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死墜をかけた

 「一番身近なって、まさか凛さんや美月を犠牲にしろっていうのか、それなら剣聖やスケさんには悪いけど、蘇生魔法なんて取得するつもりはないぞ」


 『勘違いしないで下さい、確かに凛様や美月様はマスターの身近な人ですが、彼女達を精霊化やアンデッド化なんてマスターがしない事は分かっています。


 マスターには、他にも身近な存在がいるじゃないですか』


 「他に?職場の人や、権田と剣聖も身近な人と言えなくもないけど、一番はやっぱり凛さんと美月だぞ」


 『それは心の話です、スキルや管理機構が人の心まで、正確に管理しきれてるわけがないんです。


 管理機構が認識出来るのは、特定の人物や物凄く強い感情だけ、じゃないといくつもの世界のその数だけ存在する無限に近い知的生命体全てを見続けないといけないので。


 だから、ミスもあるし不具合もあるし、抜け道もあるんです。


 そして今、マスターの一番身近な存在はワタシになります』


 頭の中のスケさんの言葉に遅れて理解が追いつく、昇精と死堕が()を精霊やアンデッドに変えるって話から思い込んでしまっていたけど、スケさんは一番身近なモノって話していた。


 そう思って、もう一度スケさんとの会話を遡って思い出すと、昇精と死墜の両方を管理機構の目を誤魔化して自分に使わせようとしていた事に気がつく。


 「スケさん、もしも失敗したらどうするんだよ」


 『それなら失敗しないように頑張って下さい』


 軽い口調で言うスケさんが何を考えているのかが分からない。


 「なんで、スケさんが自分を犠牲にしてまで、蘇生魔法を取得させようとしてくれるんだ。


 剣聖の妹に同情をしたってわけじゃないんだろ?」


 『そうですね、ワタシの限界を突破したいと思ったからです。


 今のままでは、ワタシの成長はすぐに限界が来てしまいます、だから蘇生魔法を取得する過程で自分の存在を書き換えようと思ったんです。


 剣聖の妹は可哀想とは思いますが、ワタシにとってはオマケです』


 「動機は理解したけど、本当にやる気なのか、失敗したらどうなるか分からないんだぞ。


 スケさんは限界を感じているかもしれないけど、今のままでも十分に強いし、まだスキルスロットだって余ってるんだろ、無理をしなくてもいいじゃないか」


 『そうですね‥‥、ダンジョンの攻略に役に立っている自信はあります。


 ただ、ワタシの力はマスターの力に依存性が高いんです。


 赤いスライムからマスターを守りきれなかった時に思いしりました、マスターがデバフをかけているとワタシの念動やマジックハンドにも影響が出るんです。


 この先が何階層あるか分からないですが、いつかワタシの力が及ばない場面が出てくるかもしれません。


 新しいスキルで補える可能性もありますけど、結局スキルに必要なステータスがワタシには無いので、マスターの能力値に頼る事になるんです』


 「そんな事、気にしないのに」


 『マスターはそうでしょうね、ですがワタシはアシストスキルなんです、自分の能力不足で何も出来なくなったら、存在意義に関わるんです』


 「それが危険な賭けをする理由になるって事か」


 『はい、なのでマスターは気にせずスキルを使って下さい』


 覚悟が決まっているスケさんに、もう何も言う事はないので、俺は少しでも成功率を高める為にバフを全開でかけて昇精を使う。


 スケさんには実体がないので、俺の身体に昇精の力が入り込んで何かが身体から抜けて、空中で集まって少しずつ形を成していく。


 人の形に落ち着いたと思った瞬間に光を放って、消えてしまった。


 「えっ、まさか‥‥」


 失敗したのかと思って変な汗が流れた後に、頭から声が聞こえてきた。


 『マスター、成功です』


 「良かった、消えたから失敗したのかと思った、昇精に成功したのに前と変わらないような気がするんだけど?」


 『消えたのはワタシがまだ精霊として未熟なので形を保てなかっただけです、ちゃんと成功したので安心して下さい』


 「そうなんだ、スケさんが消えなくて良かったけど何の精霊なの?」


 『無の精霊です、属性のない精霊は稀なんですよ、普通は何か属性を持っているのが精霊ですから』


 「火の精霊とか水の精霊とかな」


 「はい、珍しい属性だと空間属性とか時間属性の精霊だっていますが、無属性はそれよりも珍しいんですよ』


 なんだかスケさんのテンションが少し高いような気がする、これが精霊なった影響なのだろうか。


 「無属性って何が出来るの?」


 『特に何も出来ませんよ、無属性なので出来るのは魔力を魔力のまま出せるくらいです。


 無属性なんですから、当たり前じゃないですか』


 頭の中のスケさんと沈黙を共有して、俺は口を開いた。


 「ハズレ属性じゃないか」


 『ハズレじゃありません、スキルスロットを消費しないで、精霊の種族スキルの憑依もちゃんとあります。


 これで次は死墜を試す事が出来ます、そのまま使っていたらアンデッドの中でもゴースト系にってしまうので、身体が必要なんです』


 「ゴースト系だと何か問題が?」


 『ゴーストの種族スキルも憑依なんですよ、せっかくスキルスロットを消費しないで取得出来るなら、違うスキルが欲しいじゃないですか』


 「それが順番が大事だって言ってた理由か」


 『そうですよ、命を賭けてるですからそれに見合う見返りは欲しいものです』


 「なんかスケさんらしくて安心したよ、でも憑依するって何に憑依するんだ?


 ゴーレムもアンデッド化出来るのかな」


 『残念ながら、無生物のアンデッド化は出来ませんよ、精霊のアンデッド化も珍しいですけど死精霊がいます。


 もしも反対だったら、死属性の精霊になっていたと思います、属性が初めから決まっているのは面白くないのも順番を気にした理由の1つです。


 まさか無属性の精霊になるとは思ってませんでしたけど』


 心なしか少し声のトーンが下がった、やっぱり無属性ってハズレなんじゃないか。


 「じゃあ、誰に憑依するって言うんだ、やっぱり凛さんや美月?


 それとも協力するって言っていた剣聖に?」


 『そんな事しませんよ、憑依状態でアンデッド化したら、ワタシだけじゃなく憑依された人もアンデッドになってしまいます。


 誰かを犠牲にする方法はマスターが賛成しないと分かっているので、そんな事しませんよ』


 俺が全く答えが分からないと首を捻っていると、スケさんが答えを教えてくれた。


 『マスターの真分身を使います、ワタシが憑依すればマスターと別の個体と判断されて、死墜が使えるはずです。


 それなら誰も犠牲を出さずに、ワタシの目的も達成出来ます。


 もしかしたら、マスターの真分身が消滅するかもしれませんが、マスターなら後で取得し直せると思うので』


 「それくらいなら問題ない、真分身を出してスケさんが憑依したら、死墜を使えばいいんだな。


 未熟だから姿を保てないって言っていたけど、憑依は大丈夫なのか?」


 『はい、憑依は実体を持たない魔物や精霊の種族スキルです、種族スキルの消費はほんのわずかで十分なんです』


 そして俺は真分身を出した後、昇精の時と同じ様に全開でバフをかけて、目の前の俺そっくりの真分身に憑依したスケさんに死墜をかけた。

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