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告白に関するあれこれ 教員からの呼び出し 2

 表情や足音、動きから判断するに、光莉はそれほど疲れているってわけじゃあなさそうだ。

 朝の走り込みや鍛練で、一番気をつける必要があるのが、疲れて授業中とかに寝ちまわねえかってことだからな。

 目覚まし代わりって部分は確かにあるけど、多少は疲れるようなペースで走らなけりゃ意味はねえし。もっとも、その疲れを残さねえよう、ストレッチやら、シャワーやらを済ませているわけだが。

 俺は慣れてるからあれだけど、唯一と言っていいかもしれねえ、俺が光莉に勝っている部分、体力の問題だからな。それに、単純な記録的なことからだけじゃあ、光莉の残っている体力がどのくらいなのかってこともわからねえ。それが判断できるのは、光莉本人だけだ。

 師匠とか、その道に身を置く人であれば、教え子のそういった体調面っつうか、体力面を推し量ることもできるのかもしれねえけど、そこまで詳しくは、俺にはまだ無理だ。できたとしても、多少は顔色が悪いとか、視線が揺れてるとか、その程度だな。

 それに、光莉が授業を聞けてねえようなことになると、俺にも教えてもらえなくなるかもしれねえっつう、個人的な(自分勝手だってのはわかっているが)理由もある。

 教師の言ってることがまったく理解できねえってわけじゃねえけど、やっぱり、光莉の解説とかのほうが良く頭に入るような気がする――そして、それは事実だろう――んだよな。もちろん、復習だからって面もあるだろうけど。

 そういう事情もあって。

 

「光莉。疲れとかは問題ねえか?」


 朝食を済ませ、いつもどおりに、一緒に家を出てから尋ねる。

 

「はい。大丈夫です」


 光莉は、常套句っつうか、反射みてえに答えた。

 大丈夫かって聞かれて、やばいとか、死にそうとかって答えるのは、たしかに思うところもあるんだろうが。

 こんなことだから、過保護だとかって言われんのか? 部活の中には朝練をこなしているところもあるみてえだし、ちょっと走って、武術の鍛練をしたくらいで大袈裟に心配しすぎか?

 とはいえ、人になにかを教えるなんてのは初めての経験で、判断は難しい。

 

「香澄さんが普段部活をしているのと同じくらいの時間ですから」


「そりゃあそうかもしれねえけど、体力に関しちゃ、香澄に分があるだろ」


 中学時代から運動してきている、体力測定でも総合で上位に入るくらいの香澄と、同じくらいには運動神経は良くても、運動を――少なくとも運動部ってほどに激しくは――してきてねえ光莉とでは、比べるのは間違ってるだろう。慣れってのは確実にある。

 実際、光莉は同じくらいとは言うけど、運動部の活動時間と比べれば、今日の鍛練とか、走り込みでかけた時間のほうが短いしな。


「……まあ、いい。来週には連休だし、その期間に慣れりゃあいいか」


 授業とかがねえから、その分の疲労とかはわからねえけど、身体を慣らすって意味では都合がいいかもな。

 

「詩信くんはこの時期の連休で、毎年なにかをしているというわけではないんですか?」


「ん? ああ、とくにこれといって決まってはねえな」


 家族で出かけるとかってこともねえし、部活もねえ。道場で合宿があるとかってこともねえからな。

 夏休みとか、冬休みなんかの長期休暇になると、両親の実家に挨拶くらいの顔出しをしたりはすることもあるけど、そんなもんだな、うちで出かけるってのは。それに、母方の祖父母に関して言えば、同じ市内に暮らしてて、時間を作って会いに行く、みたいな感じはなく、ちょっと顔見にいくかくらいの気軽な感じだ。

 そもそも、うちは両親ともそれなりに忙しく働いてて、あんまり暇もねえしな。


「だから、光莉がなにかしたいことがあるってんなら、こっちのことは気にしなくていいぞ」


 それこそ、神岡の実家に顔を出すとかな。

 電車の往復だけで数時間かかるってところなら、たしかに通学には遠いかもしれねえけど、飛行機だとかみてえに、数週間、数か月前から予約が必要だってこともねえだろうし。

 

「つうか、むしろ、俺たちのほうが光莉の実家に挨拶に行ったほうがいいのか?」

 

 光莉の家族だって、母さんのことは知ってるんだろうけど、俺たちのことを知ってるはずもねえからな。どんなやつと一緒に暮らしてんのかってのは気になるだろう、普通。

 

「一応、詩信くんや彩希さんのことは報告したりはしているのですが」


 そんな素振りを見たことはなかったけど。

 それとも、光莉がスマホを買ったと報告したことで、祖父母のほうでもスマホを買ったとか?

 まあ、光莉が大丈夫で、報告もしているっていうんなら、こっちが心配することでもねえとは思うけど。

 

「……詩信くんは聞いたりしないんですね」


 光莉が、ほとんど聞き取れねえくらいに、呟く。

 俺もほとんど聞こえたりはしなかったけど、この流れでなにを光莉が言いたかったのかってのは、なんとなくわかる。

 おそらく、光莉の両親のことだろう。兄弟姉妹はいねえみたいだけどな。

 つうか、それしかねえからな。

 一緒に暮らしていても、光莉の家族のことは最初に母さんから聞いた以上には知らねえ。多分、今後も、俺のほうから聞こうってことはねえと思う。

 けど。

 

「聞いてほしいってんなら、聞くぞ。話しちまいたいってこともあるだろうしな」


 家族に黙ってるのが大変に思えてきたってんなら、いくらでも、話を聞くくらいはできる。

 そこから、解決できるのかとか、なにかができるとは、あんまり期待しねえでいてもらいてえところだが。

 もちろん、逆に、話したくねえ、黙っていてえってこともあるだろうから。その判断は、本人にしかできねえわけだし。

 いずれにしても、だ。

 

「……まあ、こんな道すがらに聞くような話でもねえだろ」


 人ひとり、ほとんど面識もなかったようなところから預かろうって話だ。

 もちろん、母さんはそれなりに交流もあったんだろうが。直接にしろ、間接にしろ。

 その母さんが俺たちに話してねえところを見るに、単純に、家が遠いから居候するってだけの話じゃあねえんだろうなってことくらいは察するけど。

 けど、今の話の流れからするに、光莉のしたいことってのはもしかして、家族に関することなのかもしれねえな。

 聞かなくても、ある程度の事情は推し量れるけど、あえて、思考を回さねえようにする。

 刑事とか、探偵とかってわけじゃねえし、光莉が黙ってるってことは、知られたくねえ、話すつもりもねえことだってことだ。それを、無理やり聞き出そうとは思わねえ。


「それに、連休の後には、すぐに中間試験もあるからな」


 あんまり考えたくはねえことだけど、遊んでばかりもいられねえだろう。

 光莉はともかく、とくに俺は。

 

「詩信くんなら、それほど心配する必要もないと思いますけど」


 光莉は俺の勉強を見てくれている、いわば、家庭教師みたいな存在でもある。

 はっきり言って、教師よりありがたいだろう。俺よりも俺の頭の出来を把握している感があるからな。


「光莉が言ってくれるんならそう思いたいけどな」


 俺としては、なんか、そこまで手ごたえを感じてるってわけじゃあねえんだよな。

 光莉と俺の学業成績には、天と地ほどとは言わねえけど、それなり以上には開きがあり、教えてくれている光莉の解説がいかにわかりやすかろうと、比較対象としては、あんまり優れはしねえってのはわかってはいるんだが。

 

「大丈夫です。詩信くんの成績に関しては、沙織さんからもお願いされていますから」


 補修は嫌だし、せめて、平均点くらいは取りてえよな。

 そのくらいじゃねえと、教えてくれてる光莉にも悪いっつうか。

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