、部族長、巫女長と副巫女長の4人が揃っていた方がいいわ。部族長とサユリさんのお姉様の具合はどうかしら?」
アイーダの問いにバービレが答える。
「午前中に様子を診たけど、普通に生活するのは問題ないニャ。激しい運動はまだ無理ニャン」
「じゃあ、可能なら声楽部族の子神殿を呼ぶことにしようか?」
全員がコクコクするので、バービレとセルクが部族長たちの様子を診に行く。しばらくすると、バービレとセルクが、男性1人と女性2人とサユリと一緒に帰ってくる。バービレがお互いを紹介する。
部族長であるサユリの父、アキラは黒髪黒目の30代で、がっしりした体格である。副巫女長のサユリの姉ランも黒髪黒目でアイーダと同じくらいの年齢に見える美人だ。
サユリの父である部族長がお礼を言う。
「治療をしていただいただけでなく、酒呑鬼と四天鬼の討伐にも助力して頂きありがとうございました」
深々とお辞儀をする4人にアイーダが慌てて言う。
「頭を上げてください。音楽魔法一族の仲間です。当然のことをしたまでです。ところで、声楽部族の子神殿を降ろそうと思うのですが、場所はどこにしましょうか? 大きさは私たちの乗って来た子神殿と同じです」
サユリたち4人は話し合っていたが、サユリが管楽部族の子神殿近くの場所を指さして言う。
「あそこにお願いします。あの辺りは人が来ることがほとんどないのです」
アイーダは頷くと、管楽部族の子神殿の方へ歩き出し、全員が続く。そして、アイーダだけが子神殿に入る。
「ようこそいらっしゃいました、副巫女長様」
「こんにちは、小納言。声楽部族の子神殿を近くに降ろしたいのだけど、すぐに降ろせるかしら?」
一瞬の間があり、小納言が答える。
「可能です。場所とは具体的にどちらでしょうか?」
「この真北10メートルの場所よ」
「わかりました。5分ほどお待ちください。安全のため、着陸までは周囲5メートルには誰も近づかないようにしてください」
アイーダは子神殿の外へ出て、空を見上げながら待つ。5分ほど経つと、遥か上空で何かがピカッと光る。それはグングン近づいて来て、高度10メートルくらいでスピードを落とす。そこからは、ゆっくりと降りてきて着地する。
声楽部族の子神殿は管楽部族の子神殿と全く同じ外見だ。唖然としているサユリたちにアイーダが話しかける。
「これが声楽部族の子神殿です。最初は奉納演奏をする必要あります。どうぞ4人で中に入ってください。統制補助の小納言が話しかけてきますが、小納言は代官のような存在ですから、何でも質問したり、命じたりしてください。声楽部族の部族固有の音楽魔法も教えてくれます」
サユリたち4人は子神殿へ入って行く。そして、20分ほど経ってから出て来る。その顔は笑顔満面である。サユリがフェネに走り寄り言う。
「フェネ、声楽部族の固有魔法が分かったわ。やってみるわね」
サユリはクルリと向きを変えて詠唱して、美しいソプラノで歌い出す。
「音楽魔法 歌の翼に」
♪うたーのつーばさーにー きーみーをおくらんーー
みなみはるかなーる うるわしくーににーー
すると、サユリの体が50センチほど空中に浮かび上がり、右へ左へとゆっくりと動く。それを見て、全員が驚く。しばらく浮遊していたが、地面に降り始め、着地すると歌も終わる。
「ねっ! すごいでしょう。空を飛べる音楽魔法よ。私、もっともっと練習して上手に飛べるようになるわ。私と手を繋いだ人も一緒に飛べるみたいだから、一緒に飛ぼうね」
「うん、すごい! 私も一緒に飛びたいわ」
「あとね、この子神殿があれば、フェネの住んでいるアルタイルの森まで簡単に遊びに行けるわ」
そこにヴェーヌが割り込んで来る。
「ちょっと待って。空を飛べる子神殿があるのだもの。転移陣だって、今ある転移陣より凄い転移陣があるんじゃない? もしあれば、移動はもっと簡単になるわ」
なるほどと思ったフェネがアイーダに相談すると、小納言に尋ねてみることになり、管楽部族の子神殿にみんなで入る。アイーダが小納言に尋ねる。
「小納言、今の転移陣だとここからアルタイルの森まで転移できないのだけど、それができる転移陣はあるのかしら?」
「ございます。この星で使われている転移陣は魔石を使用するタイプですから転移できる距離に限界があります。魔石はブラックエネルギーをブラックマターで包み込んだ物ですから、内包するブラックエネルギーに限界があるのです。
ですから、転移陣へのブラックエネルギー、この星で魔力と呼ばれていますが、これの供給を子神殿から直接行えば可能です。ただし、子神殿と転移陣間の距離は短くする必要がありますが」
「その子神殿と転移陣間の距離って、アルタイルの森と赤いバラの屋敷の門との間の距離でも大丈夫かしら?」
「大丈夫です」
「ありがとう。みんなと相談してから、また来るわ」
「わかりました。2地点それぞれに、10人が利用できる大きさの転移陣を発用と到着用の転移陣を2つ、合計4つを用意しておきます」
子神殿から出て、アイーダは声楽部族の4人に言う。
「お聞きになった通りです。神宮内であれば、どこでも運用可能でしょう。どこに設置するかは、みなさんで決めてください」
「わかりました。何から何までありがとうございます。西の大陸との転移が可能になれば、それは素晴らしいことです。早速主だった者を集めて相談します。では、いったんこれにて失礼します」
部族長たちはそう言うと去っていく。サユリの姉のランが去り際にアイーダに頼む。
「アイーダさん、私に音楽魔法を教えてもらえませんか?」
「もちろん、喜んで」
アイーダが答えると、ランは笑顔で手を振って去って行った。しかし、サユリは残っている。理由を尋ねると、サユリは口を尖らせて答える。
「だって大人だらけの会議だもの。出てもつまらないから」
フェネたちは笑いながらコクコクする。サユリの気持ちは良くわかるからだ。大人だらけの会議に出た子どもにできることは、大人しく座っていることだけだからだ。そんなサユリの気持ちを理解しているのか、部族長たちはサユリを呼ぶこともなく歩いて行く。それをちらっと見ながらサユリが言う。
「海岸に行ってみない? 面白いものがあるわよ。馬車に乗って行けば30分くらいよ」
『星とバラの妖精』たちは面白いもの見たさに海岸に行くことにした。
補足
カライモ=サツマイモです。サツマイモの名前の由来は薩摩藩から、伝わったイモという説が有力です。薩摩藩ではカラ(唐、中国の旧国名)から伝わったイモなので、カライモと呼びます。
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参考
「歌の翼に」 作曲 メンデルスゾーン 作詞 ハイネ 訳詞 門馬 直衛




