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やるしかないのか

 「おはようございます、渡辺さん、えーと、俺の独り言です」


 俺の背中に冷や汗が流れる、スケさんの声は俺にしかし聞こえないから、誤魔化せるはず。


 「大きな独り言ですね、独り言って精神的に病んでる人に多いらしいですよ、佐藤さん気をつけて下さいね」


 「ありがとう、気をつけるよ」


 俺は誤魔化せた事に安堵して、別の疑いをかけられた事に落ち込んだ。


 確かに今、精神的に疲れているかもしれない、でも誰かに相談出来る事じゃないと思う。


 スケさんは、自分の存在がバレない方がいい事は理解してくれている。


 今は図書館の本でも物色しているんだろう、知覚範囲が広がって図書館全体が手に取るように分かるってはしゃいでいた。


 「そういえば、お休みはどうでした?」


 「娘の試合を観てきたよ」


 「良かったですね、娘さん喜んでくれました?」


 「遠くから観てただけで会ってはいないかな」


 渡辺さんに聞かれて昨日の話をする、会わずに観ていただけと伝えたら、残念な顔をされた。


 「離れて暮らす娘さんに会いにくいのは分かりますけど、逆に怪しまれて捕まりますよ。


 最近、変な事件が起きてて警戒が厳しくなってるんですから」


 そう言って新聞の記事を指差して教えてくれた。


 「へぇー、殺人事件ですか、怖いですね」


 「知らないんですか、被害者は全員女子高生で、犯行は新月の夜、死因は失血死なのに、外傷は首筋の小さな外傷のみ。


 ニュースにもなってましたよ、現代の吸血鬼事件だって。


 被害者が今月で4人目だから、警察も結構な数の捜査員が導入されてるんですよ」


 渡辺さんが信じられないという感じで、机の上の新聞をバシバシ叩きながら言ってくる。


 「渡辺さん、新聞がシワになっちゃいますから、今日の新聞なんで」


 「すみません、ちょっと興奮しちゃって、私オカルト事件みたいなの好きなんですよね。


 人が亡くなってるのに不謹慎なのは分かってるんですけど」


 「大丈夫ですよ、でも渡辺さんがオカルト好きなんて意外でした、この前はダンジョンとか興味ないって言ってたので」


 「当たり前ですよ、ヒーローやヒロインにも、被害者にもなりたくないですから。


 当事者じゃないから冷静に見られるんですよ、ホラー映画が好きでも、ゾンビに会いたいとは思わないですよ」


 「それもそうですね」


 渡辺さんの意見に納得して頷く、俺もダンジョンに転移される状況を100%歓迎はしていない。


 そんな話をしているうちに、他の職員もやって来て時間になる。


 昼休みに、渡辺さん言っていたニュースが気になって調べてみた。


 こういうネットニュースで、被害者の個人情報が流出しているのに何とも言えない気分になる。


 被害者には女子高生という事以外の共通点も接点もなく、証拠も見つからなくて捜査は難航しているらしい。


 それよりも、4人目の被害者が近所という事だ、テレビも新聞も見ないとはいえ、近所で起きた事件を知らないのは問題かもしれない。


 『吸血鬼ですか、この世界にもいるんですね』


 昼飯を食べながらスマホに夢中になっていると、急にスケさんが話かけてくる。


 「吸血鬼の真似をしたってだけだと思うよ、注射器で血を抜いたんじゃないかって、ネットにも書いてあるし。


 吸血鬼なんて本当にいるわけないよ」


 『マスターは何故そう思うんですか?』


 「だって、吸血鬼なんて想像の生物だし、実在なんてするわけ‥‥」


 『確かにマスターの記憶ではそうですね、しかし、ワタシの意見を言わせて貰えば、存在しない証拠もないですよ。


 嘘か本当か伝承があるので、絶滅しかけた生き残りがいたとか。


 吸血鬼の元になる生物がいて、未発見だけど想像だけが先行しているとか。


 ワタシの様に他の世界から、この世界にやって来たとか』


 「そう言われると、否定は出来ないけど」


 スケさんという存在がいる以上、スケさんの意見は妙に納得してしまう。


 『もちろん、マスターが読んだネットとやらの言う通り、吸血鬼なの模倣犯というのも否定しません。


 それに被害者は月に1人です、そんなに気にする事でもないですね』


 「月に1人死んでるから、大変な事件だって世間が騒いでるんだろ」


 『事故、病気、自殺の方が殺人なんかより多くの人が死んでいますよ。


 マスターも今日まで知らなかったんです、関わる可能性は低いと思います』


 「スケさんの意見は分かった、でもなんか朝話を聞いてから気になったんだよ」


 『第6感ですかね、マスターは魔力と知力も+1されてますし、この世界の普通の人よりもそういう感覚が鋭くなっているのかも。


 面白いですね、その吸血鬼マスターが捕まえませんか?』


 「なんでそんな話になるんだよ、俺はちょっと気になっただけで!」


 俺はいきなりのスケさんの提案につい大きな声を出してしまった。


 『マスター、あまり大きな声を出すと‥‥』


 「佐藤さんどうしたんですか?」


 渡辺さんが、俺の声に反応してこっちに来てしまった。


 「何が気になったんですか?」


 しかも、最後の方は少し聴こえてしまったみたいだ。


 「それは‥‥、朝の吸血鬼事件が少し気になって」


 「事件の現場が近所でしたもんね、次の新月までまだ半月ありますけど、犯人の気が変われば分かりませんし」


 大きな声を出したせいで、話相手がスケさんから渡辺さんに代わってしまった。


 渡辺さんは事件に興味はあっても、関わる気はないからスケさんよりも話を反らすのは簡単だろう。


 「そうですよね、俺は娘が心配になってしまって」


 「佐藤さんの娘さん、高1でしたもんね、それは気になっても仕方ないですね」


 「犯行は夜ですし、娘が夜に出歩かなければ大丈夫なんですけどね」


 娘を話に出して、話を変えようと思ったのに本当に心配になってきた。


 娘が夜遊びしてるとか元嫁から聞いた事がない、娘は俺よりも元嫁に似てしっかりしているから、変な友達と変な所になんて行かないはず。


 「大丈夫ですか?、顔色が悪いですよ」


 「大丈夫です、大丈夫です、一応、元嫁にも連絡しておきますし」


 「佐藤さんじゃないんですから、元奥さまもちゃんと注意してくれてると思いますよ」


 「それもそうですね‥‥」


 なんだか暗い気分のまま昼休みが終わり、俺は午後からの仕事をこなした。


 『マスター、昼の話ですけど、あーいうのをフラグを立てるって、言うんじゃないですか』


 「やめてくれよ、余計に嫌な感じがするじゃないか」


 帰り道、俺はスケさんに言われて更に暗い気分になった。


 『いい案がありますよ?』


 「え?」


 『マスターが犯人を捕まえるんです』


 「また、そんな事を」


 『ですが、犯人さえいなければ娘様が危険な目に合う事はないですよ』


 それは確かにそうだけど、ここで認めたらスケさんの思う壺になってしまう。


 「警察が捜査して捕まえられないのに、そんなに簡単に俺が捕まえられるはずないだろ」


 『マスターにはワタシがついています、警察にだって負けません』


 ダメだ、これはもうスケさんの中で決定事項なんだ、俺にスケさんの案を越える案は思いつかない。


 やるしかないのか

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