第4節 去りし者の遺志を継ぐ②
PM 16:20 中島公園近隣の橋
今日も依頼を終え、早めに店仕舞いをした。店の方は、この間の事件の精査をラスティアが行なっている。
その間は、私はよくこの橋で時間を潰すことが多い。
特級魔術師である私は、魔術院の中では腫れ物扱いされている以上、私の名義では報告書を書けない。
そのため、報告書の生成などはラスティアに任せているのだ。
「やっぱり、ここにいたのね」
「セシリアか。もう終わったの?」
セシリアが、私を探しにきたようだ。どうやら、ラスティアから報告書を受け取ったらしい。
「報告書、受け取ったわ。それと、あの刑事さんの履歴書もね」
「そう。それじゃ、もうそろそろ日本を出るのね」
「えぇ、これも仕事だしね。でも、意外と長かったわ」
セシリアは煙草を咥える。私は、ZIPPOを取り出して火をつけては、それをセシリアの煙草に火をつける。
「本当、面倒な事件だった」
「えぇ。全くそうね。まさか、警察まで動くなんて思ってもないわ。
けど、あなたが対応してくれたから、大事にはならなかったけど」
「君が相手になってるともっと厄介になってたけど」
お互い、煙を吐きながら夕暮れの豊平川を眺める。私は吸い切った煙草を携帯灰皿に入れると、セシリアも吸い切った煙草を同じく入れる。
「そろそろ行くわね。あの刑事さんも待たせているわけだし」
「おや? もう行くのか」
「えぇ。早いところ帰らないと、私の部下たちがうるさいのよね」
「それは大変だ。『執行者』のトップの人間も大変だね」
セシリアは、飛行機の時間があるようで、もう向かうらしい。
「それじゃね、アル。たまにはロンドンに帰ってきなさいよ」
「はいはい。そのうち気が向いたら帰るよ」
私は、セシリアを見送る。セシリアを見送ると、私はもう一本煙草を口に咥えた。
一服を終え、事務所に戻る。ソファーには、帽子をとった明日香が横になっていた。
「珍しいな。君が帰ってきてるとは」
「まぁね。特に用はなかったから帰ってきちゃった」
明日香は起き上がると、私のデスクに腰をかける。すると、亜空間から何かの封筒を出す。
「これは?」
「あれから頼まれていた奴。君によろしくだとさ」
「自分で渡せばいいのに、それほど出たくないのか? 彼女は」
「さぁ。私は別に興味ないからいいけど」
私は、明日香が渡してきた封筒を開ける。中身はなんと、請求書だった。
「今度行ったら、口座に振り込んでおくと伝えておいて」
「はいはい。そう伝えておくよ」
私は、請求書を引き出しにしまう。明日香は、何かの容器を亜空間から出すとそれを飲む。
「まだそれ飲んでたんた。美味しいのそれ?」
「まぁね。私は好きだけどね、タピオカは」
明日香は、黒い粒々したものが入ってるミルクティーを飲む。
「これからどうするの?」
「さぁ? 依頼がなきゃ安泰じゃないかな?」
「なんだ。まぁ、その時がくればまた動けばいいか」
「そう易々と起きはしないさ。その時になれば、あっちからの横流しで来るだろうさ」
明日香は、ミルクティーを飲み干す。そして、それを置き私の方に顔を向ける。
「それに、君の『使命』とやらを知るのには、時期がまだ早いしね」
「何が言いたい?」
「さぁ。それは君がよく知ってることさ。けど、君がそれを知る気がまだないのなら、私は君の飼い猫でいるさ」
「飼い猫ね……。だが、それを知るには、まだあれが足りない。『本物のグリモアル真書』を全て揃った時に、それは明かされるはずだ」
「『本物のグリモアル真書』ね……。あいつも、あの女も、君のためにそれを探してるの知ってるけど」
明日香は、蒼い吸血鬼のような目で私は見つめる。私が求めてるもの、『本物のグリモアル真書』を集めるために彼女も周囲の人間たちを日々探し求めているのだから。
だけど、魔術院に属している以上、私はこの街を離れることができない。
それに、私はこの街を、札幌を離れる気もない。この街は、私にとっては故郷のようなものなのだから。
『2人とも、食事の用意ができましたよ』
ラスティアの、私たちを呼ぶ声が聞こえる。
「ご飯だって。行こうよ」
「はいはい。それなら、行こうか」
コーヒを飲み干し、デスクの整理してから立ち上がる。
こうして、私と明日香は食事のため事務所を後にしたのだった。




