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第1話 コチェ王国トーイス伯爵領の狩場

この物語は『星魔法使いの少年と音楽魔法使いの少女』シリーズの3作目です。

1作目の『星魔法使いの少年が出会った女の子は音楽魔法使いでした(改)』と2作目『音楽魔法使いの少女は第一夫人の座を目指す 』のページへ移動するには、目次ページの作品タイトル上部に、小さい文字で「星魔法使いの少年と音楽魔法使いの少女」の文字列があります。そこをクリックして移動先の作品を選択してください。


 8月、夏真っ盛りである。アースとアイーダの結婚式から1ヵ月が過ぎた。結婚式や披露パーティの疲れもすっかり取れて、平穏な日々が戻って来た。



「命中しました! 狐を2匹とも倒しました」


弓を連射したフェネが嬉しそうに叫ぶ。ヴェーヌが詠唱する。


「星魔法 りょうけん座2体」


2頭の猟犬が走って行き、それぞれが1匹の狐を加えて帰って来る。それを受け取ったヴェーヌが詠唱する。


「水魔法 氷結」


氷漬けにされた狐をフェネが携帯魔法で取り込む。


「狐2匹 イン」


聖夜の屋敷でもらったルドルフの杖のおかげで、携帯魔法が使えるのだ。この魔法は時間停止機能があるので、そのまま収納できるのだが、念のために氷漬けにするのだ。


ここは、ソーミュスタ王国の東隣のコチェ王国トーイス伯爵領の初級冒険者用狩場である。コチェ王国はソーミュスタ王国の友好国であり、国境の行き来も、転移陣での移動も自由にできる。


コチェ王国の北にはオールト大森林が広がり、南は海に面している。東は3つの国と、西は我が国と山々で隔てられている。トーイス伯爵領はコチェ王国の最も西側の領地で、昔から我が国と交流が盛んな土地柄である。


現在いる平原の先には森がある。そこにフェネとセルクが採取したい薬草がある、という事でやって来たのだ。その他にも、パシファがハーブを採取したいという事もあるし、『星とバラの妖精』が狩りを経験して、冒険者パーティとしてのランクアップのためのポイント稼ぎという目的もある。


冒険者パーティ『星とバラの妖精』もE級への昇格間近だ。F級は冒険見習いの位置づけなので、フェネとセルクの優れた薬草採取能力だけでも、簡単にE級に昇格できるのだ。


アイーダは、俺の母上とアイーダの母上、お付きメイドたちと一緒に、王都に買い物に出かけている。結婚式、披露パーティで頂いた贈り物への返礼品の買い物だ。当然ながら、俺は辞退させて頂いた。


この買い物は1日では終わらない、3日はかかるだろう。兵法にある「三十六計逃げるに如かず」の策をとったのだ。いや違う、3人で親交を深めてもらうために、俺は遠慮したことにしている。

 

『コラール』は地方のお祭りへの参加で忙しい。今年の音楽コンクールで最優秀賞に輝いたからだ。『赤いバラ』が結婚準備で参加できなかったのも理由の1つだが、もう1つの理由は歌った曲の素晴らしさである。


受賞曲『神秘なる宇宙のスキャット』は魔音盤の売り上げも、我が国と周辺諸国合わせて50万枚近くになっている。だから、例年に増してお祭りへの参加のお誘いが多いらしい。冒険者業優先の彼女たちであるが、断り切れないお誘いも多いらしくて、嬉しい悲鳴を上げている。


また狐が現れた。それを見たプレヤがセルクに提案する。


「セルク、あれを試してみて。」


それを聞いてセルクが詠唱する。


「星魔法 や座」


現れた矢が狐に向かって飛び、見事に命中した。


「やったね、セルク。ついにセルクも狩りで星魔法が使えるようになったね」


プレヤ同様、ヴェーヌとフェネ、パシファも喜んでいる。セルク本人は言うまでもない。セルクも日頃の訓練や食事ケア、あるいは毎朝のポッペチューの成果なのか、保有魔力量が増えた。もう1つ魔法の威力を上げる原因がある。


それは、魔法の杖店で買ってもらった杖だ。セルクは回復魔法を使う者用の杖、杖の上部に赤いハートマークが付いた短い杖、ハートワンドを、パシファは水魔法を使う者用の杖、杖の上部に雪の結晶の模様が付いた短い杖、スノーワンドを買ってもらったのだ。その結果、セルクは射手座は無理だが、矢だけの矢座は使えるようになったのだ。


矢座の矢は射手座の矢に比べてスピードも遅く、威力も弱いのだが、C級以下の魔獣ならば十分通用するだろう。セルクはいて座の生まれだ。もっと訓練を積めば、星魔法の射手座も使えるようになるだろう。


今回俺は傍にいるだけで、何のサポートや指示はしていない。冒険者パーティ『星とバラの妖精』の5人だけで、どこまでできるか見ているのだ。ここまでの行動から判断すると、初級用の狩場はもう卒業だろう。


今度は野生のブタ4頭が現れた。プレヤが指示をする。


「フェネ、剣で戦うからお願い」


それを受けてフェネが詠唱する。


「シルバーコローフル アウト」


そして、現れた横笛を口に当てて、詠唱する。


「音楽魔法 剣舞の歌」


この音楽魔法は結婚式後のパーティで、アイーダの両親の音楽に合わせて剣舞を舞った俺の両親が、「普段より身体が軽く動いた」と言っていたことから、アイーダとフェネが研究。その結果、剣や槍で戦う者の筋力を増加させる支援魔法としての音楽魔法が生み出されたのだ。


プレヤとヴェーヌ、セルクがそれぞれ1頭の野生のブタに向かって走り、一振りで倒す。残った1頭はパシファが水魔法の水針で倒した。パシファの水針も太くて長くなっている。水が氷になり、氷矢や氷槍に進化するのもすぐだろう。


倒した野生のブタはヴェーヌが星魔法のブラックホールで回収している。我が妹ながら星魔法の習得が速い。この魔法も時間停止機能がついている優れものである。


夕食の時間になったので、休憩場所に向かう。この狩場に何か所かに作られていて、5m四方の土地に天幕が張ってあり、雨が避けられるようになっている。竈も設置されているので、簡単な料理も可能だ。。初級者用狩場だけあって、ずいぶんと親切なことだ。

 

もっとも、『星とバラの妖精』には携帯魔法の使い手が2人いるし、お湯はパシファが水魔法で出せる。役に立つのは雨除けの天幕くらいだ。狩場での食事は持参したお弁当とスープかお茶くらいだ。だから、フェネがお弁当のサンドイッチを出し、パシファがお茶を入れる。そう思っていたら違った。


まず、携帯魔法でヴェーヌが敷物用の布を出す。フェネが出したのは、人数分の平皿とフォーク、サラダ用の野菜とハム、調味料、そしてお椀。最後に出したのが白い平板の小片だった。パシファは白い小片をお椀に入れてお湯を注ぐと、更に魔法をかけ続け、少しの時間だけ沸騰させた。そして、粉末を少し入れた。


「アース様もいかがですか」


そう言って、フェネがサラダの皿と白い小片の入ったお椀とフォークを持って来た。フォークで白い小片を刺すと柔らかい。見た目には硬かったのだが、茹でたためだろうか。口に入れると温かくて柔らかく食べやすい。これはどこかで食べた事がある。そうだ、ベガの森で食べた雑煮だ。


「フェネ、この白い食べ物は雑煮に入っていた物か?」

「はい、お餅です。煮ても焼いても柔らかくなります。紙でしっかり包んで保存すれば、2週間ほどは保存できます」


「材料は何だ。コムギではないだろう」

「お米の一種でモチ米です。今はアルタイルの森でも育てられるように準備中です」


なるほど、硬いパンに慣れている俺からすると、別次元の食べ物だ。しかもお腹にしっかり貯まる。力を必要とする冒険者や軍人にとっては革命的な食べ物だ。そんなことを考えていると、プレヤが質問してきた。


「アース様、僕たちのパーティの実力はどうでしょうか?」

「今日狩った狐や野生のブタはE級の獣だ。それを簡単に狩ったのだから、戦闘力だけならD級パーティだな、それも上位だろう。


ただ、経験がまだまだ足りない。B級以上の獣や魔獣、魔物とは戦うな。特に魔物の姿を見たらすぐに逃げろ。生きてさえいれば、訓練と経験を積んでいつか討伐できるからな」


「はい。わかりました。できれば、アース様にも剣や魔法をご指導して頂きたいのですが?」

「いいだろう。屋敷に帰ったら鍛えてやろう」

「お願いします」


夕日が完全に沈み、星が見えるようになってきた。今夜は晴れて星座もしっかりわかる。ヴェーヌ、プレヤ、セルクが星のことをちゃんと勉強しているか確認することにした。


「ここはアルタイルの森からみて、どの方向にあるかわかるか、セルク」

「ここは東隣の国ですから、東ではありませんか?」

「そうだ、間違っていない。しかし、それを星を見て判断できるか、プレヤ」


「え~と、北極星の高度がアルタイルの森とだいたい同じですから、ほぼ真東にあると判断できます」

「もっと正確に北極星の高度を知るために使う星魔法は何だ、ヴェーヌ」


「はい、六分儀座です。六分儀を使えば正確な高度を測定できます」

「よし、正解だ」

「アース様、六分儀座って獅子座の近くにある星座ですよね」


「おお、よく勉強しているな、プレヤ」

「はい、獅子座はアース様の星座ですから、僕はその近くの星も頑張って調べたのです」


うん、よく勉強している。その調子で他の星の事も勉強して欲しい。寝る前にフェネが結界を張った。結界がどれくらいの時間張られるか試すためだ。フェネの魔力保有量もかなり増えたたから、一晩くらいは持つはずだが、念のため、俺だけは結界の外で、寝ないで周囲に気を配った。



何事も起こらず夜が明けた。フェネの結界も途中で消えることはなかった。朝のホッペチューの時、いつもより多く魔力を吸われたが。4人がホッペチューされるのを見ていたヴェーヌが驚いていた。そういえば、ヴェーヌは屋敷に住んでいなくて通いなので、朝のホッペチューは初めて見たらしい。


「今のは何なの?」

「朝のホッペチューだよ。魔力量が増えるし、甘くて美味しいよ」

「そう、とても甘いのよ」


「はい、毎朝甘いホッペチューされると、少しずつ魔力量が増えるのです」

「気を失うくらい甘くて美味しいです」


4人が口を揃えて甘いよ、というのでヴェーヌも興味が湧いたらしい。


「お兄様、私にもホッペチューしてください」

「兄と妹だけどいいのか」

「あら、兄と妹の方が普通よ。妹にしないで他の女の子としているなんて信じられません。さあ、どうぞ」


そう言うとヴェーヌは、俺の前に来てホッペを近づけてきた。他の4人もコクコクしているので、ホッペチューした。


「うん、甘いわ、イチゴ味ね。クセになるのがわかるわ」

「えっ、イチゴ味。味までわかるの?」


プレヤが驚いて言う。そして、ヴェーヌを4人の女の子が取り囲みワイワイガヤガヤが始まった。メロン味とかバナナ味とかグレープ味などの単語が聞こえてきたが、あまり興味がなかったので、そっとその場を離れた。


朝食後、薬草採取のために森に入った。アルタイルの森に比べて、メイプルや松の仲間のスプルースの木が多い。フェネとセルクが薬草を、パシファはハーブ類を探している。ヴェーヌとプレヤは護衛だ。星魔法のおおいぬ座とこいぬ座を使い、少し離れた場所を警戒させている。フェネがヴェーヌに頼む。


「ヴェーヌさん、この薬草を携帯魔法で冒険者ギルドへ持って行ってくれるかしら?」

「さんはいらないわ。ヴェーヌでいいわよ。だって将来フェネは、私のお義姉様になるのだから」


顔を真っ赤にしてフェネが答える。


「わかったわ、ヴェーヌ」


赤いバラの屋敷に持ち帰る分はフェネの、冒険者ギルドに納入する分はヴェーヌの携帯魔法に収納しているのである。


根の部分を土ごと紙で包んだ、小さいハーブを持ったパシファが、フェネに携帯魔法に収納するように頼んでいる。赤いバラの屋敷に持ち帰り、育てるつもりらしい。パシファから渡されたハーブに、フェネが顔を近づけて言う。


「このハーブはアロマティカスに似ているけど、香りが強いわね」

「野生のハーブは人が栽培しているハーブより香りが強いのです」

「えっ、そんな事初めてきいたわ。何故かしら?」


「ある学者さんの唱えている説ですが、ハーブの香りは、葉を食べる虫を近づけないためです。野生のハーブの周りには葉を食べる虫が多いので、香りが強くなるのです」

「まあ、ハーブも生き残るために工夫しているのね」


生物は厳しい環境に置かれると、それに順応するために進化する。進化できたものだけが、子孫を残すことができるのだ。しばらくして、フェネの大きな声が聞こえてきた。


「見て、セルク、薬草のオウレンがたくさん生えているわ。ここにオウレンが生えているって情報は嘘じゃなかったのね」

「本当にいっぱい。オウレンの根や茎は胃の薬になるのでしたか?」

「その通りよ。さあ、頑張って採取しましょう」


オウレンはたくさん生えていたので、採取に時間がかかってしまった。でもオウレンを冒険者ギルドに持って行けば、買取価格も高いし、高いポイントがもらえる。E級に昇格するのに役立つのだ。


ワンワン ワンワン。突然、星魔法の子犬が吠えるのが聞こえた。あの吠え方は、異常なことを発見した事を知らせる吠え方だ。


「お前たちは、ここで戦闘態勢をとり待機していろ」


そう言い残すと、俺は子犬の方へ急いだ。すぐに子犬を発見した。吠えている子犬の傍らには、11,2才くらいの女の子が倒れていた。近寄って状態を確認したが、生きているようだ。ケガや病気など詳しい事は、よくわからない。俺はすぐにセルクを呼んだ。



お読みいただきありがとうございます。

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参考

剣舞ケンバイの歌/イーハトーヴ歌曲集 作詞・作曲 宮沢 賢治

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