考えがまとまるかもしれない
大剣の柄が斬れる、そのまま拾っていたら斬れていたのは俺の手だった。
「ああ、俺の大剣が、せっかく手に入れた魔剣なのに」
つい、スケさんを通さずに素で声が出てしまう。
「なんだよ、余裕がなくなったのか、話し方が変わってるぞ」
「おっと、『気にするな、たまたまだ』」
「たった1日で、戦い方は随分マシになったようだが、そろそろ時間切れなんじゃないのか」
剣聖は俺がデバフを弱めているのを、身体強化のスキルをかけていると勘違いしている。
昨日は能力値+409にしてから、2、30分したくらいでダンジョン転移の時間が迫って来たから、時間切れと言って帰った。
今は能力値を+512にしてから20分くらい、全力で身体強化を使ってそろそろ限界だと勘違いしたんだろう。
能力を使った剣聖の力は、能力値+512にした俺と互角以上、それが組織の中でどれくらいの強さなのか、口ぶりからはAクラスだと思うけど。
「『そっちこそ、維持を張らないで仲間を呼んだ方がいいんじゃないか?
前に一緒にいた賢者とか、お前との相性も良さそうだし』」
「俺1人に押されてる、お前がなんで余裕かましてるんだよ」
「『俺はまだ本気出してないから』」
「ハッタリもいい加減にしろよ」
「『なんでハッタリだと思うんだ、組織には強い奴がいっぱいいるんだろ?』」
「なんだ、組織に入るつもりは無くても、興味はあるから探りを入れてるのか」
剣聖はスケさんの考えを察しているみたいだ、最初の印象と違って馬鹿じゃないんだよな、流石はIT企業勤めのエリートサラリーマンだ。
『スケさん、なんか探っているのバレてるみたいだけど大丈夫か?』
『大丈夫ですよ、ああいう人はこっちの考えを分かっても乗ってくるタイプなので』
「まぁいい、少し暴れてスッキリしたから、答えられる事なら答えてやるよ、何が知りたいんだ?」
本当にスケさんは予想通りに乗ってきた、嘘みたいにスケさんよ手の平の上だな、この人。
「『じゃあ、組織の中で剣聖はどれくらい強いんだ?』」
「一番強いって言いたいところだが、精々10番目くらいだな。
俺は身体能力がBクラス止まりだからな、技術で補っているけど限界がある。
俺はあくまでも剣聖だからな、戦い方はどうしても身体能力に依存する」
「『強さの基準は身体能力と他は?』」
「身体能力と特殊能力の強さだ、流石に仲間の能力までは教えないから諦めろよ。
てか、俺ばっかり話すのは不公平だから、お前もなんか教えろよ」
「『自分から答えたのに不公平とか勝手な奴だな、正体以外で答えられる範囲ならいいかな』」
『いいの?』
『適当に誤魔化します』
俺とスケさんの相談を挟んで、剣聖がニヤリと笑う。
「お前、嘘つこうとしてるだろう?」
俺はつい反応してしまい、スケさんのため息が頭の中に響く。
「素直なのか腹黒いのか、分からん感じだな、お前」
『マスターと違って鋭いですね、上手く誤魔化せるようにしっかりして下さいね、マスター』
『わかってるよ』
「『何が聞きたいんだ』」
「そうだな、お前は帰還者か、覚醒者がどっちだ?」
「『帰還者とか覚醒者ってのはなんだ?』」
「だいたいニュアンスで分かるだろ、異世界に行って帰って来たのか、突然能力に目覚めたのかだよ」
『どっち?』
『両方でしょうか?』
スケさんにも分からないみたいだ、一応帰還者のか近いような気なする。
「『たぶん帰還者?』」
「なんで疑問系なんだよ、それも答えたくないって事か」
「『それを聞く意味があるのか?』」
「意味はあるぞ、絶対じゃないけど帰還者の方が強い傾向があるし、扱い方も変えなきゃいけないからな」
「『へぇ、俺には関係ない話だな、聞きたい事はそれだけでもいいか?』」
「確かに、お前には帰還者特有の鋭さも、覚醒者特有の優越感もないからな。
聞きたい事はまだあるけど、能力を聞いても答えてくれないだろ、だからもういい」
「『案外あっさりと引くんだな』」
「どうせ、また来るんだろ、その時に答えてさせればいい」
「『なるほど、どうやって答えてさせるつもりか謎だけど、また会いに来るつもりはあるな』」
俺はもう会わなくてもいいんだけど、スケさんは組織に興味を示してるからな。
入りたいとかじゃないけど、どんな人がいて何をしてるのか、今後の為とか言ってるけど、ただの趣味なのは知ってる。
「そういう事だ、俺はもう帰るけど、おっさんも無理するなよ」
剣聖はそう言って帰って行った、どこまでバレてるのかも聞いておけば良かった。
夜ダンジョンで、今日の剣聖との戦いを反省しながらギガンテスと戦って、中央の城に向かうと、半壊した城にトロールが座って待っていた。
トロールは、サイクロプスやギガンテスよりも大きく15m以上の巨体だった。
どう攻撃をしたらいいか分からないから、取りあえず試しにそこら辺の手頃な瓦礫を投擲してみる。
瓦礫は弾力のあるトロールの身体にめり込んで跳ね返ってきた。
投擲したよりも速さの増した瓦礫は、俺が避けると後ろまで飛んで行って、遠くのサイクロプスの身体を抉っていた。
瓦礫の投擲が効果がなかったから、打撃に強いと判断して、今度槍を投げてみた。
槍は一直線にトロールに当たると、弾力のある腹に突き刺さって、瓦礫と違って跳ね返されはしなかった。
だけど分厚い皮膚と脂肪に邪魔されて、全然効いた様子がない、刺さった槍を抜いてボリボリと傷口を掻いている。
最後は斧に回転をかけて投擲する、トロールは避ける様子もなく、首を狙ったの斧は腕に防がれて腕の肉を少し削いだけど、傷はすぐに治ってしまう。
巨人達は全員再生のスキルを持っていて、異常なタフネスを有している。
サイクロプスみたいに目が弱点だったり、ギガンテスみたいに再生速度が遅いとかもない。
重力の魔眼を使っても平気で動き、逆に振り下ろしてくる拳の威力が上がるだけの結果になった。
地面を叩いた衝撃で瓦礫が宙にまって、一定の高さまで達すると、重力に引かれて落ちてきた。
急いで重力の魔眼を解除して離脱する、魔眼の影響で増した分の速度は衰えず、流星となって王都の破壊をした。
何も対策が思いつかないから、今日の探索は終了して新しいスキルを考えよう。
最近はずっとスケさんのマジックハンドのレベルを上げていたのでレベル10になってるし、俺が新しいスキルを取得するポイントは十分ある。
動きの遅いトロールから離れてから、兎達を帰還させて俺も部屋に帰った。
汗を流しスッキリして、スキルを考えながら横になるといつの間にか寝てしまい、気がついたら朝だった。
コーヒーを飲んでメッセージを確認、家を出てバスに乗る、事務所の鍵を開けて少し作業をする。
その時間の間ずっと考えていたけど、あの巨体をなんとか出来るスキルが思いつかない。
ちょっと考えていると渡辺さんが話し掛けてきた。
「何か悩み事ですか?」
こういう時は、何も知らない第三者から話を聞いたら考えがまとまるかもしれない。




