大剣が空を切った
俺はスケさんと話ながら、2階まで駆け上がって目的の扉を蹴り壊した。
扉を壊すと中から水が溢れ出して来た、水の勢いに押し返されそうになるのに耐えて中に入った。
外に水が落ちる音が聞こえてきて、周りで騒ぐ声が大きくなっていく、流れ出た水を見て初めて何かが起きている事に周りが気づいたみたいだ。
事件を起こした犯人が、それだけ用意周到に準備をしていたという事、もしかしたら、剣聖がいた組織も何かしらの関係はあるかもしれない。
剣聖は、組織の頭は魔道具を作る能力があると言っていた、通信や空間収納の魔道具があるなら、周囲から視線を逸らしたり認識をし難くする魔道具もあるかもしれない。
頭が面白いと思った仕事を持ってくるって事は、魔道具を取引する相手に善悪を問わないだろう、正直、剣聖ほど頭という人物に好感は持ててない。
利用されただけの魔物擬きを殺すのは気が引ける、なるべく魔物擬きには会わないようにスライムの所に向かう。
本当は避難している娘の所に行きたかったけど、俺が行っても娘だけを助けるわけにはいかないし、その他の人を相手にするのは面倒だ。
それよりも元凶のスライムを倒す方が俺には向いている。
スケさんに追加のゴーレムを出しもらって、時間を稼いでもらっている、ガラスゴーレムは戦闘能力が低いけど、数だけはいるので時間を稼ぐくらい出来るだろう。
「スケさん、実験って事はどこかで観察している奴がいるんじゃないか?」
『ワタシの知覚範囲には、興味本意の野次馬しか確認出来ません。
3階は上空が開いてますし、ワタシの知覚範囲外からならの衛星か、他には防犯カメラヘのハッキングか、魔道具の可能性もあります。
マスター、少しスマホを借りてもいいですか?』
「いいけど、何をするんだ?」
『衛星と防犯カメラなら何とかなるかもしれないので、キッカとオウカに連絡します』
許可を出すと、スケさんは器用に俺のポケットからスマホを取り出してメッセージを送っていた。
「なんでキッカとオウカ?」
『マスター、機械に関して兎達は天才という奴ですよ、キッカにパソコンを衛星にハッキング出来るよう魔改造してもらいます。
非常事態なので、材料は周りからゴーレムに大至急で集めさてます、元から少しずつは集めていたので急げは30分で何とかなるでしょう。
同時進行でオウカには防犯カメラにハッキングするように指示をしました、誰かかハッキングして防犯カメラの制御を奪ったのなら、取り返せば問題ないはずです。
予定通り観察が出来なくなったら、相手もボロを出すかもしれません』
「本当にキッカとオウカに、衛星とか防犯カメラを何とか出来るか?
あの兎達が優秀なのは知ってるけど、普通のノートPCで出来るとは思えないんだけど」
『大丈夫です、キッカの魔改造であのノートPCは外部装置と接続すればスーパーコンピューター並ですし。
オウカのネットワークで、入り込めない電子機器はありませんよ。
すでに剣聖の会社には入り込んだみたいですし、水族館の防犯システムに入るくらい問題ないはずです』
「いつの間に剣聖の会社になんか入り込んだんだ、IT企業なんだからセキュリティはしっかりしてるだろ」
『マスターも聞いていたじゃないですか、ウノハナから新しいプログラムが持ち込まれたって』
俺は走ってる足を止めて、スケさんに聞き返した。
「まさか、ウノハナが兎達なのか?」
『はい、脳波を受信する翻訳システムです、開発が成功すれば人と人の間だけじゃなく、動物とも意思の疎通が出来ると思いますよ。
ついでに、そのプログラムにオウカは侵入用のウィルスを仕込んでますし』
「勝手に色々とやり過ぎじゃない?何がしたいんだよ」
『兎達はただの趣味ですね、マスターと話をしたいから作ったプログラムらしいです。
それをせっかくなので、ワタシがどこかの企業に送ってみるように提案し、たまたま剣聖の所を選んだようです』
「俺より稼いでくる兎達ってどうなんだろ」
『お金のやり取りは、銀行にハッキングして作った架空口座ですし、兎達は楽しければお金には興味がないでしょうから。
マスターが使ってもいいんじゃないですか?』
「兎達が稼いだお金に手をつけるつもりはないよ、兎達が欲しいものに使えばいい」
『マスターなら、そういうと思って税金を抜いて計算した分を寄付でもしようと調べていたところです』
「じゃ、最初からそう言えばいいのに」
『お金が入ったら、マスターが好きに使ってもいいと兎達が言っていたので、一応聞いてみただけです。
ワタシはマスターが手を出さないと思っていたので先に動いてましたけど、兎達にもちゃんと伝えておきます。
無駄話はこれくらいにしておきましょう、スライムもこっちに向かって来てますよ』
スケさんの言葉で俺は再び走り出し、十数秒後にはスライムと対峙した。
スライムは透明の水の塊のような感じで、ド○クエのような愛くるしさはないタイプだった、目や口はなくアメーバの方が近いかもしれない。
水族館にいた生き物が魔物擬きになって、スライムの身体の中を泳いでいる、高さは3mくらいで、2階フロアの天井いっぱいで、横幅が10mを超えている。
そんなスライムがプルンっと震えた次の瞬間には、身体のあちこちから触手を出して襲いかかってきた。
移動速度はそこまで速くないけど、水でできた触手の攻撃はデバフ無しでギリギリ避けれるくらい速い。
大剣で切り落としても、切った触手は水に戻ってバシャンと床に落ちるだけで、スライムにダメージを受けた様子はない。
「どう思う?」
『スライムが水を操って纏っているようです、本体を攻撃しない限りダメージはないでしょうね』
「スケさんの念動やマジックハンドで本体を捕まえられないの?」
『纏っている水に魔力が巡っているので、水をなんとかしないと本体に直接干渉が出来ないです』
「思ったよりも面倒くさい奴だな、スライムが雑魚なのはゲームの中だけだな」
『そうですね、ワタシの記憶のスライムはBランクで高レベルになると厄介な魔物です』
とにかく水の量を減らそうと、触手を切ったり、纏っている水を削ったりしたけど、最初の大きさから全然変わらない。
『どうやら、身体を泳いでいる魔物擬きが水を生み出しているようです。
先ずは魔物擬きを倒さないと、スライムの本体には手が出せませんね』
「あの魔物擬きだって被害者なのに、殺さないといけないのか?」
『1番確実で早く倒せる方法だと思います、魔物擬きを元に戻す方法も分からないんです。
スライムを倒さないと他の被害者が出てしまいますよ』
可哀想だけどスケさんの言う通りだ、助けられない魔物擬きを気にして、他の被害者を出したら元も子もない。
心を鬼にして魔物擬きを倒して、スライムを倒さないといけない、俺は大剣を両手に持ってスライムヘと駆け出した。
触手を切り落として水の量を減らし、大剣の届く魔物擬きを切り裂く。
スライムの身体が魔物擬きの血で染まる、少しずつスライムの体積が減っていき、スライムの身体は濃い赤に変わっていった。
全ての魔物擬きを倒すと、まだ残っていた血の混ざった水が崩れて床に広がり、本体の小さな赤黒いスライムが出てきた。
やっと本体に攻撃が届く様になって、トドメを刺そうとして、大剣が空を切った。




