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目的の扉を蹴り壊した

 結局は俺次第なんだよな。


 色々と助言や注意をしてくれるスケさんも、最終的には俺の意見を尊重してくれる。


 そんなスケさんが、好きにしていいと言ってくれて何かあれば助けてくれると言っている。


 変な罪悪感を持つくらいなら、少し甘いかもだけど顔くらい晒してしまってもいいかもしれない。


 娘が明日水族館に行く、モヤモヤした気持ちを晴らそうと剣聖を呼び出したのに、違うモヤモヤまで抱えてしまいそうだった。


 まだ残っているモヤモヤは、ダンジョンの30階層にぶつけよう。


 30階層は29階層の建物が続いているような迷宮階層だった、そして魔物は巨人ではなく巨大な虫型の魔物。


 見た目の気持ち悪さと、もしも昆虫が人と同じ大きさなら、地上最強の生物だと誰かが言っていたのが頭を過り、動きが止まってしまった。


 その隙を容赦なく軽自動車ほどの芋虫が襲いかかって来た。


 「うげぇ、気持ち悪ぅ」


 避けながら振った大剣が、芋虫の弾力のある身体に弾かれる、咄嗟だったので全然刃が立っていなかった。


 まともに体当たりを受けて吹き飛ばされ、迷宮内の壁に叩きつけられた。


 壁にもたれて倒れずに耐えて、睨み付けて重力の魔眼で芋虫を押し潰す。


 油断をしすぎだとスケさんに怒られたけど、油断というよりは嫌悪感で動きが鈍ったという方が正解で、慣れるまでは虫型の魔物を見つける度に一瞬身体が硬直してしまい、スケさんと兎達に迷惑をかけてしまった。


 兎達との距離がなぜか縮まったような気がするのは、ダメな主人を気遣っての事だろうか。


 少しだけ慣れてきて、体長1(メートル)の蟻の魔物の大群を相手にして、また虫が苦手になってを繰り返して、ポイントは貯まっていくけど、いつもよりも短い探索時間で部屋に帰った。


 俺の肩をポンポンと叩き、何も言わずに帰還して行く兎達を頼もしく思いながら、俺は念入りに汗を流して眠りについた。


 朝起きてコーヒー飲みながら、娘からのメッセージを確認して、内心とは裏腹に『気をつけて楽しんでおいで』と返信する。


 スケさんに諭されたから、茂野君にはゴーレムはつけていないけど、娘には3体のゴーレムがついている。


 何かあった時は、真分身でも何でも使って飛んで行くつもりだ。


 本当は朝から真分身と入れ替わって、娘をつけて行きたかったけど、スケさんに真分身を出した瞬間に念動で動きを封じられて諦めた。


 『まったく、どれだけ往生際が悪いんですか』


 バスの席に座り、スケさんからの説教を受けながら図書館に着いた。


 『朝までは娘を見守る気持ちになっていたんだ、娘からのメッセージを読んで顔も知らない茂野君が笑ったような気がしたんだ。


 そうしたらいてもたってもいられなくて』


 そんな言い訳を念話で仕事をしながら呟くど、スケさんもため息を溢しながら。


 『魔力値と知力値が高くなると勘が鋭くなると言われてますし、一応、美月様のゴーレムの数を増やしておくので、しっかりと仕事をして下さい』


 『茂野君が何かしようとしたら、すぐに教えてくれよ』


 『その程度ならいいんですけどね』


 『なんだよそれ?』


 『いえ、それよりも仕事が終わったら、権田と剣聖に話をするんでしょう。


 準備は大丈夫なんですか?」


 『それなら、適当な居酒屋を予約して2人にメッセージを送ったし大丈夫だ』


 人払いの出来るような店を予約した方がいいのかもしれないけど、俺にはそんなコネや金はないし、居酒屋でも今ならスケさんの空間魔法で周囲に音を遮断する事が出来る。


 下手に人の少ない店を選ぶよりも、その方が目立たない気がする。


 朝送ったメッセージに昼休みには返事が来ていて、2人共時間を作って来てくれるそうだ。


 ウサギの被り物姿がどう見えてるか分からないけど、中身が俺みたいなおっさんでがっかりされないだろうか。


 剣聖なんかはいきなり斬りかかって来そうで本当に心配だし、権田はどんな反応をするか分からない。


 まぁ何とかなるだろう、昼休みが終わって午後からの仕事をしようとした時に、スケさんからの娘が危ないと教えられた。


 俺は急いで真分身を使って、残りの仕事を頼むと隠密状態で水族館ヘ走り出した。


 『スケさん、美月が危ないって茂野が何かしたのか?』


 『そんな訳ないでしょう、水族館の魚が暴れ出したんです。


 非常扉が閉まって中に閉じ込められています、非常扉の方は作動した後に制御盤が壊されているので、何者かの仕業でしょうね』


 『何者かって誰だよ』


 『そこまでは分かりません、今のところ美月様はワタシのゴーレムが守っているので大丈夫ですが、戦闘能力は低いので、他の人まで守ろうとすれば10分もたないと思います』


 『それでも、美月の友達も皆も守ってくれ、事故の気分転換に遊びに行ったのに、また変な事件に巻き込まれたんだ。


 そこで誰かが大怪我したり死んだりしたら余計に落ち込んでしまう。


 美月は今日を楽しみにしてたんだ、こんな事した奴は絶対に許さない』


 俺は水族館に向かう脚にさらに力を込めた、どんどん加速して景色を置き去りにして数分後には水族館に着いた。


 「くそ、どこも鍵がかかってる、スケさん中の様子は?」


 『水槽が壊れて浸水しています、水族館が水が溜まるような構造になっているはずがないので、これも誰かの仕業でしょう。


 一応来客者は最上階に避難して、被害者はいませんが、スタッフや飼育員に被害者が出てしまいました、すみません』


 「そうか全部守れるわけないよな、避難の誘導をそれとなくしてくれたのはスケさんなんだろう、ありがとう」


 『いえ、マスターの嫌な予感を信じてもっとゴーレムを投入しておけば、被害者を出さずに済んだかもしれません。


 30体じゃ全然足りませんでした、暴れ出した生き物は魔物に近い生き物に変わっています。


 美月様の周りに残した3体以外で、危ない人の救助に向かい数体の魔物擬きを倒しましたが、ゴーレムはその倍が壊されました』


 「ゴーレムを犠牲にして悪いけど、出来るだけこれ以上被害者が出ないようにしてくれ。


 後、どこから入ればいいのか案内も頼む、どうせ扉は全部鍵がかかってるんだろ、壊して入るないんだから壊しても被害の少ない場所を教えてくれ」


 『それなら2階と3階を繋ぐ、階段から一番近い扉を壊して入りましょう。


 3階に水が上がっていくのを遅らせる事が出来ますし、水の中にいる魔物からも近いです』


 「水の中に魔物?水族館の魔物擬きとは違う奴?」


 『はい、この感じは多分スライムだと思います、水を生み出して、自分の細胞を食べた生き物を魔物擬きに変えているみたいです』


 「スライムって、あのスライム?」


 『そうですね、マスターの記憶にもあるファンタジーの王道の魔物です。


 ワタシの記憶に、細胞を食べた生き物が魔物擬きになるようなスキルを持ってなかったので、この世界で生まれた固有種か、別の世界から来た魔物でしょう。


 誰かがスライムを利用して、魔物化の実験をしてるとしたら、野々原の事件の時のマスクの連中が怪しいですね』


 「野々原に何かした奴らか、いったい何の為にそんな実験してるか分からないけど、迷惑な奴らだな」


 俺はスケさんと話ながら、2階まで駆け上がって目的の扉を蹴り壊した。

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