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いつまでもうじうじと惚れた相手に迷惑かけてんじゃねえ 11

 どうやら、その手の話題が上がったのは男子だけのことじゃあないらしい。

 下校――あんな噂のあった中でも、とくに気にするでもなく、俺と光莉は一緒だが――途中の道すがら。


「……その、詩信くんは今回の騒動に関する噂などを聞いていたりしますか?」


 光莉からさりげない感じで尋ねられる。

 聞いていたりもなにも、同じ教室内にいるんだし、注意して聞き耳なんか立てなくても、ある程度の話は伝わる。それが男子のものでも、女子のものでもな。


「……まあ、なんとなくは」


 まったく、去った後にも面倒なやつだな。

 

「けど、光莉でもそういうのを気にするってのは意外だったけどな」


 そう口にすると、光莉はえっ? と驚きを口にする。

 

「いや、光莉なら告白くらい、日常茶飯事とは言わねえけど、今までされたことがねえとか、噂されたことがねえってことでもねえんだろ?」


 あんま言いたくはねえけど、ストーカーされるくらいにはモテてたわけだし。

 

「だから、いまさらそのくらい、どうこう気にするような質じゃねえと思ってたんだけど、違ったか?」


 さすがに、内面、精神的なもんだからな。

 気にしてない風を装いつつも、実は毎回気にするような性格なのかもしれねえ。今まで接してきた感覚じゃあ、そんな繊細なやつとは思わねえけど。


「失礼ですね、詩信くん。私だって、繊細さを欠片くらいは持ち合わせているんですよ」


「それは十分知ってるって」


 自分で言うのもあれだけで、光莉に勉強を教えて、見てもらうようになって、成績はかなりいい感じだと思う。

 いや、まあ、元があんまりよくねえから、比べるのもあれではあるけど。

 そんな、人にものを教えられるってやつが、野蛮で粗雑なんてことは絶対にありえねえ。


「それとも、三宮三年生の関係者になんか言われたか?」


 関係者っつうか、取り巻き――って言うほどじゃねえと思うけど、例のファンクラブだとかって件もあるみたいだし。


「いえ、大丈夫です、本当に。なにか言われたり、されたりなどということはありませんから」


 べつに、そんなに念を押さなくたって、信じてるんだけどな。

 それなら、さっきの問いかけはなんだったんだとは思うけど。

 まあ、今のやり取りで光莉の中で納得のいく、整理の付けられるだけの収穫はあったってんならそれでいいんだけど。


「いえ、その、そうではなくてですね……」


 探っているような、なんとなく照れも混じっている感じに、光莉からの視線は変わらねえ。

 

「光莉。何度目だって思うけど、そんな風に迂遠な感じで尋ねられても、俺はわからねえからな」


 なにを期待してんのか知らねえけど。


「少しはわかるようになりなさいよ」


 呆れた感じに会話に入ってきたのは姉貴だ。

 この時間帯で家にいるってことは、今日はバイトはねえってことか。


「……姉貴には今のでわかんのかよ」


「私にわかるわけないでしょう、あんたんとこの高校での噂話なんか」


 それはそうだろうけど、だったらなんで今俺が説教されてんだ。

 

「あんたんとこの学校でされてる噂話で、光莉も関わってるって言うんなら、あんたは耳を澄ましてなさいってことよ。つい今まで、光莉が煩わされてたのは事実なわけだし、これからだってなにもないとは限らないのよ? そういうとき、いち早く事情を知れているほうが良いに決まってるでしょ」


「……だとしても、俺に女子の噂話にまで気を配ってろってのは、無理だと思うんだが」


 そこまで余裕はねえっつうか、そもそも、それに関しては光莉っていう、まさしく同じコミュニティの相手がいるんだから、そこから仕入れるほうが良いんじゃねえのか?

 

「まあ、それならそれで悪くないわね。弟と義妹が仲良くしてるっていうのは、姉としては歓迎だし」


「彩希さんっ」


 珍しく、光莉が焦ったように反論する。いや、最近は結構光莉の焦ってる姿を見てるけど、それは、まあ状況が特殊だった場合だけだったし。

 つうか、今の台詞にそんな風に焦る要素があったのかってことが疑問なんだが。

 なぜか、光莉は俺にも、詩信くんからもなにか言ってください的な視線を向けてくるので。


「なんだよ。前から、光莉のことは家族だって言ってるだろ。俺と同じ学年なんだし、べつに、姉貴の妹でもいいんじゃねえの?」


 まあ、それだと俺の妹(あるいは姉だが)にもなるわけで、こうして教えてもらうことが多い現状じゃあ、その立ち位置には不満があるかもしれねえけど。仮定の話だし、年子とか、その辺のことはどうでもいいだろう。

 あるいは、実際には事情があって何年か留年してるとかってことなら話は別だけど、それはありえねえだろうしな。

 光莉はなにやら困っているような、あるいは期待しているような顔で。


「……えっと、詩信くん的には私が彩希さんの、その、義妹ということでも、問題はないということでしょうか?」


「だから、光莉が妹でも問題ねえって言ってるだろ。俺のほうが誕生日は先みてえだし」


 光莉の誕生日は十二月二十一日で、俺は四月の二十日。

 俺はすでに十六歳だが、光莉はまだ十五歳。年齢的に考えて、俺のほうが兄であることには変わりねえ。まあ、あくまでも、そういう風に考えればってことだけど。

 所詮は同学年だし、光莉のほうが姉が良いって言うんなら、べつにそれでもいいけど。姉はすでに一人いるし、一人増えたところでそこまで変わるわけじゃねえからな。


「えっ? あっ……そ、そうですよね。詩信くんのほうが誕生日は先でしたもんね」


 光莉は慌てたように、あるいは、確認するようにそう口にするが、他にどんな意味があると思ってんだよ。だいたい、その話は最近したばかりじゃなかったか? まあ、いろいろありすぎて、忘れてても仕方ねえとは思うけど。


「はあ。詩信は相変わらずだめだめね」


 姉貴はわざとらしくっつうか、わかっていたような感じで、ため息を漏らす。


「はっ? 今の流れで俺が批判される意味がまったくわからねえんだけど」


 日頃鈍感だとは言われるけど、それは俺が悪いんじゃなくて、周囲の迂遠な言い回しがひどすぎるせいじゃねえかと思うこのごろ。

 だからだめとか言われても、直すどころか、気をつけようもねえ。


「愛想尽かされないようにしなさいよ。私は光莉のことはとても気に入っているから」


「それは知ってるけど」


 姉貴がっつうか、ほかのうちの家族がって意味だけど。

 いや、俺が光莉を蔑ろにしてるとかってことじゃあ、もちろんねえが。


「まあ、とりあえず今は一緒に勉強を頑張りなさい。それから、光莉。とっくに知ってると思うけど、詩信は馬鹿だから、はっきり言わないと伝わらないわよ」


 それだけ言って、姉貴はさっさと自分の部屋に引っ込んでいった。

 いきなり顔出して、言いたいことだけ言って、済んだらさっさと消えてった。


「なんなんだよ、いったい」


 まあ、昔から姉貴の言動については未知であることが多いし、いちいち気にしてもいられねえからな。

 まあ、余計なお世話が過ぎるとは思うけど、なんとなく家族として心配されてるってことはわかる。家族だからな。

 だから。


「光莉。姉貴の言ってることは気にしなくていいからな。台風みたいなもんだと思ってれば」


 台風とは違って、こっちが気にしなければ被害がひどくなるわけじゃねえしな。

 そう思って、アドバイスしたつもりだったんだが。


「……ありがとうございます。ですが、詩信くんはもうすこし気にしたほうが良いと思いますよ」


 逆に忠告された。

 

「なにかわかってんのか?」


「まあ、一応は。同性ですし」


 そういう理由なら、俺にわかるわけねえだろ。

 

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