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第3話

「連休はどう過ごしましたか? 連休明けのこの時期は生活が乱れやすいけれど、乗り越えていきましょうね。」

 雨宮先生。その綺麗な声と姿は私を癒してくれるけれど、左隣からは相変わらずクスクス笑いが聞こえる。

 せっかくの雨宮先生なのに。私は腹立たしくて仕方ない。

「さて。早速だけれど漢字の小テストよ。ちゃんと予習してあるわよね? 裏向けて前から配るから、私の指示で始めてね。……全員配られたみたいね。では、始め!」

 予習というより、事前に宿題で漢字の書き取りとして出されるので、宿題をちゃんとやっていればある程度は点が取れるものである。

 あー。この漢字、横線2本だっけ。1本だっけ。この漢字はこの字じゃない! 絶対に間違ってるのに! でもこれしか思い出せない!

 私が苦戦する横で相変わらずクスクス笑い。どうせ奴はハナからやる気ないにしても、私にはそのクスクス笑いは邪魔だ!

 雨宮先生は机と机の間の通路を歩いて教室を巡っている。

 上品で良い香りが彼女からする。柔軟剤なのかシャンプーなのか、いや香水なのかわからないけれど。もっと近くに来てください。

 雨宮先生が近づいてくる。ああ、行かないで。もっと近くにいて。

 ……あれ? 雨宮先生は立ち止まってる? しかも私の横で? 嬉しい、けれど私、何かしました?

「バレていないとでも思っていたかしら? 横島君? さあ、さっきまで読んで笑っていたものを出しなさい。」

 横島は聞こえていないふりのつもりなのか完全に無視している。

「とぼけたって無駄よ。私、横島君が漫画読んでたの、そしてそれを今机の中に隠してるの、全部見てたわ。」

 横島はシラを切りとおすつもりなのか無視を続けている。私は横島が前の社会の授業でも漫画読んでたと証言するかどうか悩んでしまう。

「そう。それが貴方の答えなのね。なら、勝手にするといいわ。貴方が私の授業を聞く気が無いならそうしてなさい。でも、その笑い声は迷惑よ。貴方が授業を聞かないのは勝手だけれど、授業を聞いてくれる他の生徒の邪魔は許さない。私は聞いてくれる生徒のために授業をするわ。貴方は漫画を読むほうが私の授業よりもためになるのでしょう。」

 こ、怖い! でも……私は雨宮先生を見てしまう。

 今の先生は冷たい目で横島を見据えている。

 真横で聞いて見ている私は小テストどころではなくなっていた。

(もう全問回答し終わってるし、これ以上悩んでも正解出せないので後は提出待ちだったのだが)

 雨宮先生、か弱い先生だと思ってたけれど全然そんなことは無い。

 むしろ強かな先生だよ!

 横島は反論できないのか、つまらなさそうに黙り込んでいる。

「そろそろ小テストを集めるわ。次回の授業で返却するわね。小テストを裏返して前の人へ順に送ってちょうだい。」

 小テストが前へ送られて回収されていく。

「さて。始めるわね。」

 雨宮先生の授業が始まる。

「これからしばらく読み解いていく『コウモリたちの聞く世界』は『説明文』という文の種類です。ここで、今日は二つの言葉を覚えてもらうわ。」

 『形式段落』『意味段落』と雨宮先生が板書する。

 私はそれをノートに書き写す。

 雨宮先生、冷静に授業してるように見えるけれど、目が笑ってない。本当はもっとにこやかで優しい先生のはず。

 声もいつもの心地よい話し方じゃなくて、冷たくて威圧っぽい。

 返して。私の雨宮先生を返して。

 いや、『私の』とか『返して』ってなんだ。

 私はしょんぼりしながら、でもどこかすっきりしながら、授業を受けていた。

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