別にいいけど
「スケさん、ガラスゴーレムで茂野君とやらを調べてくれよ」
『はぁ、約束ですからゴーレムでの調査はしますけど、渡辺さんじゃありませんが、余り干渉し過ぎると嫌われると思いますよ』
娘に嫌われる、そんな事になったら立ち直る自信がない、でも、どんな奴か気になるのは仕方ないじゃないか。
落ち込む俺に、スケさんが声をかける。
『夏休みの終わりに皆で出掛けるらしいですよ、茂野という方と2人きりではないようです』
「なんでそんな事を知ってるんだ?」
『一応、最重要人物として美月様と凛様には常にゴーレムを常に3体以上つけていますから、プライベートを侵害しない程度に予定を把握しています』
「そうなんだ、それならなんで早く教えてくれなかったんだよ」
『プライバシー保護です』
「俺は父親だし、娘が心配なだけだぞ」
『親しき仲にも礼儀ありという言葉もありますし、心配ならなんでも許される訳じゃありません。
個人の交友関係に口を出すのは、余計なお世話ってやつですよ』
「でも、何かあってからじゃ遅いし‥‥」
『何かあった時はそれも経験だと思いますけど、余程の時はちゃんと知らせますし、その時に対応を考えればいいと思います』
「それはそうかもしれないけど」
俺はスケさんに説得され、茂野君にゴーレムをつけるのを渋々諦め、眠る事にした。
朝、スマホを確認すると娘から挨拶と一緒に夏休み最後の週末に遊びに行くから、家には来れないというメッセージが届いていた。
事故の影響できる部活が休みになって、時間が空いた娘は骨折した事になっている俺の為に、部屋の掃除やご飯を作りに来てくれていた。
後ろめたい気持ちもありながら嬉しかったので、事前情報で週末に遊びに行くのを知っていたのに凹んでしまった。
夏休みが終わって学校が始まれば、娘も家に寄る時間はなくなる、いつも通りに戻るのが少し早くなっただけなのに情けない。
いつまでも凹んでいられないので、残ったコーヒーを飲んで仕事に出掛ける。
肩から吊っていたギブスもある程度自由に動かせる様になって、仕事が随分としやすくなった。
本を棚に並べながら気持ちを切り替える、スケさんや渡辺さんのいう通り、娘の交友関係に口を出しちゃいけない。
今までの俺なら、ウダウダ考えながらもちゃんと受け入れていたはずなのに、少し出来る事が増えたせいで我儘になっていたのかもしれない。
少しモヤモヤするし、今日は剣聖に稽古をつけて貰いに行くか。
そして夜、規則正しい生活をしてる剣聖を帰り道で待ち伏せして身体を動かしてモヤモヤを解消する。
「なんで俺が、何度も何度もお前に付き合ってやらないといけないんだ」
「『俺とまともに戦える知り合いなんて、剣聖以外にいないんだから仕方ないだろ』」
「俺はお前の友達じゃないんだよ、今は本業の方が忙しいから明日までに用意しないといけない資料だってあるんだ」
「『いいじゃないか、少し身体を動かした方が仕事だって捗るだろ』」
「どこが少しなんだよ、いくら人目につかない無人の山だって所有者はいるんだ。
こんな更地にして怒れても知らねぇぞ」
剣聖と戦っていた場所は、元々木や草が無造作に生えていた場所だったのに、切り株を残して殆ど更地になっている。
今は切り株に腰を下ろして剣聖と話をしていた、剣聖の方はもう忍装束はなく顔を晒している。
「『剣聖も共犯だろ、今さら文句言うなよ、それと顔は隠さなくていいのか?』」
「あ~、俺、組織を辞めたんだわ」
「は?、あ、」
「あははは、今の素が出ただろ?お前を驚かす事が出来て嬉しいぜ」
「『裏組織なんてそんなに簡単に辞められるのか?』」
「他の組織はどうか知らないが、俺達の組織はそこまで難しくないぜ。
言っただろ個人の集団だって、頭が見つけて来た仕事を出来る奴がやるのが基本だから、組織の秘密別にないんだよ。
お互いの連絡を特殊な魔道具でしか取れない様にしてたから、魔道具さえ返せばそれまでって感じだな」
「『そんな適当でよく組織が運営出来るな』」
「頭にはそういった魔道具を作り出す能力があるんだよ、他にどんな魔道具を作れるのかは分からないけど、金の受け渡しも情報の交換も頭の魔道具でやってたんだ」
「『そんな情報を話していいのか?』」
「別に頭は魔道具を作る能力を隠してない、むしろ能力を周知させて力を見せつけてるんだ。
裏の世界で頭の魔道具は有名だから、話しても問題ないさ」
「『魔道具を作る能力か、使い方次第で汎用性は半端ないだろうな。
それで、剣聖はなんで急に組織を辞めたんだ?』」
「質問の多い奴だな、お前の言う様に頭の能力の汎用性は凄ぇ。
組織に入った奴は、何かしら頭の能力の恩恵を受けてる、だから、お互いの繋がりは少なくても、頭との繋がりは強く組織は成り立ってる。
汚い仕事も、頭の持って来た仕事ならやるのは、それぞれ頭への想いがあるからだろうな」
「『そんな話を聞いたら、ますます剣聖が組織を辞める理由が思いつかないんだが」』
「そうだな、俺は頭について行く理由がなくなったからだな、詳しい話をするつもりはないぞ」
「『不完全燃焼だけど仕方ないな』」
剣聖はすっきりした様な顔をしていたので、無理に聞くのは止めて話を続けた。
「『それで、これから剣聖はどうするつもりなんだ』」
「だから、本業の方が忙しくなったって言っただろ、最近ウノハナって奴が面白いプログラムを持ち込んで来て、うちの会社で買い取って新しい企画を進めてるんだよ」
「『そんな企画の話を俺にしてもいいのか』」
「しまったな、つい話過ぎるのは俺の悪い癖だな、でも、お前には関係ない話だし、言い触らしたりしないだろ」
「『そうだな、それにしても本当にIT企業で働いてるんだな』」
「俺は覚醒者だからな、帰還者と違って社会との結び付きがあるんだよ。
帰還者は、異世界の時間とか生活のせいで、こっち社会に馴染めなくなったり、縁が切れた奴が多いんだよ、なんとなく分かるだろ?」
俺はさっぱり分からないけど。
「『なんとなくは理解している』」
スケさんは分かっているらしい。
「まぁそういう事だ、うちの組織を必要としてる奴がいるって事だ、必要悪ってヤツだよ」
「『俺は必要悪って考えには賛成しないが、そういう受け皿がある事は理解してる。
俺と敵対するなら潰すけど、そうじゃなければ目を瞑ってやる』」
「はっ、俺に勝てない奴がよく言うぜ、帰還者には俺より強い奴がいるんだ。
覚醒者だって俺程じゃなくても、普通の人間とは全然違うんだ、お前が勝てるような相手じゃない。
お前は、俺の運動相手をしてりゃいいんだよ」
「『なんだ、心配してくれるのか?敵対するならの話だ。
俺にはやらないといけない事があるから、裏組織もお前の相手も二の次だ』」
「なんだよ、やらなきゃいけない事って、面白そうなら俺も誘えよ。
俺の連絡先教えてやるから、これからは待ち伏せじゃなくて、ちゃんと連絡してこい」
「『連絡したら、俺の情報を特定するつもりじゃないだろうな』」
「今さらそんな事しねぇよ」
「『わかった、信じるよ、次からは連絡する、仕事頑張れよ』」
まぁ、俺のスマホはキッカに魔改造されてるから、情報漏洩の心配はないから別にいいけど。




