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入学と、それから家出 2

 星海高校は各学年六クラスで、各クラス四十人、あるいはそれ以下ってところらしい。

 偶然、かどうかは知る由もねえが、俺たちは揃って一年一組だった。

 四階建ての校舎で、一年から順番に上の階を使用するのは、中学時代と変わらねえ。小学校では逆だったんだが。

 一年一組は四階の端の教室だ。教室に入れば黒板にプリントが張ってあり、やはり、出席番号順に着席して待てということらしかった。

 俺の後ろの席は健太郎。榛名と藤原の間に他のクラスメイトはいなかった。

 

「なんかざわついてんな」


 入学式だし、浮かれているってのもあるんだろう。

 小学校は覚えてねえが、中学のときも最初はこんな感じだった気がする。


「そりゃあな」


 健太郎の視線の先は、教室の入り口から数えて二列目、一番前の席に座る、白髪の女子生徒。

 言うまでもなく、光莉だ。

 過度な染髪は校則違反となる星海高校だが、入学初日から真っ白な髪を晒していれば、そりゃあ、目立つ。

 そうでなくとも、均整の取れたプロポーションに、整った顔立ち、初日から目を引く理由としては十分過ぎるだろう。

 本人は、そんな視線などまるで気にしていないかのように、平然としたものだが。


「なあ、おまえと光莉ちゃん、いったい、どういう関係なんだ?」


 健太郎は、俺と光莉が一緒に登校してきたことを知っている。 

 加えて、中学校までも同じであるため、光莉と俺が知り合ったのが最近、少なくとも、この春休みの間だってことはばれている。

 とはいえ、光莉の確認を取らずに、うちに同居しているってことは、明かさないほうが良いだろう。そのくらいのデリカシーはある。


「どうもこうもねえよ。逆に、おまえはどうだと思ってんだよ」


「え? ついに詩信にも春が来た、とか」


 春は毎年来てんだよ。

 俺だけずっと冬だったみたいに言ってんじゃねえ。


「そうじゃなくてだな。有体に言えば、付き合ってんじゃねえの?」


 健太郎が俺と光を見比べ、肩を竦める。

 そうか。そんなに釣り合わねえか。

 

「今度、たまたま近くに越してきたんだよ」

 

 嘘はついてねえ。

 光莉はうちに引っ越してきたようなものだからな。現状、その認識で間違ってはいねえだろうし。

 光莉の部屋は俺の部屋の隣。近くには間違いねえ。


「ふぅん。たまたまねえ」


 健太郎はにやにやとした笑顔を浮かべ。


「おい」


 言いたいことがあるならはっきり言えと問い詰めようとしたところで、担任らしき、若い男性教師が入って来た。


「入学おめでとう。現代文担当、およびサッカー部顧問の松本です。入学式のほうで正式にクラス担任の発表があるまで、短い間ではありますが、このクラスの仮の担任を務めます」


 それから、入学式の諸注意だとか、プリントだとかが配布され、さっそく移動することになる。

 仮、とは言っていたが、おそらくはこの松本先生が俺たちのクラスの担任になるということなのだろう。仮とつけた理由は不明だが。

 配られた造花を胸ポケットにつけ、廊下に出席番号順に並ぶ。俺たちは一組。入場する順番は当然最初だ。

 入学式の挨拶は、他のクラスの、入試の成績が一番良かった特待生が務めるらしい。やっぱ光莉じゃねえんだな。

 

「詩信。今日もどうせ道場でしょう?」


 入学式が終わり、後は教科書類を購入して帰宅するだけとなったところで、香澄がやってくる。

 保育園からの同級生である香澄には、当然、俺の行動予定は筒抜けだった。


「だから、その前に親睦を兼ねて、入学祝しよ」


 今日は一年生と校歌担当だった合唱部、そして生徒会以外の生徒は休日だったらしい。

 部活は午後から、というところが大半のようで、ちらりと廊下を見れば、入部勧誘のちらしを持った生徒がちらほら見受けられる。

 俺は部活に入らないが。


「香澄はいいのか、バスケ部」


 たしか香澄は、中学ではバスケ部だったはず。

 

「バスケ部のチラシはもうもらってきたよ。今日はたまたま休みの曜日だったんだって」


 それは、まあ、残念だったのか?

 この学校のバスケ部は、どうやら、年間通じて、正月しか休みがないとか、あるいは正月も部活だとかというほどの強豪ではないらしい。それとも、入学式で体育館を使うからなのか。

 しかし。


「いまさら親睦とか、必要か?」


 俺と健太郎、それから香澄の付き合いは、もう十年以上になる。

 中学から同じ高校に上がった奴は結構いるが、保育園から一緒なのは――腐れ縁なのは、その三人だけだ。

 香澄は、なに言ってんの、と真剣な顔で。


「あんたたちじゃなくて、光莉よ。どういうことなのか、しっかり話聞かせなさいよね」


 どうやら、朝の説明だけじゃ、納得しなかったらしい。そりゃそうか。

 

「どういうことって言われてもな」


 俺だって詳しい話はわからねえんだよ。

 それに、教科書とか買って帰らなきゃならねえだろ? 時間割を軽く見たが、結構量はありそうだぞ。


「詩信くん」


 なんと説明したものかと思っていたところで、丁度良く、光莉が俺たちの席のところまでやって来た。

 なんだか、視線を感じるし、教室内に残っている生徒はざわついているようだが。


「香澄、健太郎。帰りながらでいいか?」


 このまま教室でしたい話じゃねえ。

 しかし、この二人にはいつまでも隠し通せることじゃねえだろうし、だったら、早いほうが良いだろう。


「光莉も、問題ねえか?」


「詩信くんにお任せします」


 詩信くん、と光莉が口にしたところで、二人の瞳に好奇心が宿っていた。

 まあ、出会ったばかりの女子に下の名前で呼ばせたりしねえからな、普通。

 俺たちの仲である以上、親同士もそれなり以上に交流はある。まだしばらく話していそうな母さんたちに、先に帰る旨を伝えて。


「せっかく高校生になったんだから、喫茶店とか行ってみたい」


 香澄がそう宣言し、健太郎も頷いているが。


「金がもったいねえし、うちでいいだろ」


 べつに、藤原家でも、七瀬家でもいいわけだが、ここからだと榛名家が一番近いからな。とはいえ、道場より少し北にある藤原家はともかく、七瀬家は距離的にほとんど変わらねえが。

 そこで健太郎が思い出したように。

 

「あっ、俺、自転車通学の許可シールもらってくるからちょっと待っててくれ」


 うち――榛名家とデパートと駅のちょうど中間くらいにある七瀬家は徒歩で通える距離だが、藤原家は若干、距離があるからな。 

 まあ、自転車なら十分くらいってところでもあるんだが。 

 

「香澄はいいのか?」


「うん。あたしは、なんというか、健康のためにもね」


 そんなの、部活で良いんじゃねえか?

 まあ、通学なんて、そいつの勝手だけど。


「光莉はいいの?」


 香澄が尋ねる。


「はい。わたしは、自転車を持っていませんから」


 そういやそうだったな。

 そのくらいは、母さんに頼めば買ってくれるはずだけど……光莉からは言い出し辛いだろうし、俺から言ってみるか? いや、お節介か。

 

「へえ。もしかして、光莉ってお嬢様だったりする?」


「いえ、私は――」


「悪い、待たせたな」


 光莉が言いかけたところで、健太郎が戻ってくる。

 無事、自転車通学の許可シールは手に入れられたらしい。


「あたし、ちょっとお母さんに言ってくるね」


 香澄が、まだ話し込んでいる最中の母さんたちのところへ小走りで向かう。

 それならついでだし、と俺と光莉、それから健太郎も家族のところへ向かう。まあ、母親同士が話し込んでいるから、結局向かうところは同じわけだが。教科書も買わなきゃならねえし。

 

「いいけど、大丈夫なの? 教科書重いでしょう?」


 香澄の母親である真理さんが、自分で持ち帰りなさいよ、と言いつけ、香澄は、はーい、と軽い返事をする。

 幼馴染の俺たちのことは信頼されているが、香澄は女子だし、心配はされているのだろう。

 まあ、まだ正午をすこし回ったくらいで、そんなに遅くまで話し込んだりはしないはずだからな。


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