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粛清からの栄転

「突然の話になるが、鈴木。君を解雇する。」


そういきなり告げられて貴弘は茫然自失で立ち尽くした。何かやらかした記憶は毛頭ない。かといって外務大臣である彼に盾突いたり機嫌を損ねたこともない。    


だがそのなぞはすぐに解けた。そしてその肥えた丸顔とビール腹の政治家は淡々とこう言った。


「君には政治資金の横領と虚偽報告の疑いがかかっている。おそらくきみは逮捕されるだろうな。明日警察が来るから、自首しなさい。」


身に覚えの全くないその一言で貴弘は自分は彼のトカゲのしっぽ斬りに利用されたのだと悟る。思わず他人事のように言う政治家に貴弘は詰め寄った。


「知らないですよ!私は金銭関係には一切かかわっていないはずです。それにあなたにはここ数年間激務をこなしてまでついていったのに・・・。どうして・・・」


しかし政治家は全く取り合うことはなかった。聞く気がないように政治家は煙草をとって火をつけ、たしなみ始めた。貴弘は一瞬押し黙り、そして彼はそこから一目散に逃げ去った。


彼は一切止まらなかった。止まれば終わる・・・そう思いながら走った。

時刻は夜遅くで、そして彼の住むマンションにはあと横断歩道を渡るだけになった。しかし後ろで誰かが走る足音がした。


(追手か!?)


彼はそう思った。しかも運が悪いことに信号は赤だ。

だから横断歩道を通らずに彼は道端のガードレールを乗り越え道に勢いよく飛び出した。


「ドン!」と大きな音がした。彼は何が起きたのかよくわからないまま意識を失った。





そよ風になびく草原の音が響いた。その心地よさと日の温かさは彼の目覚めよくするのに十分だった。


(いつぶりだろう。こんなに気分がいいのは。)


彼が目を開け、起き上がると目の前には一本道とそれを囲む果てしない草原が見えた。少なくともこの光景は彼にとって見覚えのあるものではなかった。


彼は自分は死んだと思った。普通は焦るものだが彼の反応は真逆だった。


「これでようやく解放される・・・。」


そうつぶやいた彼は笑顔だった。貴弘はあの俗な現世とは対照的にここが天国のように思えた。


再び彼は伸びをした後あおむけに倒れ、無限の雲のない青空を見つめていた。そして日々の激務で不足していた睡眠をとるため眠りについた。




しばらくしてあの一本道で馬車が走る音がした。そしてそのまま進んでいくかのように見えた馬車はしばらく進んだ後彼の目の前で止まった。


起き上がってみてみると馬車の運転席から一人の青年が下りてきた。青年は赤く短い髪をしていて、中性的な見た目をしていた。見た目からして相当高貴なのには違いなく、まさに中世の貴族といった風貌だった。


「君、こんな所で何をしているんだい?この辺では見ない服装だけど・・・。」


そう言って青年は貴弘の顔を興味津々に覗き込んだ。


「俺は死んだのか?」


寝転がりながらそうとぼけたことようなことを真顔でいう彼に青年は


「何を言ってるんだよ・・。もちろん君は生きてる。どうしてそんなこと言うのさ・・・。」


と当惑した表情で彼にそう言った。貴弘はそれを聞くなりもう一度あたりを見回し


(少なくともここは日本ではないな・・・。)


とすぐに推察した。しかし、こんな広大な草原を現実では今まで一度も見たことがなかったので結局わからなかった。


「じゃあ一体ここはどこだ・・・?」


「ここはソレイユ帝国の辺境、レーヌだよ。」


「知らないな・・・。仮にも外務大臣の秘書をしていて、知らない国があるとは思えない・・・。」


そういって、じっと彼は考えている。しかし、一方で、青年はきらきらと目を輝かせ


「きみは外務大臣の秘書をやっていたのか?」


と言った。まるで食卓に好物が上がった子供のようにとてもテンションが上がっていた様子だった。そして、単刀直入に


「私の秘書をしてくれないか?実はなり手がいなくてね・・・。」


といった。

いきなりのスカウトに貴弘は驚きを隠さなかった。


彼の見せた表情は迷いだった。その目には政治家に対する疑念が植わっていた。その反応を見て青年はひとまず名乗る。


「私はこの國で外務大臣をしているフェルナーという。君はまだその外務大臣の秘書なのか?」


「いやもう解雇されたよ・・・。つい昨日ね。」


そう苦虫をかんだように貴弘は忌々しく言う。しかし、それを聞いて、フェルナーは


「それは朗報だね・・・。うん、実に朗報だ・・・。」


と嬉しそうに言う。


「は?」


そう機嫌悪そうにやや怒りを込めて貴弘はその言葉に突っかかった。しかし、そんなことなど意に介さずフェルナーは彼の手を握ってこう言った。


「だって今日からこんな優秀な人間の秘書になれるんだから・・・ね?君を一目見てちょっとビビッと来てたんだ。さぁ!馬車に乗ろう!」


「・・・。」


そうウィンクして言うフェルナーに貴弘は完全にペースを持っていかれていた。だが彼はやはり迷いながらも悪い話ではないかもと思った。


(どちらにしろ行く当てもないんだからな・・・。)


そう思って回顧するのは数年間の外務大臣に使えてきた日々だった。


高卒で18の頃から知り合いの友人の外務大臣の秘書を務めてその職一筋だ。今頃なら普通は大学を卒業するか、大学院に行っている年齢だ。


だがあえてその道を捨てて、退路を断って政治をかえたいと思って彼は働いた。よく考えればいまからもう秘書以外の職なんかできはしなかったのだ。


彼はだが秘書になる前に一つ疑問に思ったことがあった。

(少し過去をえぐってしまうかもしれない)

と思ったがそれを彼は単刀直入に聞く。


「君が優秀ならなぜ今まで秘書がいない?いくらでもほかの人材がいるだろ。いわゆる訳あり物件ってやつなのか・・・?」


それを聞いたフェルナーは少しうつむいた。


(やっぱり聞いちゃまずかったな・・・。)


そうすこしだけ貴弘は聞いたことを後悔した。

しかし、青年は少し考えたのちに


「訳ありか・・・。まあそんなとこかな・・・。でも優秀だと思うよ。」


と返してくる。


(自己評価高いな・・・。でも若くはつらつとした人間の方がいいかも・・・。年が近くてお互い着やすくなれるかも・・・。)


そう彼はすこしあきれながらも、青年の年齢に魅力を感じた。彼の前職では完全な縦関係だった。そのせいで職場では閉塞感を感じてストレスになっていた。


それがないとわかって貴弘は自然と手を差し出していた。そして短く「よろしく」といった。


「こちらこそ!」


フェルナーは目を輝かせながら勢い良く手を握り返した。その力強さからようやく「相棒」が見つかった嬉しさがひしひしと伝わってくるようだった。


















































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