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教えるつもりはないけど

 クリスマスが終われば、今年もあっという間に終わってしまうと、少し切ない気分になった。


 何事もなく一週間が過ぎて、野々原から人化が出来る様になったと連絡が来た。


 野々原と権田のビルで会う約束をして、仕事が終わった後にビルに向かうと、野々原と一緒にサキュバスがいる。


 「なんで、お前までいるんだ?」


 「あら、随分な言い方ね、私が比呂に人に化ける方法を教えたんだから、一緒にいても何も不思議じゃないでしょ」


 「佐藤さん、美彩さんにはお世話になりました」


 190㎝近い褐色肌の目付きの鋭い男が、見た目とは違って丁寧で優しい口調で話し掛けて来た。


 「俺は何もしてないよ、サキュバスの言う通り、野々原自身と、サキュバスが頑張ったんだよ」


 少しドヤ顔のサキュバスにイラっとするけど、一週間で新しい能力を取得するのは大変だと思うから、労いの言葉をかける。


 それにしても野々原はイケメンで、微妙にサキュバスとの距離が近いような気がする。


 「それで、お前はいつまでいるつもりなんだ?」


 「私は、ちょっと比呂の上司の人に話があって、貴方こそ何でまだいるのよ」


 どうやら、サキュバスは権田に話があるみたいだけど、何の用なんだろう。


 それに確かに、野々原が無事に人化出来たなら、俺の用の半分は、もう済んでいる。


 「俺がいつまで居るかなんて、俺の自由だと思うけど?


 まぁ、野々原の人の姿も見れたし俺は帰るよ、お前は権田に変な事をするなよ」


 俺は野々原の隣で、腕を絡ませているサキュバスを指差して警告する。


 「比呂の上司に変な事をするわけないでしょ、さっさと帰りなさいよ」


 「じゃあ、野々原、またな」


 最初の出会いの印象から、騙された件までのせいでサキュバスとの会話は、どうもギスギスしてしまう。


 野々原が人に成れた事や、キャバクラで俺を脅しながら、本当に人質は取らなかった事から、そんなに悪い奴じゃないのは分かっている。


 俺の人としての器の小ささを感じる瞬間だ、野々原なんて最初からサキュバスと仲良く出来ている。


 見た目だけじゃなく、中身までイケメンという奴なんだろうな。


 「スケさん、野々原をつけてた奴はまだいる?」


 『気がついていたんですか、マスター?』


 「元々、野々原はどこかの組織の実験の被害者だからな、外に出れば見つかる可能性はあるだろ」


 『マスターは、探索や索敵系のスキルはなかったはずなので、気がついているとは思いませんでした』


 「ほんの少しだけ、人の視線とか気配、魔力の流れに敏感になったんだよ。


 でも、視線や気配は少し違和感を感じる程度だし、魔力の流れだってなんとなくしかわからないけど。


 野々原とサキュバスの店に行った時から、視線を感じていたからな。


 最初は俺に向けられてるものかと思ったけど、ダンジョンに転移する為に離れた時に視線は俺を追って来なかったし。


 さっき野々原と会った時にも視線を感じた、サキュバスの仕業かと思ったけど、


 スケさんがガラスゴーレムで見張ってた分には、サキュバスは何も知らないようだったし。


 視線だって一瞬だったから、俺にはこれ以上は分からない。


 だから、野々原を実験に使った組織の可能性が一番高いって推測してるだけだ」


 『マスターが成長してくれているようで嬉しいです、野々原を見張ってたいた者達には、知覚範囲を利用してガラスゴーレムをつけています。


 野々原を見張っている間はずっと、野々原の近くから離れなかったので、裏にいる組織の正体は掴めていませんが、ワタシもマスターと同じ考えです。


 1人残せば後は十分ですし、残りには寝て貰いましょう』


 そういって、スケさんが1人の男を引き摺って連れてくる。


 「くそっ!お前はオオカミと一緒にいた奴だな、気がついていたのか」


 「イヤらしい視線感じたから、どんな奴なのか捕まえてみただけだ」


 「視線って、何百(メートル)も離れた所が見てたのに気がついたっていうのか?」


 「気がついたから、捕まえたんだよ、お前達は野々原をどうするつもりなんだ?」


 「どうするだと、あいつは俺達ホスピタルが実験で作り出したんだ。


 あいつの所有権は俺達にある、取り返そうとして何が悪いんだ」


 スケさんの念動で、首から上以外自由に動けない男が大声で言う。


 「所有権って、死にそうだった野々原を見捨てていなくなった癖に、生きてるって分かったら主張するなんてふざけるなよ」


 俺の殺気に男の歯が噛み合わずにカタカタと鳴る、股間に染みが出来るのを見て、俺はため息をついた。


 「ホスピタルって、お前達の組織の名前なのか?」


 「ああ、そうだ、世界中に支部を持つ裏組織だ、お前がいくら凄くても、個人で太刀打ち出来る組織じゃない。


 俺を見逃してくれたら、お前の事は報告しない、何ならお前が組織に入れる様に口利きをしたっていい。


 お前の力があれば、きっと優遇してくれるはずだ、下手に逆らってホスピタルを敵に回すよりいいだろ」


 「悪いけど、俺は陰陽庁に所属してるんだよ、裏組織を見つけたら、連絡をした後は俺の判断で動いていいって許可を貰ってる。


 それに、お前みたいな下っ端の口利きをなんて、何の価値もないだろ」


 「下っ端‥‥、俺は一応実働隊の隊長をしているんだぞ、幹部じゃないけどそれなりの権限はある」


 「へぇ、でも関係ない、お前がもしかしたら偉くても、悪い事をする裏組織になんて入るつもりないから」


 「馬鹿が、ホスピタルは色んな国の上層に顧客がいるんだ、例え日本でも、簡単な犯罪ならいくらでも揉み消しが出来るコネがある。


 お前の周りの人間がどうなってもいいのか?お前は大丈夫でも、お前の知り合いは大丈夫じゃないんじゃないか?」


 「もしも、俺の周りの人間に手を出したら、ホスピタルなんて俺が潰してやる。


 野々原もその1人だ、死んだと思って一回手放してるんだから諦めろ」


 「こっちにも色々あってそういう訳にはいかないんだよ」


 「お前らの都合なんか知るか」


 「まさか、お前が、グラン様やシュタイン様を殺したんじゃないだろうな?」


 俺が内心は強面の男にビビリながら、話していると強面の男はペラペラと口が軽く、色々と情報をくれる。


 「グラン?シュタイン?誰だよ、そんな知らない奴を殺したりなんかしてないぞ。


 でも、様付けだから偉い奴なんだろう、偉い奴が殺されて色めき立ってるって事か。


 野々原も使えるモノは何でも使う為に、もう一度利用しようとしたのか」


 頭の中でスケさんが考察を俺に伝えてくれて、それを口に出した時の相手の反応で、考えの正否を確認している。


 男の反応から、スケさんの推測は殆ど当たっているのようだった。


 「シュタイン様は、ホスピタルでも指折りの実力者だ、そのシュタイン様を殺した奴は只者じゃない。


 オオカミの鼻なら犯人を探すのに役に立つ、だから、ウサギ男に見付からずに連れ去るタイミングを探していたんだよ」


 どうやら、この男は俺がウサギ男とは思ってないようだ、教えるつもりはないけど。

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