俺を睨んで口許が笑っている。
何種類かあるから、好きなヤツで試して貰おう。
翌日、仕事が終わってから権田の所に行って野々原と面会をする。
よく考えたら、権田以外とは素顔で会った事はなかったので、最初は権田と面会をするのに手間取った。
直接権田に連絡をして、ビルの入口まで迎えに来てもらったので、権田を呼びつけたみたいになって周りの反応が面倒だった。
「それで兎さん、今日は何の用ですか?」
「今日は野々原に用があって来たんだ、様子はどうだ?」
「真面目に働いてくれるし、物覚えもいいし、体力もあるから助かってますよ。
ただ、やっぱりずっと人目から隠れて生活してるから、元気がないというか」
周りの人間をよく見ている権田に感心をしながら、俺は権田の後について野々原に会いにいった。
職場で野々原は一生懸命働いていた、権田の仲間達に野々原の見た目を気にしてるヤツは一人もいない。
権田といい、半年前まではリッチに利用されて危険な合法ドラッグをバラ撒いていた連中とは思えない。
まともに働き始めれば、全員がそれなりに優秀で新しい仕事もマルチに展開をして、利益を出しているようだ。
権田が下手に出ているので、ビル内で偉い人みたいに扱われている俺が、たぶん一番仕事が出来ないような気がする。
権田に呼ばれて、仕事の手を止めた野々原が隣に立っている俺を見て鼻を鳴らした後に、俺を認識したのか背筋を伸ばして早足で前に来た。
流石は狼男なだけあって、顔を見るのは初めての俺の事が匂いで分かったみたいだ。
俺の前で緊張をしている野々原に、本当にスケさんは何をしたんだろうか?
取りあえず、権田にやりたい事があるから野々原を借りていく許可をもらって、野々原はそんなに寒くないのに、フード付きのコートを着てフードを深く被って俺についてビルの外に出た。
予め陰陽庁には連絡をして、俺の監視下なら狼男の野々原が街を出歩く許可も取ってある。
俺は剣聖ともよく試合をした山に野々原を連れて行って、サキュバスから聞いた人化ける方法を試す事にした。
野々原の前に、ダンジョンから取って来た様々な種類の葉っぱを並べる俺を、スケさんに教育されて、あんなに従順な態度だった野々原が訝しげな目を向けてくる。
「すみません、兎さん、これはなんですか?」
「見れば分かるだろう、葉っぱだよ」
「なんで葉っぱを?俺は人に成れる様にしてくれるって聞いたんですけど?」
「だから、この葉っぱが人に化けるのに必要なんだよ、人に化ける事が出来る奴から聞いたんだ」
野々原は一瞬、俺のすぐ後ろの何もない空間に目を向けて、一度大きく目を見開いてから諦めた様に肩を落として、俺が並べた葉っぱの1つを手に取った。
俺がダンジョンで拾ってた葉っぱの中で、一番形も大きさも普通に見える葉っぱ。
「それで、この葉っぱをどうするんですか?」
「頭に乗っけて葉っぱを落とさずに宙返りで一回転すれば人に化ける事が出来るらしい」
「本当ですか?‥、そ、そうですか」
野々原は俺じゃなく、俺のすぐ後ろにいる見えないスケさんと俺にすら聞こえない会話をして、手に取った葉っぱを見ながら、狼の顔でも分かるくらい大きなため息をついていた。
「分かりました、1度やってみます」
野々原は狼の狭い額に葉っぱを載せて、グルンっと宙返りをした。
綺麗な宙返りだったけど、葉っぱは頭の上から落ちてしまって着地して、少ししたらヒラヒラと遅れて葉っぱが地面に落ちた。
なんとも言えない空気が山の中に広がる、思っていたよりも葉っぱを頭に乗せたままの宙返りは難しいようだ。
「大丈夫、練習すれば落とさない様に宙返りが出来るようになる」
俺が野々原を励ますと頭の中で、ため息が聞こえてくる。
『そういう事じゃないと思いますよ、野々原のあの顔を見て下さい』
スケさんに言わて、野々原の顔を見ると残念なモノを見るような目で俺を見ていた。
「どういう事?」
『マスターは本当にあんな方法で、人に化ける事が出来るようになると思っているんですか?
普通は、こんな話を信じたりしませんよ、狐や狸と少しの猫がそんな風に変身出来るようですけど、あくまで未確認の内容です。
人化の力のある魔道具としての葉っぱならともかく、ダンジョンで取って来ただけの葉っぱで変身出来るとはとても思えません。
むしろ、マスターの茶番に付き合ってくれた野々原の優しさに感謝するべきです』
スケさんにばっさりと切り捨てられて、ショックを受ける俺の肩を、野々原が優しく叩いて慰めてくれる。
分かっていたなら、最初から教えてくれたら良かったのに、スケさんはそれをしないで俺が自分から気がつくまで泳がすタイプなのは分かっているけど、正直意地が悪いと思ってしまう。
スケさんの事は置いておいて、取りあえず俺の茶番に付き合ってくれた野々原にお礼を言おう。
「ありがとう、野々原、それと期待させてごめん」
「いいんですよ、俺の為にしてくれたって分かってますから、本当に人に成れたらラッキーくらいの感じでしたし」
野々原のに優しさが心に刺さる、それにしても嘘を教えたサキュバスは許せない。
騙された俺を馬鹿にしていたに違いない、騙したのはお互い様なんだけど、今度こそちゃんと人に化ける方法を聞き出してやらないと。
「スケさん、サキュバスの居場所は分かる?」
『もちろんですよ、ちゃんとガラスゴーレムで追跡していますから』
「じゃあ、今から会いに行くから案内よろしく、野々原もついて来て」
「は、はい」
俺の後に続いて、野々原と山を下ってサキュバスの所に向かう。
サキュバスは夜の街でキャバ嬢として美貌と妖艶な雰囲気で、その店のNo1として働いていた。
騙された事に文句を言って、今度こそ本当の事を聞き出そうとしていたのに、他の客にも指名されてなかなか俺の所に来てくれなくて、無駄な出費だけが嵩んでしまう。
折角連れて来たのに、野々原は狼の顔がコスプレ扱いをされて、顔が見えないと入店を断られて外で待機している。
やっと俺の所にサキュバスがやって来て、俺の顔を見て気まずそうに接客を始めた。
「どうやって、ここが分かったの?」
「そんなのに答える義理はない、よくもあんな嘘を教えやがったな」
「本当に、それで変身する種族もいるのよ、私は嘘は言ってないわ。
だから、文句を言われる筋合いはないんだけど、それよりも貴方の方こそ、私を見逃すって約束を破って私の事を監視していたわね!」
サキュバスは俺の事を睨んでくる、俺は何食わぬ顔でサキュバスの追及を受け流した。
「今日は随分と強気なんだな、この前はすぐに逃げ出そうとしていたのに、どういう心境の変化だ」
「ふふ、ここで普通のお店なのよ、私に何かあればスタッフや警備員が貴方を捕まえるわ」
「客や従業員全てが人質って事か、全く悪者らしい事をしてくれるな」
「そんな殺気を飛ばして来ても無駄よ、最初に人質を匂わせた時の態度で、貴方には人質が有効だって思分かったから」
サキュバスが冷たい瞳で、俺を睨んで口許が笑っている。




