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第11話 酒呑鬼・魔王討伐 

 人形店から出て、何か面白い物を売っている店はないかと通りを歩いていると、アニマが指さして声を上げる。


「あっちに見える大きな建物はなあに?」

「歌劇を上演する劇場、オンラクホールです。倭国の国民は歌好きが多くて、歌劇も人気があるのです」


サユリが答えて、みんなで行くことになる。近づくと、かなり大きな建物だった。

大ホールは1000人くらい、小ホールは100人くらい入るらしい。残念なことに今は鬼のせいで休演しているとのことだ。劇場の隣の建物を見てプレヤが尋ねる。


「こちらの建物は学校かな? 校庭もあるみたいだし」

「そうです。歌劇学校です。今は夏休みで誰もいません。それに西の大陸に修学旅行に行っている学年もあります」


フェネが思い出して言う。


「そういえば、リチウム公国でマサミたちに会いました」

「えっ、マサミに会ったの? 元気だった? 私も行きたかったわ、修学旅行」

「えっ、マサミと知り合い?」

「そうよ、同級生なの。修学旅行は長い日数がかかるから、神宮の副巫女長の私は行けなかったのよ」


倭国内には転移陣網が整備されている。しかし、隣国のカラの国との間の海を転移することはできないし、カラの国から西の国には転移陣が無いらしい。サユリが再び口を開く。


「あなたたちが乗って来た乗り物は、どれくらいでここまで来たの?」

「1時間くらいかな? すごく速かったわ」


サユリは目を大きく開けて、固まる。


「いいな~。私も欲しいわ。西の大陸のコンサートや歌劇を見に簡単に行けるのに」

「声楽部族にも子神殿はあるわよ。今は空の上だけど。酒呑鬼、魔王の討伐が終わったら、呼ぶと思うわ」


フェネの言葉にサユリは目を輝かせて言う。


「それ本当? わあー、早く酒呑鬼を討伐しなくては。武士団の忍者部隊には早く酒呑鬼を発見して欲しいわ」


『星とバラの妖精』たちは首を捻る。レアが尋ねる。


「忍者とは何ですか? 教えてください」

「西の大陸のスパイとか諜報部員と同じような働きをする者たちのことです。ところで暑くなってきました。かき氷でも食べにいきませんか?」

「私、イチゴのシロップがいいわ」

「私はメロンのシロップよ。見た目も涼しそうだし」


サユリの提案にアニマとトルリが大賛成し、かき氷を食べに行くことになる。


店に入り、かき氷を注文すると、シロップは1種類しかないと言われる。仕方がないので、それで注文すると、直径約13センチ、高さは15センチくらいで、頂上にサクランボが乗っているかき氷が運ばれて来る。


「これは倭国南部では有名なかき氷です。かき氷はふんわりとしていて、シロップの代わりに秘伝の練乳がかけてあります。氷の中には桃やみかん、レーズンなどが入っています。とっても美味しいですよ」


サユリの説明に、最初はゆっくりとスプーンを動かしていた『星とバラの妖精』たちだったが、すぐにかき氷の山は低くなっていく。


「かき氷にフルーツって合うわね。とっても美味しかったわ」

「そうね、私はバナナも食べたかったわ」

「メロンもいいわね」


美味しいという点では意見が一致したが、フルーツの好みは人によって様々なので、マンゴー、ブドウ、メロン、リンゴ、ナシ、パイナップル、いろいろ意見が出る。フルーツの話題で盛り上がった後、そろそろ宿舎に帰ることになる。



宿舎前で体術、剣術の訓練を行う星魔法組は西の草原へ向かう。音楽魔法組は、ひな人形の持っていた楽器の実物をサユリに見せてもらうことにする。サユリの案内で神殿付属の音楽練習室に到着すると、楽器保管室へ通される。その部屋の温度と湿度は一定になるように魔導具で調節されているらしい。そこにはいろいろな昔からの楽器があった。


フェネの目が、17本の細い竹管がある楽器で止まる。サユリが説明してくれる。


「これは笙という楽器よ。吸っても吹いても同じ音が出せ、和音も演奏できる管楽器なの」


管楽器で和音を同時に出せる楽器を、初めて見るフェネはジーと笙を見てから言う。


「下の円の所に開いている穴を押さえて演奏するのかしら? 演奏するのは、とっても難しそうね。隣に置いてある漆を塗った竹で作られているたて笛の名前は何?」

「名前はひちりき。音色は西の大陸の楽器のサックスに似ているわ。その隣の横笛は龍笛よ」


アニマは琵琶や箏などの弦楽器を、トルリは鉦鼓や太鼓などの打楽器を見ていたが、弦楽部族や打楽部族に同じ物があると言う。管楽部族の古い楽器は、アルタイルの森が襲撃されて、ベガの森へ逃げた時に失われたらしい。


ゆっくりと楽器を見ていると、侍女がやって来る。


「副巫女長様、巫女長様がお呼びです。忍者部隊から報告があったそうです。急いでお戻りください」


サユリは急いで部屋を出て行く。フェネがその背中に声をかける。


「何かわかったら教えてね」


サユリは振り向いて答える。


「わかったわ。宿舎で待っていて」



フェネたちが宿舎のティルームで待っていると、サユリがやって来る。フェネが駆け寄って尋ねる。


「忍者部隊からの報告は何だったの?」

「ここの真北50キロメートルくらいの山中にいるらしいわ。隠ぺいの魔法が張ってあるらしくて、詳しい事はわからないそうよ。わかっているのは、おおよその場所だけなの」


フェネはパシファに、アイーダたちに伝えるように言い、アニマはプレヤたちを呼びに走る。すぐに全員がティルームに集まり、サユリは再び忍者部隊からの報告を伝える。


「だいたいの場所が分かっているのなら、音楽魔法でなんとかするわ」


アイーダが自信たっぷりに言うと、アースがコクリと頷き言う。


「ならば、すぐに酒呑鬼・魔王の討伐に出撃するぞ。準備をして、西の草原に集合だ」


全員がコクコクする。すぐに西の草原に勢揃いすると、アースが指示をする。


「鷹鬼討伐の時と同じ態勢で行く。ヴェーヌとプレヤは、それぞれのワシに乗ってくれ。俺は白鳥で行く」


そして、アースの白鳥とヴェーヌとプレヤのワシは真北に向けて飛び立つ。30キロメートル飛んだ時、蚊型魔獣3000体ほどが襲ってくる。フェネとパシファが叫んで詠唱する。


「近寄らないで」「消えてください」

「「水魔法 霧雨噴射」」


霧状の細かい水球が吹きかけられると、蚊型魔獣の群れは煙となり、魔石が落ちる。次にハチ型魔獣2000体が襲来すると、バービレとレジェラが叫んで詠唱する。

「燃えてしまえニャン」「焼き尽くしますわ」

「「火魔法 火炎放射」」


2人の両手の手のひらから大きな火炎が吹き出して、ハチ型魔獣の群れを煙に変え魔石が落ちる。3番手は鷹型魔獣とコウモリ型魔獣の混成部隊だ。2つの魔獣は、これまでの戦いで数を減らしているのだろう。数は合計1000体ほどだ。ヴェーヌとプレヤの火魔法が迎え撃つ。


「まとめて討伐できて効率がいいわ」「一網打尽だ」

「「火魔法 ファイヤーネット」」


多数の小火球で作られた網が、鷹型魔獣とコウモリ型魔獣を包み込み、絞られると魔獣の群れは煙となり魔石が落ちる。次はハゲワシ型魔獣とアホウドリ型魔獣の大型鳥型魔獣の群れ1000体が襲撃してくる。アースがペルセウス座の剣を抜き詠唱する。


「星魔法 ステラビッグバーン」


剣を魔獣の群れに向けて一閃すると、空中の魔獣の群れは、光の洪水に巻き込まれて煙となる。その後の空には魔獣の姿は1体もない。アイーダが言う。


「50キロメートルくらい飛んだかしら。魔力を山の中から感じるわ。フェネ、アニマ、トルリ、準備をして」


4人は演奏の準備が整うと詠唱する。


「「「「音楽魔法 山の魔王の宮殿にて」」」」


不気味な音楽が流れ始める。すると、前方下の山中から直径10メートルの火球が飛んで来る。しかし、アースが15メートルの火球を飛ばして衝突させて、弾き飛ばす。ティンパニーの音がして曲が終わると、山の中に城が現れる。魔王酒呑鬼のいる城だ。プレヤが火球を撃ちこむが、弾き返される。アースがヴェーヌとプレヤを呼んで指示を出す。


「ヴェーヌ、星魔法の琴を出してくれ。この白鳥がデネブとして、ヴェーヌはベガの位置、プレヤはアルタイルの位置だ。あの城を取り囲むぞ」


ヴェーヌとプレヤが飛んで位置につくと、アースは詠唱する。


「星魔法 夏の大三角形」


山中の城を取り囲むように輝くドームが現れると、アースが言う。


「よし、これで酒呑鬼・魔王は逃げられない。アイーダ、酒呑鬼・魔王をあの城から追い出せるか?」

「大丈夫、できるわ。今度はサユリも歌うのよ」


サユリが頷き、トルリがピアノの前に座ると、5人は詠唱する。


「「「「「音楽魔法 魔王」」」」」


ピアノの激しいリズムで始まる曲に乗せて、サユリが歌う。すると、城の上部が崩れ落ち、頭に黒い角2本があり、背中に翼を持つ人型魔物が空に飛び出して来る。サユリは腰に差している金色のタクトを右手に持つ。そして、金色のタクトを酒呑鬼・魔王にピタリと向けて詠唱する。


「消滅せよ! 黄金のタクト」


黄金のタクトの先端から、赤く輝く細い直線が酒呑鬼・魔王に向けて一瞬だけ走ると、酒呑鬼・魔王は煙となり魔石が落ちる。プレヤのワシが急降下して、プレヤがその魔石を受け止める。そして、白鳥に戻り魔石をサユリに渡す。サユリは魔石を大事そうに抱えて言う。


「酒呑鬼を討伐できました。みなさん、ありがとうございます」



お読みいただきありがとうございます。

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参考

「山の魔王の宮殿にて」 『ペール・ギュント』第1組曲より

作曲 グリーグ

「魔王」 作曲 シューベルト 作詞 ゲーテ


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