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三宮千明への訪問 5

 それから、いくつか話をさせてもらった。一応、会社見学って名目で来たんだし、そっちのほうもざっと三十分くらいか?

 さすがに今回の会話を録音なんて失礼な真似はしてねえけど。


「信用できると思うか?」


 建物を出て、少し歩いたところで聞いてみた。

 態度や言葉からは真摯なものを感じたし、嘘はついてねえと思う。そりゃあ、所詮は高校生、十六歳の俺の人生経験なんかたかが知れてるし、高校生のガキが大人の、しかもこんな会社の代表を務めているような相手に聞くような口じゃねえとは思うが。

  

「私たちの使えるカードは多くありません。信用できるかどうかはひとまず保留にしておいても、今は利用するしかないでしょう」

 

 すくなくとも、この前の態度からじゃあ、職員側からの助勢は期待できそうじゃねえしな。よくても、中立だろう。本来、教師って立場を考えるんなら、更生させるほうに向かうべきなんだろうが、俺の言えることじゃねえからな。

 それに、こっちにさえ面倒をかけねえんなら、極論、あいつが誰に迷惑をかけようが関係ねえ。俺たちは、あいつの友人なんかじゃねえし、親兄弟でもねえんだからな。そんな面倒見てられるほどの余裕はねえ。

 

「詩信くんなら、なんだか気に掛けそうですけど」


 光莉は思案顔で、俺の顔を覗いてくる。


「いや、ねえだろ。なんか勘違いしてんのかもしれねえけど、おまえは特別だからな?」


 俺はそんな聖人君子じゃねえよ。

 なんだってこっちを、ともすれば殺されかけてんだぞ? 怪我どころか、傷ひとつ負ってねえから、大袈裟に聞こえるかもしれねえけど、相手は武器持ってたからな?


「えっと、その、はい……」


 光莉はなんだか照れたように顔を逸らす。

 なんだ、それは――って、あ。


「いや、違えぞ。特別ってのは、そういう意味じゃねえからな? あの状況が特別だったってだけで、おまえのこと……は家族として特別大切に思ってるけど……って、あー、だから!」


 口を開けば開くほどどつぼに嵌ってる気がする。

 なんか、光莉も顔を紅くしてるし、なんか口説いてるみたいになってるじゃねえか。すれ違う人らもちらちらこっちに視線向けてくるしよ。


「くそっ。これも全部三宮花菱の野郎のせいだ……」


「さすがにそれは言いがかりが過ぎると思いますが……」


 わかってるよ、そんくらい。

 おかしそうに笑う光莉から目を逸らして、駅のほうに向かって歩き出す。


「光莉のほうはどうなんだ?」


 当てつけってわけじゃねえけど、やられっ放しも趣味じゃねえ。


「どうというのは、私が三宮花菱先輩に対してどのような思いを抱いているのかということでしょうか?」


 あいつのことをフルネームで呼んだところから察しはした。

 

「一応、参考までに聞いときたいってだけだったんだが、あそこまで想われるってのは、少しはなんか考えることもあるんじゃねえのか?」


「そうですね。いったい、どうすれば一番ダメージを与えることができるのかということなどでしょうか。そもそも、ストーカー紛い、犯罪じみたことまでされて、本当に好意を抱くような女の子がいると、詩信くんは本当に思っているんですか?」


 だとしたら正気を疑います、とまでは声に出さずとも、光莉の顔に浮かんでいた。

 

「いや、それは思わねえな」


 一応、ふった相手っつうか、それがどんなことになろうと、最初は(多分)純粋に好意を向けてきた相手だろ? 

 だから、罪悪感とか、多少はあるのかとも思ったけど、そんなものはまったくなさそうだった。


「一応、ある程度は女性に人気のある方のようですが、私にはまったく理解できません」


 まあ、イケメンで金持ちで、身長もそこそこだったからな。 

 ファンクラブらしきところから嫌がらせを受けていたような――本人はまったく気にしてねえ様子だったが――光莉には理解できねえだろうが……香澄もそんなに気にしてる様子はなかったな。

 そんな狭い二人の意見だけでなにを判断できようかって話だが、蓼食う虫も好き好きって言うし。


「詩信くんの価値観は古すぎませんか?」


「いや、今のはたとえっつうか、頭に浮かんだってだけだ。


 なんだったか、たしか三高だったか? 俺は男だし、その程度にしか知らねえんだけど。それすらあやふやなもんだし。

 

「高学歴、高収入、高身長のことですか? 私がそんなことに興味のあるように見えるんですか?」


 いや、全然。そもそも、男子(あるいは男性)に興味があるのかってレベルなんだが。


「じゃあ、光莉はどんな相手ならいいんだ?」


 今まで、告白されたことがねえってことはねえだろう。

 けど、付き合ったこともねえってのは、理想があるってことなんじゃねえのか?


「……もしかして、詩信くん、今口説こうとしてますか?」


「してねえよ。どんなタイミングだよ」


 ストーカーだとか、絡まれるのがしつこくて面倒だって話をした直後に口説くって、タイミングとしちゃあ最低の部類じゃねえか?

 

「そもそも、俺が光莉をナンパとかするはずねえだろ」


 光莉だけはねえ。


「なんでですか? 私ではそんなに詩信くんの好みには合わないでしょうか?」


 気になるところはそこなのか? いや、女子としちゃあ――男子でもそうだろうが――きれいだか、可愛いだかってのは、重要視するところなんだろうが。あとは、モテるってのは一種の満足感みたいなもんもあるんだろうが、光莉がそんなことを気にするようなやつだとは微塵も思ってねえ。

 まあ、光莉が客観的に――俺の主観でも――みても、冴える銀髪に、大きく綺麗な青い瞳の美少女だってことは、非の打ち所もねえことだとは思っているが。すくなくとも、外見に関しては。いや、内面だって、勉強も運動も、料理とかの家事だってできるわけだが。

 俺の好みだとかなんだの話は、おいとくとして、だ。


「そうじゃなくてだな。光莉、おまえ、俺との初対面でなんて言ってきたのか忘れたのか?」


「……そうですけど、もしかして、女子の制服に興味のある方ですか?」


 くそっ、一言一句間違わず正確に言ってのけやがって。無駄に良いこいつの記憶力がマジで腹立つな。

 

「無駄って……そう言うということは、詩信くんだって覚えているんじゃないですか」


「言ったほうは何気なく言ったことだろうから忘れてたとしても、言われたほうは覚えてんだよ」


 いじめとか悪口だって、被害者側はいつまでも心に残ってるっていうだろ。

 今なら、光莉のあのときの台詞が警戒心の表れだってことは理解できるが、普通は引くか、無視するかだからな?

 初対面で、いかに外見が美少女だろうと、そんなこと言ってきた相手に恋心だのなんだの抱くってのは、相当な神経してねえと無理だと思うぞ。だからこそ、光莉もああいった言葉を選んでたんだろうが。


「ですが、詩信くんが『いい子』だということは、沙織さんからうかがっていましたし。最初は詩信くんなのか、それともそっくりさんなのかの確証もありませんでしたから、あんな感じでしたけど。今は頼りにしていますよ?」


 光莉は上体をわずかに傾けて微笑みを向けてくる。

 あざといっつうか、狙ってんのか? それとも、わざとなのか?


「冗談はここまでにして」


 おい。やっぱり、わざとか。


「詩信くんはどんな女性が好みなんですか?」


「は? そんなもん聞いてどうすんだよ」


 誰の得になるんだ?

 恋バナみてえなことがしてえってんなら、姉貴とか、香澄とかとしてくれ。

 光莉は少し楽し気に。


「詩信くんも恋バナなんて言ったりもするんですね」


「おちょくってんのか?」


 もういい、知らん。


「すみません、詩信くん。拗ねないでください」


「笑いやがって……すまねえとか、思ってもねえだろ」


 先を歩いていた俺に、光莉は小走りで寄ってきて隣に並ぶ。

 

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