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そのまま拾っていたら斬れていたのは俺の手だった

 時間切れは身体強化じゃないんだけど、剣聖は満足したのか逃がしてくれるみたいだし、わざわざ否定する事はない。


 俺は透過と隠密を使って、剣聖から離れた。


 「どっちが忍者なんだよ、くそっ、手が痺れてる、あの馬鹿力が」


 剣聖は自分の手を握ったり開いたりしながら、姿を消した。


 剣聖と別れてからすぐにダンジョンに転移する、本当に時間ギリギリだった。


 本当は生きてた事を自分からバラしてしまったけど、またウサギの偽者が出てくるのだろうか?


 『心配しなくても、こっちを探し出すのが目的だったんです、また姿を見せる事を伝えたんですから必要ないですよ。


 もしかしたら、剣聖は他の仲間に伝えない可能性もありますし』


 「剣聖か、想像以上に強かったな、あいつならリッチも倒せたりして」


 『たぶん無理だと思いますよ、動きは剣聖の方がいいかもしれませんが、あの影魔法の対処は難しいと思います』


 「確かに影魔法は凄かったもんな」


 リッチとの戦いを思い出して背筋が寒くなった。


 ダンジョンに兎達を召喚して、せっかく剣聖と戦った感覚を忘れないように巨人相手に大剣を振るう。


 ギガンテスを骨ごと綺麗に切断出来るまで、何度も繰り返し、時間内では無理だと諦めかけた最後の一振がギガンテスの腕を切り落とした。


 そろそろ帰ろうと思ったけど、少し延長してなんとか刃筋を立てる感覚を掴めた気がする。


 気分良く眠りについて朝を迎えた、延長した分少し眠いかと思ったけど、スッキリと目が覚めた。


 最近の娘からのメッセージには、兎達の写真が添付されている。


 俺が寂しくないように、兎達の写真を送ってくれているんだろうけど、毎夜ダンジョンで会っている。


 元嫁の家で兎達は、2人が居る時はちゃんと大人しくしてくれているが、兎達だけになるとノートPCを使って色々とやっているらしい。


 使い終わった後は履歴を消して電源を落としているので、何をしてるのか知っているのはスケさんだけだ。


 誰かに迷惑をかけてないなら、別に何をしててもいいんだけど少し気になる。


 着替えをしてギブスを着けて仕事に向かう、後一月半は我慢しないといけない。


 流石に心配をされる事はなくなったけど、それでも気を使って大変な仕事を変わってくれるのに、罪悪感が半端ない。


 その分、片手でも出来る仕事はきちんとこなした、帰りに駅前を通ったがウサギの偽者は出てこない。


 スケさんの予想通り、俺の事を剣聖は誰にも話してないのかもしれない。


 今日もまた剣聖に会いに行ってみよう、昨日はいい勉強になった。


 「お前、暇なのか?」


 「『また今度って言っただろう』」


 「昨日の今日じゃねーか、俺はお前と違って暇じゃないんだよ」


 「『それは残念、俺の事は組織に報告した?』」


 「してねぇな」


 「『俺を連れてくのが仕事じゃないのか』」


 「良くはないが、元は頭がお前を勧誘したくて会いたがってたんだ。


 でも、お前は俺達の仲間にはならない、だから会う意味がないだろ」


 「『俺に会いたいだけで、あんな事をしたのにそれでいいのか』」


 「いいんだよ、そもそも俺達は個人の集団なんだ、色々あって普通の生活だけじゃ満足出来ない奴らを頭が拾って来て、仕事を与えてるだけ。


 善悪は関係なく、頭が持って来た仕事を出来る奴がやるのが、俺達のルールで出来ない仕事はしなくてもいい。


 お前の件は頭個人の依頼だから、義理もあるし参加したけど、強制じゃないから俺は降りた」


 剣聖は俺を認めてくれたのか、想像以上に何でも話してくれる。


 「『なんか緩い組織なんだな』」


 「なんだ、興味が湧いたなら、頭に会わせてやってもいいぞ」


 「『それは遠慮する、目的の為に他人を巻き込む人は信用出来ないし』」


 「あはは、所詮俺達は裏組織だぞ、目的の為に手段を選ばないくらい普通だ」


 「『それを普通っていうのがおかしいんだ、お前らの力だって使い方次第で悪い事なんっ』」


 俺が言い終わる前に剣聖の剣が俺の目の前に突き付けられた。


 「気が変わった、今日は最初から本気でやってやるから、場所を変えようぜ」


 「『何が気に障ったか分からないけど、相手をしてくれるなら俺はいつでもいいよ』」


 俺は剣聖を連れて、昨日と同じ人気のない場所に移動した。


 「俺だけ顔を知られてるのは不公平だから、俺が勝ったらその被り物脱いでもらうからな」


 「『俺が勝ったら?』」


 「お前が生きてた事は俺だけの秘密にしといてやるよ」


 「『それは助かるのかな?まぁ、それでいいか』」


 「死んでも文句言うなよ」


 「『死んだら文句も何もないだろうけど、文句はいわないって約束してやる。


 そっちこそ、死なない様に気をつけろよ」』


 「生意気なんだよ」


 剣聖が忍装束に素早く着替えて、一瞬で間合いを詰めて斬りかかって来た。


 俺だけ大剣で受け止めて、下から地面を削るような軌道で大剣を振り上げる。


 剣聖は紙一重で躱した後に、大剣を剣の柄で加速させて俺のバランスを崩しながら、その流れを止めないで攻撃がくる。


 相変わらず剣聖は無駄のない動きで、俺の動きを読んで隙をついてくる。


 昨日とは違って、剣聖の能力も使ってきて、防戦一方になった。


 身体能力は俺の方が上なのに全然攻め込めない、絶妙なタイミングで俺の進路上に断裂を使われて、スケさんが教えてくれなかったら首が飛ぶところだった。


 これでもリッチに勝てないとか本当か、スケさんがそう言うなら間違ってはないんだろうけど、俺の体感では剣聖の方が戦い方が上手くて、強く感じる。


 一瞬で間合いを無くす縮地、剣の範囲を伸ばす魔刃、剣から斬撃を飛ばす疾風、任意の場所に斬る断裂と組み合わせると全く隙がない。


 スケさんは俺が察知出来ない断裂の出現だけ教えてくれるけど、手を出すつもりはないらしい。


 俺は大剣を2本使って手数は勝てると思っていたのに、剣聖の攻撃を受けるのが精一杯だった。


 能力値は昨日と同じ+409で、剣聖よりも上のはず、動きだって昨日よりは良くなったつもりだ。


 「今日は、お前の生意気な面を見れそうだな」


 「『技術じゃ勝てないのはわかったけど、お断りだ』」


 俺は能力値+512までデバフを弱める、身体能力では圧倒的な差が出来たのに、これで剣聖とはやっと互角。


 「昨日はまだ本気じゃなかったのか、身体強化でここまで使えるなんてな。


 その状態がいつまで持つか試してやるよ、ただ力が強いとか速いだけじゃ、俺には勝てないって教えてやる」


 本当に凄いな、剣に魔刃を纏っているから透過で避ける事も出来ないし、間合いを取れば疾風、疾風を避ければ縮地で間合いを潰される。


 その合間に不可視の断裂、剣の腕だけじゃなくそれを活かす能力を使いこなしている。


 スキルの量なら負けていないのに、剣聖の方が戦い方が洗練されている。


 俺は小石を投擲して距離取ろうとして、投げた小石を斬り裂いて飛んできた疾風に腕を斬られた。


 思わず大剣を落とし、拾おうとした止めて手を引いた。


 大剣の柄が斬れる、そのまま拾っていたら斬れていたのは俺の手だった。

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