第2節 転移と転生②
PM 3:00 地下鉄南北線 平岸駅ホーム
地下鉄を降り、3人組を追跡をしているところ、謎の男、『フェルグス・マック・ロイ』を名乗る人物と邂逅する。
さすがは英雄と言わんばかりに、その実力は確かで、私は徐々に追いやられてしまう。
だが、ここは『虚数空間』。電車が来る前に、迂回する頃で、なんとか体勢を立て直す。
「ほう? これさえも容易く避けるとは、実力は、確かのようだな」
「思ったより、やるな。だが、こちらもやられっぱなしにはいかんよ」
フェルグスは、強烈な攻撃を続ける。だが、私は2振りの魔具でそれらを防ぐ。
大振りの剣を片手で振り回し、私に接近の余地すら与えない。そのせいで、私は彼に傷の一つも与えられないのが現状だ。
「なるほど、速さで補うと言う先方か?」
フェルグスは、速さを加えた私の連撃をいなす。歴戦の戦士である以上、これくらいの攻撃は遅いみたいだ。
だが、私も一枚岩とはいかない。攻撃の最中に魔術を絡めてみる。
「『二重魔術 中級展開 大火球』」
手のひらに、大きめの火球を生成する。すると、私はフェルグスの前に放出した。
大きな爆炎と、爆風を巻き散らし、フェルグスに直撃する。
「やるな、お嬢さん。これだけの実力があるとなれば、『女王』もさぞ嬉しいはずだ」
「お断りだね。自分の力に過信しすぎな不届者の集まりとは、つるむ気はないよ」
私は、指を鳴らし、魔術を唱える。すると、フェルグスは、火球が当たらない速さで、私に接近する。
「参るぞ!!」
フェルグスは、私の目の前で剣を振るう。そして、私の前にカラドボルグを振り回した。
まずい! そう思った私は、咄嗟に避ける。その一撃によって、平岸駅のゲートが破壊された。
それを見た私は、撤退を開始しようと思った。
「さすがだな。だが、次は外しはせん!!」
フェルグスはもう一度、あの強力な一撃を行う。私も、同じく魔術を行う。
「『変換せし白よ 蝕みし黒よ 我が声に応じよ
我 負の神秘を扱えしもの 我に従い 我が敵を粉砕せよ』」
フェルグスが、私に接近する。
「『隠と陽が交わりし時 星に仇なすものよ
その無限の鉄槌を今ここに その身で受けるがいい』」
白い炎と黒い炎が交わる。それはまさしく、陰陽玉の火球となる。
「『四重魔術 特級重複展開 陰陽豪火球』!!」
小さな陰陽玉のような火球をフェルグスの前に放出する。フェルグスは、咄嗟にそれを防ぐ。
だが、最初は小さいものでも、変換と捕食を繰り返すことで、次第に強力な火球となってフェルグスは襲う。
そして次第に、フェルグスは耐えられなくなり、壁に激突した。
「ガハっ!! まさか、ここまでとはな」
「はぁ……。はぁ……。さすがは、英雄だな」
「何ぃ、これしきのこと、俺が生きていた時代よりはマシよ」
あれだけの攻撃を喰らったにも関わらず、フェルグスは立ち上がる。流石の私も、体力に限界が来ているので、退散をしたいところだ。
フェルグスが、攻撃をする。その時だ。麻生の方向に行くホームから、電光石火の如く、何者かが現れる。
「!?」
フェルグスは驚きを隠せないでいた。その真紅の槍を見て、驚愕を隠せないでいたのだ。
「まさか、お前は!?」
「誰かと思えば、フェルグスの叔父貴じゃない? あなたも、現世に転生きたの?」
「女の姿だが、『クー・フーリン』なのか!?」
「美生! 君は、一体!?」
なんと、井崎美生が、やってきたのだ。だが、本来の彼女ではなく、別人格の『白美生』の方だ。
「一体、どこで何をしていたんだ? みんな、君を心配して」
「細かい事は後で聞くわ。まずは、あっちが先よ」
フェルグスが、白美生を見てたからかと笑う。
「ガッハッハッハッハ!! こいつはいい!! 舞い戻って以来、最高の日だ!! まさか、この時代でも、お前と喧嘩ができるとはな!!」
「相変わらず、豪胆なことね、叔父貴! 何千年ぶりの喧嘩かしらね!!」
フェルグスと、白美生が戦闘を開始する。そのスピードは、私でさえ追うのがやっとだ。
「そうとも!! 我が師、スカサハの下で修行を積んでいた頃以来か!? 俺は安心したぞ!! 女子の姿でも、お前は変わらんことを!!」
「あんたこそ老けたんじゃない!? 起きたての体だからかしらね!?」
白美生は、古代文字のようなもの、ルーン文字を書き起こす。
「スカサハ直伝の、ルーン魔術も健在とは、さすが、我が甥!!」
「叔父貴こそ!! この時代でも、ゲッシュを忘れてはようね!!」
フェルグスと、白美生の激戦は続く。まるで、神話の戦いをまじまじと見てる気分だ。
「そろそろ、片をつけましょうか?」
「いいとも! では、行くとしよう!」
2人は、それぞれの魔力を貯める。そして、魔具同士の衝突が起きる。
「『影の国の女王 スカサハより手向けれし魔槍よ 我が前に立ち者の心臓を 滅せ』」
「行くぞ!! クー・フーリン!!」
禍々しい魔力と、神々しい魔力がぶつかり合う。その瞬間、『虚数空間』内の空間に、クレーターが形成された。
「美生!! 無事か!?」
「やるじゃない、フェルグス。あんたそう、そう簡単にくたばらないんだったわね」
「これしき、どうという事はない。だが、今日のところはここまでだ」
「何?」
フェルグスは、片膝で立ち、電話に出る。
「俺だ。要件は何だ? 承知した。すぐに戻ると伝えておけ」
「逃げる気?」
「違うな。『女王』からの帰投命令だ。またな、クー・フーリン。それと、そこのお嬢さん。あんたも大層手応えがあった!」
そう言い残し、フェルグスは去っていった。
「美生、改めてだが――――――」
「外で話しましょう? そっちの方がまだマシよ」
白美生が、そう言い。確かに、もう時期『虚数空間』も解除されるので、その方が良いだろう。
こうして、『虚数空間』が解除されたホームは、激戦の後もなく、日常の風景が再生されたのだった。
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同刻 『仮面の魔女』の工房 『仮面の魔女』視点
工房の中で、淹れられたお茶を飲む。この芳醇は香りは、どうやら高級品らしい。
「いい紅茶だわ。まるで、王宮で親しまれているみたいに良いものだわ」
私が紅茶を嗜んでいると、もう1人の『魔女』がソファーに座った。
「それは一杯で高級料理に匹敵するものよ。まぁ、あなたとあの方にしか出さないけれどね」
「良いもてなしだわ。それより、あなたは何しに来たのかしら?」
「それは当然、あなたと話に来たのよ」
『優越の魔女』は、アフタヌーンティーを用意しながら、私に語りかける。
「それより、例の組織の状況は?」
「彼女が今取り掛かってるわ。でも、状況は深刻ね。何せ、異世界から次々と人が呼ばれているんですもの。下手したら、この世界の断りに影響が出るわ」
「それは大変ね。でも、あの方なら、止められるんでしょ?」
私と『優越の魔女』は、ティータイムを嗜むつつ事の説明をする。私の話すことに、頷く『優越の魔女』は、状況について尋ねる。
「転移者と転生者が入り乱れる組織ね。それと同時に、咎人も多く出てるなんてね。早急に対応するべきは、咎人よ」
「そうね。転移者が増える度に、咎人も数を増している。転移者共に立ち向かう前に、後顧の憂いは排除すべきね」
「なら、彼女に伝えるようにしましょう。それなら、自然と『Ⅰ位』には伝わるわ」
「えぇ。なら私は、例の組織に援助してるものを突き止めるわ。このご時世、組織は8割は金で出来てるわ」
私と『優越の魔女』は、裏でそれぞれ動く事にする。話がまとまると、『優越の魔女』は亜空間を作り、工房を後にする。
「それなら、私はお暇させてもらうわ、『仮面の魔女』。お互い、バレないよう手引きしましょう」
「えぇ。『優越の魔女』こそ、気をつけなさい」
私は、『優越の魔女』が亜空間の中に消えるのを見送る。そして、私は資料をしまう。
かくして、私は彼女にいる場所まで、亜空間で移動するのだった。




