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わざわざ否定する事はない

 「『この前はどうも』」


 細身の男が振り返って、俺を見て一瞬驚いたけど、すぐに手を横に振り抜いた。


 後ろに飛び退いて避けると、細身の男の舌打ちが聞こえる。


 「どうやったか分からないけど、生きてたのか。


 しかも、俺が仕事帰りに現れるなんて、俺の事は調べられたって事か」


 「『まさか、話をしたいって言ってきた人が殺しにくるなんて思わなかったから吃驚したけど、あれくらいどうって事ない。


 調べたっていっても、せいぜいお前が剣聖で一緒にいた奴が賢者、後は聖女がいるかもって事くらい。


 組織の事は何もわかってないから、教えて貰おうと思って』」


 「本当に生意気な奴だな、死んだって報告して散々嫌みを言われた後に、出てこられても邪魔なだけなんだよ」


 細身の男=剣聖の右手にいつの間にか剣が握られていた。


 「『空間収納?』」


 「俺達はアイテムボックスって呼んでるけど、たぶん同じようなもんだな。


 俺も立場があるから身バレしたくないし、顔は隠させて貰う」


 剣聖はあっという間に忍装束に着替え、俺に剣を向けてきた。


 「『早着替え?忍装束って恥ずかしくないのか?』」


 「早着替えは慣れだよ、忍装束は頭の趣味だ、思ったよりは動きやすいし、顔が隠せればどうでもいい」


 「『確かに、顔が隠せれば後は動きやすければ何でもいいか』」


 言い終わると同時に、剣聖が1歩踏み出して剣を振る、鋭く速い剣を紙一重で避ける。


 前に使ってきた断裂なんかより速度がある、切り返した剣先が俺の髪を少し斬った。


 「へぇ、疾風まで避けるのか、断裂じゃ捉えきれなかったはずだな。


 次は切るから、覚悟しろよ」


 剣聖が突いてくる、俺が避ける為に距離を取ると、そこから剣先が伸びてきて、躱したと思ったのに今度は鼻頭が少し斬れた。


 さすが剣聖、剣を持たせたら動きが全然違う、この前は本当に腕試しだったんだ。


 切れて腕試しの域を越えていたけど、それも本気ではなかった。


 『面白いですね、マスターのいい練習相手になりそうです。


 ワタシは手を出さないので、マスターはバフ無し、デバフを重ね無しから少しずつ弱めていって下さい』


 『なんでそんな変な事しながら戦わないといけないんだよ、向こうは殺す気なんだぞ』


 『この前の動きはCクラスと判断されたので、どの程度か計りたいんです。


 少なくとも、組織の上位はAクラスかそれ以上だと思うので。


 それに、マスターは剣の使い方が下手なので、丁度いいお手本じゃないですか、なにせ剣聖ですよ』


 『俺が気にしてたのに気がついてたのか』


 『あれだけ、チラチラとワタシの武器の様子を確認されたら嫌でも気がつきますよ。


 ちなみに、ワタシも剣の使い方は剣聖には及びませんので、頑張って下さい』


 『わかったよ、せっかく魔剣があるし、剣聖さんに勉強させてもらうか』


 「『この前は本気じゃなかったんだな、てっきり雑魚だと思ってた』」


 スケさんに言われるままに挑発すると。


 「俺は雑魚じゃねーよ、お前の方が雑魚だろうが」


 驚くほど沸点が低い剣聖は、剣を構えて間合いを詰めてきた。


 大剣を出して地剣聖の剣を受け止め、反対の手にもう1本の大剣を出して切りつける。


 剣聖は大剣の刃に自分の剣を滑らせて、体捌きと剣の柄で俺の大剣を逸らした。


 「なんだ、お前も剣を使うのか、剣聖の俺に剣で向かって来るなんて面白い。


 デカい大剣を振り回すだけのお前に、本当の剣技を見せてやるよ」


 「『それは楽しみだ』」


 それから剣聖と打ち合う、デバフを少しずつ弱めて剣聖との力の差を計る。


 能力値が+40くらいだと、大剣は全く剣聖の動きを捉えらきれない、こっちは2本向こうは1本なのに、俺の攻撃は当たらず、剣聖の攻撃は当たる。


 細かい傷が増えていく、能力値+80くらいにして剣聖の攻撃を弾き返す。


 「なるほど、身体強化か?少し動きが良くなっても素人丸出しの動きじゃ、俺の相手じゃないぜ」


 身体強化じゃなくてデバフを少し解いただけなんだけど、いちいち説明はしない、動きが素人なのは今さらだ。


 「『このくらいだと、お前らの基準なら何クラスなんだ?』」


 「なんだ、この前、Cクラスって言ったのを気にしてるのか、残念だがその程度なら、まだまだCクラスの上の方、Bクラスには届かなねーよ」


 やっぱり剣聖は口が軽い、スケさんが嬉しそうなのが伝わってくる。


 剣聖の言葉から、予想を立てて俺を使って検証してるんだろう。


 戦いながら、どんどん街から離れてスケさんが事前に調べた人気のない場所に移動している。


 俺とスケさんは勘違いしていた、剣聖はキレていても冷静だった、ただ戦うのが好きな戦闘狂。


 しかも、ギリギリの戦いが好きなタイプ、この前は俺が弱いと思ったから切れた感情のままに殺そうとしただけ。


 今は、全方向の断裂から生き延びた事で、戦う相手として認めてくれた。


 だから、俺の全力を引き出した上で叩き潰す気でいる、俺よりも少しだけ強い力で、少しだけ速く動き、実力の差を見せつけようとしている。


 「本気を出せよ、念動力が得意なんじゃないのか、身体強化だけじゃ勝てないぞ」


 「『もう少し本気を出すから、ついて来いよ』」


 能力値を+400くらいにすると、剣聖は少し面食らったみたいだけど、すぐに対応してきた。


 でも、さっきまでと違い力も速さも俺の方が上で、剣聖の能力値は+400より下なのが分かった。


 世界の基準が違うから、スケさんの鑑定視では剣聖の能力値は数値化出来なかった。


 鑑定視も万能じゃない事が分かって、俺は少しがっかりしたけど、スケさんは学習する事で鑑定視は成長するはずと喜んでいた。


 「『さっきまでの余裕が消えたんじゃないか?』」


 「うるせぇよ、そんな無茶な身体強化が続くわけねぇだろ、力や速さが上がっても動きが素人のままじゃ宝の持ち腐れだぜ」


 剣聖の言う通り、俺の方が能力値が上になっても、俺の攻撃は上手く捌かれて、剣聖の攻撃は的確に俺を捉えている。


 「お前、本当に何者だよ、剣で俺とここまで打ち合えるなんて、今からでも仲間になれよ、弱い奴だと思ったから始末しようと思ったけど、強いなら歓迎するぜ」


 自分の方が上なのは疑わないけど、俺の強さを認めてくれたから本気の勧誘。


 今さらだし、最初から勧誘に乗るつもりはない、俺は大剣で攻撃をする事で決裂を示した。


 「あははは、戦うつもりはならそれもいい、お前との戦いも面白くなってきたしな」


 俺が仕掛けた大剣に、剣聖が剣をぶつける事で戦いは激しさを増した。


 一瞬でも気を抜けば急所を斬られるか、突かれそうな攻撃をギリギリで避けて、俺も大剣で反撃する。


 剣聖にも少しだが俺の攻撃は当たっている、避けきれない攻撃を肩や腕で攻撃の方向を逸らされてるだけで殆どダメージなんてないけど、最初はそれすらさせる事が出来なかったからんだから、上出来だと思う。


 俺が戦える時間は後少し、剣聖はスケさんの予想よりも強かった、能力値では上回ったのに技術の差で完全に負けてしまっている。


 「『時間切れだ、なんで剣技以外使わなかったか分からないけど、勝負はまた今度』」


 「お前が、念動力を使わなかったからな、身体強化を使える時間をもっと伸ばさないと、次も俺の勝ちだぞ」


 時間切れは身体強化じゃないんだけど、剣聖は満足したのか逃がしてくれるみたいだし、わざわざ否定する事はない。

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