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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ヒロインだと思っていた子が、ヒロインじゃなくて、どうやらヒロインは僕だったようです。

作者: マヨネーズ五郎

少年の声が響く



?「この世は、理不尽なことだらけだ」




……君もそう思わないか?


放課後、夕暮れ時

2人きりの教室で、怪しげな笑みを浮かべ

彼女は言った。



早場(はやば)ニコです。よろしくね?お嬢ちゃん」







ナレーション【この物語は、少女と少年が出会い、そして変化していく物語である。】










♢♢♢♢♢♢





僕の名前は鮎川(あゆかわ)ユハ。高2

日本人の父親と【黄金の国】の民の母親を持つ。

ハーフ。

母譲りの金髪は地毛だ。染めていないし、不良でもない。


同級生からは、よく「女子」みたいだと言われるが、れっきとした男だ。







いわゆる

髪が金髪なだけの、普通の元気いっぱいな男子高校生だ。








同級生A「おーい鮎川~、掃除当番変わってくんね?」






いや…やっぱ噓、全然元気いっぱいじゃない。

僕は、常に無気力だ。

大抵のことは、面倒くさくなってしまう。








鮎川「えー、だるいよ…」






同級生A「今日だけだからさ!頼む!!!!!」





鮎川「うーん…」






同級生A「今度、なんか奢ってやるから!!」






鮎川「…。」






こいつの奢りか…いいかも。

お高い料理、奢ってもらおうかな。







同級生A「…なあ、頼むよ…今日は大事な用事があるんだよ…」








鮎川「いいよ。次、絶対奢れよ?」








同級生A「やった~!!これで彼女との約束に間に合いそうだぜぇ!!!」
















鮎川「は?」







はああああああああああああああああああ?!

このリア充め!!!!!爆発しろ!!!!!!!!

彼女か…いいなぁ、羨ま死。






と、他の男子高校生ならば言うであろう。


だが僕は”無気力”なので、いちいちツッコミを入れるのが面倒くさい。

それに他人の恋愛事情を聞いてはいけない。100%惚気が入る。


幼い頃1度、母に

父との馴れ初めを聞いたら、ひどい目にあった。









鮎川「まぁ、ガンバレー…」








同級生A「おう!本当にありがとな!!!」










   ~ キーンコーンカーンコーン ~







同級生A「鮎川!!また明日な!」







鮎川「…あぁ、彼女の約束に遅刻すんなよ?」







同級生A「今からダッシュで走れば間に合う!うおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」





ドタドタドタドタッ(廊下を走る音)







…。




鮎川「さてと、掃除するか…」



あー…かったるい。だが自分で引き受けてしまったモノはしょうがない。

あいつに沢山、メシ奢ってもらおう。














~数分後~





サッサッサッ(ほうきで床を掃く音)





鮎川「…こんなもんかな」








1人で教室の掃除が終わった、その時。








?「貴方、綺麗な髪ね」



鮎川「!」







僕の耳元で女の子の声が聞こえた。

すぐに、”ソレ”から距離をとる。






鮎川「……誰?」





?「失礼、私先日この町に引っ越してきた…早場(はやば)ニコです。」



なんだこいつは。静かな教室なのに、いつの間にか僕の背後にいたぞ。

気配が無かった。







鮎川「…」







ニコ「ごめんね。貴方の髪が、あまりにも綺麗だったからつい近づいてしまったの」





鮎川「……」








早場ニコと名乗ったこの女の子を、僕は見る。

肩にかかる長さの黒髪、紫色をした美しい瞳、まるで人形のように整った顔

それらを含め、美少女から妖艶(ようえん)な雰囲気が出ている。








ニコ「そんなに警戒しないでよ、私は貴方と()()()なりたいの」









鮎川「君は、幽霊なの?」





早場ニコは、目を見開く。

その動作でさえ、人間離れした美しさがある。








ニコ「あはははははははははっ!!!」






鮎川「…」







ニコ「ははははっー可笑しいっ!、私が幽霊?フフフッ」





鮎川「そんな笑わなくったっていいだろ…」







ニコ「ンフフ、何で私が幽霊だと分かったの?」









鮎川「…美しすぎるから。」


それとやっぱり足音がしなかったから。どんな形でも幽霊はいると思う。

昔テレビで放送していた1つの心霊映像を見た時から、そう考えている。


考え事をしている僕は気がついていなかった、

目の前の少女が頬を染めて、熱い視線で僕を見ていることに。







ニコ「じゃあ、私の正体を見破った君に、ご褒美をあげよう。」







鮎川「…いえ、結構です。」








……。


ニコ「え?!!」







鮎川「…もう掃除も終わったので、帰ります。」





ニコ「ちょ、ちょっと待って!!幽霊と接する機会なんてこの先無いわよ!」





鮎川「驚いた顔も、すごく美人だなぁ」


おっと、声に出てたか…。

掃除も終わったし、そろそろ帰りたいんだけど…







ニコ「そうでしょう!!美人でしょ。もう少し話しましょう、ね?」






鮎川「何故か美少女が、僕を引き留めてくる件について…」






ニコ「?、、、と・に・か・く!!、ほら、手を出しなさい!」





僕は恐る恐る、右手を差し出した。

〈ガシィッ!!!〉

美少女に手をつかまれた。






鮎川「…」




ニコ「…」






繋いだ手から、暖かさが伝わってくる。

あれ…これって、、、?






鮎川「幽霊じゃない?」




ニコ「ジョークよ、ジョーク♡」




彼女は、茶目っ気たっぷりと言わんばかりのウィンクをした。

っていうか…普通に生きてる人だった。

なぁんだ…






鮎川「初めて幽霊を見れたかもって、思ったのに…」






ニコ「?!そ、そんな落ち込まないでよ!…っ私、貴方のことが……」



~キーンコーンカーンコーン~




鮎川「?ごめん、うまく聞き取れなかった」






ニコ「…」





ニコ「…。からかってしまって、ごめんなさい。」





鮎川「いいよ。ちょっとガッカリしたけど…」



ニコ「ゔっ」





目の前の早場ニコは、最初は怪しい雰囲気の女の子だと思ったけど

表情がコロコロ変わって、面白い子だ。

そうだ、





鮎川「ねぇ、早場さん」





ニコ「【ニコ】って呼んで」






鮎川「じゃあ、ニコちゃん」





ニコ「…なに?」








鮎川「僕の友達になってくれない?」




ニコ「!!、いいの?」







鮎川「ニコちゃん、見てて退屈しなさそうだから」




それに、僕には友達と呼べる人がいないから。

話しかけてくれた、この子と友達になってみたい。





ニコ「…。(友達…かぁ。でも、恥ずかしくってからかったの私だし。友達からのし上がって

い、いいいつか恋人になって結婚して……)ぷしゅー/////」







鮎川「ニコちゃん、大丈夫?顔が真っ赤だよ?」





鮎川「熱でもあるのかな」





ぴとっ(おでことおでこがくっつく音)






ニコ「っ!!!ひにゃー-------わわわっ」



すばやくニコは、鮎川から距離を取る。






ニコ「大丈夫!!!!大丈夫だからぁ!!!!!」



おでこまで真っ赤で、心なしか

目にうっすらと涙を浮かべているが、どうしたのだろう。





鮎川「?そうか。」





コホン…


ニコ「…そ、そう言えば、私、貴方の名前を聞いていなかったわ」







鮎川「ああ、僕の名前は鮎川ユハ。よろしく」






ニコ「早場ニコです。よろしくね?お嬢ちゃん」


彼女はまだ赤みがかった顔で

微笑んだ。








ナレーション【こうして、少年と少女は出会った】












鮎川「…その”お嬢ちゃん”って呼び方やめてくれないか

    僕はこう見えてもれっきとした男子なんだ。」




僕は、彼女にそう言った。





♢♢♢♢♢♢



突如として転校してきた女の子「早場ニコ」は

クラスの中で新鮮なのか

彼女の周りに人が集まっていた。




その様子をボーっと眺める。


トントン…



僕の肩を軽く叩く奴がいる


鮎川「…なんだよ?」




?「あの子のことが、気になるのー?浮気者めー!」




振り返ると、1人の少女がいる。

雪のように白い髪の毛に三つ編みをしている、こいつは「小日向(こひなた) アキナ」。


隣の家に住んでいるいわゆる「お隣さん」ってやつ。


僕とこいつは、高校入学をした時に知り合った。

というか

アキナが一方的に僕に懐いた。





アキナ「ユハっちー、ねぇってばー!聞いてる?」





鮎川「…聞こえてるよ」




小日向アキナは、こんな無気力の僕のどこが気にいったのか知らないが

事あるごとに僕の側にいる。




鮎川「…。」




鮎川「…で、何の話してたっけ?」






アキナ「もー!ユハっち~っ、あの転校生のことだよ~」




僕は、視線を人に囲まれている「早場ニコ」に向ける。





鮎川「…美少女だよなぁ」







アキナ「…」



あ…また口に出てたか。

あれ、いつも騒がしいアキナが、やけに静かだな。



鮎川「…アキナ?」







アキナ「……ユハっちはさ、あの子みたいな子が好き?」



アキナの表情が暗く、瞳にはドロッとした影が差す。






鮎川「…」






アキナ「…ねぇ」





鮎川「いや、美術作品見てる感じだ」


早場ニコは、完成された美しさがある。なんだか同じ人間とは思えないくらい可憐で綺麗だ。

高嶺の花、人が触ってはいけない人知を超えた”なにか”。

見ているだけで、拝みたくなるような神々しいオーラが出ている。






アキナ「…ふーん、そっか!!!じゃあ、あの子は恋愛対象じゃない?」





鮎川「ああ、そうだな。というか僕は恋愛した事無いし、興味も無い。」





恋愛か…生きてるだけで精一杯なのに、これ以上頑張るのは無理だ。

恋とか分からないし、女心も知らない。

それに、なにより面倒くさい事この上ない。誰か、息してるだけで褒めてくれ。




鮎川「…アキナも知ってるだろう?僕は面倒くさがりなんだ。」







アキナ「…ふふ♡、そうだね!ユハっちは、そういう奴だったね!!…(ボソッ)安心したよ。」





アキナ「(良かった、、、他の人に恋なんかしちゃったら、ユハっちを閉じ込めちゃう所だった)…」






ナレーション【小日向アキナは、ヤンデレである。】









鮎川とアキナが会話を続ける、





アキナ「そうそう!ユハっち~今日、ケーキ食べに行こうよ~」






鮎川「…ムリ、ケーキはあんまり好きじゃない」






アキナ「ユハっち、女子っぽい雰囲気だからケーキ好きかなって思ったんだけど。」






鮎川「…なんだその謎理論は。

…僕の性別は、男だ。それと、見た目と好きな物は関係ない。」




アキナ「……うん!ユハっちは、ユハっちだもんね!!じゃあ、ハンバーガー食べに行こ~?」






鮎川「…どこ」




アキナ「フレリンバーガー」





鮎川「いいね」



超絶美味しい、ハンバーガーチェーン店「フレリンバーガー」。

通称「フレリン」


とろーりチーズと2枚のジューシーなパティ、それらと抜群に相性が良い

しゃっきしゃっきの玉ねぎ&秘伝のソースと

とても絶妙な塩コショウ。


このハンバーガー店の目玉商品の「数量限定、絶品フレリンダブルチーズバーガー」である。







アキナ「じゃあ、今日の放課後。一緒に食べに行こうね!」







鮎川「ああ、そうだな」






鮎川とアキナが楽しげに話をしている、

そんな2人を見つめる美少女がいた。

そう、早場ニコである。






ニコ「…。(私も、ユハっちって呼びたい!!!!、なになに!その隣にいる奴は!!!!!

うにぃっ!!!!…放課後デートですって?!な、なんだってー!!

私も、私もユハっちとデートしたいのにー----!!!!)

…ぐっ。」




ニコの脳内は、とても荒ぶっていた。

それもそうである。



ナレーション【早場ニコは、鮎川ユハに恋をしている】








ニコは自身の周りにいる人だかりに

一言「ありがとね」と微笑んだ。


そのあまりにも美しい笑みを、受けたクラスメイト達は

次から次へと鼻血を吹いて、床に倒れた。





同級生B「…グ八ッ」


同級生C「ひょえっ…神様」


同級生D「なんかもう俺、今死んでもいい…」


同級生E「生きてて良かったー---!!」






唯一、彼女持ちの同級生Aだけは

無事だった。





同級生A「お、お前たちー-----------!!!!!気をしっかり持てー----!!!!!」





B,C,D,E「「「「うるせぇ、リア充め!!爆発しろ!!!!」」」」






早場ニコは、その場を後にした。








アキナ「~でさ、これってどう思う?ユハっち~」





鮎川「心底どうでもいい」




アキナ「えぇー」





そして

ニコは、教室の後ろで親しげにしている2人の元へと、近づいていく。






ニコ「あのっ!」






鮎川「…なに」




アキナ「………今ねぇ、あたしがユハっちと話してるからさ~

     (訳:美少女サマ 笑  は 引っ込んでてよ?)」





ニコは、満面の笑みで答えた



ニコ「私は、貴方に話しかけていないので、気にしないで下さい

   (訳:あんたが失せろ)  」





バチバチバチッ!!

ニコとアキナの間で、火花が舞った。






鮎川「…??なぜ、3人で話さないんだ?」






ニコ「…。」

(訳:恋のライバルと仲良くは、出来ない。)




アキナ「…うーん、女子の事情?」

(訳:何だろう、同族嫌悪?かな)








鮎川「…そうか、、、」




”女子の事情”か。僕には、よく分からない。



アキナは、僕が異性のクラスメイトと話すだけでも

嫌がる。なぜか癇癪(かんしゃく)をおこす。


話しかけてくれた女の子と友達になろうとしても、相手がアキナを見た途端

顔を真っ青にして逃げて行く。




それに、よく「一緒にお風呂入りたい」だの言って

僕が湯船に浸かっている時に、風呂場に乗り込んできた事もある。


速攻でアキナを、風呂から追い出した。

あの時のアキナの顔が、怖かったのだ。……なぜか、獲物を逃がさないとしている野生動物の殺気を感じた。





ナレーション【*鮎川とアキナは、付き合っていません。】





でも今になって考えてみるだに、家が隣同士だから僕のことを”兄か弟”の様に思っているのかもしれない。

それで、兄妹が取られてしまう恐怖があるのかも…!

それなら、いままでのアキナの行動に納得できる。






鮎川「…アキナ、大丈夫だぞ。僕はお前の兄ちゃんだぞ。誰にも取られないから安心しろ」






ナレーション【鮎川ユハは、超天然であった】








アキナ「…は?」




ニコ「ブッフッ……!あはははっ!!」





ニコ「そうよ、妹枠は狙っていないから、安心して頂戴?」




”ニヤリ”と効果音が付きそうな顔をした彼女(ニコちゃん)






瞬間、アキナは顔を真っ赤にした。







アキナ「……っ、ユハっち!行こう!!」




〈ガシッ〉

そう言って僕の右手を掴むアキナ。




鮎川「…アキナ?」

どうしたのだろうか、まだニコちゃんの用件を聞いてないのに。

トイレにでも行きたいのか?






〈ギュッ〉

反対の左手を誰かに掴まれた。



ニコ「私は、この人に用があるの。」





ニコちゃんだ。この子に手を掴まれている……なんだこの状況。




僕の右側には

不機嫌そうにニコちゃんを睨んでいる、アキナがいる。



そして左側には

僕を真っ直ぐ見つめるニコちゃんがいる。






間にいる僕は、ひたすら困惑した。






鮎川「…なにコレェ」




2人が、それぞれ別方向に手を引っ張る。





アキナ「○○○~!!!!」





ニコ「△△△△△△△。」




何か言い争っているが、今は耳に入りそうにない。

両手が、ピンチ。




〈〈ミシミシッ〉〉




あ、やばい。

骨が小さな音を立ててきた。

両サイドを引っ張られ、手と腕が痛い。





女の子なのに、以外と力が強いぞ。

…このままだと、僕の体が”さけるチーズ”のように、さけそうな感じだ。




引っ張りあっている2人に何かを言おうにも、

プチパニック状態にある僕には、何も出来ず

なされるがままだった。








そんな時に、僕の救世主は現れた。





同級生A「おーい、鮎川ー、…ってなんだその状況」





そう、同級生Aこと僕の大親友の

騎士沢  (きしざわ)タハタ」くんである。





赤い髪の毛に、赤い眼の色をしている。

いつも騒がしい奴で、性格は〈The・熱血〉って感じの

唯一、このクラスで彼女がいる男だ。




僕は、彼に助けを求めた。






鮎川「騎士沢!!ヘルプ!!!!(大声)」


腕が千切れる!!!!!






騎士沢「おうよ!!!!!!よく分からんが、任せろ!!!!!!!!!!!!!!!(クソデカボイス)」







騎士沢が、2人に呼びかける。



騎士沢「すまん!!!鮎川(の腕)がピンチなんだ!!!離してくれないか?」







アキナ「え~、ヤダ★」






ニコ「なぜ、貴方に指図されないといけないの?」





騎士沢「…すんなりとは、離してくれそうに無いな。」





彼が、僕に視線を向ける。

騎士沢、なんでもいいからこの痛みから解放してくれ。





ー この時、冷静になった僕自身が少女達に「痛いから、離して」と頼み込んで

お願いすればよかったと後悔することになる。 ー






鮎川「…騎士沢ぁ(涙目」






騎士沢「…こんな事は、言いたくないが

実は、…鮎川は…、、、、」





ニコ・アキナ「「?」」







騎士沢「…鮎川は、腹を下しているんだ!!!!!!!!!!!!!!」




ー----だー、ー--だー-、ーだー--






騎士沢の声が教室に反響する。

その大きい声は、教室の外の廊下まで響いた。








鮎川「…」





アキナ「…」






ニコ「…」







騎士沢「だからな、鮎川をトイレに行かせてやってくれ!!!!!!」








アキナ「もーユハっちってば!つらい時は、言ってよねー」





ニコ「…その、お腹大丈夫?」








千切れると思った痛みが無くなる。

2人は、僕の手を離した。







騎士沢のでかい声の影響で

クラス中の視線が僕に集まったままである。




ひそひそと声が聞こえる

「えー下痢(げり)なんだ」、「鮎川ちゃん…マジか」、「あれまぁ」


ヒソ


ヒソ


ヒソ






腕は助かったけど

助けてもらった代償は、「とても恥ずかしい気持ち」になることだった。





……ああ、これが俗に言う「恥ずか死ぬ」って感情か…。

出来れば、一生経験したくなかった。







少女2人が心配そうに、僕を見つめている。









鮎川「…み、見ないでくれ…。」



頬が熱い。

僕の顔は、生きてきた中で1番赤くなっているだろう。







〈ギュッ〉



騎士沢(恥ずかしさの原因)に手を引かれる。



騎士沢「俺が責任を持って、鮎川(こいつ)をトイレまで連れてくぜ!!!!」






パタパタパタパタ(足音)…




鮎川と騎士沢が手をつないで(騎士沢が一方的に手を引いて)教室を去った後…






その場に残されたニコとアキナは、お互いに睨み合っていた。




ニコ「ねぇ、」




アキナ「…」






ニコ「少し、2人でお話しましょう?」


黒髪の少女、早場ニコは挑発的な表情を浮かべた。

それに対し白い髪の少女、小日向アキナは答えた。




アキナ「いいよ~♡」




両者ともに笑顔で会話をしていたが

この時の彼女達は、目が全く笑っていなく

教室内の体感温度が急降下していったのだった。



たまたま その場に居合わせたクラスメイト達は、後に語る。


「2人の後ろに、般若のような、恐ろしいものが見えた」と。














♢♢♢♢♢♢




騎士沢に連れられて、トイレの手洗い場までやって来た。



僕はもう、恥ずかしくて顔を上げられない。

ずっと下を向いたままの僕を見た騎士沢は、それは不思議そうに聞いてきた。





騎士沢「鮎川、(腕)大丈夫か?」






鮎川「全然大丈夫じゃない」


主に心の傷が。









……


目の前の彼を見る。


この騎士沢という男は、”熱血バカ” に分類される。



いわゆる[陽キャ]で、噓がつけなくて、困った人がいたら直ぐに助けてしまうお人好し。

まるで、何かのマンガの主人公の様な男。



そんな彼は、クラスメイト(男限定)からも好かれた。

いつも周りに人が集まって、楽しそうにしていた。




だけど…ある時に、事件が起きた。




同級生Cがふざけて「この中で彼女いる人~!」と言った時に


騎士沢は、馬鹿正直に「俺、いるぞ。」と言うもんだから

男どもから「爆発していい、リア充」認定されてしまった。



僕の学校には

古くから、代々受け継がれてきた【カップル撲滅の会】があるらしく

何やら、男生徒の大半がメンバーらしい。




クラスメイト達(男)は、身内に裏切り者がいると知り

円陣を組んで、リア充爆発の儀式を始めた。

(実際は、ただヘンテコな踊りを踊っているだけ)




彼女持ちと分かってからは

騎士沢に好意的に話しかける奴は、いなくなった。

…僕1人を除いて。









騎士沢「鮎川??!腕、そんなにヤバイのか?!」



僕は、俯いていた顔を上げる。

騎士沢がオロオロとした、面白い顔をしている。





鮎川「ふふっ…お前の顔見てたら、大丈夫になってきた」





不思議と

恥ずかしかったことなんて、どうでもよくなってきた。

目の前の大親友が、ほっとしたようで、オロオロ顔から笑顔になった。





騎士沢「そっか!!!!良かった!!!!!」





鮎川「まぁ…その…、ありがと」






騎士沢「おうよ!!!鮎川と俺の仲だからな!!!!!!!!!」



眩しいくらいの笑みを浮かべて、騎士沢は答えた。






鮎川「ところでさ、そろそろ手離してくんない?」









、、、。…っ!!!!!!



騎士沢「…あ!!」






鮎川「お前、手掴んでた事忘れてんじゃねぇよ…」






騎士沢「悪い悪い!!!!夢中で歩いてたからさ…」





こいつといると楽しい。

くだらない馬鹿話をしたり、メシ食うのも気軽に行く事が出来る。



鮎川「そういえば、昨日お前の掃除当番、変わったよな?

                     …約束通り、(おご)ってくれよ?」




騎士沢「っ!!      忘れてた!!!!!!!!!」







鮎川「おいおい…。それで?肝心の彼女との約束は、間に合ったんだろうな?」







騎士沢「……っああ!!!!ちゃんと約束に間に合ったぞ!!!!!

          鮎川のおかげだ!!本当にありがとう!!!!!(クソデカボイス)」








鮎川「そっか。なら安心だ。」



超絶めんどい掃除当番を、代わりにやってやった甲斐(かい)がある。

大親友の力になれて、嬉しくて

僕は、”ニッ”と笑った。












だから気がつかなかった、騎士沢の体が震えていたことに。








♢♢♢♢♢♢




あれから数分後、もうそろそろ授業が始まる時間ということで

僕と騎士沢は、教室に戻るべく廊下を歩いていた。





ーパタパタ(足音)ー








騎士沢「なあ、鮎川。」







突然、前を歩いていた騎士沢が立ち止まった。






鮎川「ん?なんだ??」






日頃、したことも無いような

とても真剣な表情で問いかけた。




騎士沢「どうして、俺と仲良くしてくれるんだ?」






急に唐突な質問である。

え、マジでどうしたんだコイツ。





鮎川「急にどうした」







なぜか?…そんなの分かり切っている。



鮎川「どうしてって、そんなの僕とお前が大親友だからだ」





僕の言葉を聞いた騎士沢が、苦しそうに呟く。










騎士沢「…鮎川は、優しいな。」









鮎川「マジでどうした?大体は元気いっぱいのお前が、暗くなって。」




騎士沢「…実は」





鮎川「うん。」






騎士沢「……オ、オレ」





鮎川「うん。」





騎士沢「……(スゥッー」







騎士沢は、数回僕に何かを言おうとして

言いとどまる。見てるこっちが、心配になるくらい

顔から汗が吹き出ている。




鮎川「騎士沢。」







騎士沢「!!!!」






鮎川「ゆっくりでいいから、僕を頼ってくれ。」







騎士沢は、”何か”を言おうと口を開けたり閉じたり

パクパクとしている。

でもその内、口を一直線に(つぐ)んだ。





騎士沢「………やっぱり、もうちょっと待ってくれ。俺の心の準備が出来てない。」





鮎川「そうか…。これだけは、覚えてろよ    

              …僕は騎士沢の味方だからな。」






騎士沢「…ありがとう。」




この感じ

騎士沢のやつ、何か悩んでるみたいだな…

!そうだ。






鮎川「騎士沢、明日の放課後ヒマか?」







騎士沢「お…おう!!めちゃくちゃヒマだ!!!!!」






鮎川「僕がラーメンでも奢ってやる」






騎士沢「いいのか?!」






パッと顔を僕に向け、キラキラした目線で見てくる騎士沢。

一瞬、背後に犬が見えた。






鮎川「おう。美味い塩ラーメンでも食おうぜ」


そう言って、僕は騎士沢の横を通り過ぎる。












騎士沢「ああ、そうしような!  

         

             …(言えるわけない。俺がお前を好きになっちゃったこと)…。」









ナレーション【騎士沢 タハタは、鮎川ユハを愛してしまった】












  ーキーンコーンカーンコーンー



…2人だけの静かな廊下に、授業のはじまりを知らせる 鐘の音が響く。





鮎川「うわっ!ヤバイ…」




〈グワシッ!!!〉


鮎川は、隣にいる人物の手のひらを掴んだ。




騎士沢「!!!」





手を繋ぎ、走り出す。

暗い顔をしていた騎士沢も、一緒になって走った。








〈タタタタタタッ〉









2人分の足音が廊下に響く。

赤い髪の1人は

愛しい人の後ろ姿を眺めながら、思いにふける。







騎士沢「…っ。(この時間が、ずっと続けばいいのに)」









鮎川「どうかしたか?」








騎士沢「何でもない!!、鮎川急ぐぞ!!!!!!!!!!!」










騎士沢の大きな声が、廊下にこだました。

ピカピカに磨かれた廊下の床に、2つの影がゆらゆらと揺らいでいた。






♢♢♢♢♢♢





    ~ー キーンコーンカーンコーンー ~






騎士沢「うおおおおおおおおおおお!!!!!」






ズザザザザザーっと音を立てて、僕と騎士沢は教室になだれ込んだ。

派手に教室に入ってきたせいか、しぃんと静かになった。


クラスメイト達を見やる、その中に見知った顔があった為

僕は、呟いた。



鮎川「…ギリギリセーフ?」






ニコ「…。」




アキナ「…。」





ニコちゃんとアキナは、笑みを浮かべながら答えた。





「「アウトです。/アウトだよー」」






先生の怒号が飛んできた。











…僕と騎士沢は、遅刻した罰として廊下に立たされている。

もちろん両手に1つずつ水の入ったバケツも、持たされて。






騎士沢「うぐぉぉおおおおおお!!!!!なぜだ!!!!!!

      間に合ったと思ったのに!!!!!!」






鮎川「…あの先生は、ルールに厳しいからな…。」





ってか、廊下に立たせるとかいつの時代だよ。

こちとら令和だぞ。

さっきも手が千切れそうだったのに、水持たされてとか…

全然、手が休まらない。キツイ…



心の中でブツブツと毒を吐く。






そんな僕達のもとに、近づいてくる人物がいた。








?「よっス!」






彼女は不良&授業サボり魔の…えっと名前は、、、誰だっけ?



?「ノリちゃんっスよー」





そうそう、緑色と青色のツートンカラーのロン毛で

人懐っこいギャルの「ノリ」だ。



…っていうか、コイツ僕の心を読んでいるのか?

さっきから、僕は一言も発していないのに…






ノリ「ユハちゃん、考えてることが全部顔に出てるっスよ~」






鮎川「…僕、そんなに分かりやすかったか?」






ノリ「分かりやすすぎるっス」




あはは、と笑ってノリは

僕の真っ正面に移動した。









鋭い目つきを更に細めて、

ノリが何気なく言った。











ノリ「…そろそろ、男のフリ止めたらどうっスか?    

                     …ユハちゃん。」









ノリの助言に対し、

目の前の金髪の「鮎川 ユハ」という()()

困ったように微笑んだ。













ナレーション【鮎川ユハは、女子である】



















♢♢♢♢♢♢




場面は(さかのぼ)る。

騎士沢に引っ張られて、鮎川が教室から出ていった後。



その場に残された


早場ニコと、小日向アキナは

屋上に続く階段にいた。









早場ニコ  SIDE












ニコ「それで?」







私は、白い髪の三つ編みをした()に尋ねた。

男は不機嫌そうに言った。






アキナ「それでって?…悪いけど、アンタと話す気はないよ~」








ニコ「貴方に話す気がなくても、私にはあるの」









アキナ「アンタさ、自分のこと()って言うんだね」







ニコ「…それがどうかしたの?」










アキナ「俺と同じ男なのに、なんで女の口調なんかしてるワケ?」







ニコ「なんで?って…それは……」






それは……



鮮明に覚えている幼少期の記憶


()()()が、”女の子”の私だと喜んでくれた。

泣いてばかりだった彼女、

彼女の好きなアニメのヒロインを真似したら  泣き止んで笑顔になった。




…っていうか、







ニコ「貴方も、さっきは”あたし”って言ってたじゃない。」










アキナ「…チッ。」







…ンで忘れてネェんだよ。と彼は呟いた。

ギロリと効果音が付きそうなくらいに

こちらを睨んでいる。






ニコ「貴方、鮎川さんの前で猫かぶってたのね。」










アキナ「…ぅるせぇ」




アキナ「つーかよ、あんただって俺と同じだろ?

               いい加減、”素”で話せよ、美少女サマ。」







ニコ「…ハァ」






なんで、この三つ編み男は

いちいち煽ってくるスタイルなのか…ハァ、ため息が出る。






ニコ「…。」







アキナ「…おい、美少女サマ?」







そんなに、”女の子”じゃない本来の性別(おとこ)の僕と話したいのか。コイツ。



ニコ「…ハッ、まだまだ子供(オコサマ)だなお前。」








アキナ「…あ゛あ゛ぁ?」






今度は僕が煽る。

奴は、「人1人殺してきました」と言わんばかりの

凶悪な顔になった。






ニコ「つーか、質問に答えろ」








アキナ「…やーだねっ!!誰がユハっちのこと教えてやるもんか!」







奴はプイとそっぽを向いた。…こいつ、いちいち腹立つな。

ふーん、そっちがそう来るなら

こっちにも考えがある。








ニコ「…お前の秘密を、鮎川に言ってやろうか?」











…まぁ、今日初めて会った人の秘密なんて

本当は知らないんだが……カマをかけてみる。








アキナ「…!」







アキナ「……何のジョーダン?」







ニコ「…。」





僕は、意味深な笑みを浮かべて奴を見た。

じとりと汗をかいている彼。







アキナ「…。(こいつ、こいつ、俺だけの秘密を知っているのか?、…もしそうだったら()()()()()





………。




アキナとニコは、睨み合う。

緊迫した空気の中で、アキナが先に動いた。

自身の学ランのポケットに手を突っ込む三つ編みの男。


ポケットの中では、カッターナイフがちょこんと居座っている。

アキナは、そのカッターに手を伸ばし…




すると、







ニコ「やーめた。」






早場ニコは、くるりとアキナに背を向けた。







アキナ「は?」





アキナは面食らったハトの様に、目を丸くした。






アキナ「…(何が目的なんだコイツ)」






ニコは、アキナに背を向けたままの状態で

数歩前を歩いた。




そして「あー…」と呟いて、こう続けた







ニコ「…お前の秘密は    」





アキナは、秘密が露呈(ろてい)する前にと

握っていたカッターナイフを振り上げ

ニコへ向けた。




自身に刃が向けられている事を知ってか知らずか

ニコは続ける。








ニコ「お前の秘密は、鮎川のことが大好きってことだ」






ピタッ


脳天に振り下ろそうとしていたカッターが止まる。





ニコは、後ろ姿のまま「カマかけて悪かったな」と言った。






アキナ「~~~っ、ハァー-…」





盛大にため息をついたアキナ。

どうやら毒気が抜かれたようだ。




ニコは振り返らずに続ける





ニコ「鮎川のことは、教えてくれなくていい。僕が本人に聞くから。」







そう言って教室に戻ろうとするニコを、






アキナ「待って!!」






アキナが反射的に引き止める。

ニコが振り返る。






アキナ「分かったから、教えるから、ユハっちに聞くな!!」




ニコ「なんで?」








アキナ「…アンタが知りたがっていた事と関係してる。」






三つ編みの男は、真剣な表情になり話しを続ける。






アキナ「…ユハっちは

         男が女の子に見えて、ユハっち自身を男だと思っている。」






…精神的ストレスにより、幻覚が見えているんだ。

奴はそう呟いた。







ニコ「…」





そう言われてニコは腑に落ちた。

最初に”お嬢ちゃん”と呼んだときも、「自分は男だから」と言っていたし

僕のことをやたらと「美少女」って呼んでくるのも

彼女が()()見えているということだ。






ニコ「…どうして、、、」





あの子に一体何があった?

僕の愛しいあの子に。

無意識に眉間にしわが寄る。








アキナ「…俺は、まだアンタを信用した訳じゃない。」






三つ編みの男は、苦虫を食い潰したように

その綺麗な顔を歪める。







アキナ「それでも

すごく嫌だけど、俺とアンタは同類だから分かる。 

                      …アンタはユハっちを傷つけない。」





同類…

同じ人を好きになった奴同士って意味のようだ。

目の前の奴は続ける。






アキナ「…ユハっちを見てる時の顔が、すごく優しい目をしていたよ。アンタ。

     本当は、ライバルになんて教えたくないんだ。」






アキナ「…アンタ、1つ約束してよ」







三つ編みの男は、僕に近づき

耳元でこう言った。








アキナ「ユハっちに昔の事を思い出させるな」









ナレーション【三つ編みの男は、鮎川ユハを守りたい】










♢♢♢♢♢♢








ニコ「彼女に何があった」









アキナ「…日記。」





ニコ「?」


僕は首をかしげる。

目の前こいつの、焦点が

だんだんと合わなくなっている。





アキナ「俺、ユハっちの日記を見つけちゃったんだ。」









アキナ  SIDE( 回想 )




桜舞い散る中で、君の姿を見た途端

己の心臓が大きく跳ねた。



ドッドッドッ



鼓動が急に早くなって、うるさく響いた。




高校入学初日に、俺は 1人の女の子に惚れた。

その子の名前は、鮎川ユハ。






太陽の光を反射してキラキラと輝く金色の髪。伏し目がちな眼は、深く黒い宝石のようだ。




彼女は、そよ風で形が崩れてしまった髪を掴み

自身の耳にかける。



…その動作さえ、すごく眩しい。






俺の視線に気づいた彼女は

俺の方を見る。





…あ、目が合った。   好きだな。





15歳の俺は、今まで恋愛に興味が無かった。

なぜなら

男女のいざこざや、修羅場に遭遇したことが多かったからだ。(主に兄のせいで)


男友達だけでゲームしたりする方が

よっぽど楽しかった。







だから、



こんな風に、誰がを





好きになるなんて…




運命を感じた僕は、意を決して

1人の少女に話しかけた、






















で…何やかんやで友達になった。

俺とユハっちの最初の会話は、ムカつく恋敵には ぜぇったいに教えてやらない!









ニコ「ナンパかよ、うげぇ…」





早場ニコが ぼやく。






アキナ「うるさいな!!アンタだって、初対面の時にユハっちに めちゃくちゃ近づいてたくせに!」









ニコ「はっ?!…何でお前が知ってんだ」








アキナ「本人から聞いたに決まってるだろ ~」






この黒髪の男は、俺の話を聞きたくて

わざわざ 引き止めたりしたくせに、こう横槍を入れられたら

話すのも更に嫌になってくる。



早く話を終わらせて、目の前の男とはオサラバしたい。









アキナ「…コホン!話を戻すぞ  ユハっちと仲良くなった俺は、彼女とよく雑談する関係になった。」






知り合ってから半年がたったある日

俺は、彼女の違和感に気が付いた。





ユハっちは、第一人称が「僕」だ。

最初のうちは 僕っ子ってやつだと思っていたんだが





どうも、彼女は自身を男であるかのように 振る舞う。





それだけなら 単なる個性ってことで問題は無いけど、

そうじゃなくて問題があるとしたら

男の俺に、「三つ編みにしたら」と言ってくる、”男を女の子扱い”している点だ。





俺だけが、女の子に見えているのではなく

関わる人全ての人達の性別が正反対に 見えてるっぽい…




男は女の子に見えて、女の子は男に見えている。





それで、気になって俺  彼女に聞いてみたんだ。





アキナ「ユハっち、何で俺を女の子扱いするの?」






鮎川「…?  何言ってるんだ?僕は男で、アキナが女の子だからに決まっているだろう。」







ユハっちは、黒い目をもっと どす黒くして

当たり前の様に答えた。





アキナ「っ…そっか…」




気圧されて 1歩後ずさる

”これ以上、踏み込んではいけない”と本能的に感じた。


めちゃめちゃ怖かったんだ、この時の彼女。









気圧された次の日

俺は彼女の家に泊まっていた。

ユハっち曰く「友達と一緒に晩ごはんが 食べたい」とのこと。





初恋の女の子に、家に呼ばれてドキドキして眠れなかった俺は

目の下に立派なクマが出来ていた。



彼女と下校後、鮎川家に到着した。






鮎川「どうぞ」






アキナ「…ア、ドウモ」






緊張してカタコトになっている俺と、そんな俺を見て笑う彼女。



ここまでは平和だった。





〈ガチャリ〉


玄関ドアの鍵を開ける。





鮎川「ただいまー。今日は 友達連れてきたんだよ!」






アキナ「…」

















…そこには、1つ黄色の ネコのぬいぐるみが置いてあった。

座っているそれは、こちらを向いている。




彼女は、ぬいぐるみに話しかける。…まるで()()と接しているかのように





鮎川「お母さん、今日ね  アキナを連れてきたんだよ」






ネコぬいぐるみ「…」








返事は無い。

当たり前だ、”それ”は人ではないのだから。






それでも彼女は話し続ける。






鮎川「可愛い女の子でしょ? ……っ違うよ!ただの友達だってばー」







ネコぬいぐるみ「…」








照明のついていない薄暗い玄関で

高校生の少女が ぬいぐるみに話しかけている という 異様な光景に


普通の人なら、ドン引いてしまうだろうが


俺は…









俺は、この子を支えたい と思った。






だから まずは、鮎川ユハについてもっと知ろうとした。







俺が”どうやってユハっちについて知ろうか”と考えている間に

彼女は、ネコ(ぬいぐるみ) との会話を終えたようだった。







鮎川「お母さん、喜んでるみたい。今日の晩ごはんは、豪華だってさ」





彼女は、ぬいぐるみを腕の中に抱え

いつもと変わらない表情で 俺の方へ歩いてくる。



どうやら

ネコぬいぐるみ は”お母さん”に見えているようだ。



1歩



2歩





と近づいてきた彼女を目の前にして、考え事をしていた俺は

はっ と我に返って、返事をした。






アキナ「そっか! 良 か っ た 」










ニコ「…いや、何も良くねぇから!!」




今まで黙って聞いていた黒髪の男は、キレッキレのツッコミを入れる。

アンタさては、漫才でキレ芸でもやっていたな?




おっと、話が逸れたな




アキナ「…まぁ、俺はどんなユハっちでも 受け入れるし~?それより、続けるよ~」








ニコ「…あぁ。」







しわしわのピカチュウみたいな顔をしている早場ニコを横目に、

俺は話を続けた。












アキナ「…家に招かれた俺は、なぜか風呂に入らされた」













鮎川「お風呂も入っていけば?ってお母さんが言ってる」







あれよあれよとユハっちに タオルケットと共に

風呂場の脱衣所に押し込まれた。



色々と困惑したけど、浴槽にはお湯が沸いているから

素早く体を洗って、湯に浸かった。




…お風呂は、極楽だった。ちょうどいい温度設定で ガッチガチだった緊張が 少しほぐれた。







風呂から上がったら、リビングの方から美味しそうな匂いが漂ってきたから

俺は、タオルと一緒に置いてあった Tシャツと短パンを着て

リビングへ向かった。





鮎川「お帰り、湯加減どうだった?」







アキナ「とっても気持ち良かったよ~」






鮎川「そうか、晩ごはん丁度出来た所だから 食べないか?」







このいい匂いの正体は、ユハっち(好きな子)が作った料理だった。

うぅぅ、感動で叫んでしまいそうなくらい、嬉しい。






アキナ「うん!!!食べよう!!」






2つ返事でOKし、彼女がいる台所の方へと行く。

どうやら彼女が作っていたのは、クリームシチューだ。

にんじん、玉ねぎ、ブロッコリーにジャガイモ  カラフルな具がシチューに散りばめられている。


ユハっちは、シチューに黒コショウ・コンソメを付け加え よく混ぜている。


…!良い匂いが、更にお腹がすく良い匂いになった。

流石はユハっち♡ ますます好きになっちゃうよ




アキナ「皿は、これでいい~?」






鮎川「花柄の大皿を取ってくれ」






アキナ「オッケー!」









その後は、彼女と一緒にシチューを食べた。

俺は、「いつの間にユハっちは、俺の嫁になったんだっけ?」なんてポヤーッとしていた。





アハハ、ウフフフ

わぁーい楽しいなぁーー!




ユハっちと俺と、俺の隣のイスには  ネコ(ぬいぐるみ)が座っているけど

そんなことは、 どうだっていい!



あー今日も、ユハっち可愛い~  最高!!料理上手!!!俺の嫁!!!!















ニコ「お前の嫁では無い。」




早場ニコが羨ましげに、俺を睨む。

ふふふっ残念だったな!!

ユハっちの料理は、天にも昇るくらい美味かったぞ



ま、口に出すと  話が進まないので

ここでは、余裕ある態度でいる。




俺は にまぁーっと目を細めて笑う。

きっと、優しさに溢れた満面の笑みをしているだろう。


ふはははっ






ニコ「…(本当 いちいちムカつく)」













アキナ・鮎川「「ごちそうさまでした」」






至福の食事が終わり、

ユハっちは 料理を作っていたため風呂に入れなかったので

風呂場に向かって行った。






鮎川「僕の部屋に漫画があるから、それ読んでて」




そう言われた俺は、彼女の部屋にいた。




ユハっちの部屋には、ぬいぐるみが3つと 勉強机、ベット、2段の小さな本棚があり

ぬいぐるみ以外はどれも白色でまとめられている。


ぬいぐるみ…長いから略して”ぬい”でいいか、

ぬいの1つ目は  さっきの「ネコ」




2つ目は  ()()()()のツートンカラーのクマ。




…3つ目は、黒く汚れて何のぬいか分からない。










ふと 部屋を見渡すと

彼女の勉強机に置かれている日記を見つけたんだ。




俺は、勝手に読むのは良くないと思いつつ ユハっちについてもっと知れるかもと考えて



数分悩んだ末に日記に手を伸ばし、 中身を見てしまった。






アキナ「っ!!!」


















日記に書いてあったのは…ーーーー



 




NO SIDE





ニコ「なんだよ、それ」




黒髪の男は、怒りで震えていた。



愛しい少女に起きた悲劇、理不尽なまでの不幸

ドス黒い殺意という感情が入り混じる。





アキナ「もう1度言っとく、ユハっちに過去を思い出させるな  早場ニコ」






三つ編みの男は、そう言ってニコの横を通り過ぎた。





1人残ったニコは自身の手を強く握り締めている。

行き場のない怒りと共に、ニコの手のひら から血がポツリと流れ落ちた。











【彼らは、鮎川ユハの過去を知っている】











♢♢♢♢♢♢







…さらに場面は変わって、放課後。






アキナと鮎川は、休み時間に約束したファーストフード店「フレリンバーガー」に来ていた。





アキナ「んー!美味しい♡」




モグモグとフレリンバーガーを頬張るアキナ。

アキナの正面には鮎川が座っており

同じく名物のハンバーガーを食べている。



鮎川「…旨い」





アキナ「ユハっちてば、リスみたいに頬張っちゃって 可愛い〜」





アキナにそう言われて

ムッと眉をしかめる鮎川。





鮎川「僕より アキナの方が可愛いだろ」






アキナ「…ふふっありがとう♡(俺としては、彼女の方が可愛いんだけどな)」


 








そんな2人を物影にある席から見ている人物がいた。

そう

黒髪の転校生 早場ニコだ。




ニコ「…(ユハちゃん。)」





この男子高校生は、自身が想いを寄せる少女が

色々と心配(精神面と恋愛面)で気になって

学校終わりから、コッソリついて来たのである。




しかも変装のつもりなのか

サングラスと帽子を付けて逆に目立っているので、アキナ(三つ編みの男)はニコの存在に気付いている。





アキナ「今週のジャヌプで始まった漫画がさぁ~(…何してんだあいつ)」





変装している(つもりの)ニコは

改めて彼女の表情を観察する。

鮎川ユハは 目を輝かせながらハンバーガーをむしゃむしゃと食べている。





フレリンバーガーがあっという間に彼女の口の中に消える。

…ん゛!!! 可愛い。

まるでハムスターがひまわりの種を食べているかのようだ。



お腹いっぱい食わせて、暖かい布団でぐっすり眠ってほしい欲に駆られるが、

下唇を噛んで、ニコはその場にとどまった。






ニコ「…(もう少しだけ、様子を見よう)」





ニコの視界の端に、赤い髪がチラッと映った。

赤い髪…と言えば、ここら辺の地域では騎士沢1人だけである。



騎士沢タハタは、鮎川と同じく女子である。

とても熱血で 声が大きい。



今どき珍しいタイプの女子で

自身のことを「俺」と言ったり

可愛い女子の彼女がいたり(百合である)と、



そこらの男より、男前な女子である。

その騎士沢が

ニコの目の前の席へやって来て

流れるようにスマートに座る。






騎士沢『…転校生も、鮎川を付けてきたのか?』           (* 『』内は小声である )




コソッと尋ねる。


いつもは、馬鹿でかい声の騎士沢が

今回は珍しく小声だ。





ニコ『貴方は…騎士沢さん。』







騎士沢『おう、騎士沢だ。転校生』





赤い髪の少女は真っ直ぐな瞳で 目の前のニコを見た。




ニコ『…貴方もついてきたのね』







騎士沢『ああ、鮎川のことが最近 気になってな』





ニコ『そう。私と同じね。』








騎士沢『…。』





ニコ『…。』







お互いに無言になる2人。

それもそうである

こいつらの本当の目的は、【想い人が男と放課後デートしている様子を見に来て、鮎川が取られてしまわないように、デートの妨害&あわよくば自分が鮎川とデートしたい】が為であった。





デートの妨害といっても、ノープランのままで尾行してきた ニコと騎士沢は

ただ単に 同級生2人のデートを遠目から 悔しそうに見ているだけである。




ニコなんかは、ギリギリと歯ぎしりをしそうになりながら 『グググッ』と声にならないうめき声を吐き出した。





視線の先にいる、金髪の少女は

楽しそうにアキナとフライドポテトをつついている。






アキナ「はい、ユハっち♡ あーん♡」




鮎川「…そう言って口に押し込んでくるのヤメロ」





アキナ「も〜そんな事言っちゃって♡ 照れてるの?」







〈ワイワイ ガヤガヤ〉

 

ニコの小さなうめき声は 店内の雑音に紛れてかき消された。









…数分間デートの光景を見ていたニコと騎士沢は顔を見合わせて

音もなく席から立ち上がった。




騎士沢『ちょっと時間あるか?言っときたいことがあるんだ。』






ニコ『…ええ、良いわよ。』







赤髪の少女と黒髪の転校生は、ファーストフード店を後にした。






アキナ「…。(あいつらやっと出ていったか、俺とユハっちのデートを邪魔しようなんざ100年早いわ!)」






鮎川「…どうした、アキナ」







アキナ「!  ううん、何でもない~  

             …見てユハっち、このポテト超レアの星型だ!!」





鮎川「まじか~すげえな」








〈ワイワイ ガヤガヤ〉



その後も、アキナと鮎川の会話は続き楽しい時間が過ぎていく。

そうこうしているうちに

空は、夕焼けの時間から星が輝く夜へと 移り変わっていった。









【星空だけが、彼らを見守っている。】







♢♢♢♢♢♢




騎士沢とニコは、少し離れて歩いていた。






ニコ「ねぇ、騎士沢さん」






静かな住宅街の細道でニコは問いかけた。







騎士沢「なんだ、転校生!!!!」






〈キーン〉と耳鳴りがしそうなくらい大きい声である。

ニコは「(うるせぇ)」と思いつつも、疑問に感じていた事を口に出す。














ニコ「貴方、鮎川さんのこと好きなの?」








〈ヒュオオオー〉






2人の間に突風が吹き荒れる。

それを聞いた瞬間、騎士沢は目を見開き、固まった。







騎士沢「………

  ああ、好きだぞ!友達として!!!!」








ニコ「そう?友達に向けるような目じゃなかったけど」







騎士沢の頬には冷や汗が垂れる。

黒髪の男は、確信があった

騎士沢が鮎川に惚れている確信が。






騎士沢「…気のせいじゃないか?」






ニコ「…まあ、言いたくないのなら追求しないけど」






騎士沢「そう言う転校生は、鮎川の事好きなんだな…」





ニコ「ええ。愛しているの」



即答したニコ。

騎士沢は、苦笑いで返した。





騎士沢「そうか!俺には彼女がいるから、心配しなくても鮎川を取ったりしないぞ!!」






ニコ「なら良いわ、変なこと聞いて悪かったわね」





そう言ったのを最後に、2人の会話は終わった。

沈黙の中、騎士沢は思考していた。






騎士沢「…。(俺のこの想いは、誰にも言わない。だって、鮎川近くには 幸せにしてくれる男がいる)」

 







騎士沢  SIDE(回想)




彼女との約束の為に、鮎川に掃除当番を代わってもらった日。 


俺は付き合っていた彼女に振られた。




彼女「タハタ、私を通して誰を見ているの?

もう、私達別れましょ」






騎士沢「え」








彼女がいると言ったが、あれは嘘だ。

正しくは彼女がいた(過去形)の方だ。 



彼女の事を大切にしていたつもりが、

あの子は、見抜いていた。



俺が、鮎川を愛してしまった事を。





だが俺は、この想いを伝えるつもりは無い。

怖いのだ、鮎川に拒絶され 軽蔑されてしまうことが。





俺は女で、鮎川も女。

そう簡単に告白が受け入れてもらえるのか

という不安。







自身が男であったなら、鮎川の隣に立てたのか?

正々堂々と自身を持って告白できたのか。







考えても仕方がない事でグルグル悩んでしまう。

…俺らしくもない。

口ごもって

鮎川にも、心配を掛けてしまった。






夜の星が煌めく中、

前を歩く転校生を見る。



 


騎士沢「…幸せにしろよ。」




騎士沢の震えた声は、静寂の中では

よく響く。

もちろんニコの耳にも届いた。





ニコ「…ああ、任せろ。」





騎士沢「…アハハッ、素が出てるぞ!!」







ニコと騎士沢は、同時に笑い合う。

笑っていた赤い髪の少女は、夜空を見上げた。





騎士沢「今日は、1段と眩しいな!」






少女の頬には、涙が1筋はらりと流れていた。









【赤い髪の少女は、鮎川の幸せを願っている】


 








♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢








ー幕間ー  少年Aの1人語り






番長こんにちは!




あのね

ボクこれから、あの子に会いにいくんだ






…ああ、これ?

これはね“スーパーヒロイン”のカチューシャだよ!






似合ってるでしょ〜えへへ

あの子がくれたんだー!






…むむっ





そんな羨ましげに見ても、あげないからね!

これはボクの宝物だから!








あの子はね、ヒーローレッドとライバルの

スーパーヒロインが大好きなんだ!







泣いていても、ヒロインの真似をするだけで

笑顔になるんだ〜







今日も、あの子はきっと泣いてる






だからね、今日からは

ボク…じゃなくて“私”なの







困ってる人を助けるスーパーヒロイン参上!!


うふふ♡ってね








あっ!そろそろ行かなきゃ

また今度ね、番長!!









ユハちゃんが待ってるの!







〈なーぉ〉



黒髪の少年が、去った後

丸々とした茶トラ猫が

ペロペロと毛づくろいをしていた。







【猫の番長は、ただ見ている。】











♢♢♢♢♢♢



NO SIDE

 







次の日、昼休み

学校の屋上に鮎川を呼び出したニコ。





ニコ「鮎川さん」








鮎川「…ニコちゃん」






お互い立ちすくんだままの状態に

緊迫した空気が流れる。




顔を見つめ合っていた彼と彼女は

同時に頷いて、

ニコは〈スッと〉片手に持っていた袋から

箱の様な 何かを取り出した。








鮎川「…じゃあ、お昼ご飯食べよっか」






そう2人きりの昼飯(ランチタイム)である。

その事実に、黒髪の転校生は嬉しそうに微笑んだ。







ニコ「来てくれてありがとう」







鮎川「…別にいいよ、メモ渡された時は 何事かと思ったけど」








1限目

教室を移動した際、

鮎川の隣の席になったニコは




ニコ『鮎川さん』



彼女を小さな声で呼び

4つ折りにしてあるメモ用紙を鮎川の右手に渡した。





そう、この黒髪の転校生(ニコ)アキナ(恋のライバル)に知られずに

鮎川をランチに誘うことに成功したのであった。








…現在




鮎川「それ、弁当?」




その問いかけに対し

ニコは手に持っている黒い重箱を2つ両手に持つ。




例えるならば、サーカスでピエロが

両手に円状のお手玉を置いてマジックをするかの様な

そんなシュールな光景になっている。








ニコ「ええ、鮎川さんの分も作ってきたの」









1つだけかと思われた3段重ねの弁当は、なんと2つあった。








鮎川「え、貰っていいの?」








ニコ「もちろんよ」





ニコは、優雅な笑みを浮かべ

鮎川を熱のこもった瞳で見つめている。






普通

出会って間もない人からの手作り弁当(しかも3段重ね)を貰ったらどう思うだろうか?



困惑、不安、得体の知れない物と警戒するだろう。



もしこの場に騎士沢が

居たとしたらこのようにツッコミを入れたであろう。





騎士沢「知り合ったばかりなのに、弁当?!

    …何か怖いな!!!!」


と。









しかし

この鮎川は、違った。







鮎川「僕の分まで…ありがとう。」





警戒心ゼロであった。




それを聞いたニコは

目を細めてくすりと笑い

鮎川の前に弁当箱を1つ差し出した。







ニコ「はい♡召し上がれ」





 

受け取った弁当のフタをあける。


〈ふわっ〉


食欲がそそられる匂いが、鼻をくすぐる。






鮎川「すごい、これ全部手作りなの?」










ニコ「うふふ、そうよ。貴方に喜んでもらいたくて作ったの。

                  …急で迷惑だったかしら?」





しゅんと効果音が付きそうなくらいに

見るからに肩を落とし、暗い表情になるニコ。








鮎川「ううん、嬉しいよ。ありがとう ニコちゃん」







自然と笑顔になる鮎川。







会話が弾んでいく。





ニコ「この煮玉子、自信作なのよ」






鮎川「分かった、大切に食べるね」




あははは

うふふふ♡






鮎川「…。(やっぱりだ)」





初対面の時から感じていた違和感




鮎川「…。(何故か分からないけど、ニコちゃんといると安心できる)」


鮎川はニコの前では、どうも心を許してしまう。










ニコ「鮎川さん」





優しく耳に響くその声が、なんだか懐かしい。









……。







〈ザザッー…〉



頭の中に映像が浮ぶ。

黒髪の幼い少年が、何かを話している。







少年「ユハちゃん、見てーお花の指輪! ユハちゃんの分も作ってきたの~」









……!





…っ僕は彼を知っている。




必死に少年の名前を思い出そうとする鮎川。…しかし、一瞬思い出された記憶は それ以上呼び起こすことは無く、鮎川の脳に 強い痛みをもたらした。






〈ーキィーンー〉







鮎川「あ゛あ゛ぐっ…」









…頭が割れるように、痛い。

あ゛あ゛あ゛あ゛!痛い痛い痛い痛い!!!!!!








強烈な頭痛と耳鳴りに見舞われた鮎川は、コンクリートの上に膝から崩れ落ちた。

そのまま ジタバタと手足を動かし、もがいている。










ニコ「鮎川さん?! 」






ニコが慌てて近寄り、鮎川の顔を覗き込む。






涙とよだれで顔がべちゃべちゃになっている。

呼吸も「ヒュッ…」と繰り返してしまい うまく出来ていない。




どうやら、パニック状態にあるようだ。





状況を見たニコは、0,3秒間 固まってしまったが 即座に我に返り、鮎川の体を優しく抱きしめた。










〈ギュッ〉







ニコ「大丈夫。もう怖くないよ、痛くないよ 

                    …私がユハちゃんを守るからね。」






鮎川の頭を愛しい宝物を触るように、撫でるニコ。




〈なでなで〉






鮎川「カヒュッー…」






〈なでなで〉







ニコ「私の大好きなユハちゃん。よしよし、よく頑張ったね。」









〈なでなで〉






鮎川「…ヒューッ…」









〈なでなで〉








ニコ「もう痛い事も、悲しい事もないよ。」









〈なでなで〉








ニコ「私がずっとそばにいる」








〈なでなで〉







鮎川「…。」








〈なでなで〉





鮎川「…スゥ…」




こうして

ニコが尽力(じんりょく)をつくした事により 鮎川の過呼吸は止まった。




金髪の少女は、安心したのか 黒髪の少年の腕の中で 

スヤスヤと眠っている。






ニコは、愛しい人が()()()()傷つかないようにと

願いを込めて目の前の少女を強く抱きしめた。










ニコ「…今度こそ、守ってみせる。」










【早場ニコは、鮎川ユハの傍にいる。】








♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢





? SIDE   ーある幸せな少女のお話ー









とある所に1人の少女がいました。




少女「今日は、公園に行ってきたの」






2階建ての一軒家に住んでいる彼女には、3人の家族がいて、毎日幸せでした。




母は、病気がちで 一緒に散歩も出来ませんが

唯一寝る前に絵本を読み聞かせてくれる母が、大好きでした。




出歩けない母の為に、母が好きな”黄色”のお花を 

草むらで見つけた少女は

1輪のタンポポを持って、母の元へと行きました。




少女「ねぇ、お母さんが好きな黄色のお花!!見つけたわ」






母「…。」






母は布団から体を起こした状態のまま

ピクリとも動きません。





なぜなら()()()しまったからです。

 なら死んでいるのか?

         ーいいえ、体は生きています。動こうと思えば動く事も出来ます。


しかし、自らの意思で動く事は 滅多にありません。


母は「心」が壊れてしまったのです。





それでも、少女は話しかける。





少女「お母さん、私もっと頑張るから

                頑張って頑張って頑張ったら…前みたいに笑顔になる?」





母は、何の反応も示しません。

少女は 母の真ん前まで近づき、黄色い花を差し出しました。





母「…。」





その黒い虚ろな目には、目の前の少女(こども)すらも

映りません。


少女は、母の枕元に黄色いお花をそっと置き、大好きな母へ「おやすみなさい」と声を掛けます


毎日、毎日、いつか母の病気(こころ)が治ると信じて…












 

 少女は毎日幸せです。

大好きな母ともっと大好きな弟がいるからです。





弟の名前は「ノリ」。 少女の1番の宝物。



とても人懐っこくて、ツートンカラーの仮面ヒーロー「グリーン&ブルー」に憧れている

少女にとって愛しい弟です。






少女「ノリちゃん、ただいま」







ノリ「あ!お姉ちゃん、おかえりなさい」





テレビを見ていた弟が振り返り、少女のそばまで歩いてきました。

そのまま、ノリは少女に抱きつきます。




少女は、愛しい弟をきゅーっと抱きしめて 幸せを感じます。





ノリ「も~次は僕もお外へ連れてってよ!」




〈ぷくーっ〉  姉が1人で外へ出かけた事に不満なのか

ハリセンボンのように頬が膨らみました。

そんな可愛すぎる弟を前に、少女は自然と笑顔になります。





少女「分かった。今度は一緒に行こうね」






ノリ「本当?! 絶対だからね!!お姉ちゃん」






不機嫌だった弟も、その言葉を聞いて笑顔になりました。





〈ギューギュー〉




どうやら、ノリは寂しかったようで

姉からピッタリくっついたまま、離れようとしません。






少女「ノリちゃん、だぁいすき!」







ノリ「ノリちゃんも、姉ちゃん だぁいすき!!」




あはは

うふふ

楽しそうな声が、無機質な部屋に響きます。








少女「お姉ちゃん、頑張るからね…」





姉弟は いつまでも抱きしめ合っていました。

















少女は毎日幸せです。



母がいて、弟の「ノリちゃん」がいて、、、、、父がいます。






父からは日々「お前なんか 要らない」なんて言葉を浴びせられますが

少女は平気です。




だって少女には、母と弟がいたから。





少女の父は、世間一般で言うところの”クズ”に分類されました。



自己中心的で、家族を大切にしない


ギャンブル中毒で一生返せない借金がある


暴力とモラハラをする


不倫をしている


etc.



…そして、少女の母の心を壊した張本人です。





母は昔、少女に話してくれたことがあります。

まだ  母の心が壊れていなかった頃、






母「お父さんはね、とってもステキな人なのよ」



 


顔を赤らめ、恋する乙女のように父のことを語っていました。


…だから少女は、信じていました


母が信じている”ステキな父”が

いつか家族を大切にしてくれると。













少女は毎日幸せです。




ある日 少女は、近所の公園に来ていました。

誰もいない事が多く

小さいシーソーとブランコとベンチのみの

木々に囲われた公園です。




少女が公園に足を踏み入れると

見覚えのある少年が駆け寄ってきました。




少年「ユハちゃん!」





…そう、この「幸せな少女」の名前は

鮎川ユハと言います。




少年と少女は顔を見合わせ、




ユハ・少年「「ことよー!」」




と声を揃えて、クスクス笑い合う。

2人はアニメ「ヒーロー&ヒロイン」の主人公レッドの挨拶

「こんにちは、友よ!」

の頭文字を取った “ことよー”と言う言葉がお気に入りでした。



少年「あっちにね、キレイなお花を見つけたんだ!」




ユハ「そうなの?!」





パアァッと嬉しそうなユハ。

しかし、ハッとして 

だんだんと暗くなる表情に


黒髪の少年は、オロオロとしていました。





少年「ど、どうしたの?どこか痛いの。」







ユハ「ううん、違うの」






黄色いお花を見ても、

お母さんは 一向に元気になりません。

今までもお花を

少年と一緒に探していたけれど 見抜きもされず枯れてしまうばかりでした。





ユハ「お花は、もう いらないの」




そう言った少女は

目に涙を溜めて、俯きました。



今にも泣き出しそうな少女を見た

少年が取った行動は、





少年「 ‥私はスーパーヒロイン

困ってる人を助けるスーパーヒロイン参上よ!!」





少女が好きなアニメキャラの真似をする事でした。

突然の行動に、顔を上げて

ポカンと口をあける少女。





。    。    。




静寂







ユハ「…っぷ アハハハハ!!」




少年の精一杯の真似は

ユハを笑顔にしました。



少年は大好きな少女が笑ってくれて

嬉しくて、もっともっとと

真似を始めました。




少年「うふふ♡レッドには負けられないわよ」





アハハハハ

うふふふ♡


子供達の笑い声が公園内に響く。

2人は、時間の許す限り共にいました。



この少年との時間が、少女ユハが涙を見せられる

かぎられたひと時でした。 















少女ユハは毎日幸せです。




ある日、弟と約束していたお外へと出かけ

帰ってきたユハと弟の「ノリ」




ユハ「あれ?」






1軒家の我が家に帰ると、玄関の鍵が開いています。

いつもはしっかりと閉められているのに…







玄関の隙間から”何かが焦げたような”匂いが漂ってきます。




言葉に表せない不気味な雰囲気が、辺りを包む

こういう時ほど嫌な予感は当たってしまいます。












ノリ「お姉ちゃん…火が出てる」





震える手で指を指す弟。



そして、弟が指差した方を見る少女

いつもは、閉まっているカーテンも開いていて

家の中の様子がまる見えになっています。





…リビングから火が出てるわ!!


状況をすぐさま把握した少女は家の周辺を見渡しました。




火は1階でどんどん燃え広がっており

外から見た限りでは

まだ、2階には到達していないようでした。








ユハ「ノリちゃん、おとなの人を呼んできて」



少女はパニックになっている弟に、そう告げました。







ノリ「…お、お姉ちゃんも一緒に行こうよ」




少女は病気で動けない母のことが気掛かりでした。

この火の中、まだこの家の中にいると少女の勘が叫んでいたのです。

母はきっと2階の寝室にいる!





ユハ「ううん、お姉ちゃんは お母さんを助けなきゃ」






ノリ「嫌だ!!!お姉ちゃんと一緒じゃなきゃ嫌!!」





駄々をこねる弟に困った顔をする少女





ユハ「お願いノリちゃん、すぐ戻ってくるから」





何も弟は、大好きな姉を困らせたい訳ではありません。

ただ、姉ともう2度と会えなくなってしまうような()()がありました。





ノリ「…お姉ちゃ」




〈ボォウ!!〉



リビングの炎が大きく揺れて、みるみる家具や壁を燃やしています。

この家が全焼してしまうのも、時間の問題でした。





少女はくるりと、弟に背を向けて





ユハ「…すぐ、戻ってくるから。」






そう言い残し、炎の勢いが増していく家の中へ飛び込んでいきました。










ノリ「お姉ちゃんー------!!!!!」








残された弟は、ひたすら走りながら大声で叫びました。





ノリ「助けて!!!!誰か! お姉ちゃんが!!!!お姉ちゃんを助けてっ!!!!!!」



















少女は毎日幸せです。

優しい母がいるから




少女は毎日幸せです。

愛しい弟が笑ってくれるから





少女は毎日幸せです。

父に傷つけられても全然平気




少女は毎日幸せです。

黒髪の少年が友達でいてくれるから




少女は毎日幸せです。

心がズキズキしても平気




少女は毎日幸せです。

涙が止まらなくても平気




少女は毎日幸せです。

息がうまく出来なくても平気





少女は毎日幸せです。



だって、そう思わなきゃ ”心”が壊れてしまうから。




ユハ「私は、毎日幸せです。」




何があっても、どんな理不尽に傷つけられても、死にたくなっても

笑顔で頑張るからさ、いい子でいればきっといつか報われるって信じてた。





神様、、




どうして、





お母さんが刺されているの?












2階の寝室で衝撃的な光景を少女は、見た。




〈グチャグチャ〉



少女の母は、覆面を付けた男に刃物で刺されていた。

馬乗りになって無抵抗の母の心臓を刺している男。




何度も何度も何度も何度も何度も何度も!!!!





肉を割く嫌な音が炎と混じって響く、







〈グチャ〉








少女は、頭が真っ白になった。

無意識に後ずさる。





〈ギシッー〉




少女が踏んだ床が、大きな音を立てて軋んだ。





ぴくり




執拗に刺し続けていた殺人鬼の動きが止まり

男がこちらを振り返る。







ユハ「ひっ!」






覆面から見える目がギョロリと少女を見て





殺人鬼「次  は  お  前  だ」








〈ドスドス〉




早歩きで殺人鬼が近づいてくる







少女は恐怖で足がすくみ、動かなくなった母から目が離せない。





赤黒くズタズタな体

母の黄色の寝間着

撫でてくれた手

母の見開いた目

色が無くなっていく肌

母の大量の血



ピクリとも動かない母






ユハ「あああ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」






少女は、走った。





走って走って走って走った。








涙で目の前が歪み、2階の階段から落ちようとも

一心不乱に走り続けた。





とても長い間走っていた様に感じる。








少女は、後ろからの「殺してやる」という声から必死に逃げた。





走って







走って








走って






走った先に見えた光。


玄関だ!!!!

少女は迷いなく家の外へと走り抜けた。




























家の外には、大勢の人で溢れていた。

命からがら殺人鬼から逃げてきた少女は、愛しい弟の姿を探す。








ユハ「ノリちゃんー---!!!!!どこー--!!」







〈ガヤガヤ ワヤワヤ〉




人が多すぎて分からない。

弟は無事なのか?不安と恐怖で涙がジワリとにじむ。


少女に気が付いたらしい

大人の人が声を掛けてくる



大人1「君、大丈夫か?」



大人2「頭から血が出てるじゃないか! 誰か、救急箱持って来て!!」




あ、血が出てたのか

階段から落ちた時に、頭を打ったのか なんて少女は他人事のように思う。

状況と、殺人鬼のことと、母のことを

詳しく話す少女。




大人2「俺は、見ての通り筋肉ムキムキだから。その悪い奴を捕まえてやるぞ!!安心してな!」




大人3「警察も呼んどいたよ」




大人に囲まれていると、少年の声が響いた。





ノリ「お姉ちゃんー---!!!!!!!」




…人だかりの中にいた!!



ユハ「ノリちゃん!!!!あああ、ノリちゃん!!!!!」




少女の元へ弟が駆けてくる



〈タッタッタッ〉








2人は、ひかれあう磁石かのように強く強く抱きしめ合った。




〈ギュゥー-----っ!!〉









ノリ「お姉ちゃん、無事…全然無事じゃないよぉ

              頭から血出てるよぉぉぉ…うわー----ん」




ハグをしながら少女の顔を見た弟は、大粒の涙を流し始めた。

弟に会えて安心した少女も、つられて泣いた。







ユハ・ノリ「「えー-----ん!!/えー-ん…グスッ」」






泣きながら離れようとしない姉弟に、

後からやって来た救急箱を持った大人達も胸が温かくなった。






数分間泣きじゃくっていた2人も、

お互いの体温で気持ちが落ち着いてきたようだった。





姉にピッタリくっついて離れないノリと手をつないで

少女ユハは、血の止血手当を受けていた。





ノリ「ねぇ、お姉ちゃん」




ユハ「なぁに、ノリちゃん」




ノリ「もう、僕を置いていかないでね」




ユハ「うん。ずっと一緒だよ」






かれこれもう3回は、同じ会話をしている姉弟。

周りの大人達は言う




大人1「無理もない、怖い目に遭ったんだから」




大人2「そうだな。…しかし、消防車はまだか?」




大人3「今、渋滞であと10分は掛かるそうだ」




大人4「おーい!鮎川さんとこのお父さんが来たぞー!!」




大人1「おお、それなら子供たちも安心するだろう」







大人5「ユハちゃん、ノリくん、お父さんが来たよ」




身を寄せ合っていた2人はビクッと震えた。







あの男が来る?

お母さんを壊したあいつが?

人を傷つける事で喜んでいるクズが?


弟は嫌悪感を露わにし






少女は希望を抱く。


今まで無関心だったお父さんが来た?!

いい人になったのかな?

…もしそうなら、良いのにな と。








父親が人混みを分けてやって来た。





父「お前達!!」





ユハ「お父さん、、、」




ノリ「…。」








2人に寄ってきた父親は、子ども達の姿を見た途端

涙ぐみ、

普段とは違う“外ズラの顔”になった。



父は、ユハの目の前へ近づく。ノリは姉の手を強く握りしめた。






ユハ「‥お父さん?」





父「よかった」







ユハ「え?」  / ノリ「は?」












父「よ か っ た

    こ れ で 始 末 で き る」










〈ザクッ〉











ノリ「お姉ちゃん!!」








少女の腹部に包丁が突き刺さった。







大人5「キャーー-------!!!!!!!」






ユハは、その場に倒れ込んだ。

自身に何が起こったのか分からない。






そう

少女は、実の父親に包丁で刺されたのである。







倒れた少女は、弟に抱きしめられていた。



大人4「こいつ!実の子供を…!!」





大人2「俺が抑える!!!!!くそぉぉぉぉぉ!!!!!」






大人5「救急車ですか?! 子供が刺されました!!早く来て!!!!」







周りが、うるさい。









ノリ「お姉ちゃん、お姉ちゃんっ!!!!!!

                …血が、止まらないよぉぉぉっ!!!!」








ノリが何か叫んでる。



…お腹が焼けるように痛い、痛い痛い痛い痛い痛いぃ!!!






ユハ「う゛う゛ぃ」




声もうまく出ない。

体が震えて、指先が冷えていく。






ノリ「ユハお姉ちゃん!!!」






…ノリちゃん、泣かないで。 私はノリちゃんの傍にいるから








ノリ「ああああああ、嫌だ!!!!嫌だ!!!!ユハちゃん!!!!!」









…きっと貴方を幸せにしてみせるから







〈ツゥーー〉


少女の口元から血が流れる。







…元気になるから、また 起きたら遊ぼうね








少女は、最期の力を振り絞って言葉を発する










ユハ「         大 好 き よ、  ノ リ ち ゃ ん          」 















その日、1人の少女が死んだ。


彼女は不幸な子であったが、最期は弟の腕の中に抱かれ

それはそれは 穏やかな顔で眠った。












少女は、確かに幸せだった。











【鮎川ユハは、死人である。】














♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢





NO SIDE  




現在








鮎川ユハは、目を覚ました。








ニコ「あ、起きた? 気分はどう?」







ユハ「…ここは?」






ニコ「屋上よ、お昼ご飯を食べようとしたら 急に貴方が倒れたの」







頭がズキッといたむ金髪の少女




ユハ「う゛っ」







ニコ「まだ無理はしないで」






ユハは自身の周囲を見渡した。


視線が低い、…寝転んでいるからか。








ニコの顔が至近距離にある。


…膝枕されているようだ。

少女は、黒髪の少年を見つめる





ニコ「そんなに見られたら、私照れちゃう」






ずっとあった違和感。

…やっぱり、似ても似つかないけれど





ユハ「貴方は、」






ニコ「ん?」











ユハ「貴方は、ノリちゃん?」







時が止まった。




決して比喩ではなく、物理的に。


飛んでいた鳥の羽は

羽ばたいた状態のまま動かず




校庭でボールを蹴っていたサッカー部も

ボール諸共 止まっている。



何より、今までガヤガヤとさわがしかった学校が

ピタリと静かになった。










全ての色がモノクロになり、金髪の少女と黒髪の少年 のみに色が付いていて





この空間で

たった2人だけが息をしている。














ノリ「よく分かったね、お姉ちゃん」






早場ニコの正体は

少女の弟 鮎川ノリであった。





ユハ「…だって、ひどく安心するんだもの」



おかしな程ね…と少女は呟く。




黒髪の少年は、妖艶な笑みを浮かべ ユハを見下ろす。

まるで蛇にでも見られているようだ








ノリ「お姉ちゃん、また一緒に遊ぼう?」








少女は、すでに過去の記憶を思い出していた。




ユハ「…でも、私 刺されて死んだんじゃ」







ノリ「死んでないよ、お姉ちゃんは死んでない」





少年に即答される。、、、まるで自身に言い聞かせているかのように


ノリは、膝の上にあるユハの顔へ

唇を寄せた。








〈ちぅっ〉










口と口が重なり合う。







ユハ「〜〜〜〜〜っ」







角度を変えて何度も少女の口内を

むさぼり食う。

(ノリ)は、実の姉(ユハ)にディープキスをしていた。










くちゅくちゅ〉





ユハ「っふぁ…!」







ノリ「っ…はっ」







辺りにぴちゃぴちゃと液体状の音が反響する。





〈じゅーぅぅぅっ〉






ユハ「っ…カヒュッ」







少女は、少年のキスによって酸欠になり

意識が飛びかけていた。


それに気が付いた少年が

長い長いキスを、ようやく終わらせたのであった。







ユハ「…ゲホゲホッ!!」






キスから解放された彼女は、激しく咳き込む。

少女の頭を撫でながら

駄々をこねる子供に言うように、優しく それでいて否定させない雰囲気を出す少年。






ノリ「お姉ちゃんは、生きてるよ。ねっ?」



少年は続いて呟く、



ノリ「…だって酸欠になるってことは、生きてるってことだよ。心臓のドキドキもその証。

            そうでしょ?」










ユハ「…うん。」






どこかぼーっとした様子で答える少女。



少女は少年の膝枕から身を起こし、向き直る




ハイライトのあった瞳から

光が無くなった少女。




その様子に満足げなノリ













ノリ「うふふっ…!

      お姉ちゃん、ずぅっと一緒だよ」











2人は手を繋いで、抱きしめ合う。

…昔みたいに。 









ユハとノリは前の人生では

経験出来なかった学生生活をエンジョイし、幸せに暮らしましたとさ!!




めでたしめでたし。










♢♢♢♢♢♢  






これで、お終い!







…なーんてね






この物語は続いていく、ずっとずっとずっとずーっと!!









何てったって  ”意思がある物語”だもの!






え? 僕は誰かって??

誰でもいいじゃんそんなの~





アハハッ



この物語はね、人を食べて生き続けているんだよ。知ってた?



まぁ食べるってより 取り込むって表現の方が正しいかな。






生きてる人も 既に死んでる人も 平等に喰らう


死人は、死んだ事に気が付かないし

生きてる人も取り込まれた事に 気が付かない。



物語の中での話が、彼らにとっての現実になるんだ。





まぁ 気が付いたとしても 一生出られないから意味ないけどね☆






え?物語は創作物だから 命なんかないだろって?



…あるんだなコレが!!







昔々、1人の不幸な少年がいました。


少年には大好きな姉がいたのですが

彼の目の前で父親に殺されました。




少年は、最愛の死を嘆き

    己の父を憎み

    理不尽を恨み

    この世界を呪い




そして、無念を抱えたまま

姉の仇の父親に刺され、死んでいきました。






んで、その少年の魂がたまたま近くにあった本に

宿った。



元は医学書だった本の内容が

どんどん変わっていった。



魂だけの少年が作った、


「姉が幸せになる物語」、それがこのお話なのさぁ !!








最初は、機械的な登場人物しかいなくて困った少年は

魂を取り込むようになったんだ。





創造主である少年は、登場人物(キャラクター)に、ある程度干渉する事が出来たから、



【騎士沢】は、本当に愛している人には 決して想いを告げられないように

()()してあるし、



【アキナ】は、元々ヤンデレではない人を”ヤンデレ”なんて設定しちゃったから

あんまり、つまんなかったかも…削除しとこ~





【小日向アキナ、削除完了しました。】





失敗失敗☆

ん~ もっと、物語(ストーリー)を盛り上げてくれる人じゃないとね…



 


次の物語は、どんな設定にしようかな?



学園モノには、もうこれで100回目だし

いい加減飽きちゃった☆


んー



騎士と姫の禁断の悲愛?


人外と少女のラブストーリー?


はたまた、バトル友情モノ?


ハラハラドキドキの4角関係?






…まあ、何にしても

ヒーローとヒロインが結ばれなきゃね!





あっ!ちょっと喋りすぎちゃったカモ…

ごめんね☆



色々

聞いてくれて ありがとう☆




わざわざ

最後まで読んでくれた、貴方に お礼をするね!







僕からの感謝の気持ちだよ!













【おめでとう!!貴方は、20000人目に選ばれました。】













その文字を認識した時

…貴方は突如、後ろから腕を引っ張られた。






貴方「誰k……」









悲鳴を上げる間もなく、暗闇の中へと体が沈んでいく。





〈どぷん〉







その日、貴方はこの世界から消えた。

たった1本の腕に引っ張られ、物語の世界へと落ちていった。









暗闇に飲まれる直前、声が聞こえた気がした








 「おいで?次は貴方が主要キャラクターだよ☆

                     

…うふふ♡ これから いっぱい楽しませてね!」






















「   さあ、  貴方の物語を始めよう? 」 

   


                            ~つづく~































































▼「補足」を読みますか?





YES      NO














▼「YES」を選択しました。追加情報を表示します。



      



        

              NOW    LOADING …………

        =============================

          








▼鮎川ノリ(  早場ニコの姿  )


「うふふ♡ 僕は2人いるんだよ」


創造主()の僕と、少女を助けるヒーロー(ニコ)の僕。



お姉ちゃんのことを愛している。もちろん恋愛的な意味で。

姉が死んでから”想い”に気が付いた為、人格が歪んでしまった。


その後、勢いが止められなかった父親に刺され、死亡している。



怨念が強すぎたため、この世界を作れた。

設定と称して色々なシチュエーションのお話で

絶対、姉を幸せにするマン。


少年の作った世界は 今もなお、読んだ人を介して

規模が広がり続けているので、永久に続く。



彼に気に入られたら最後、物語の中へと取り込まれる。





ノリ「今ね、君を天上から見ているよ♡」









▼鮎川ユハ


圧倒的ヒロイン。父親に刺されて死亡している。


物語の中で、消えることのない傷(過去のトラウマ)を治すために

何度も物語を繰り返させられている。



ある時は、冒険者の仲間


ある時は、着物姿の村娘


ある時は、教会のシスター



どの世界でも、必ず隣に”ノリ”がいる。


前のシチュエーションの記憶は、世界が変わる度にリセットされるため

ノリ (イコール) 自分の弟  という真実を覚えていられない。


今回の彼女には、優しい(ダディ)と元気な(マミー)が設定上いたが旅行好きなので

アキナが訪問した際には不在。



少女は心の底では、「生前の家族」を求めていて

その心理がぬいぐるみに現れた。




今回、持っていたぬいぐるみは

黄色→お母さん     緑と青→(ノリ)      黒→父親   である。






母を殺した覆面の男が、自分の父親だったことを知らない。

  










▼小日向アキナ



鮎川ユハへの恋心は、本物である。


だが、【ヤンデレ】という設定にハマりきれていなかった為

創造主(ノリ)によって消された。



ユハの幼少期に、一緒に遊んでいた黒髪の少年。

一途に少女を思い続ける光属性の男。


約束の時間になっても来ない少女を探していた所、

暗闇から出てきた腕に引っ張られて取り込まれてしまった。

生きている人。


死人ではない人が、【削除】されたら

”魂”がどうなってしまうのかは、創造主のみぞ知る。



父親による殺傷事件が無ければ、ユハと結ばれていた人物である。









▼騎士沢タハタ

こちらも、本物の恋心である。


設定上、どんなに好きでも告白しようとすると

声が出なくなるようになる。



好きな人が、自分では無い誰かと 結ばれるのを

ただそっと

泣きながら見ていることしか出来ない。



とあるサイトで物語を読んでいたら、突然腕を掴まれ

取り込まれた。

生きてる人。









▼貴方




次の登場人物に選ばれてしまった。 

貴方の行動次第で、天国にも、地獄にもなる。




ねぇねぇ、知ってる?



「暗闇物語」のウワサ。





えぇ?!知らないの?




最近、ネットで話題なんだよ。


なんでも【その物語を少しでも見たり聞いたりした人は、暗闇に連れ去られちゃうんだって……今すぐの人もいれば、何年も後にお迎えが来る人】もいるらしいよ。




まぁ、その”物語”が何なのか、幽霊なのか 正確なことは

誰にも分かっていないんだ。



だからね、






君も、暗闇には気を付けて…


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