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明日の仕事が心配になってきた

 モロクが黒炎がどんどん撒き散らす中、スケさんがそういうなら作戦を変えるしかないか。


 「なんだ、逃げ回るのは止めたのか?」


 小馬鹿にした口調で、モロクが俺に話しかけてくる、その間も黒炎の攻撃は続いているし、此方からの攻撃は防がれている。


 足に黒炎を受けて、俺は床に転がってしまう、収納から投擲する武器を取り出せなかったから、仕方なく落ちていた誰かの靴をモロクに向かって投げつけてやった。


 当然、靴は黒炎ですぐに燃やされて灰になってしまうだろうと思ったのに、予想が外れて黒炎に一瞬だけ包まれたかと思ったら、少し焦げただけでモロクの足元に転がった。


 「・・・?」


 『やはりそういう事ですか』


 俺が理由が分からずににいるのに、スケさんの中では答えが出た様だ。


 スケさんに言われた通り、俺は部屋の隅に積まれていた椅子をモロクに投げつけた。


 当然、モロクは反応して黒炎で燃やすが椅子は少し焦げただけで、モロクに向かって飛んでいき、椅子を躱したモロクが忌々しげに俺を睨んできた。


 「何をした? 私の黒炎がそんな物を燃やせないなんてあり得ない」


 「別に何もしてない、お前の黒炎の秘密に気がついただけだ」


 気がついたのはスケさんだけど、スケさんの存在をわざわざ知らせる必要はないから、自分の手柄のように宣言する。


 「はっ、私の黒炎の秘密だと、そんなものはない、私の黒炎は全てを燃やし尽くす完璧な炎だ」


 もしかして、モロク自身も気がついてないのか、スケさんに言われてから気がついたけど、モロクが存在していた時代、もしくは世界には当たり前だったモノが、この世界では珍しいモノだった。


 「『確かに、その黒炎は全てを燃やし尽くせるんだろうな、魔剣やダンジョンで手に入れた武器も簡単に燃やしたんだから。


 でも、燃やす為には魔力って燃料が必要なんだよ、だから魔力がないものは燃やせないんだ』」


 「何を言っているんだ、私に燃やせない物なんてない、国1つ火の海に変えた事だってあるんだぞ。


 お前の言っているのはハッタリだ、黒炎は私が消さない限り燃え続けるのだ、どうやったか分からないが黒炎を消す程の無茶な魔力の使い方をすれば、お前の方が先にくたばるだけだ、私にハッタリは通用しない」


 スケさんが出した答えに納得がいかないのか、モロクは勝手な推測を口にして、黒炎の力を上回る魔力を使って火が消える現象を起こせば消える可能性があるって言っているようなものだ。


 ただし、その方法はモロクの黒炎を消す事が出来ても、燃費の問題で必ず負ける。


 モロクの黒炎は、スケさんの推理では魔力を使って燃え続ける炎、モロクは着火に必要な黒炎を起こすだけで後は勝手に対象や周りから奪って燃える。


 だから魔力の消費は殆どなく、燃やされた相手は自分の魔力で黒炎を燃やしてしまう、持久戦なんてしてもモロクの方が有利なのは間違いない。


 モロクにとって誤算だったのは、この世界には魔力が殆どなかったという事。


 スケさんの推理の証明はもう終わっている、最初は焦げただけの床、そして俺がたまたま投げた靴、最後に投げつけた椅子、モロクの黒炎はこれらを焦がす事は出来ても燃やし尽くす事は出来なかった。


 それよりも遥かに丈夫な魔剣やダンジョン産の武器は簡単に燃やし尽くしたのにだ。


 もう一度、答え合わせ代わりに椅子をモロクに向けて投擲してやる、モロクは黒炎で燃やそうとして燃えない椅子を、自身に当たる前に腕を振って弾き飛ばした。


 「こんな粗悪な椅子ごときで、私にダメージを与えられると思っているのか」


 「だよな・・」


 そうなんだ、スケさんとも話したけど魔力のない物でモロクにまともなダメージを与えられない、どんなに椅子を投げても只の嫌がらせだ。


 それでも、モロクまで届くのは魔力のない物しかない、俺はモロクの黒炎を避けながら椅子やテーブルを投げつける。


 モロクは、投げられた物に黒炎を使うのも面倒になったのか、軽く払い除けながら俺を睨みつけて黒炎で襲ってくる。


 「逃げ回るしか能のない輩が、いい加減鬱陶しい」


 イライラしてきたモロクが、黒炎を自分の腕を燃やして横に振ると、俺に向かって今までの比じゃないほどの広範囲が黒炎にのまれた。


 咄嗟に床に敷かれた絨毯を破り、身体を覆って黒炎から身を守り範囲から逃げ出す。


 覆い被さった絨毯が燃え尽きる前に投げ捨てて、モロクの横を通り抜けた。


 「あれは反則だと思うんだけどな」


 『モロクの魔力を燃料に黒炎の威力を上げたみたいですね、魔力がない物もモロクの魔力の分で燃やされたんでしょう』


 俺がいた場所は床の絨毯も、転がっていた椅子やテーブルも灰に変わって、床の一部が溶けて崩れていた。


 俺を追って振り返り様に、モロクがもう一度腕を振って黒炎を放つ。


 障壁を使って黒炎を防ごうとしたけど、魔力で出来た障壁は黒炎を防ぐ事が出来ずに、それどころが黒炎の勢いが増して襲いかかってくる。


 足を焼かれた痛みに耐えて、距離を取って両足の膝から先を切断して回復させたけど、折角少しだけ近づいた距離が開いてしまった。


 「攻略が一からやり直しになったな」


 『そうですね、ですが少しだけマスターがポイントで能力値を増やせば、なんとかなりそうです』


 「死んだら元も子もないから仕方ないのか、弱体化する方法はまた後で考えしかないな」


 『大丈夫です、マスターが普通であることを諦めてくれれば敵なんていないんですから』


 それは何も大丈夫じゃないんだけど、俺はモロクを倒す為にポイントを使って能力値を上げた。


 一気に引き上げた能力値のせいで、感覚が少し追いつかなくて転びそうになるのを耐えてモロクに接近して、モロクの顔面を思いっきり殴りつけた。


 出現してから初めてまともなダメージを受けたモロクが、腕を振って対抗するけど黒炎の範囲から、俺はすでに移動していた。


 モロクを殴った拳に鈍い痛みを感じて、直ぐに回復をさせる。


 「よくも、よくも、よくも、人間ごときが私の顔を殴りやがったな、万死に値する」


 物凄い怒りの表情で俺を睨みつけてくるモロク、本当にに感情がコロコロと変わって忙しい奴だ。


 「殴った此方の拳の方が痛いんだけど、なんて硬い顔してるんだよ」


 「殺してやるぞ、糞人間が」


 戦いだしてから初めてモロクから動き出して、俺との距離をつめて来た、視界に入らない様に気をつけて俺もモロクに向かっていく。


 モロクの黒炎を纏った腕が振り回されるのを躱す、当たってないのに近くを腕が通っただけで、髪がチリチリするし肌が焼ける様な感じがする。


 俺はモロクのボディに力いっぱい拳を叩き込んで、また距離を取って殴った拳を回復させた。


 能力値を上げて今の俺は、たぶん素手で分厚い鉄板だって簡単に貫ける、それなのにモロクの身体は殴った俺の方の拳がダメージを受けた。


 スケさんの話だと、モロクが腕に黒炎を纏うのは魔力の消費が大きいので、今までと違ってモロクの魔力切れだって狙える。


 そこに攻撃も追加すれば、もっと早くモロクと決着を着けられると思っていたのに、予想外にモロクの身体が硬すぎた。


 どれくらい存在しているか分からないけど、黒炎の攻撃力と硬い身体の防御力のお陰でまともな戦いをした事がないんだろう、モロクの動きが素人なのが唯一の救いだ。


 モロクとの戦いは長引きそうで、明日の仕事が心配になってきた。

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