第2節 悪性に染まれし悲惨①
思ったより早くできましたw 第2節、開幕です。
PM 1:10 大通公園
コンビニに立ち寄り、コーヒーを買っては煙草を吸いながら一服をしていた。
季節は春になっているとは言え、この街にはまだ雪が多少残っている。
その為、大通公園にはまだベンチが設置されていないのだ。仕方なく、私は柵に腰をかけて一服している。
煙草を吸い終えると、よく知る顔馴染みが近くまで来たようだ。
「公園内で喫煙してると、1000円取られるけど?」
「明日香か。どうしたの?」
髪を帽子でまとめ、上下同じ柄のジャケットとホットパンツを着た明日香が、迎えに来たみたいだ。
「どうしたのじゃないよ。電話に出ないと思ったら、君スマホを忘れて行っちゃうんだもん。ラスティアが心配していたよ」
明日香に指摘され、ジャケットのポケットを確認する。何かないと思ったが、本当にスマホを置いて行っていたそうだ。
どうやら、財布と煙草のみを持ったまま行ってしまったみたいだ。
「それはすまない。完全に置いていったみたいだ」
「全く君は。それより、早いところ戻ろう。彼女が早く連れてこいってうるさいから」
「わかった。それなら今から行こう」
私は煙草を吸い殻入れに入れ、明日香と共に地下鉄を使って事務所へ戻った。
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20分後 探偵事務所 如月
中島公園で地下鉄をおり、少し歩き事務所に着く。溶けかけている雪に不快感を感じながら到着した。
靴に付いた雪を落とし、事務所の扉を開ける。扉を開けて入ると、ソファでくつろいでるセシリアと、資料を整理しているラスティアが待っていた。
「おかえり。姉さんってば、スマホを置いて行くから心配したよ」
「すまない。うっかり置いて行ったみたいだ」
「全く。あなたはそう言うのに疎いのは変わらないわね。出ないと思って来たらそういうことだもの」
2人にスマホのことを言われつつ、私と明日香はソファに腰をかける。
来客用の消毒用アルコールで手を殺菌し、ラスティアの淹れたコーヒーを飲む。
明日香は、ハンバーガーを亜空間から取り出し、それを口に運ぶ。
コーヒータイムを嗜んでると、セシリアが話を始める。
「ねぇアル。工房を開けてもらえるかしら?」
「いきなりどうした? 何か調べたいことでも?」
「えぇ。即急で調べたいことあるのよ。昨日、あるものと出くわしてね」
「あるもの? それって?」
セシリアは、白い布で包んだものを持ってくる。私はデスクの横の扉を開ける。
床に刻んだ魔術の術式を解くと、床が消え石造りの階段が現れる。
しばらく歩いてると、これまた石造りの壁が現れる。私は再び術式を解くと、石造りの壁が開き、私の工房が現れた。
ラスティアは、薄暗い空間をランタンに火をつけて灯りを灯す。
セシリアは白い布で包んでるものを台に乗せ、私達の前で布を解いた。
「これは、一体……」
布が解かれたそれは、あまりにも酷い人の姿をしていた。それを見るに、人とはかけ離れた異形な姿をしている。
「愚者よ。昨日、ラスティアにホテルまで乗せてもらった帰りに、気配を感じてね。
振り向いたらこいつと出くわしたわけよ。まぁ、反射的に胸に風穴を開けてしまったけど」
「愚者か。この街じゃ余り見ないな」
「ここ最近、数を増やしているみたいなの。夜に呻き声が聞こえるって噂が広がってるみたいだし」
「こいつらは基本夜行性だしね。夜中に呻き声が聞こえるんじゃそうなる訳だ」
セシリアの報告を聞きながら、体の一部に触れてみる。肌触りを感じてると、違和感を感じた。
これは、まさか? 人肌の感触だ。
「まだ人間だった時の肌の感じがする。魔力を無理やり注入されたらしい」
「そうね。殺した時に思ったけど、人を殺した感覚がしたわ。愚者になりかけてるって感じね」
まずいことになった。どうやら、私の知らないところで、奴は力を蓄えてるみたいだ。
さっきの学生達といい、奴は何を考えているのか?
ますます謎が深まる。魔術と目的はわかった。しかし、当人の所在と人の集め方に疑問が生じる。
こんな遠回しな事をせずとも、容易く人なんて集められるのに、奴はなぜこうも回りくどいことをしているのか。
「そういえば、警察署から何か収穫はあったの?」
ラスティアが、朝のことを聞かれる。私は、鞄を開け封筒を取り出す。
封筒の中身を出すと、あの遺体からコピーしてきた烙印を皆に見せる。
「これは? 何かの術式かしら?」
「警察が保管してる遺体から写してきた烙印さ。4体の遺体の内、2体に刻まれてたそうだ」
「それじゃ、亡くなられた人はこれを刻まれて、間接的に殺されたの?」
「恐らくね。ただ、何を媒体に集められているのかは分からないだけさ」
私たちは推理していると、明日香はスマホの画面を私たちに見せてきた。
「これじゃないかな? SNSを媒体にしているなら、そうするはず」
「SNSを媒体? そんな事できるはず……まさかね」
セシリアは、何かを閃いた。どうやら、何か繋がりのあることを思い出したそうだ。
「犯人がこれで人集めをしてるなら、ピンとくるわ! 他の二つに事件も共通しているなら!」
「SNSを媒体に人集めをしているなら、それなら動かずとも人を集められるな。信憑性が薄れるネットなら、何かを口実に簡単に集めれる。
そして、それを餌に自分の魔術の実験に利用できるっか。これはまた面倒な事になりそうだ」
「最近は例の感染症の蔓延で、自粛されて学校に通えない人たちが沢山いるから尚更、被害が増える一方だよ」
全員で、奴からの被害を減らす術を模索する。考え事をしていると、誰かの腹の音が聞こえる。
「あっ。ごめん、お腹すいちゃった」
「もう、明日香さんったら。そう言えば、もうこんな時間。今からご飯作りますね」
「私もご馳走になってもいいかしら?」
「もちろん。姉さんの代わりに用意するね」
3人は、食事のため。工房を後にする。私は後ろから3人を見送る。
こうして、私は1人淡々と愚者の死体から触媒の採取を始めるのだった。