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さくっと婚約破棄もどきの短編です。

お読みいただけましたら幸いです。

「ルルーシュ!!!!お前との婚約は今日をもって破棄させてもらう!!!」


 時刻はちょうどお昼時。午前の授業を終えたものたちが昼食を食べにランチルームへと集いその場はとても賑やかなものであったが、突如として響いたその声に先程までとは打って変わって水を打ったように静まり返った。


「……はぁ」


 ルルーシュは思わず気の抜けた声を上げる。同時に口の中に放り込もうとしたサンドイッチの具材のトマトがぽろりとこぼれ落ちた。


 あ、もったいない。


 ルルーシュはその声を聞かなかったことにして落ちてしまったトマトを拾う。お皿の上だし食べても問題ないよね?


「おい、呑気にサンドイッチなんか食うな」

「え、ほんとに私に話しかけてたんですか?」


 しかしその男に指をさされてしまい、ルルーシュは渋々サンドイッチをお皿の上へと置いた。

 それからその男の方を見遣る。そうしたらまあ、なんともまあ見覚えのあるようなないような顔が。


 たしか、えーと、釣書で見た気がする。

 ルルーシュは記憶の端の方にあるお見合いの数々の釣書へと思考を巡らせた。


 えっと、たしか彼の名前はロバート・シュバルツだったかしら。シュバルツ伯爵家の三男坊だった気がするわね。あらまあ、私と同じ階級なのね彼。でも三男坊か、通りで婚約者にならなかったはずである。うちはお金があるのでね、両親は伯爵家より上の階級の爵位持ちの、更に言えば跡取り息子とかを婚約者に据えたがっていたのよね。だから彼が婚約者になっているはずなんて有り得ないのだ。


 だからこそ、先程の発言が自分自身へ向けられたものだとは思えずにいた訳である。

 ルルーシュなんて名前の人私以外にいたかなぁと呑気に考えながらサンドイッチを貪る手を止めなかったのだ。


「えーっと、それでなんでしたっけ?」

「だから!!お前との婚約を破棄したいと言っているんだ!」

「んんー???」


 二度同じ言葉を聞いたものの、ルルーシュには理解が出来なかった。いや、理解はできたが納得がいかない。何度も言うが彼とは婚約をそもそもしていないのだ。


「失礼ですが、誰かとお間違いになっているのではないでしょうか?」

「誰がお前みたいな性悪女を間違えるか。いいか、お前がリアに対してしてきたことは到底許されるようなことじゃないんだからな!!」

「はぁ」

「なんだその気の抜けた返事は。お前、自分のしたことがどれだけ酷いものなのか分かっているのか!?」


 いえ、わかりませんが。そもそもリアとは誰でしょう。ルルーシュは一緒に昼食を取っていた友人の方へちらりと視線を送るが、友人は無言で首を横に振った。

 彼女も誰だか知らないらしい。


「えっと、リアさん?はどちら様でしょうか」

「なっっ!!ルルーシュ!おまえはなんて酷いんだ!!そうやってリアのことを無視していない存在として扱っているのだろう!?リアに対してあんまりだと思わないか!?」

「ええ………」


 ルルーシュはさらに困惑する。もう本当に何を言われているのか分からない。


「……その、私は彼女に対して何をしたのでしょうか……?」

「あくまでその罪を認めないつもりだな?忘れたとは言わせないぞ!リアのことが気に入らないからと平民のくせにといちゃもんをつけ、教科書を池に捨てたり足で転ばせたり、物を隠したりしたじゃないか!」

「存じませんねぇ」


 本当に何一つ心当たりがなかった。そんな陰湿ないじめなんてした覚えはまるでないのである。そもそもそんなことをする人間がこの学園にいるのだろうか。


 確かにこの学園は身分を問わない自由な場所ではあるが、その大半が由緒正しき貴族の子供たちなのである。自身の家門の品位を下げるような行いを果たしてするのだろうか。


 すっかり困り果てたルルーシュは頬に手を添えてため息をついた。最早これはドッペルゲンガーでも出たのだろうか。


「私の手には負えかねませんので、先生にご相談されてみてはいかがですか?」

「は?お前何を言っているんだ?」


 ようやく話の噛み合っていないことに気がついたらしいロバートは、怪訝な表情を浮かべた。

 そんな彼にルルーシュは至極丁寧に、ゆっくりと述べる。


「私はそんな陰険な嫌がらせをした覚えもありませんしそもそもリアさんという方も知りません。クラスがきっと違うと思うので関わりを持つ方が難しいかと。それに貴方との婚約ですが、そもそも私たちって婚約関係にありませんよね?」

「なっ」


 ルルーシュの言葉に彼は絶句する。


「婚約破棄に関しては特に問題ないので勝手にしてくださいという感じなのですが、そもそも私あなたのこと釣書でしか見たことないですしお話するのも初めてですし、なにがなんだか……それに私、あなたじゃなくて正式に約束を交わしている素敵な婚約者がいましてよ」


 頬に手を添えながらゆるりと首を傾げてみせるルルーシュに唖然としていたロバートは、そのかんばせを僅かに歪ませた。


「おまえはそこまで俺に振り向いてほしいか」

「本当になんのことでしょうか」

「変な言い訳をするのはよせ。どうせ俺に愛されていないから変な妄想をするようになったんだろう。可哀想なルルーシュ」

「ええ……あなたに憐れまれる覚え本当に心の底からないのですけど」


 心底嫌そうに顔を歪ませたくなるルルーシュ。と、そこで優しげな栗色の髪をふわふわと靡かせながら駆け寄ってくる少女とその後ろから悠然と歩く、ルルーシュにとってはとても見覚えのある姿が目に入ってきた。


「ロバート様!!!」


 栗色の髪の少女は、男の名前を大声で呼ぶ。


「これ以上馬鹿な真似はよして!!!人違いなのよ!!!!」

「リア!!!」


 なるほど彼女がリアなのか、とルルーシュはまじまじとその少女を見つめる。

 小動物を彷彿させるその可愛らしい容姿は確かに男心を擽られるのだろう。

 リアと呼ばれた少女は息も絶え絶えにロバートに詰め寄った。


「だからあれほど私は誰にもいじめられてないと言ったじゃないですか!!!教科書を池に撒き散らしてしまったのも私がバランスを崩したからで、階段から落ちたのも足を自分で滑らせたから、悪口なんて言われた覚えがありません!!しかもそちらの方はあなたの婚約者などではなく彼のものです!!!!もう、やめてください!!!」

「は???」


 必死に言い募るリアは、そうして自分の後ろにいた彼を指さした。

 ロバートの視線が彼へと向けられれば、彼は貴族然とした微笑みを浮かべてみせる。


「こんにちは、シュバルツ伯爵子息。私の婚約者が()()()お世話になったようだね」

「ジ、ジルベルト様…………」


 ロバートはひくりと頬を引き攣らせた。

 そんな彼を一瞥した後、ルルーシュはジルベルトの元へ駆け寄る。


「ジル、来てくれたんですね」

「ああ、こちらの親切な方がきみの状況を教えてくれたからね。婚約者として助けに行くのは当然だろう?」

「ありがとうございます」


 ほっと胸を撫で下ろすルルーシュの頭を優しくジルベルトは撫でた。

 その手を無言で受け入れると、そのままルルーシュはロバートへと向き直った。


「ご覧の通り、私の婚約者はあなたではなく、こちらのジルベルト・リンナイト公爵子息です。なのでもう一度言いますね、人違いではないでしょうか?」

「そんな、そんなはずは………!」


 ロバートは頭を抱えその場に蹲った。


「だって父さんが言ってたんだ。ルルーシュはお前の婚約者だが金にものを言わせうちに圧をかけてきて困ると……だから、だから俺は父さんのためにお前の裏を探ろうと……」

「馬鹿ですね、あなた。そんなのあなたのお父様が私の家門を潰したいがための方弁か何かだったのでしょう。騙されてるんですよ、ロバート様」


 ルルーシュは呆れたように肩を竦めてみせる。その横でリアが申し訳なさそうに頭を下げた。


「本当にすみません、ロバート様は私の話をまともに聞かず、全部あなたのせいだと盛大に勘違いなさるようになってしまって、私もうどうしたらいいか分からなくて……」

「いえいえ、リアさんは悪くないですよ。悪いのは思い込みの激しい彼なので」


 穏やかにそう告げて見せるが、リアはそれでも申し訳なさそうに視線をさ迷わせる。

 何ともまあ常識のあるまともな少女だ。こんなに心優しく良い意味で平凡の彼女の近くにロバートが来たのは本当に災難な事だったであろう。


 そうして未だ項垂れるロバートを置いてその場は徐々に賑やかさを取り戻していったのだった。





 ルルーシュの邸をジルベルトが尋ねてきたのはその何日かあとの事だった。


「それでジルのご要件は?」

「ああ、先日のロバート・シュバルツの件についてだ」

「あら、まあ」


 ルルーシュは紅茶を一口飲んだ後に手をそっと口元に添える。


「彼は三週間の停学を言い渡されたそうだ」

「思ったより軽い罰で済んだのですね」

「きみがそう言ったのだろう?」

「ええ、まあ」


 あまり私に関係の無い話なので、とルルーシュは告げる。


「クラスも違う彼との接点なんてあるようでないのですから、どんなに学園に来ようとも通常会話をするなんてことはありませんし、そもそも私彼にそこまで興味ないですもの」

「そうか」


 私の言葉にジルベルトは相好を崩すと、おもむろに席を立ちルルーシュの隣へと腰を下ろした。

 そうして腰に手を回す。

 ルルーシュはジルベルトの肩に頭を凭れさせた。


「私、異性はジル以外に興味は無いもの」

「嬉しいことを言ってくれるね、ルルーシュは」

「ジルは?」

「俺ももちろんきみにしか興味はないよ」


 そう言ってジルベルトはルルーシュへ軽いキスを落としたのだった。

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