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いつまでもうじうじと惚れた相手に迷惑かけてんじゃねえ 10

 ◇ ◇ ◇



 学校でも俺たちの決闘が噂になってるようなことはなかった。

 そもそも知っているのが――この学校では――俺と光莉、健太郎と香澄、それから三宮三年生くらいのものだからな。

 俺たちからは言いふらすつもりなんてねえし、相手もそれは同じだろう。あの約束を反故にするほどじゃあなかったってことだ。

 まあ、動画が残ってることには変わりねえし、親に話を通したのも事実であり、その上、決闘では俺が勝っちまっているからな。さすがにこれでもまだ難癖付けてくるのは、下手すれば、人間性まで疑われかねねえ。俺たちとしてはべつに、例の動画なんかを公開するつもりはなかったけど。

 

「なあ、実際、どこまでいってんだ?」


 授業の合間の休み時間、クラスメイトの男子が俺の机の周りに集まってくる。


「いきなりそれだけ言われてわかるわけねえだろ」


 それでわかるやつがいたら、超能力者か魔法使いか。

 

「とぼけなくていいだろ。神岡のことだよ」


 神岡、と言われて一瞬、誰のことだかわからなかった。

 

「神岡……? ああ、光莉のことか」


 普段、神岡なんて呼ぶことはねえからな。

 そりゃあ、教室で教師とかクラスメイトに呼ばれるときには名字で呼ばれてるけど、そんなのいちいち気にしてねえし。

 しかし、俺は普通に答えたつもりだったのに、周囲はざわつく。

 たしかに、小学校くらいから、女子を下の名前で呼ぶのは少なくなるけど、俺はべつに香澄のことも下の名前で呼んでるし。

 さすがに、名前で呼んでるってだけで、恋人だのなんだのと囃し立ててくるようなやつは高校にもなるといねえと思ってたんだが。そもそも、俺にとっちゃ、誰かと恋仲だとか、そういう話の話題として挙げられることすら予想外すぎることなんだが。


「付き合ってるんじゃねえの?」


 期待するような視線が突き刺さる。

 

「付き合ってはいねえよ」


 ただ、同居してるってだけだ。もちろん、光莉の名誉のためにそんなことは口にできねえけど。

 そもそも、詳しい話を知らねえのに、中途半端に現状だけを口にして光莉のほうに迷惑を掛けたくはねえし。


「けど、三宮先輩の告白を断るくらいだし、三宮先輩をぶっ飛ばしたって聞いたぞ」


 告白を断ったのは、まさに三年生の廊下で呼び出してのことだったし、この学校の誰が知っててもおかしくねえっつか、むしろ知らないやつのほうが潜りって可能性があるほどの話だけど。

 いや、ぶっ飛ばしたのも事実か。道場で何度も投げ飛ばし、殴り飛ばし、蹴り飛ばしちまったからな。正式な試合でのことだったとはいえ。

 けど、あっちは道場での内々の話で、部外者に漏れるはずはねえんだけど。


「誰に聞いたんだよ」


 つうか、誰が話せるってんだよ。俺と健太郎以外に、この学校の生徒であの道場に通ってるやつはいなかったはずだぞ。

 いや、まあ、光莉と香澄はいるけども。


「え? 本当にぶっ飛ばしてたんだ」


「は? なに言って――カマかけられたってことか」


 にしても、どこからそんな発想になる?


「いや、だってなあ?」


「榛名は柔道でもやたら強いし」


「三宮先輩って成績もいいらしいじゃん。神岡はともかく、榛名もそこまで成績良かったっけ?」


 一応、この私立星海高校はそれなりに学業でもレベルは高い。あくまで、全国的な平均で見た場合の話で、所詮は数値上のことだけど。

 けど、一年の時点で入試の成績順にクラス分けされてるとかってことではないらしいし、俺の成績は、せいぜい、中の上に掛かるかってところだ。トップクラスの光莉とじゃあ、圧倒的に壁がある。そもそも、光莉は俺に勉強を教えてくれるレベルだしな。

 

「だから、まあ、榛名と三宮先輩で勝負して、榛名が勝ったってんなら、そりゃあ、腕っぷしだろう」


 たしかにそれは正解ではあるんだが、素直に認め辛いのはなんだろうな。

 とはいえ。


「だから、仮に俺と三宮三年生が勝負して俺が勝ったとして、なんで俺と光莉が付き合ってるとかってことになるんだよ」


 たしかに、光莉は三宮三年生の告白を断って、最初の接触は俺が間に入り、その後に決闘でぶっ飛ばしたが。

 もしかして、これって傍から見たら、俺と三宮三年生で光莉を取り合って俺が勝ったみたいな構図で見られてるってことか? いや、まさか、そんなに単純なやつらじゃねえだろ。


「え? 三宮先輩と神岡を取り合ったってことじゃねえの?」


 滅茶苦茶単純だった。いや、本当に単純なのかはさておくとして、マジでそう誤解されてた。

 

「そんな事実はねえよ。逆に聞くけど、仲のいい相手が煩わしそうにしてるのに、その相手からちょっかいかけられ続けてたら、間に入ろうとか、手助けしようとかって思わねえか?」


 もしかして、俺が普通じゃねえってこと……なわけねえよな?

 

「まあ、そりゃあ、なあ」


「なにが、まあ、だよ。おまえはそもそもそんな風に噂になるほど親しい女子もいねえだろ」


「けど、さすがに決闘まではなあ。いつの時代だよって感じではあるな」


 そりゃあ、決闘の部分だけ抜け出したらそうだろうよ。

 けど、実際には、その前にもストーカー紛いとか、襲撃とか、相手方の親への直談判とか、いろいろあんだよ。もちろん、それを言えたりはしねえけどな。


「じゃあ、決闘にならねえ決着の付け方ってのを教えてくれよ」


 次回からの参考にするからよ。いや、次回以降なんてもんはねえほうが良いんだが。


「そういやあ、この流れだから一つ聞いときたいんだけど。光莉がその、なんだ。いろいろ苦労してる件に関してなんか知ってたりしねえか?」


 さすがに、プライバシーっつうか、本人の沽券にもかかわることかもしれねえし、それに、せっかくこうして、多分、厚意で聞いてきてくれるクラスメイトに下手な迷惑はかけたくねえから、直接的には言えねえけど。

 たとえ、本人がどうとも思ってなくても、なんつうか、関係のある相手に迷惑とかかかる可能性も、ねえわけじゃねえし。

 一応、光莉は対策してたし、なるべく俺も近くで注意してはいたけど。


「いや、榛名が知らねえのに俺たちが知ってるわけねえだろ」


 そりゃそうか。

 べつに、自慢とかじゃねえけど、現状、光莉の一番近くにいるクラスメイト――学校関係者は俺だしな。次点で香澄と健太郎。同じ女子ってことで香澄に軍配は上がるだろうけど。


「そういうのは、女子のほうが詳しいんじゃねえの?」


「一応、香澄からも話はちょくちょく聞いてんだけどな」


 ほかのクラスメイトもそれぞれ、半分以上は部活に入ってるらしいけど、わざわざ部活の時間に先輩とか、いるならマネージャーとかに、うちのクラスの神岡ってやつのことなんですけど先輩の学年とかクラスで話に上がったりしませんか、なんて、聞いたりはしねえよな。それじゃあ、まるっきり変人だし、そうでなくても、変に勘違いされる可能性もある。もちろん、本人的には勘違いじゃねえのかもしれねえけど、それは俺にはわからねえ。

 ともかく、その点に関しては、うちのクラスの男子に心当たりはねえらしい。

 まあ、同じ男子だからわかるっつうか、男子が光莉に対して嫌がらせじみたことはしねえよな。三宮三年生のは、嫌がらせってより、もはや、圧力とか、脅しとかって部類だったし。


「そんなの本人に直接聞けよ」


「どうせ今日も一緒に登校して、一緒に下校すんだろ」


「これで付き合ってねえとか、マジでふざけんなよ」


 いや、理不尽すぎねえか? 怒る理由がわからねえ。

 しかし、この場に味方は――いや、この場じゃなくても、この手の話題で俺に味方してくれるやつは皆無だったな。家族ですら、光莉の味方に回るし。

 俺にできるのはチャイムが鳴って教師がこの流れをぶった切ってくれることを祈るだけだった。

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