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助けに行きますか

 俺は八谷君の言葉に少しだけ気持ちが揺らいでしまった。


 正体がバレている事は、今さらどう繕ってもどうしようもない、だから、元々身に覚えのない罪だとしても、指名手配の解除という事実上の無罪放免には魅力があった。


 もちろん本当は無罪だし、俺とウサギ男を繋げるような証拠は八谷君の記憶だけだ、普通なら裁判すら起こせないような弱い判断材料。


 でも、八谷君の自分の第6感や勘への自信が、俺をウサギ男だと判断して立場を利用したら、簡単に白を黒に変えられてしまいそうだ。


 今の俺なら、捕まらないように逃げ続ける自信がなくてるけど、それが元嫁や娘にまで迷惑がかかるなら手も足も出ない。


 一応、スケさんのゴーレムや、キッカとオウカが守ってくれているけど、抵抗すればするほど罪を重くされてしまいそうだし。


 ただ、もう世間に流れてしまった情報は消す事なんて出来ない、ウサギ男=俺というのを伏せて、架空のウサギ男に全部罪を被せて抹消するという事なんだろうか?


 色々と考えていると、俺が悩んでいると思ったのか八谷君が声をかけてくる。


 「何か条件で気になる部分がありますか?」


 「いや、俺は今の生活がそのまま続けられたら十分だって思ってて、厚待遇ってあまりピンと来ないというか‥」


 「そうですか、佐藤さんは変わってますね、失礼ですけど今の佐藤さんの生活は決して裕福とは言えませんよね。


 命の危険もある仕事なので、職場の環境が最高とは言えませんけど、金銭面なら今の10倍はあると思います。


 そうすれば、娘さんの親権だって佐藤が待つ事が出来るんじゃないですか?」


 名前と顔から俺の仕事や家族構成まで調べられていて、兎達に頼むのが少し遅かった事を後悔し、俺が帰ってから兎達に情報の保護を頼むまでのほんの少しの時間で、調べた情報収集能力に驚いてしまう、流石は国の機関というべきかもしれない、ただ。


 「凛さんや美月、俺の知り合いに何かするつもりなら、俺も覚悟を決めるけど」


 娘の親権を元嫁が持っていったのは、確かに俺と元嫁の経済力格差もあるけど、それだけが理由じゃない。


 ダンジョンと繋がった事で、ステータスとスキルを手にした俺を評価してくれるのは有難いけど、それがなければ俺は何処にでもいる只のおっさんだ。


 娘は俺なんかよりも元嫁と一緒の方が健やかに成長出来ると思っている、それはお金だけの問題じゃなく人間としての何かが俺には欠けているからだと思う。


 そこまで考えるなら、娘や元嫁には関わらないで離れた方がいいのに、娘の成長が見たいとか元嫁の優しさに甘えてズルズルと関わりを持っている、情けない人間が俺なのだ。


 自分で自分を省みて凹むけど、そんな俺が少し特別な力を手に入れたからって、元嫁よりも親として優れているなんて、これっぽっちも思わないし、2人の生活にこれ以上の迷惑をかけちゃいけない。


 そんな気持ちが言葉と一緒に、八谷君を威圧する。


 「待って下さい、僕達に佐藤さんと敵対するつもりはありません。


 ただ、佐藤さんは脇が甘いというか足元が疎かというか、ウサギ男は国だけじゃなく、他の組織からも目をつけられています。


 何の後ろ楯もなく行動をしていたら、いつか本当に家族に手を出されてもおかしくないです」


 『確かに、マスターの行き当たりばったりはワタシのフォローが追いつかない事がありますからね』


 慌てた八谷君の言葉を、頭の中でスケさんが肯定して援護してくる。


 『いいんじゃないですか、国の組織に所属すれば、剣聖が元いた様な裏組織も手を出し難くなるでしょうし。


 マスターが今の生活を大事たいなら、そういう条件を出せばいいんです。


 指名手配を解除出来るなら、ある程度の条件を飲む準備が出来ていると思いますよ』


 スケさんの後押しもあって、俺はいくつか条件を出して、陰陽庁に入る事を八谷君に承諾した。


 「本当にそんな条件でいいんですか?もっと好条件を陰陽庁は準備していますよ」


 「過ぎたるは猶及ばざるが如しだよ、只でさえ分不相応な力を手入れたのに、これ以上に欲張ったら良くないから」


 「そんなものですか?僕はまだまだ未熟なのでそんな気持ちにはなりませんけど。


 それではまた連絡をします、そういえば急に佐藤さんの情報が見れなくなったんですけど、あれは佐藤さんの仕業ですか?」


 「それは契約違反だよ」


 「そうでした、佐藤さんの能力や周辺を詮索しないですよね」


 「そういう事、大事なデータや機密機関にクラッキングしたり、ウィルス仕掛けたりしないから多少のハッキングは大目に見て」


 「あんまり目を瞑れない様な事は止めて下さいよ。


 それとウサギ男に関して、本当に指名手配を解除しなくてもいいんですね?


 僕としては庭番が関係しているので、無理矢理でも解除して鼻を明かしてやりたかったんですけど」


 「庭番って有名なの?」


 「庭番を知ってるんですか、日本で唯一の指定裏組織ですよ。


 陰陽庁とは違って、国の黒い部分にも手を出している連中です、絶対に関わり合いにならないで下さいね」


 「もうウサギ男の騒ぎで関わってるけど」


 「そう言えば、そんな事もありましたね、あの事件も警察からの協力の要請があって大変でした。


 本当にあの馬鹿には昔から迷惑をかけられっぱなしです」


 馬鹿というのは庭番の頭の事だろうか、八谷君は20前後に見えるのに昔からってどういう事だろう?


 俺が呆けていると、八谷君が笑いながら。


 「あ、僕と庭番の頭、勾田 瓊(まがた けい)とは幼馴染みなんですよ。


 小さい頃から、陰陽庁は影として庭番は闇としてお互いに日本を裏で支えて来ましたから繋がりはあります」


 「そうなんだ、庭番の頭と幼馴染みって八谷君っていくつなの?」


 庭番の頭を勝手に若くても20代後半だと思っていたから、幼馴染みと聞いて少し疑問に思ってしまう。


 「あ、よく聞かれるんですけど僕は34ですよ、昔から若く見られるんですよね。


 僕としてはもう少し貫禄が欲しいんですけど、新しく入った人には、同じ新人扱いされたり、酷いと後輩扱いまでされますよ」


 そんなに風に苦笑いしながら、八谷君は自分の歳の話をする。


 俺も20前後だと思っていたから、どうフォローをすればいいのか分からない。


 「慣れてるので気にしないで下さい、本当にウサギ男の件はそのままでいいんですね。


 陰陽庁が仕事を頼んだのに、警察からの追われる事になってしまいますよ?」


 「ウサギの被り物はもう捨てたから、ウサギ男=俺ってなって捕まらない限り問題ないよ」


 「そういう事ですか、確かに一番特徴のある被り物がもうないのなら、佐藤さんがウサギ男とバレない限り大丈夫でしょうね。


 しかし、そうなると今までの生活を壊さないというのが難しくなってしまいますよ」


 こちらで何か、顔を隠す物を準備しないといけませんね。


 次に会う時までに用意しておきますので、今日はこれで失礼します」


 そういって八谷君は、呪符を出すと何かを唱え、それに呼応するように呪符が光ると、八谷君の姿が消えた。


 なんだか流れで、陰陽庁に所属する事になったけど、これからどんな事をするんだろう。


 その前に蘇生魔法を取得して、剣聖の妹を助けに行きますか。

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