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元嫁の手をギュッと握った

 やっと本体に攻撃が届く様になって、トドメを刺そうとして、大剣が空を切った。


 今までの以上の動きで、赤黒いスライムが俺の攻撃を避けて触手を伸ばしてきた。


 触手の影しか追えず、気がついたら脇腹を深く抉られていた、痛みを感じた瞬間に治癒魔法で傷を癒し、聖魔法のバフを使って次の攻撃を躱した。


 「スライムってこんなに速いのかよ」


 『いえ、この個体が異常なんだと思います、さっきの攻撃も少し反らすのがやっとでした、防ぎきれなくてすみません』


 「俺は反応しきれなかったから助かったよ、スケさんも俺とステータスは共有なのに、よく反応出来たな。


 それよりもあんな化け物作って、犯人は何がしたいんだよ」


 『神眼レベル10で使えるようになった未来視のお陰です。


 犯人が何がしたいのかは分かりませんけど、人の欲に際限がないという事じゃないですか。


 今よりもお金を儲けたい、強い力が欲しい、支配をしたいとか、権力を持っている人ほど更に求める傾向があるように感じます』


 そういえば、神眼レベル10で未来視を使えるようになった時に、スケさんが使い難いとボヤいていたのを思い出す。


 レベル9で使えるようになった過去視が最大で100日前まで視れるのに対して、最大で10秒先の未来しか視れなかったらしい。


 そんな感じだったので、スケさんが未来視の事をすっかり忘れていた。


 「際限のない欲望か、今の生活に満足してれば幸せなのに。


 化け物作って人に迷惑をかけるなよ、あのスライムなんて自衛隊でも勝てないぞ」


 『欲望に関しては、マスターの方が少数派だと思いますよ、人の進歩は善悪を抜きにした欲望の結果ですから。


 ワタシも迷惑な実験には反対です、後、自衛隊にも世間には知らせてない戦力くらいあるんじゃないでしょうか?


 能力のある者が裏だけに集まるとは思えません、そんな事になったら世の中は裏組織に支配されてしまいますよ。


 まぁ、世間に公表してない戦力が国の裏組織だとすれば、すでに裏組織に支配されてると言ってもいいんですかね?』


 「俺が少数派ってのは納得いかないけど、確かに俺達みたいなのが、裏組織にしかいないってのはおかしいよな。


 だけどスケさん、考え込むのは後にして戦いに集中してくれ」


 俺は襲いかかってくる触手を大剣で切って防いで、スライムに槍を投げつける。


 切り落とした触手は真っ赤な液体になって床に落ちて、床が煙を上げて溶けていく、俺は溶けた床を見てゾッとした。


 投げた槍はスライムに届く前に触手に捕まって、バキバキとへし折られ、体内に取り込まれ分解された。


 「体内でモノを溶かすとか、体液が強酸とかスライムのイメージ通りなんだけど、目の前で見せられると凶悪だよな」


 よく見ると触手を切った大剣も少し腐蝕している、魔力を流せばすぐに直るけど、普通の武器で戦ったら武器の方が先にダメになりそうだ。


 だけど、俺には武器の予備は大量にあるし、大剣は魔剣で修復機能がある。


 スライムの強酸の身体なんて関係ない、空間収納から武器を取り出て投擲、スケさんも多数の武器を操ってスライムを攻撃した。


 色々な武器で床に串刺しになったスライムに、今度こそトドメを刺そうと大剣を振り下ろし、スライムは真っ二つになって赤い水が床に広がった。


 『マスター、床下です』


 「器用なスライムだな、あの状態から逃げたのか」


 『動きを止める為に床に串刺しにしたのが失敗でした、床に空けた穴から逃げられてしまいました。


 今は2階床と1階天井の間を移動しています、マスターに勝てないと判断した途端に逃げに徹するなんて賢いですね』


 「床と天井の間なんて追いかけられないぞ、あんなのが外に逃げたら大変な事になる」


 『大丈夫です、動きは捕捉していますので逃がしません。


 それに、さっきの攻撃でスライムの体積は更に半分以下になっています、倒しきるまで後少しです』


 スケさんの案内通りに、2階を走りながら床下を移動するスライムを追いかける、真下に来た時には床に大剣を突き刺して攻撃してみるけど、スライムには器用に避けられた。


 逆に、床下を通っている電気ケーブルを切ってしまい感電したので、余計な攻撃をするのは止めた。


 逃げ回ったスライムが通気孔から、外に飛び出して封鎖されている水族館前の広場に着地した。


 1度身体を変形させて、衝撃を逃がすと素早く野次馬の方に移動する。


 俺は透過で壁をすり抜けて落下しながら、重力の魔眼を使う。


 スライムは過重力をかけられて一瞬動きが鈍り、スケさんが念動やマジックハンドで更に拘束する、変形して逃げようとする。


 「往生際が悪いんだよ」


 俺は落下の勢いをのせた大剣を、逃げようとしていたスライムを突き刺した。


 スライムが風船の様に弾けて、周りに体液が飛び散って地面に無数の穴が空いて煙が昇っている。


 『スライムの消滅を確認して、魔石も回収しましたが、システムが違うのでポイントに変換は出来ませんでした』


 「逃がさなかっただけで十分、ポイントならダンジョンで集めればいいし」


 スライムを倒せてホッとしていると、眩い光に襲われた。


 「な、なんだ?」


 光の正体を確認すると、封鎖された広場に集まった報道陣や野次馬のカメラによるフラッシュだった、同時に周りを警察に囲まれる。


 「またウサギ男だ、武器の携帯を確認、駅前で暴れていたのとは状況が違う、発泡も許可する」


 物騒な発言が聴こえてきた。


 『マスター、早く逃げますよ、せっかく兎達にハッキングして貰ったのに、スライムを倒すのを優先して無駄にしてしまいました』


 「そ、そうだな、どっちに逃げればいい?」


 『人垣を飛び越えれば、後ろはガラ空きです、防犯カメラの位置は案内します』


 障壁を使って人垣を飛び越え、追いかけてくる警察や報道陣を裏道を抜けて振り切った。


 適当なビルの屋上でスマホを確認すると、元嫁、権田、剣聖から着信が何件も残っていた。


 留守電とメッセージを確認して、元嫁に急いで電話を掛け直す、数回のコール音の後に元嫁が電話に出る。


 『九郎、大変なの、今、水族館が、美月が遊びに行ってて、連絡がついたから無事なんだけど、ウサギ男が出たって、私も今向かってるんだけど』


 「凛さん、落ち着いて俺も水族館に向かうから」


 『九郎、仕事は大丈夫なの?』


 あっ、真分身をおいてきたから忘れてたけど、まだ仕事をしている時間だ、どうしよう真分身と入れ替わったら仕事を抜けらるか分からないし、慌てた元嫁を放ってもおけない。


 「大丈夫、水族館に着いたらまた電話するから」


 『わかった』


 適当な場所からウサギの被り物を取って、着替えを済ませて水族館へ引き返す。


 権田と剣聖には、今日の予定がダメになったとメッセージを送った。


 水族館は封鎖されているので、野次馬から少し離れた所で元嫁に連絡をした、電話をしながらお互いの位置を確認しあって合流する。


 結局、水族館の中には入れないので、警察が中を確認して、娘達を保護して出てくるまで待つことになった。


  同じように家族や知り合いが水族館の中にいる人達が、無関係な野次馬に不機嫌な視線を送る。


 周りから聴こえてくる声を拾うと、ウサギ男がテロ行為をした的な話が飛び交っている。


 否定する事も出来ずに、元嫁と並んで娘が出てくるのを待つしかなかった。


 俺はスケさんの知覚範囲とゴーレムで、娘がちゃんと無事なのを知っているけど、元嫁はそんな事分からないから手が震えている。


 俺は安心させる為に、「大丈夫だよ」と言って元嫁の手をギュッと握った。

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