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少し切ない気分になった

 サキュバスが冷たい瞳で、俺を睨んで口許が笑っている。


 「私はここの人達がどうなろうと平気だけど、貴方は甘いから本気を出せない、だから全然怖くないわ」


 サキュバスの爪が、俺の目を貫こうと鋭く伸びてきて、俺の目の前で止まった。


 「ふふふ、あはは、後ろの他人を気にして自分の大事な目を犠牲にするなんて、馬鹿なんじゃないの?」


 「お前だって、本当には目を貫かなかったじゃないか」


 サキュバスは、伸ばした爪を元に戻して席を立った。


 「他のテーブルに呼ばれてるから、またね、閉店後まで待っててくれたら話くらいは聞いてあげるわ」


 そう言って、サキュバスはボーイに連れられて、違うテーブルでさっきのやり取りがなかった様に、普通に客と会話をしていた。


 俺は会計を済ませて店を出て、野々原に店の裏口の見張りを頼んで、1度場所を離れた。


 店の営業時間は0時までだけど、サキュバスが出てくるのはもっと後になると思う。


 ダンジョンに転移してしまう時間を、野々原ならともかくサキュバスに見られるのはマズい。


 近くのトイレでダンジョンに転移して、29階層から30階層に移動だけして戻る。


 店から離れて2時間は経っていないと思うけど、思ったよりも早くサキュバスが出てきていて、先に野々原と話をしていた。


 なぜだろう、俺と話をしている時よりもサキュバスの表情が柔らかい感じがする。


 俺が合流すると、サキュバスの表情が途端に険しくなって、野々原も戸惑っている。


 「どうしたんですか、美彩(みさ)さん、佐藤さんは悪い人じゃないですよ」


 野々原が、サキュバスを美彩と呼んで宥めている。


 「比呂は騙されてるのよ、国に所属するような奴は私達を利用する事しか考えてないわ」


 「そんな事ないです、佐藤さんが俺を助けてくれたんです。


 こんな姿の俺に働く場所を与えてくれて、今だって人に化ける方法を探してくれてるんです」


 サキュバスが、罰の悪そうな顔を野々原に向けて、俺に向き直ると質問してきた。


 「貴方が人に化ける方法を聞いてきたのは、比呂の為だったのね。


 比呂を人に化けられる様にして何に利用するつもりなの?」


 「いや、何も利用するつもりはないけど、仕事も権田の所で頑張ってるし。


 ただ、その姿だと自由に外を歩けないから、何とかしてあげたいなって思っただけだ」


 「本当に?」


 「本当だ、ハロウィンの日に楽しそうにしてた野々原を見て、本当はもっと外を自由に歩きたいだろうなって思って」


 「なにそれ、そんな事の為にあの時に私を見逃したの」


 「それについては別に見逃してはいない、一応は危険だったら対処出来る様にしてたから」


 「そうよね、貴方、私の居場所が分かっていたみたいだし、冴えない顔をしてる割には油断ならない人だわ」


 「冴えない顔は否定しないけど、余計なお世話だ」


 「いいわ、比呂が人に化ける為っていうなら、私も手伝ってあげる。


 私のせいで、馬鹿な事を試させるのは可哀相だし」


 サキュバスが野々原に目配せをして、今度は本当に人に化ける方法を教えてくれると言った。


 「なんか、野々原にやけに優しくないか?」


 「そ、そんな事ないわよ、ちょっと可哀相だなって思っただけよ」


 「ちゃんと教えてくれるならどうでもいいよ、場所はどうする?」


 「私の部屋でいいわよ、別に広さは必要ないし。


 ただし、貴方は部屋に入れないから、ついてきてもいいけど外で待ってなさいよ」


 「お前が変な事をしないなら、野々原1人でも大丈夫だ。


 わざわざ、外で待つわけないだろ俺は帰る、ちゃんと野々原に人に化ける方法教えてくれよ。


 野々原も頑張って、権田には俺からも連絡しておくから、後は好きにしてくれ」


 俺はサキュバスに野々原を預けて、その場を後にした。


 「スケさん、サキュバスに野々原の事預けちゃったけど、大丈夫だったかな?」


 『大丈夫だと思いますよ、ガラスゴーレムで見張ってますし、野々原とサキュバスの相性も良さそうですから』


 「サキュバスの態度が俺の時と違うけど、そういう事?」


 『ワタシは精霊でアンデッドですが、基本はスキルなので、そういう事が分かりませんけど、マスターよりは相性がいいのは間違いないです』


 「それなら安心か」


 翌日、少ししか眠れなくて寝不足で欠伸を噛み殺しながら、コーヒーを飲んで眠気を誤魔化して、スマホを確認する。


 娘からのいつも通りのメッセージにホッとして挨拶を返し、野々原からの人化出来るまでサキュバスの所に泊まるというメッセージに頑張れと返信する。


 図書館に着いたら、綺麗にハロウィンの飾りつけを片付けたばかりなのに、今度はクリスマスの準備が始まる。


 本格的な飾りつけとかはまだだけど、企画とかイベントとかの案は考え始めないと間に合わない。


 「佐藤さん、クリスマスに向けた推薦図書ってどうしますか?


 去年はクリスマス関係の絵本を、オススメコーナーに並べましたけど、今年も同じ感じですかね」


 話し掛けてくれた渡辺さんに。


 「毎年、色々と考えるんですけど、だいたい似たような案に落ち着いちゃいますもんね」


 そう答えると、周りからも納得と言わんばかりの失笑が聞こえてくる。


 「でも、今年は近くで色んな事が起きましたし、出来れば何か明るくなるような事をしたくて」


 渡辺さんが俺だけじゃなく、周りの職員にも聞こえる声でそう言った。


 「確かに、変な事が起きたからこそ明るくか、良いじゃないか?


 面白そうな案があったら教えてくれ、予算の事もあるから早めに決めないとな」


 朝会で、周りを見渡して意見を求める館長に、誰も目を合わせない。


 館長は苦笑いをして。


 「いきなりじゃ、案も思い浮かばないでしょうから、今週中に思いついた事があったら、教えて下さい」


 と言って朝会を閉めた。


 本当にこういう意見を出すのは苦手だ、決められた事は全然平気なんだけど、0から何かを作るのは正直苦手だ。


 その日の内にはいい案がまとまらず、翌々日に合唱をする事に決まった。


 館長が、何か映画を見てクリスマスといえば聖歌だよな、となって職員全員で合唱をする。


 大人になって人前で歌うのは恥ずかしいが、いつもと違う事をして、ほんの少でも周りの人が元気になってくれればいいなと思う。


 イベントスペースに、図書館の奥になぜかあったアップライトピアノを置いて、伴奏は田中さんがしてくれる。


 ピアノを持つ時に、意外と力あるんですねと驚かれて、少しドキッとしたけど。


 クリスマスが終われば、今年もあっという間に終わってしまうと、少し切ない気分になった。

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