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いつまでもうじうじと惚れた相手に迷惑かけてんじゃねえ 3

 そんなわけだから、今んところは、相手の出方待ちってわけだ。

 言うまでもなく、一番良いのは、もう出てきてくれないことだけどな。


「一旦、ここまでにするか」


 中間テストも近えことだし、揃って勉強するなら早い時間帯のほうが、健太郎はともかく、香澄にとっちゃあ良いだろうからってことで放課後すぐから集まったわけだけど、俺たちは今日も道場通うからな。

 一応、試験前ってことで融通は利くけど、むしろ、少しは身体も動かしたほうが気分転換にもなるし。

 

「いってらー。あたしはもうすこし光莉と遊――勉強してから帰るから」


 七瀬家は駅のもうすこし向こう側。一応、香澄も自転車通学の許可は取っていて、本格的に部活も始めてるから、大抵は自転車通学に切り替えていたはずだ。

 健太郎はそもそも自転車通学だし、俺たちも許可くらいもらっておくか? 歩いたってそれほど時間はかからねえし、運動にもなるけど、時間はもったいねえとは思うんだよな。中学までは自転車通学なんて基本的には禁止だったから気にしたことなんかなかったけど、運動ならほかに毎日してるわけだし。


「どうかしましたか、詩信くん」


「ちょっと、そろそろ自転車通学にでもするかって考えてただけだ」


 今まで避けてた、運動ってのは、まあ、建前で、光莉が自転車を持ってねえってのが大きい。

 普段の光莉の行動範囲を考えたなら、うちから高校、ほかはせいぜいがスーパー、コンビニってところだから、それほど必要性は感じてなかったのかもしれねえけど、あったほうが便利であることには変わりねえ。

 

「突然ですね」


「いや、前から考えてはいたんだけどな。そろそろひと月だし、まあ、良いタイミングなんじゃねえかって思ってよ」


 自転車通学にタイミングとかあるのかは知らねえけど。

 

「それなら、詩信くんが道場へ行かれている間に、私が手続きを済ませておきますけど」


 普段から自転車通学をするかはともかく、一応、許可だけもらっておいても、損はしねえはずだ。

 発行に金がかかるわけでもねえし、事務で一筆済ませるだけだ。とはいえ、多分、本人確認は必要だと思うが。


「本人確認って、学生証ですよね。私が二枚分発行してくださいと頼めばそれで済みませんか? 学生証は、その、詩信くんのものもお借りしてゆくことになるとは思いますけれど」


 光莉が少し遠慮がちに尋ねてくる。


「それで済むのか? ガバ過ぎねえか?」


 いや、まあ、たかだか、自転車通学の許可シールもらうってだけなんだけども。それに、学校側は光莉が榛名家で暮らしてるって事情も知ってるわけだが。

 

「つうか、それが大丈夫だったとしても、そもそも、光莉にはチャリがねえだろ」


 たしかに、駅近くにはサイクルショップもあるけど。

 まさか、二人乗りで登校するわけにもな。


「それなら、今から買いに行きます。気分転換もしたかったですし、学校にも用事がありますから、丁度いいです」


 それなら、明日の帰りでもよくねえか? とは思ったけど、光莉がやる気なら俺がとやかく言うこともねえからな。

 一応、ナンパとかは心配だけど、わざわざ俺が心配せずとも、光莉ならうまくあしらうだろうし。


「あたしもついてくよ。ここで一人で待ってても仕方ないし、二人なら大丈夫でしょ」


 なにが大丈夫なのかは知らねえけど、まあ、たしかに香澄も一緒のほうが――二人のほうが――襲われることも少ねえだろう。 

 けどなあ。それでも、ゼロとは言い切れねえわけだし、俺としては、もうすこし、間を置いたほうが良いとは思うけど。


「詩信は気にしすぎ。心配してくれるのは嬉しいけど、もっとあたしたちのことも信じなさいよね」


「そんなんだから、過保護って言われんだぜ」


 幼馴染二人が容赦なかった。そのとおりではあるし、反論はできねえんだが。

 当然、光莉にも俺がなにを気にしているのかってことはわかっているんだろうが、わざとそこからは話をずらし。


「詩信くん。心配してくださるのは嬉しいですけれど、私の年齢を勘違いされていませんか? 初めてのお使いなどという歳ではありませんよ」


「その心配はしてねえかな」


 小学一年生ならともかく高校生だし、なんて、わざわざ言うまでもねえだろうが。


「そちらも大丈夫ですよ。もちろん、油断はしませんが、向こうも今私たちに手を出そうとするのは得策ではないとわかっているはずです。少なくとも、御両親からの監視の目が緩むまでは控えるでしょう。それも、今月中は大丈夫だと踏んでいます」


 逆に言えば、今月中くらいまでしか大丈夫じゃねえと思ってんのか。まあ、俺たちはそこまであいつ――三宮三年生のことを知ってるわけじゃねえからな。

 とはいえ、ストーカー、つまり、つき纏いってのは普通に犯罪、迷惑防止条例違反だし、これ以上になるとたとえ未成年、学生とはいえ、警察案件になるってのは向こうもわかってるんだろう。ついこの前、べつの、不法侵入とかってことで、まさに警察に世話になった俺に言えたことじゃねえかもしれねえけど。

 こっちの想定以上に相手が馬鹿ならわからねえけどな。

 つうか、それって。


「それって、光莉の経験則?」


 俺が聞こうと思った内容をそのまま香澄が口にする。

 光莉がストーカーされたのは今回が初めてってわけじゃねえのは知ってる、つうか、聞いてる。すくなくとも、中学時代にはあったみたいだってことはな。

 香澄とかに話したのかどうかは知らねえけど、今の感じだと、話はしてるのかもな。詳しくってことじゃあねえにしろ。つうか、詳しいことは俺だって知らねえ。こっちから突っ込んで聞けるようなことでもなさそうだし、そのくらいの分別はある。

 光莉はそれを、否定も肯定もすることなく。

 

「もちろん、相手の年齢や立場などは違いますが、それらを考慮しても、私たちが警戒しているだろう時期にわざわざ繰り返すような愚かな相手とは思えませんし」


 まあ、実質、言葉にしなかったってだけで、肯定したようなもんだな。

 それも気にはなるけど、今はいい。


「たとえ、三宮三年生の考え的にはそうだとしても、俺たちがぶっ飛ばした相手が報復にくるかもしれねえぞ」


 俺でも、健太郎でも、あの程度の連中なら何度来たって、まともにやりゃあ返り討ちにできるだろうが。

 

「まあ、詩信の心配はわかるけどよ、そのくらいは光莉ちゃんに任せてもいいんじゃねえの? 香澄も一緒に行くみたいだし、あんまり束縛が強いと嫌われるぞ」


「べつに、束縛してるつもりはまったくねえよ。つうか、なんでそんな発想になるんだ?」


 俺が気にしすぎてるからだってのはわかってるけど。

 まあ、健太郎の言うとおり、光莉だって同い年――正確には、まだ誕生日が来てねえから俺のほうがいっこ上だが――だし、経験則っつうか、ナンパの扱い、あしらい方も問題はねえだろう。むしろ、俺より上手いだろうからな。当然だけど、俺はナンパに絡まれたことなんてねえ。いや、この場合は逆ナンとかって言うのか? まあ、それはどうでもいいけど。

 一応、気をつけろよ、とは言いつつ、俺と健太郎は先に家を出る。

 光莉と香澄も自転車を買いに、それから、学校まで自転車通学の許可をもらいに行くのに出かけるわけだが、俺たちは道場までランニングしていくからな。

 

「こちらのことは心配せず、真っ直ぐに向かってくださいね」


 周囲の見回りをしつつ、遠回りして走っていこうかと思ったが、先回りして光莉に封殺される。

 

「……最初からそのつもりだ」


 だから、健太郎も香澄も、そのむかつく顔を止めろ。肩竦めてため息ついてんじゃねえぞ。


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