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ストーカーはどこにでも現れるからストーカー 4

 俺もこの後道場に行くからのんびりはしてられねえ。

 

「すみません、お時間を使わせてしまって」


「光莉の謝ることじゃねえよ。俺が気になってついてっただけだから」


 また、過保護だとかって言われるかもしれねえけどな。

 のんびりしてはいられねえとは言ったけど、時間が全然とれねえってほどでもねえし。


「あっ、そういや、光莉。五月の最初の休日は空けといてくれ。まあ、夕方以降って意味だけど」


 クラスはともかく、あんまり休日にまで出かけるってタイプじゃねえみたいだし、今言わなくても大丈夫かもしれねえけど、一応な。


「それはかまいませんけれど、えっと、詩信くん?」


 まあ、いきなりそれだけ言われてもわからねえだろうけど、家だとあからさまに言うタイミングってのがねえからな。


「母さんの誕生日が五月の最初だから、うちじゃあ、家族の誕生日には、駅前のケーキ屋でケーキ買ってきて、揃って食べることにしてんだよ。あー、まあ、予定が合わないときってのもあるけど」


 説明しないわけにもいかなかったけど、どうせ、早いか遅いかの違いになるだけだっただろうからな。いろいろ。

 母の日が近いってのもあるから、タイミングが合わなかったときはそっちで一緒に祝うんだけどな。


「そうなんですね、沙織さんの……。わかりました。ですが、詩信くんも知ってのとおり、私はあまり予定などありませんから」


 光莉はスマホを操作して、多分、母さんの誕生日を登録しているんだろう。


「それじゃあ、詩信くんと彩希さんと、悠仁さんのことも……えっと、詩信くんの誕生日はいつなんですか?」


 そう聞かれると思ったから、あんまり言いたくなかったんだよなあ。せめて、来年以降に聞いてくれってのも、まあ、ありえねえだろうし。

 溜息をつきそうになったのを、なんとか堪える。

 こっちが意識してるって思わせたら、光莉が余計に気にするだろうからな。


「姉貴は七月だな。丁度、夏休みの前くらいか。父さんは十一月の末。それで、光莉は?」


「私は十二月ですけど」


 十二月って、クリスマスと一緒くたにされがちだって聞いたことあるけど、どうなんだろうな。

 クリスマスって、ようはあれだろ? 宗教の教祖の誕生日ってことだろ?

 とくに教徒でもねえ俺たちが、なんで毎年祝ってんだろうな。まあ、なんでもかんでもごちゃ前にしがちなのはいまさらっつうか、お菓子業界の策略が絡んでんのかもしれねえけど。ヴァレンタインとか、ホワイトデーなんかとくにそうだ。

 そんな、顔も見たことねえ(せいぜい、世界史の教科書とかに、肖像があるかって程度だな)相手のことより、光莉の誕生日だってことのほうが重要だろう。少なくとも、身内にとってはな。

 まあ、なんでも騒ぎてえってのを否定するつもりじゃねえけど。


「ですが、私は誕生日はあまり……」


 光莉の表情が曇った気がするが、そのことを俺が尋ねようと。


「おい――」


「それより、詩信くん。誤魔化そうとしていますよね?」


 さすがに誤魔化されてはくれなかったか。

 

「なにか、隠す理由でもあるんですか?」


 そんなに誕生日が重要か? ってのは、今、母さんの誕生日の話をした直後じゃあ、説得力に欠けるよなあ。

 

「いや、俺の誕生日は、まあ、今年のはもう終わってるし、言っても仕方ねえんじゃねえか」


「詩信くんは早生まれだったんですか?」


 光莉がうちに来たのが四月、いや、三月末か? 早生まれだと、その時期にはすでに終わってたってことになる、もっと言えば、今年度の分はまだ来てねえってことになるが。


「いや、早生まれじゃねえよ」


「では、いったい、いつなんですか?」


 すでに光莉の顔には疑いが浮かんでいるし、話さずに終えられる雰囲気じゃねえ。

 まあ、この流れなら、どうせ、今日家に帰れば母さんか姉貴かに聞かれて露呈することだろう。早いか遅いかの違いだけだ。

 二人ともわかってはいるはずだが、黙秘するのも変な話だしな。下手に勘繰られて、知らぬ間に気づかれるってことのほうが、後々、面倒だし。

 仕方ねえか。元を辿れば、俺から始めちまった話だしな。


「四月のまあ、後半だよ」


 具体的な日にちは避けだたが、こんな様子じゃあ、すぐにばれて当然だ。

 案の定、光莉は考え始めてすぐに思い至ったようで。


「四月の後半ですか……それって、その」


 だから言いたくなかったんだよ。

 これだと、俺が催促……いや、また、気にさせるじゃねえか。

 

「すみません」


 光莉が目を伏せて謝罪を口にする。

 たしかに、今年の俺の誕生日付近は、光莉がうちから出ていったことでバタバタしてたし、なんとなく、そんな風に祝える雰囲気じゃあなかった。

 けど、それは光莉だけに問題があるってことじゃねえ。もっと、なにか、光莉を安心させられるような、最初から、今みてえな雰囲気ができてれば、問題なかったはずなんだ。つまり、もっと早くに俺たちにその話をしていなかった母さんが悪い。

 まあ、けど、つけこむようで悪いが、それならそれで、しっかり言い聞かせておくための理由にはできる。


「そうだな。光莉がうちにいなかったからだな」


 暗い顔をさせたかったわけじゃねえけど、この話をすればそうなるだろうことは簡単に予想できた。

 もっとも、完全に光莉のせいだけってこともねえけどな。

 あいつらが余計なことをしなけりゃあ、さっさと連れ戻して終わりになっただけだし、母さんがひと言小言を言って終わってた可能性は高え。

 そうすりゃ、あの後のこともなかったわけだし、それはそれで惜しい……ともかく、なんとかはなってたはずだ。

 

「だから、今後は勝手にいなくなるんじゃねえぞ。俺のはどうでもいいけど、父さんと母さん、それから、姉貴の誕生日は光莉から祝われたら嬉しいだろうからな」


 光莉が無事に戻ってきてくれた――あれを無事だったとは言いたくねえけど――だけで、俺にとっちゃ十分だった。

 なにも、誕生日だからってことの話だけじゃねえ。

 どんな一日だって、家族がいなけりゃ心配するし、当人たちにとっちゃ、なにより優先するべき、大問題だ。

 

「いいか。この話は、くれぐれも母さんとか、姉貴とかにするんじゃねえぞ」


 もちろん、父さんにもな。

 聞かれたから答えただけだ。誤魔化しもできなかったしな。

 けど、姉貴の耳に入れば、間違いなく、あんたなに言ってんの? って感じに睨まれるだろう。それはそれで面倒だ。なんとなく流れがそうなっただけで、本意じゃねえ。


「……わかりました」


 光莉はなんだかもやってそうだが、とりあえず、言質は取った。

 

「沙織さんは、なにがお好きとかありますか?」


「光莉にもらえるもんなら、なんでも嬉しいんじゃねえの?」


 まあ、基本的には母の日と一緒になることが多いし、カーネーションで良いんだろうけど。


「そういう反応が一番困るのですけれど……」


「じゃあ、聞くけど、光莉は自分の誕生日に欲しいものって言われて、ぱっと思いつくか?」


 俺は、咄嗟には思い浮かばねえ。保育園とか、小学校のころならまだしも。まあ、そのころのことなんて、かなりおぼろげになってきてるけどな。

 自分のことだってそうなんだから、他人のほしいものなんて、たとえ家族だって、わかるもんじゃねえ。だから、言葉があるんだろうが。

 

「直接母さんに聞けばいいだろ」


 なにも、サプライズだけが必要なんじゃねえ。そもそも、毎年祝ってるのに、サプライズもなにもねえしな。

 

「わかりました。では、そのときには、一緒に買い物に出かけてくれますか?」


「まあ、そんくらいならいつでも付き合うぞ」


 

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