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詩❲家族❳

卵と牛乳と小麦と楓

作者: 日浦海里

まだ明けて間もない

(だいだい)色と柘榴(ざくろ)色を

雲の上で混ぜ合わせた空の色を

視界の片端に映しながら

冷蔵庫の中から牛乳と卵を手に取る


卵を割ってボールの中に入れる。

菜箸でかき混ぜて出来上がる色は

卵色よりも黄色よりも濃い金糸雀(かなりあ)

でもそこに牛乳を混ぜ合わせると

卵色になるから不思議


食パンを4つに切って

ボールの中に浸す


白地が薄黄蘗(うすきはだ)色に染まって

そこに時折混ざりそこねた卵色が紛れる


両面がひたひたになった頃合いで

温まってきたフライパンの上にダイブ


じゅぅという音と共に

パンの下から薄卵色をした液体が広がる

熱に当てられるとすぐに乳白色に変わって

液体はゼリー状に


それをパンに絡めながら

フライパン一面に

4分割されたパンの欠片を

一つ一つ敷き詰める


一度は分かれてしまった欠片たちは

焦げ茶色したフライパンの上で

乳白色の手を伸ばして

また繋がり合っている


ごめんね


と心にもない事を思いながら

繋いだ手と手を菜箸で切り離して

欠片を一つ裏返す


小麦色とか薄茶色とか胡桃色とか

薄卵色と乳白色だけだった盤面は

焦げ目の色合いが複雑に混ざり合って

でも総じて「美味しそう」色に変わってる


気付けば窓の外では

すっかり太陽が真っ白な光に変わっていた


牛乳に負けじと

白色を主張してももう遅い


彼らはすっかり焦げ目のついた

美味しい色に変わってしまった


君ももう一度

雲からほんの少し恥ずかしげに

頬を赤らめて顔をのぞかせた頃の

可愛い姿に戻ってればいい


そうすれば私も

もう少しゆったり出来そうだから


届くはずの無い言葉で会話しながら

フライパン上の

仲良しパン兄弟たちをひっくり返す


彼らを飾り付ける平皿と

楓の甘い蜜


その横に褐色(かっしょく)の液体を添えて

焼き上がったパン達を皿の上に乗せていく


いつもの朝

少し贅沢な朝食


毎日じゃないからこその特別感


朝から頑張って作ったのに

それで1日が頑張れそうって思えるとか

安い精神って自嘲する


これだって

賞味期限切れそうな

牛乳と卵を使い切りたくて

作っただけの朝食なのにね


さてさて

匂いにつられて

ねぼすけ達は起きてくれるかな?


月曜日の朝を

少しだけ豪華にしたくて

でもそう考えた理由は

とっても現実的な選択の結果


夢も希望もない理由でも

贅沢に思えるんだから

我ながら単純

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんて美味しそうで、ほっこりする詩! 空の色、ボールの中身、パンの焼き色。 雲の流れや、フレンチトーストの甘い匂いまで届いてきました。 そろそろ使ってしまわないと…を、ちょっとした贅…
[一言] おいしそうなフレンチトーストですね……! 調理しながらごめんねと思うシーンがとても好きです。 メープルシロップも楓の甘い蜜と書くとより文学的に! これは発見です。 朝からフレンチトーストを作…
[良い点]  柘榴色って、言葉もきれいですね。  金糸雀色はしりませんでした。検索。  勉強になりました。  愛情たっぷりが一番のご馳走です♪
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