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クレープ食べるだけでも大変 7

「香澄も知ってるだろうけど、光莉は一度、完璧にふってるんだぜ」


 香澄もっつうか、おそらくは星海高校に通う生徒、それから教師も含めて全員、知っていることだと思う。

 だから、あんなどこが……まあ、顔は悪くなかったか? それに、実家が金持ちだってところと成績は優秀ってところか。世間体的に言えば、それだけあれば十分なのかもしれねえけど、ストーカーして、他人に襲わせるってのは、男としては最低の部類だからな。

 そんなやつに惹かれる理由が、俺にはわからねえ。まあ、そっちのことを他のやつらは知らねえんだろうが。


「それにもかかわらず絡んでくるやつを黙らせるのは、どうすりゃいいんだ?」


 やっぱ、拳しかねえと思うんだが。それか、国家権力。

 

「やつの実家に叩きつけるってのはどうだ? 俺の想像だけど、そういう家柄だかのところは、対外的な評価とかを気にするもんなんじゃねえの? それなら、自分とこの息子が他人様の娘をストーカーなんて、切り捨てそうなもんだけどな」


 健太郎の言うことにも一理あるようには思える。

 だが。


「おまえ、三宮家の場所とか、知ってんのか?」


 規模なんかの詳しいことは知らねえけど、それなり以上には、でかいところなんだろ?

 けど、この辺じゃねえのは確実で、電車で数駅も離れてるってんなら、そんな場所、わかるわけねえ。

 

「そんなもん、警察で聞きゃいいだろ。ついでに、ストーカー行為も報告できて一石二鳥じゃん」


 なるほど。

 俺は光莉のほうへ向き直り。


「光莉はそれでいいのか?」


 なんとなく、警察の世話にはなりたくなさそうな雰囲気だったけど。


「詩信くんは勘違いしているようですけど、私はべつに警察の御厄介になることを避けているわけではありませんよ」


「え? あれ? そうなのか?」


 なんとなく、前にそんなことをふんわりと聞いたような。

 けど、それなら話は早えな。

 

「そんなら、早いところ警察行こうぜ」


「ちょっと待ちなさい」


 立ち上がりかけた俺と続いた健太郎を、香澄が引き止める。

 

「なんだよ」


「今警察に行ったって、数日ストーカーからの警護されて終わりになるでしょ。その間だけ鳴りを潜めて、監視が終わってから再開するかもしれないじゃない。もっと、はっきりした証拠を掴んでからにするべきじゃないの?」


 はっきりした証拠って言ってもな。


「そんなの、この間教師に見せたあれでいいだろ」


 その動画の件は、香澄たちにも教えてたと思うけど。


「そんな、詩信の暴力紛いを受けた後に喋った言葉が、どれだけ法的な根拠になると思ってるの? 脅迫された状況下での自白ってことで、参考程度にしかされない、もしくは、参考にもされないわよ」


「じゃあ、どうすんだよ」


 それだと、三宮三年生がストーカーの一連の黒幕だって証明する手立てがないんだが。

 それで警察を説得できるかっていうと、怪しいんじゃねえの?


「光莉ちゃんが被害を受けてるのは事実なんだし、それで動けないってのは、警察組織側の怠慢なんじゃねえの?」


 健太郎は不満を漏らすが、それを言っても仕方ねえんだよな。

 警察という組織がそういう体制であるなら、俺たちが簡単に動かせるもんでもねえし。そういう体制であるなら、おそらくは被疑者側の権利っつうか、要するに誤認逮捕を避けるために必要な措置ってことなんだろうし。


「けど、過剰な干渉ならどうにか動いてくれるんじゃねえの? 実際、こっちは武器持ったやつらに襲われてんだぜ?」


「だから、それをやったのが三宮先輩だって確証がないって話をしてるのよ」

 

 実際、警察がいつまでもついていてくれるわけじゃねえ。

 警察の姿が見えるときだけ中断して、復讐の機会(逆恨みだが)を狙ってるってんなら、結局今と変わらねえ。

 まあ、三宮三年生が黒幕かどうかってことはともかく、とりあえず、襲われることへの抑止力にはなると思うけどな。

 

「じゃあ、香澄はどうするのが正解だと思うんだ?」


「そうね。あたしたちより信頼のある大人のほうから伝えてもらうとか? それなら、いくらか真実味もあるんじゃないかしら」


 真実味って話なら、動画だけで十分だとも思うけどな。

 脅迫して言わせてるとかって話だけど、ストーカーされてんのは事実なわけで、それを全く関係ねえやつに押し付けるためだけに、わざわざ、そんなつまらねえ動画記録を残そうとするか?

 

「そもそも、その伝える大人? だって、身内だろ? 身内の証言ってのは、証拠能力が低いって話じゃなかったか?」


 この場合は、母さんとか父さんとかって話になるんだろうが。

 あれ? そうすると、家族は家族でも、光莉は正確には血の繋がりはねえ他人だってことだし、証拠能力があるってことになるのか?

 まさか、あんなこと言ってくる職員室に頼んだりはできねえしな。

 教師陣が全面的に、全員悪いってわけじゃねえだろうが、動画がなけりゃあ、相手の言い分を信じてただろう相手を信用できるかって言うと、疑問はある。


「そうじゃなくて、あんたたちが通ってる道場の師範がいるでしょう。たしか、警察でも術科師範とかっていうのをやって関りがあるんでしょう?」


「それはそうだけど、その肩書がどの程度のものかっていうのは、知らねえぞ」


 ただ、武術を教えてる――指導してるってだけじゃねえのか? 師匠が警察官の資格を持ってるなんて聞いたこともねえし。

 そもそも、それだって、結局は第三者だろ? 通報者によって態度を変えるとか、そんなことはねえと思うが。

 

「いいんじゃない、その程度で。ようするに、相手の家が握り潰そうとしてきたときに、それをさせないだけの信頼のある人を立てる必要があるってだけだし。それから証拠の信頼性とね」


「まあ、動画の偽造だって、調べればそれが細工されたものかどうかわかるみてえだしな」


 けど、やっぱり師匠の件を加味しても……いや、そうだな。やるだけのことをやってみてからでいいか。

 三宮の家がどれほどこの件に関して興味を持ってるのかは知らねえけど、息子の不祥事まで全部庇うかってのはわからねえし。

 

「じゃあ、決まりだな」


 こっから交番までなら、徒歩で数分もかからねえ。なんせ、目の前に見えてるくらいの距離だからな。まあ、師匠のところ、道場までの往復を考えると、徒歩だと数十分はかかりそうだが。

 

「あっ、でも、一応聞いときてえんだけど、俺のやったのって、正当防衛に入れてくれるよな?」


 俺だって未成年だし、相手は得物を手にしてたし。

 おまえも相手をぼこぼこにしてんだから両成敗じゃん、とか言われると困るんだが。


「そんなの、俺らにわかるわけねえだろ。それこそ、警察に聞けよな」


 健太郎が肩を竦める。

 たしか、正当防衛に関する法律って、脅迫不正による自己または他者の権利の侵害に対してやむをえずうんたらとかって内容だったような。


「俺がひとっ走り師匠に頼んでくるから、おまえらはここで待っててくれて構わねえぞ」


 こっから、一キロ弱くらいは歩くしな。


「私の問題ですから、私も行きますよ。詩信くんだけに任せてしまうのは心苦しいですし」

 

「あたしも行くわよ。光莉がいれば心配はないかもしれないけど、詩信にちゃんと説明ができるのかは怪しいし、人数多いほうが説得力は増すでしょ」


「言われなくたって、俺もついて行くつもりだったぜ。一応、今回の動画も収めたしな」


 結局、全員で行くことになる。

 なんか、こう、毎度動画を用意してると、それはそれで、用意周到すぎて逆に、俺たちがそういうのを狙ってやってるんじゃねえのかって疑われそうだけどな。

 

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