第2節 悪性に染まれし悲惨③
お久しぶりです。グロ描写多数なのでお気をつけてくだちぃ。何卒!
PM 10:50 中島公園
中島公園に、愚者の大群が押し寄せてくる。そして、その大群を私とセシリアのみで食い止めようとする。
その数は約30体。多勢に無勢。この言葉が似合う状況というのは、まさにこれである。
しかしながら、私とセシリアはそんな事を感じることはない。なぜかと言うと、愚者の群れなんて大したことでは無いからだ。
「来たわね。そんじゃ、一番槍はいただくわ!」
「好きにして。私は勝手にやらせてもろう」
セシリアが飛び出すと、挨拶がわりと言わんばかりの踵落としを披露した。
バチバチバチッ!!ドゥオオオン!!!
セシリアは、地面にクレーターが出来る程の強烈な一撃を放つ。それにより、愚者の群れが空中に舞い上がった。
それを見た私は、セシリアの背後を襲う愚者に魔術で迎撃する。
「血よ」っと術式をかけ、血の針を愚者に命中させる。その瞬間、血の針は愚者の脳天を貫通した。
ブチュッ!と言う音と共に、愚者の脳天を撃ち抜かれ、腐敗した脳みそが黒い血と共に飛び出た。
「あら? 温情のつもり?」
「どうかな? ただの露払いなのかも。それより、相変わらず、『ミョルニル』の威力は凄まじいね」
私はセシリアの魔具を、褒める。しかし、セシリアは気にもせずに愚者の群れを次々と殲滅する。
私も、小杖を携えて愚者の群れを次々と倒していく。
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そもそも、魔具というものとは、なんなんのか?
それは、私達魔術師にとってなくてはならないものだ。これを無くして、魔術師を語れない言わば必需品だ。
基本的には、剣、弓、杖の三つからになるものだが、伝承に名高い道具も魔具として、現世に留まる事もある。
セシリアの持つ『雷鎚 ミョルニル』はそれにあたる。
しかし、魔術師のほとんどは伝承が語り継がれる魔具を持つことができず、通常の魔具しか持たない。
伝承が語り継がれる魔具は、それほどじゃじゃ馬で、そして強力なのだからだ。
ちなみに、私の持つ小杖も魔具の一種である。
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それはともかく、この愚者共はどこか微妙におかしい。
本来に愚者は目に映るものを見境なく襲うが、こいつらは統率が取れている。
ピンポイントに私たちを、執拗に狙ってくるからだ。
「微妙だわ、こいつらは。これじゃ、愚者じゃないわね!!」
「あぁ。これほどまで統率が取れてるとは、奴も大したものだ」
私とセシリアは、話をしているとまた愚者の群れが襲いかかる。それを私とセシリアは迎え撃つ。
「少しだけ、暴れるとしよう」
私は不敵な笑みを浮かべると、愚者の亡骸に手を添える。
「『二重術式 中級造形術式・『血創作』【血剣】』」
小杖の周りに、血が集まり一振りの剣となる。そして、複数体の愚者をまとめて葬る。
セシリアに集中していた愚者もまた、私のところに向かう。
すると、セシリアを見逃すまいと、愚者の群れを足技で撃滅する。
バチバチバチッ!!
「よそ見してると、死ぬわよ。『二重術式 中級連撃・雷神脚』!!」
セシリアの華麗な足技により、愚者の足を粉砕する。
しかしセシリアは、容赦なく追撃を行う。
「続けて行くわよ! 『派生連撃・電旋脚』!!」
軸足を上手く利用し、魔術を纏った回し蹴りで愚者の群れを一掃する。
これにより、愚者の身体は胴体が真っ二つになった。
私もまた、左手に魔術をこめ愚者を爆散させる。
「『二重術式 中級展開・『大火球』!!」
ドカァァァァァン!!っと言う爆音と共に、数体の愚者を灰と化す。そして、私は立ち止まっていた愚者の首を血の剣で斬る。
プシャァァァっと首から噴出する血を被り、顔についた血を舐める。味については、クソがつくほど不味い。
「不味い。これならラスティアの血の方が全然美味だ」
「随分と血を被ったわね〜。それにその服、ラスティアの物でしょう」
セシリアはドン引きをしながら、私の方を見る。当然な事だ。返り血を被った挙句にその血を舐めているのだから。
そして、残る愚者の数は概ね10体。30はいたはずの大群ももうこの数となった。
だが、私の持つ血の剣は砕け、元の小杖に戻る。触媒となる血が自分のものではない為かすぐに脆くなったみたいだ。
先ほどの愚者の死体を見る。見るからに、まだ乾いていないらしい。
「――――これなら、いけるな」
私は、それを使える事を確信する。そしてセシリアに、時間稼ぎをするよう頼む。
「セシリア。時間を稼いでもらえるか?」
セシリアは私が何をするのか分かってたようなので、それを了承する。
「別にいいけど、全部倒されても知らないわよ?」
「それは困るな。せめて半分は残してもらえると嬉しいな」
「冗談よ。まぁ時間は稼いで上げるわ」
セシリアは、愚者どもを惹きつけるように、群れの中に突撃をする。
その間に、私は愚者の死体の血の溜まりに、自分の血を入れるよう手首を切る。
ポタッポタッと血を流し、左手に自分の血をつける。
そして、術式を唱えるように、詠唱を開始した。
「『星よ 我が声に応じよ 汝 星の怒りを代弁せし 代行者也』」
詠唱を開始すると、血溜まりは液状から物質に変換され、6本の槍のような物になる。
「『我が血を糧とし 我が呼び声に応じ 穢れし肉塊より 魂を解放せよ』」
2小節目。それによって、6本の槍は炎を纏い、より一層破壊力を増していく。
そして、私は最後となる3小節目を唱える。
「『今此処に 血と炎が交し武具を用い 星に仇なすものを一掃せん』」
3小節目が唱えられた。6本の槍は、血の油を触媒とし、その刃に炎を纏う。
そして、私の呼び声と共に、その槍は放出された。
「『三重術式 上級造形術式・『炎血融創具』【焔爆血投槍】』!!
こいつはとっておきだ。冥土の土産にくらうがいい!!」
6本の槍は愚者に向けて、一斉に放出される。
愚者の群れに向けて、降り注がれた槍は突き刺さると同時に爆散した。
そして、激しい爆炎と土煙が晴れると、黒く焦げた愚者の死体が徐々に露わにあった。
それを見ていたセシリアは、唖然としながらその光景を眺めた。
「ほんっと、容赦のない創作魔術ね。」
「あぁ。加減ができないからさ」
私とセシリアは、この凄惨な光景の中を歩き、残りがいない事を確認する。
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創作魔術とは、一部の魔術師が扱える術式だ。
本来の魔術師は、魔術書に記載されている魔術を扱うのが一般的である。
しかし、その中には自己流にアレンジして魔術を扱うものもいる。
それが、私やセシリアが使っていた創作魔術だ。
しかし、創作魔術は術式の調整が必要であり、地位の高い魔術師でも扱うものは少ない。
なぜなら、創作魔術は術式の調整次第で魔力量が変動するからだ。
私とセシリアのような、創作魔術を多用するものはかなりのレアなのだが。
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かくして、愚者の炙り出しをしていた私たちは、もういないことを確認し、事務所に戻る。
お互いの魔具を封印することで、帰路に着く。
魔具は、使用していないときは、保有者のアクセサリーなどに擬態する。
セシリアの『ミョルニル』は、封印していると彼女のヒールに擬態するのだ。
「おかえり、2人とも。どうだった?」
「えぇ。全滅したことを確認したわ。もうあんなに来る事もないでしょう」
「マジそれ? 私とラスティアの出番ないじゃん」
明日香は、残念そうに報告を聞く。終わりを確信し、事務所に戻ろうとしたときだった。
なんと、愚者の一体が私に襲い掛かろうとした。私は、魔具を用意するが、間に合わない。
万事休すかと思った時だった。襲いかかった愚者はなんと、空中で凍りついたのだ。
「全く。姉さんはそういうの雑なんだから」
ラスティアは、冷気を纏った刀を鞘に収める。セシリアのまた呆気を取られる。
こうして、割と長かった夜は終わり、私たちは事務所に戻るのだった。




