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三宮千明への訪問 2

 なんでそこを重要視してんのかはわからねえけど。まあ、あれか。感謝の気持ちを忘れないようにするためか? 

 いや、自分で言っといてあれだけど、今回の件で俺ができたことなんて、暴漢を追い払うくらいのもんだし、全然大したことじゃねえと思うんだけどな。

 助かったかどうかなんて本人が決めることだし、光莉がそう言いたいってんなら、それでもいいけど。


「ではそういうことにして、詩信くんはせいぜい感謝されていてください」


「その台詞、本当に使い方あってるか?」


 だいたい、その理屈だと、光莉だって俺に勉強を教えてくれていることに対して感謝させていてくれなきゃならねえってことになるけど、それでいいのか?


「それは、詩信くんだって、武術を教えてくれているじゃないですか」


「あんなのは教えてるってうちに入らねえよ。だいたい、本気で教わりてえってんなら、師匠のところに行ったほうがいいって言ったろうが」


 それに、光莉は家事の手伝いもしてるだろうが。


「それは、居候させていただいている身としては当然です。詩信くんや彩希さんだって家事はしているじゃないですか」


「だから、それは家族としてなら当たり前ってことだろ? それに光莉が感謝することなんてあんのか?」


 つうか、なんでこんなことで言い合ってんだ、俺たちは。不毛すぎるだろ。


「……やめとくか、この話は」


「……そうですね」


 俺たちのどっちにとっても利がなさすぎる。


「それより、わざわざ会社なんて選ばなくても、自宅に行きゃよかったんじゃねえか?」


 父親は仕事でいねえかもしれねえけど、多分、母親とかはいるだろ?

 まあ、確実性で言えば会社のほうが会えるってのはそのとおりかもしれねえけど、自宅の場所くらい、それこそ交番とかで気軽に聞けるだろうし。

 でかい家だからって、さすがに制服着た二人組の男女に、疑いはこねえだろ。なんなら、学生証とかでも提示すればいいことだしな。そうすりゃ、同じ高校だってことの証明にもなる。警察はそこまで把握してはいねえだろうけど。


「そうですけど、それで、三宮先輩やご家族の方がいらっしゃらなければ意味がないじゃないですか。それより、会社にアポを取れば、確実に会うことができます」


 まあ、俺だって、わざわざ三宮三年生の家に電話とかしたくねえし、なんて説明したらいいのかもわからねえからな。

 それに、電話に出るのが本人だと困るし。かといって、電話もせずに押しかけるってのは、さすがにマナーに反する。

 マナーっつうか、極論、相手の犯行を暴露しに行くのに、こっちまで素行の悪い真似はしてられねえからな。

 まさか、あんたんところの息子がフラれたはらいせにストーカー紛いの行為を繰り返してるんだがどうにかしてくれ、とかって頼みに行くのに、こっちまで押しかけてちゃあ、両成敗で終わる可能性もあるからな。そんなことでは終わらせたくねえ。

 そんなところか。

 親まで巻き込んで、なんて逆恨みしてくるような器の小せえやつなら――すでに、三宮三年生の株は俺たちの中ではストップ安なわけだが――はっ倒しても文句は出ねえだろうしな。


「そのへんは悪いけど、光莉に任せる。俺にできるのは、マジで、ついて行くくらいのもんだからな」


 説明でもなんでも、光莉のほうが上手くできるだろうってことは明白だし、そもそも、直接の被害者は光莉だからな。

 光莉だけに任せることに思うところがねえわけじゃねえけど、まあ、適材適所って話だ。説得力の問題だな。


「はい。詩信くんは隣にいてくれるだけでいいですから」


「まあ、誰かと一緒に来たってだけで侮られることもねえだろうけどな」


 そこまでなのかって心配される可能性はあるだろうけど。

 そもそも、これでこっちの話を聞いてくれねえような相手なら、話をする意味はねえからな。


「光莉、詩信。また二人でどこか行ってたの?」


 教室に戻れば、真っ先に香澄に見つかった。


「仲がよろしいことで」


「なに言ってんだ。ちょっと職員室に用事があったってだけだ」


 わざわざ学内で付き添い、しかも、職員室にってのも変な話ではあるかもしれねえけど、最近の光莉の周囲のことを考えれば、べつに、気にしすぎってこともねえだろ?

 一応、目に見える形で、なんなら、そういうのを排除する目的でわざわざ三年の教室まで出向いてはっきり断って来たってのに、まだ絡んでくるような面倒なっつうか、思い込みの激しいやつらがいるかもしれねえし。

 

「だから詩信は過保護だって言ってるのよ。まあ、光莉がそれでいいなら、あたしが口出しすることじゃないかもしれないけど」


 なら黙ってろよ……なんて言おうものなら、二倍、三倍になって言い返されるだろうってことはわかってるから、俺は黙っていることにした。

 けど、言われっ放しも癪だし、そこまで大人でもねえから言い返そうかとも思ったんだが。


「それなら、香澄さんも一緒にいかがですか? もちろん、部活との兼ね合いがなければですけれど」


 普通に考えれば、バスケ部は部活がある日だ。けど、連休中だし、もしかしたら、空いてる日もあるのかもしれねえ。

 光莉が日付を伝えれば。


「あー、その日はあたし部活あるから一緒には行けないわ」


 やっぱり、なければ来るつもりだったんじゃねえか。

 そんなんで、俺に過保護とかよく言えたもんだな。


「あたしは良いの。光莉の親友だし、親友の心配するのは当たり前でしょ」


「それなら、俺だって光莉の家族みたいなもんなんだが?」


 なんか教室がざわついた気がするが、気のせいか?

 

「どっちが光莉に相応しいのか、あんたとは一度、決着つけといたほうがいいみたいね」


 なに言ってんだ、こいつ。正気か?


「じゃあ、フリースローで対決しましょうか」


「それで勝って嬉しいのか、おまえ」


 バスケ部員にフリースロー対決で勝てるはずねえだろ。

 いや、一対一でも勝てねえっつうか、バスケ関連の種目じゃあ勝ち目ねえから。

 かといって、真面目に喧嘩っつうか、武術での勝負になったら、まあ、俺が香澄に負けることはねえだろう。

 体育の授業だって、男子は柔道だけど、女子はダンスとかだしな。

 そうでなくても、十年くらい続けてる俺に香澄がまともにやって勝てるとは思えねえ。さっきの、フリースローだとか、一対一だとかと同じ理屈でな。なんなら、俺の武術歴のほうが香澄のバスケ歴より長いわけだし。

 それで勝っても、俺だって嬉しくはねえ。べつに空しいとかもねえし、ただ、まあそうなるだろって思うだけだ。


「えっ? じゃあ、テストの成績で勝負する?」


 中間ってことか? 中学時代までの、あるいは、この前の入学直後のテストでも俺の負けだったが。


「それは、どっちが勝ちってことになるんだ?」


「そんなの、成績が良かったほうに――」


「けど、光莉に教わるって立場の問題なら、成績が悪い俺のほうが相応しいってことになるんじゃねえの?」


 たしかに、香澄の成績も悪くはねえ、むしろ良いほうだとは思うけど、光莉には及ばねえ。

 とくに光莉に苦手強化があるってわけでもねえし、なら、光莉が香澄に教わるってことにはならねえだろう。

 それで、いや、自分の無能をひけらかすとか、自慢するってわけじゃねえんだけど、光莉が教える立場だってなったときに、どちらがより生徒に相応しいか、教え甲斐があるのかってことなら、俺のほうが適任なんじゃねえのか? 

 いや、賢いほうがどんどん吸収するから教え甲斐があるってことなら、そりゃあ、香澄のほうに軍配が上がるかもしれねえけど。


「詩信くん、香澄さん」


「おまえらいつまでやってんだよ。光莉ちゃんだって呆れてるだろ」


 勝手にやり玉に挙げられていた光莉と、呆れた様子の健太郎の介入で、俺と香澄の不毛な対決は終結をみた。


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