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電話をする為に自ら立ち上がった

 俺は安心させる為に、「大丈夫だよ」と言って元嫁の手をギュッと握った。


 警察が水族館に突入して約1時間、3階に避難していた娘を含む来客達は無事に保護されて、水族館から出てきた。


 残念ながらスタッフや飼育員に以外にも、6名の死者と38名の重軽傷者が出てしまった、飼育されていた生き物達も3階にいた生き物以外は全滅、魔物擬きについては何も語られない。


 スケさんのいう通り、警察にも特殊な案件を処理する人達がいるのかもしれない、最初に突入した警察達とは別の人達が、報道陣や野次馬の死角になる裏側から水族館に入って行くのを、スケさんが知覚範囲で確認して俺に教えてくれた。


 水族館の中では、警察も来客達と一緒にいなくなり、後から突入した謎の人達だけが残って、生き残った魔物擬きを駆除していた。


 各階で状態は大きく異なり、3階は騒ぎの大きさの割に殆ど被害はなく、1階は全体を水が浸食し逃げ遅れた水族館関係者と来客の遺体が転がり、遺体は分厚い袋に入れられて運ばれていく。


 一番酷い状態だったのは、佐藤とスライムが戦った2階で、壁、天井、床が無事な場所はないと思うくらいに破壊され、魔物擬きの死体が数えきれない程バラバラにされて散らばっていた。


 謎の人達は、自分達が重火器を使ってチームで1匹ずつ倒しているのに、ほんの少しの時間で魔物擬きをこれだけの数を倒し、これだけの破壊を行うスライムと戦って倒したウサギ男へ脅威を感じていた。


 そんなウサギ男こと俺は、無事に娘を連れて元嫁のマンションに帰っている、一緒に遊びに来ていた友達もそれぞれの親が迎えに来て帰って行った。


 マンションから水族館は知覚範囲外なので、その後の様子を観察するのはゴーレムに任せてある。


 帰る前に、兎達に今日のお礼として少しいい野菜を買って、元嫁と娘に変な顔をされたけど、兎達は裏方として頑張ってくれたから。


 娘はかなり憔悴した様子で、マンションに帰るなり部屋に入って行ってしまった。


 俺は元嫁と顔を見合わせて、仕方ないとソッとしておく事にした、あまり長居をしても出来る事がないのでマンションから帰る。


 帰り道にネットニュースを確認したら、水族館の事件はテロ扱いをされていて、ウサギ男がテロ組織として報道されていた。


 思わずスマホを落としそうになる、ますます正体を知られるわけにいかなくなった、被害総額は100億は超えるとされ、とても払いきれる額じゃない。


 今日は癒し要員として、兎達は娘ので側においておくつもりだから、ダンジョンでウサギの被り物を処分しよう。


 ダンジョンなら絶対に足はつかない、今まで何度か捨てようと思ったけど、兎達の前で捨てるのは気が引けたので、今日が絶好のチャンスだ。


 そんな事を考えていたら、権田と剣聖からメッセージが届いていた。


 両方とも水族館の事件について詳細を求める内容だったので、俺に分かってる部分だけ説明しておいた。


 説明はしたけど、権田と剣聖に正体を明かすのは、もう1度考え直した方がいいだろうか?


 しかし、正体を明かす約束をしていたのに、急に止めたら変に疑われるかもしれない、俺がテロリストじゃないと信じてくれるといいんだけど。


 「どうしたらいいのかな‥」


 俺は立ち止まり、空を見上げて呟いた。


 水族館の事件が起きて数時間後、どこかのホテルの1室にて。


 「まさか、あんな事になるとはのぉ」


 「はい、途中からカメラも切れて監視も出来なくなりましたが、あのスライムは失敗でした」


 「完全に制御が外れてしまったからの、上手く制御出来ればいい駒になったのに勿体ない事じゃ」


 「ニュースでは、ウサギ男がテロを起こした事になったみたいです、スライムは見つかってないので、ウサギ男が倒したという事でしょうね」


 「ただデカいだけとはいえ、あのスライムを倒すなんて、ウサギ男の力は帰還者や覚醒者の中でも上の方かもしれんな、庭番に譲るには惜しいかもしれん」


 ソファーに腰を掛けた老人に、その横で立っている大男が頷く。


 「横取りは良くないと思うなぁ」


 「庭番か、呼んだ覚えはないんじゃがな」


 突然現れた、庭番のスーツの男に座りながら老人グランが睨みつける。


 「グラン様、追い返しましょうか?」


 「まぁ、よい、今回も上手く情報操作をしてくれたみたいじゃからのぉ。


 何か言いたい事があるなら、話くらいは聴いてやろうて」


 「あはは、ありがとグランさん、今回はちょっと大変だったよ、目撃者も結構いたし。


 仕方なくウサギ男に罪を擦りつけちゃった、せっかく仲良くしようと思ったのに、どうしようって感じだよ」


 スーツの男が両出を上げて、首を竦めお手上げのポーズをとる。


 「なんじゃ、文句を言いにきたのか?」


 スーツの男の言葉にグランの機嫌が少し悪くなる、それに応じて大男シュタインから殺気が漏れる、スーツの男はそんな殺気を受け流し。


 「その通り、少し文句を言いに来たんだよ」


 「ちゃんと金は払っておるし、実験のデータの一部も約束通り渡しておる、文句を言われる筋合いはないはずじゃが」


 「あのスライムはデータと随分違ったみたいだけど?」


 「あれは失敗作じゃ、失敗じゃからデータと食い違う部分があっても仕方なかろう」


 「確かに実験に失敗はつきものだからね、でも、人の国で実験してるんだから、もっと、配慮ってものがあっていいと思うんだよ。


 データも間違い、実験も失敗じゃさ、死んだ人達って無駄死にって事だよね?」


 「はっはっはっ、庭番の頭ともあろう者が、たかが数人の死人に同情か?」


 「俺もさ、意味のある死なら仕方ないって人体実験でも何でも納得出来るんだよね。


 でも、無駄死には良くない、人は国の財産だって思うんだよ。


 その財産を、お前達は無駄に消費した、文句を言って当然じゃないかな」


 「なんだ、仲間にしたがっていたウサギ男にでも感化されたのか?


 裏の社会に生きてる人間が、人が数人死んだだけでグダグダと、たかが日本の裏組織の一つが俺達ホスピタルに意見するなんて調子にのるなよ」


 シュタインがスーツの男庭番の頭を威圧して、手に武器をちらつかせた。


 「調子にのってるのは、そっちだって話なんだよ、人の国に来て実験してるんだから、実験材料は大事に使えよ。


 それが出来ないなら、自分の国に帰って自分の国の人間を使って実験しろよ」


 頭がシュタインの威圧に屈する事なく言葉を続けると、シュタインは手に持ったナイフを素早い動作で取り出して頭の心臓を突き刺した。


 「シュタインは、もう少し我慢を覚えんといかんぞい、せっかくの日本での協力者を殺しおって。


 じゃが、力の差を見せつけて相手を上手く使うのもいいかもしれんのぉ」


 「そうですね、グランさ‥‥ま?」


 高笑いをするグランの横で、その意見に同意したシュタインが首を縦に振ると、その勢いでもシュタインの首が下に落ちた。


 「シュタイン?なんじゃ、何が起こっておる?」


 グランは床に転がるシュタインの頭を見て、ソファーから立ち上がった。


 「先に手を出したのは、そっちだからね、ちょっと質の悪いお客さんには退場して貰おうかな」


 「ワシに手を出したらホスピタルが黙ってはおらんぞ、それでもいいのか?


 とっとと消えて、今まで通り仕事をするなら、シュタインの事は目を瞑ってやろう」


 グランが言うと、頭は両手を下げてグランに背を向けて歩き出した、来た時と同じように無音で歩いてそして姿を消した。


 「生意気な小僧じゃ、ホスピタルにたてついた事を後悔させてやらんとな」


 そういって本部に連絡をしようとして、いつも電話を用意してくれるシュタインがいない事にグランは舌打ちをして、電話をする為に自ら立ち上がった

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