クレープ食べるだけでも大変
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香澄には協力を頼めたものの、それで相手の尻尾を確実に掴めるってわけでもねえ。
本気であれば、警察に相談に行けばいいことなんだが、当の光莉がそれをあんまり良しとしてねえからな。
昼休み、俺たちは教室じゃなく、あえてラウンジで話し込む。
ここなら誰が通ってもおかしくねえし、誰に聞かれててもおかしくねえ。もちろん、話し込んでても。
対象人数が増えるんじゃねえのかと思われるかもしれねえけど、この目的は、相手を限定することじゃなく、誰にでも聞かれるような場所で話をするってことだからな。
正直、効果があるかはわからねえけど。
「それなら、詩信と健太郎も一緒に遊ばない?」
「俺たちがいると相手が近づいて来ねえから、遠くから見てるスタイルでって話じゃなかったか?」
そのとおりだが、一人増えたぐらいでは支障はねえはずだ。
遠くとはいえ、すぐに飛び出して行ける場所ではあるわけだし。
ただし、そういった場所に位置取るってことは、必然、あれを実行させた黒幕とも被る可能性は高くなるってことでもあるからな。もちろん、計画者が近くで見ているという前提の話ではあるけど。
ただ、それを確かめるって意味でも、意味はあると思う。
もちろん、まるきり見当違いかもしれねえし、そもそも、今回は釣られねえって可能性のほうが高いだろうけど。
一応、学校からの帰りってのは、ある程度、時間帯や経路なんかを予想しやすい。同じ学校のやつだとすればなおさらな。
しかし、今回は休日に友人と出かけようって話だ。
まさか、それを誰の耳にも届くようなところで、大声で話すってのは、あからさまに不自然だし。
ただ、誰にも聞かれねえようにとか考えて下手に場所を選ぶと、結局相手も釣られるとかって以前の問題になるからな。
普通にしていれば、光莉は目立つ。相手がこっちの動きを注視してるってんなら、なおさら簡単な話だろう。
本当なら、そうすることで、ある程度の犯人の絞り込みはできるはずだが、あいにくと、俺も健太郎も、その場にいる人間、全ての顔を覚えるってのは無理だ。光莉に覚えさせたところで、囮役であるため、意味はねえ。確認しようとすれば不自然さが出ねえとも限らねえし。
結局は、出たとこ勝負だ。
今回は姉貴には頼れねえし、監視の目は俺と健太郎の二人分だけだ。
「本当に、こんな単純な作戦で通じる相手と思うか?」
一応、作戦会議っつうか、予定を立てる場には俺と健太郎も臨席している。
たとえ、クラスメイトがいたとして、女子二人が男子を無視して休日の買い物予定を立てるのは、多分、不自然じゃあねえはず。他の三人も問題ないだろうと言ってたしな。
相手も、前回のことから、俺と光莉が一緒にいるだろうってのはわかってるだろうし、逆に、まったく警戒もしてねえようだと、それはそれで怪しいからな。難しいところだが。
「わかりません。ですが、可能性は低くないと思いますよ」
ちなみに、声に出して喋っているのは光莉と香澄だけで、俺たちは、話す必要があるとき――正確には、隠す必要があるとき――は、グループチャットで会話を打ち込んでいる。
会話のテンポは悪いが、作戦を秘密にするためには、仕方のねえ処置だ。
まあ、そもそも、こっちの会話の届くような範囲にいるやつなら、スマホでなんかやってるくらいにはわかるかもしれねえけど、さすがに、その会話内容まではわからねえ、見れねえはずだと思いたい。
「駄目だった場合はどうすんだ? 俺はいつでも付き合えるけど、香澄は忙しいだろ? こんなあからさまな計画、相手が乗ってきてくれる可能性は低いと思うけど?」
健太郎が香澄を見る。
健太郎の予定は、基本的には俺と同じ感じで、道場に通う時間以外の拘束時間はねえ。
「プライドの高いやつなら、乗ってこないことはねえと思うけどな」
ストーカーしといて、さらには、別人に絡ませといて、プライドもなにもねえだろうがってのはおいといて。
相手は前回失敗している。その払拭をする機会を待っているはずだ。それも、できるだけ早くと。
「まあ、来なかったら来なかったでいいんじゃない? それに、あたしなら何回だって協力するし」
そうはいっても、香澄だって、他の友達付き合いがあるだろうし、そもそも、部活だって、毎度、都合よく休みのタイミングが合うわけでもねえだろ? さすがに、練習試合とかにでもなると、その後に付き合わせるのは悪いしな。
俺とか健太郎は、あんま、学外でまで友達と遊ぶってタイプじゃねえけど。
「いや、詩信。おまえと一緒にすんなよ。俺だって休日に友達と会うことくらいあるぞ」
「そうなのか」
俺が道場に顔見せるときは、いつもいる気がするが。
「いや、そんなん、朝とか、放課後とか、せいぜい半日くらいだろうが」
まあ、そんな健太郎の交友関係ともかくだ。
「でも、とりあえず、この件に関しては俺に協力してくれんだろ?」
とりあえず、今重要なのはその期間だけで、それで十分だ。
「まあ、そうだけどよ」
健太郎はどことなく不満そうな顔で、視線を逸らす。
「詩信くんと藤原くんは仲が良いんですね」
羨ましいです、と光莉が呟くと。
「いや、俺は詩信より光莉ちゃんと仲良くしたいけどな。今度はこんなことじゃなくて、一緒に遊びに行こう?」
「……そうですね。そのときは、ぜひ」
健太郎が乗り出したからか、若干身体を引きつつも、光莉は笑顔でそう答え。
「詩信くんも、夏休み――長く時間がとれるようなら、付き合ってくれますよね?」
「まあ、次の日が休みだってんならな」
誘われて断ったりはしねえけど、翌日に学校で授業があるってのに、あんまり、遠出とかはしたくねえ。
絶対に行かねえ、とは言わねえけど。たとえば、道場に通ってても、大会とかには出なくても、他流試合とかはあるしな。
他流試合ってのは、余所の道場に通ってるやつらと手合わせすることで、こっちの道場でやることもあれば、相手方の道場まで遠征することもある。
いずれにせよ、滅多にはねえことだけど、まったくねえってことでもねえ。同門とやるのとはまたべつの、いい刺激にもなるしな。
そもそも、買い物とかなら付き合ってるわけだし。
「光莉ちゃんの言うことにはすぐに頷くんだな」
健太郎はむかつく顔でこっちを見てるけど、俺だって、べつにイエスマンをやってるつもりじゃねえよ。
「そりゃあ、光莉には借りがあるからな」
勉強教えてもらってるっていう。
本来なら、ちゃんと道場で習ったほうが良いんだろうってのは言ったけど、頼られたら応えてえと思うのは普通のことだろ?
「その借りは、武術教えることで返してんじゃねえの?」
「……なにが言いてえんだよ」
健太郎は、相変わらずにやにやとしたまま、べっつにーと誤魔化す。
なんだってんだ、いったい。言いたいことがあんなら言えよ。
「まあ、俺も詩信に誘われるより、光莉ちゃんに誘われるほうが嬉しいし、可愛い女の子のお願いは聞こうと思ってるけどな」
おまえのほうが節操ねえじゃねえか。
「そもそも、ストーカーしてるっていうんなら、光莉と詩信のこともばれてるんじゃないの?」
「どうだかな」
今んとこ、家の周辺で誰かの視線を感じるとか、気配を感じるってことはねえんだけどな。
「光莉はなんか感じるか?」
「いえ。私もなにも感じていません」
光莉は首を横に振る。
まあ、べつに俺たちが同居してるってのは、隠してることじゃねえんだけどな。積極的に話すようなことでもねえとは思うけど。
なにせ、その話をするってことは、光莉の家族のことにまで話が及ぶってことだ。
一緒に住んでる俺でも、詳しい話には踏み込まねえ。無遠慮に聞かれたくはねえ話だってことはわかってるからな。




