表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/81

俺は良く知っているんだから

 モロクとの戦いは長引きそうで、明日の仕事が心配になってきた。


 ちょっと邪魔なホスピタルの連中を捕まえて、面倒な事は陰陽庁に丸投げして帰るつもりだったのに、モロクって悪魔のせいで完全に予定が狂ってしまった。


 今の俺は感覚が追いつける最大まで能力値を上げている、これ以上上げても誤差が大きい過ぎて逆に上手く動けない。


 能力値が大きくなってしまった弊害、1%当たりの上昇値が慣れるのに時間がかかる。


 俺がモロクを圧倒出来るまで能力値を上げ、その力に慣れるのを実戦でしなきゃならないんだ。


 「うっ、今の動き少し酔いそうだった」


 『大丈夫です、バランス良く能力値を上げてるので今の動きも知力が補正してくれます。


 マスターが普通の暮らしに執着するから、いざという時にぶっつけ本番になるんです。


 気を抜くと消し炭になりますよ、いくら体力を上げても黒炎が急所に直撃したら終わりですからね』


 たぶん能力値は俺の方が上になったと思うけど、スケさんのいう通りモロクの黒炎は、力の差を覆す事が出来る能力だ。


 スケさんに任せながら、能力値を徐々に上げていって無理矢理でも身体に感覚を馴染ませる、そんな戦い方を続けてどれくらいの時間が経過しただろうか、やっと俺の拳がモロクが防御に使った腕をへし折った。


 「ぐわぁ、私の腕が」


 腕を押さえてモロクが痛みに叫ぶ、今までなら俺の拳の方が砕けていたのに、モロクの身体の強度を俺が完全に上回った瞬間から勝負の流れは決定した。


 どれだけ拳を砕いて治し、避け切れなかった黒炎に燃やされた部位を切り落としたり削いだりして治し、精神的にもしんどかった。


 本当に大事な急所だけはなんとか死守して、ついに魔力が切れて床に倒れたモロクの喉元に剣を突きつけた。


 「やっと剣を燃やされずに済むな、一応聞いておくけど改心して生きるつもりはあるか?」


 「馬鹿な質問だな、私は嘆きの王だ、人間共の悲鳴が私の力の源なのだ、お前は何も食べずに生きる事なんて出来んだろう。


 改心など出来る訳ない、する気もない、私に勝ったんだ、誇りに思いトドメを刺せ」


 「はぁ、そうか、もう二度と現れるなよ」


 俺は突きつけていた剣を振ってモロクの首を切り落とした、モロクは一瞬で灰に変わり、その灰も闇の粒子になって消えた。


 「折角捕まえたホスピタルの人達は全員モロクの生贄になっちゃったし、この船だけでも陰陽庁に渡して早く帰ろう」


 これからのホスピタルの動きは分からなくなったけど、少しの間は大人しくしてくれるかな。


 取りあえず明日、いや今日の仕事の間に居眠りしない様に少しでも眠ろう。


 港に船を着けるのは兎達に任せて、俺は先に戻って八谷君に連絡をした、携帯の時計を見たら午前6時を回っていて、水平線もうっすらと明るくなっている。


 部屋に帰って風呂に入ったら直ぐに出勤だな、能力値のお陰でなんとかなるだろうけど、本当なら40過ぎて徹夜はきついんだろうな。


 眠気と戦いながらバスに乗って、いつも通り事務所の鍵を開けて返却の確認をする。


 いつもと違うのは本を扱う時には良くないと思いつつコーヒーを飲みながら作業をしている事だろう。


 さらに珍しい事に、俺の次に事務所に来たのが佐々木さんが出勤してきた、思わず時計を確認してしまった。


 それから他の人達も出勤してきて、俺に声をかけながら、佐々木さんがいる事に驚いて俺と同じ様に各々の方法で時間を確認してホッとしていた。


 午前中の仕事が終わり、昼休みに自分の机に顔を伏せて少しでも仮眠を取ろうと思った時に、佐々木さんが話掛けてきた。


 「佐藤さん、ちょっといいですか?」


 「ん、はい、大丈夫です、どうかしましたか?」


 眠いので本当なら佐々木さんの話よりも仮眠を優先したかったけど、それは我慢して数少ない男性職員仲間として話を聴いてあげる事にした。


 佐々木さんが話出すのを待っているのに、最初に声を掛けてからなかなか話を切り出そうとしない。


 昼休みの貴重な時間がと思っていると、


 『ここじゃ、話難いんじゃないんですか』


 スケさんに言われて、佐々木さんを良く見ると確かに事務所では話し難そうにしている、俺が席を立たないから話出せなかったんだと気づかされた。


 「あ、近くの喫茶店にで行きますか?」


 「はい、そうですね」


 そういうのに気がつけないからダメなんだと反省して、佐々木さんを連れて図書館から少し離れた喫茶店に入る。


 時間帯的にそこそこ混んでいたけけど、奥にあるトイレ近くの2人席が丁度空いていたので席に着いた。


 「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりでか?」


 「えっと、俺はコーヒーで、佐々木さんは?」


 「俺もコーヒーでいいです」


 「じゃあ、コーヒーを2つ」


 注文が終わって店員さんが離れると、佐々木さんが話始めた。


 「あのここは俺が出しますから」


 「そんな気を使わなくていいよ、丁度眠気覚ましにコーヒー飲みたいと思っていたし、それより話って何?」


 気を使ってくれたのは嬉しいけど、40を越えたおっさんとしては、一回りも下の子に奢られるのは気が引けてしまう。


 そうして、佐々木さんが話出した相談?は確かに女性が多い事務所では話難い内容だった。


 どうやら佐々木さんは、いわゆる夜職の女性の事が好きになってしまったらしい。


 出会ったのは2週間前で、友達と飲んだ流れで行ったお店に彼女に一目惚れをして、それから3日に1度のハイペースでお店に通い指名しているんだとか。


 彼女とのやり取りも説明と共に見せて貰ったけど、思わせ振りな言葉があっても営業としてのやり取りにしか思えない。


 それよりも、今のペースで通い続けたら佐々木さんが破産してしまう、実家暮らしだから大丈夫だと言うけど限界はある、司書の少ない給料事情を知っている。


 諦めろと言うのが正しい意見だと思う、でも、俺に相談する前にそう他の人に散々言われても、諦められなかった佐々木さんは何をどう血迷ったのか、最後の望みを掛けて俺に相談したらしい。


 なんで俺に最後の望みを掛けてくるんだよ、絶対とまでは言わないけど、十中八九上手くいかない恋愛相談を俺にするなよ。


 「佐々木さんは、その彼女とどうなりたいの?」


 「そりゃ、付き合いたいに決まってるじゃないですか、写真見てもらったんで分かると思うんですけど笑顔がめっちゃ可愛いんです」


 確かに見せてもらった写真の女の子は可愛いと思うけど、プライベートで遊びに行った時の写真、もちろん一緒に遊びに行ったのは佐々木さんじゃない。


 俺には若い子の感覚が分からないので、こういう遊びに行った写真を送ってくるのが好意があるのか、警戒心がないだけなのか分からない。


 俺に分かるのは、佐々木さんが只自分を肯定して欲しいという気持ちだけ。


 それにもしかしたら、上手くいく可能性だってあるかもしれない。


 俺の恋愛経験なんて元嫁と元嫁と出会う前に少ししかないんだから、俺には分からない何かが起きないとは限らない。


 「そうだよね、取りあえず大事なのは距離感だと思うよ、そんなに可愛い子なら佐々木さんみたいに好きになっちゃう人も少なくないだろうし。


 当たり前だけど、相手が嫌がる事や怖がる事は絶対にしない、遊びに誘うのもしつこくならない様に気をつけてね」


 「佐藤さんは応援してくれるんですか、友達は皆騙されてるって反対ばっかりで」


 佐々木さんが嬉しそうに俺を見てくる、本心では俺も反対なんだけど、事件にならなければいいかと苦笑いを返した。


 もしかしたら上手くいくかもしれない、世の中はあり得ない事が起こる事を、俺は良く知っているんだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ