ちゃんと説明して貰おうか
「無駄なスキルじゃなかったろ」
『おっさんのドヤ顔は気持ち悪いですね』
いいじゃないか、スケさんにはずっとヤられっぱなしだったんだから、少しくらい勝ち誇っても。
4階層から5階層への出入口を見つけたところで、今日の探索時間は終わった。
ステータスは体力+32、魔力+32、筋力+32、知力+32で目標達成、投擲スキルレベル5、残ポイント8054。
汗を流し準備をして家を出る、バスでスケさんに起こしてくれる様に頼んで少しだけ眠る。
そんな感じで新月の一週間前までに、必要なスキルの取得とレベル上げは無事に済んだ。
内容をダイジェストでお送りします。
5階層はハチがいなくなって、オオカミが出てくる様になった魔石は12ポイント、ゴブリンが武器を持ち始める。
回復魔法と聖魔法を取得、回復魔法をレベル4まで上げる。
6階層はオオカミとゴブリンが連携、ゴブリンが魔法を使い始める。
回復魔法をレベル7まで、聖魔法をレベル2、投擲をレベル10まで上げる。
7階層はホブゴブリンよりも上位種のゴブリンキングが現れて数が更に増えた、オオカミとの連携は健在。
聖魔法をレベル5に上げて、目標達成。
8階層は洞窟から森林になって、ゴブリン種がオーク種に入れ替わる、オーク、ハイオーク、オークキングとそれぞれの魔石のポイントが、12、18、25ポイント。
連携するオオカミがいなくなったけど、クマが出てくる様になって階層全体の危険度は上がった、クマの魔石は20ポイント。
スケさんがユニークスキル神眼を獲得、念動と神眼をレベル2に上げる。
9階層は森林の木にトレントが潜む様になった以外は8階層と同じ。
ただし、木に擬態中のトレントはスケさんの知覚をすり抜けてしまって不意打ちに苦労した。
神眼がレベル4に上がってからは、そのトレントが神眼のいい練習台になった。
という感じで、取りあえず今日からはダンジョン探索よりも吸血鬼事件の捜査に力を入れる。
4人目の被害者の現場に向かい、スケさんに神眼を使って貰う。
眼の無いスケさんは神眼を使うと、俺の視界を共有出来て、スケさんの弱点、知覚範囲外も視れる。
知覚範囲が広くなったので、視覚の共有はそこまで重要じゃないけど、スケさんが地味に嬉しそうだったのを俺は感じた。
神眼は魔眼と違って視る事に特化している、レベル1で暗視、レベル2で遠視、レベル3で顕微視、レベル4で透視、もっとレベルが上がれば何でも視れる様になる。
透視と顕微視を使って、警察が見逃した証拠が無いかを調べる。
事件から3週間経っているので、雨だって降って証拠なんて何も残ってないかもしれない。
スケさんからあっちを見ろ、そっちを見ろと指示される、俺は言われるままにキョロキョロと首を動かす。
視覚を共有しても、俺には神眼で視えてるものは分からない、透視に関しては本当に残念に思う。
周りから見れば、俺の方が怪しい人かもしれないけど、スケさんを信じて現場をぐるぐると歩き回る。
『もっと早く現場を視れたら、違ったかもしれないですが、犯人に繋がる様な証拠はありませんね』
「だよな、俺達に出来るのはここまでか」
『マスター、警察署に行きましょう、情報を集めます』
「そこまでしなくてもいいよ、俺は目的は犯人捜しじゃなくて、娘の安全確保だぞ」
『そうですね、でも本当に相手が吸血鬼だったら解決出来るのはマスターだけですよ。
娘様じゃなくても、救えたかもしれない誰かが死んだら、マスターは耐えられますか?』
「スケさん、その言い方はズルいと思うよ」
俺は俺の扱い方を、たった数日で覚えたスケさんにイラッとしながら、警察署に向かう。
といっても、警察署に正面から入るわけないじゃない、俺は身体能力を生かして、塀と壁を登って屋上に上がった。
スケさんが人のいない場所を探して、念動を使って鍵を開けて侵入する。
これは見つかったら捕まるヤツだよな、防犯カメラと人を避けて、使われてないパソコンのある部屋を探す。
資料室みたいな所で見つけて、スケさんがパソコンを立ち上げて、どんどん画面を切り替えていく。
俺はビビりながら必要ないだろうけど、スケさんが画面に集中出来るようにドアの向こうの様子を伺う。
こういう時間はやけに長く感じる、スケさんが操作する音だけが部屋に響く、普段気にならない音も大きく聞こえる。
パソコンから捜査情報を簡単に手に入るとは思えないけど、警察官に直接話を聞くなんて出来なし。
そういえば、ドラマなら警察のパソコンってIDとかパスワードとかあって開けないんじゃないのかな?
チラッと確認すると、パソコンはカタカタと音を立てて、マウスもパットの上を動いている。
「捜査情報は見れた?」
『捜査資料は大体目を通しました、4件の被害者の検死結果と現場状況も解りました。
運のいい事に4件目の被害者は、司法解剖が終わったばかりで、まだ火葬されてないみたいです』
「そうなんだ」
『「そうなんだじゃ」ありません、遺族への遺体の引き渡しは終わってるんです。
急いで遺体を確認しに行きますよ、火葬されてしまいます』
「今から行くの?、警察だって検死して結果は確認したんだろ」
『警察の資料は見ました、しかし、警察にも分からない情報があるかもしれません』
「わかった、わかった、元は俺の娘の為なんだ、スケさんが納得するまで付き合うよ」
『ワタシの行動は全てマスターの為です、マスターの娘様が安心して過ごせる様に動いてます』
「スキルのクセに建前なんて言わなくていいよ」
『はい、ただの好奇心です』
素直に白状したスケさんは、パソコンの電源を落とした、俺は苦笑いしながら窓から外に出た。
スケさんが手に入れた住所に、スマホのナビに案内して貰って、ほぼ直線で走り抜ける。
1時間とかからず4人目の被害者の家に着いた、家に灯りがついていない。
そっと家に近づいて中の様子を探ってもらう、家に着いて10分。
『今日は通夜で葬儀場にいるみたいですね、間に合ったみたいです』
「今度は葬儀場か」
深夜の葬儀場は薄明かり灯っていて、少し不気味な雰囲気が漂っていた。
被害者の家族はまだ起きているみたいで、すすり泣く声がきこえてくる。
突然、娘が死んでしまった悲しみはどれほどか想像出来ない、もしも自分の娘を殺されたらと思うと胸が苦しい。
そんな俺の想像の間に、スケさんの遺体の確認は終わっていた。
『終わりました、帰りましょう』
「もう終わったんだ、何かわかった?」
『そうですね、5人目の被害者を防ぐのは難しい事が分かりました。
6人目の被害者を出させない様にするなら、マスターとワタシなら簡単です』
「なんで5人目は防げないんだよ?」
『それは、後で説明します、まずは帰りましょう』
「帰ったらちゃんと説明しろよ」
俺は葬儀場を後にして部屋に帰ってきた、スケさんの説明を聞こうとしてダンジョンに転移する。
「今日はもうダンジョンの気分じゃない、早く部屋に戻ろう」
『いえ、誰にも話を聴かれる心配をしなくていいので、ダンジョンの方が話しやすいです。
ダンジョンから帰るのは簡単でも、来るのは難しいですから』
確かにダンジョンなら、誰かに話を聴かれる心配はない、葬儀場で話さなかったのも聴かれたら不味い話だったからか。
「わかった、ちゃんと説明して貰おうか」