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いつまでもうじうじと惚れた相手に迷惑かけてんじゃねえ 2

 ◇ ◇ ◇



 休みなんてもんは、とくになにもしてなくても一瞬だ。むしろ、なにかしてたほうが充実していて長く感じるかもしれねえ。結局、一日の時間は誰にだって同じなわけだが。

 学生は休みでも両親は仕事があったし、家族で揃って出かけるなんてこともねえ。俺はいつもどおり、朝光莉と一緒に走り込みをして、午前中に勉強してから、午後には道場。それで、帰ってきてからまた勉強。まあ、休みだから道場の時間は少し伸ばせたけどな。

 そんなことより、勉強だった。

 三宮三年生と対決ってほどじゃねえけど、父親のほうであっても、あれだけ啖呵切った手前、下手な点は取れねえ。もちろん、今後会う予定があるとか、そういうことじゃあねえけど、向こうに付け入る隙を見せたくはねえからな。

 そりゃあ、三年とじゃあ範囲も違うし、そもそも、土台の学力からしても違うわけだけど、そんな問題は抜きにしたって、試験を受ける以上、やれるだけのことはやるべきだからな。教えてもらってる光莉にも申し訳が立たねえしよ。

 それに、光莉自身、問題はないだろうと思えはしたけど、特待生ってことでそれなりの成績は維持する必要があるらしいからな。余計なことに構っている余裕はない様子だった。というより、余計なことにかまけさせたくはなかった。

 俺の成績のことばかりを気にさせるわけにはいかねえ。そんなことはねえと思うけど。

 だから、まあ、学校行ってるときとほとんど変わらねえ予定で過ごし。


「そんな面白そうなことしてたの?」


 連休明けの初日、丁度バスケ部も休みだったし、放課後に揃ってうちで勉強しながら、香澄に突っかかられた。

 連休の間なにしてたの? みたいな感じで、ごく普通の話題っぽく振られたから、三宮の系列の会社に行って三宮三年生の父親に会って話を通してきた、って返しただけなんだが。


「なんにも面白くはねえよ。わざわざ休日半日潰してきたんだからな」


 その後は家に帰ってもなにもやる気起きなかったし、実質、一日潰れたようなもんだ。

 体力的な問題じゃねえはずだけど、やっぱ、遠出はな。


「え? 娘さんをくださいとか、娘はやらんみたいな話をしてきたんじゃないの?」


「話聞いてたか? 俺たちが会いに行ってきたのは、光莉の両親じゃなくて三宮三年生の父親のほうなんだが」


 三宮家に息女がいるのかどうかは知らねえけど、少なくとも、会ったこともねえ、顔も見たこともねえ、名前も知らねえ、ないない尽くしの相手に告白するほど俺も愚かじゃねえよ。いや、知ってたからって、そんなに単純に告白したりもしねえけど。

 そもそも、光莉の父親――つうより、家族だな――のほうに関しては、どこにいるのかもわからねえし。


「だいたい、香澄は部活があったんだろうが」


 誘ったところで来られなかっただろ。


「でも、詩信と健太郎ばっかり光莉と遊んでずるい。あたしとも遊んで」


 遊んではいねえな。健太郎もいなかったし。

 べつに、俺たちはデートに行ったわけじゃねえんだぞ。まさか、男女が二人で出かけたらデートだとかって価値観なわけでもねえだろ、高校生にもなって。


「いや、あんたたち、すでにデートどころの話じゃないじゃない」


 香澄がなにか言っていたが、べつに俺たちに聞かせたい声量じゃなかったみたいだし、無視する。

 

「いやあ。親に挨拶行くんだったら、俺は邪魔だろうと思ってな」


 そんなことを言ってる健太郎だが、どうせ誘っても面白さ優先で(つまり、俺と光莉が二人で三宮千明に会いに行ったほうが面白いだろうってことで)来なかったに決まってる。

 

「でも、その三宮先輩のお父さんは話のわかる人みたいで良かったわね」


 話のわかる人っつうか、三宮三年生がおかしいだけだろ。

 普通、振られた腹いせってだけで、襲わせるか? もちろん、俺は振った経験も、振られた経験もあるわけじゃねえから、絶対とは言い切れねえけど。


「光莉も、嫌がらせっぽいことはされてないんでしょう?」


「はい。おかげさまで」


 光莉は小さく頷く。

 あれだけ堂々と振ったからな。

 あれでもまだ光莉と三宮三年生のことでちょっかいをかけてくるようなやつがいたら、それこそ難癖とか、いちゃもんの類で、退学とか停学とかにはならねえかもしれねえけど、謹慎くらいはあるかもしれねえからな。もっとも、光莉がそんなことで相手を職員室に訴える気はなかったってことはわかってたし、公的な処分はなかった可能性もあるけど。そもそも、嫌がらせのレベルこそ小学生とかみたいなもんだったけど、やられてることには変わりねえ。いじめってのは、程度の差の問題じゃねえんだ。

 まあ、直近では収まってるみたいだし、飽きたのか、それとも、愛想をつかしたのか。なんにせよ、収まったってんなら、下手に刺激しないほうが無難だ。もちろん、機を窺ってるって可能性は捨てきれねえけど、中間テストがあるのは向こうも同じはずだからな。

 そりゃあ、言いてえことがねえわけじゃねえけど、当の光莉が黙ってるし。

 光莉がそういうことを気にしねえやつだってのは知ってるけど、今以上の騒ぎになる可能性を考えると、見た目的には第三者な俺が暴走するわけにはゆかねえからな。そもそも、こっちから仕掛けるとか、動くってのは下策だし。 


「平和な連休だったんだろ。良かったじゃねえか」


 健太郎が笑う。

 まあ、平和といえば、平和か。


「詩信も。光莉ちゃんのことが心配なんだろうけど、少しは休まねえと、倒れちまうぞ」


「ああ」


 べつに、気を張ってるつもりはねえんだけどな。とはいえ、この間の会社訪問以来って話だけど。

 今、俺が心配されるくらい顔色が悪いんだとしたら、それは、試験勉強のせいだからな。

 さすがに、寝てねえってほど馬鹿はやってねえつもりだ。それじゃあ、いざってときに、動けねえからな。それは、試験でも、試合とか、まあ、喧嘩とかでも同じことだ。

 とはいえ、健太郎に心配される程度には、大変そうに見えてるってことなんだろう。

 体調管理も修行の内だ。反省する必要はある。


「詩信くん、藤原くんも。おしゃべりばかりしていても勉強はできるようになりませんよ?」


 香澄の名前が抜けてる、とは思ったけど、もともと香澄は、光莉ほどじゃねえにしろ、俺たちより勉強はできるからな。

 

「なあ、詩信。もしかして、俺って光莉ちゃんにおまえと同じ馬鹿のほうにカテゴライズされてる?」


「もしかしなくてもそうだろ。まったく不本意な話だな」


 俺の成績が良くねえってのは認めるけど、健太郎と一緒にされるってのは……そんなことで傷つくほど繊細な神経はしてなかったな。

 香澄は半眼で、手慰みにペンを回しながら。


「ねえ。あんたたち、五十歩百歩って言葉知ってる?」


「こいつよりは俺のほうがましだ」


 しかし、まったくもってむかつくことだが、そう反論した俺と健太郎の声が揃う。

 

「おい、なんで揃えたんだよ、詩信。それだと俺がおまえと同レベルみたいじゃねえか」


「その言葉、そっくりそのまま返してやるよ、健太郎」


 ああ? やるか? みたいな視線が俺と健太郎の間で交わされるが。


「二人とも、いい加減にしてくださいね?」


 にこやかな光莉に窘められ、すごすごと引き下がる。

 

「もし、これ以上続けられるというのであれば、赤点なんてことになったとしても、面倒は見ませんからね?」

 

 勝手にしてください、と光莉からさらっと突き放される。

 自業自得なわけだが、赤点取るのもやべえが、光莉に教えてもらえなくなるのもやべえ。むしろ、今後のことを考えるなら、後者のほうがずっとやべえ。

 

「完全に同レベルじゃない」


 そう言ってため息をつく香澄に、今度は反論しなかった。また揃ったりしたら、完全に同レベルだからな。

 これ以上、光莉に呆れられたくもねえし。


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