一泡吹かしてやる
ウサギの被り物をした男が数人出て来て俺を取り囲んだ。
「なんだ?」
俺が疑問を口にすると同時に男達は襲いかかってくる、咄嗟に避けようとして体が動かなかった。
男達が持っていたバットや鉄パイプで殴られる、痛いわけじゃないけど頭を守る様にして地面にうずくまる。
『スケさん、なんのつもりだ?』
『少し我慢して下さい、全く怪我をしないのも変ですから折ります』
『え?何を「いっ痛ぅう」
俺の質問に答える事なく、スケさんに念動で腕を折られた、思わず声にならない声が洩れる。
男達が襲って来た時も、俺の動きを止めたのはスケさんだ。
『後でちゃんと説明してもらうからな』
『わかっています、悪いですけどもう少し怪我をさせます』
『ちょっと待って、心の準備が‥‥「うぐっぅあっ、げほっ、止めて」
やっと警察が来て、ウサギの被り物をした男達が逃げて行く。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないです」
俺はこの日初めて救急車に乗って、全身打撲と左腕骨折と念の為に頭の検査で入院した。
奇しくも運ばれたのは元嫁の病院で。
「頭の方は異常なし、これだけやられたのに頭に大した怪我がなくて良かったわね」
そりゃやったのはスケさんですから、とは言えずに苦笑いを返す。
「なんで九郎が襲われたの?」
「そんなのは俺の方が聞きたいよ」
それは俺も本当に聞きたい、スケさんにはちゃんと説明して貰わないといけない。
「そっか、他にもウサギ男に襲われたって人が何人か運ばれて来てたし、理由なんてないのかもね。
それにしても毎日毎日、ウサギ男って何人いるのかしら、警察に捕まった人もいるのに背後関係が分からないとか。
ただ暴れるだけじゃなくて、人まで傷つけてるんだから警察にはもっと頑張って貰わないと」
「ははっ、そうだな」
俺は俺が襲われた理由は分からないけど、ウサギ男達が暴れてる理由は察しがついているので何て答えていいのか分からない。
「明日には退院出来るけど、左手使えないんだし何かあったら家に来なさい。
元夫婦のよしみで助けてあげるから、美月と部活がなくて暇してるし」
「ありがとう、どうしても助けが必要になったら連絡する」
「じゃ、私は行くわね、お大事に」
部屋から出て行く元嫁に軽く手を振って見送る、元嫁の姿が完全に見えなくなると、隣のベッドの男が話掛けてきた。
「あんた、鈴木先生と元夫婦って本当かよ」
「ええまぁ」
大部屋だし普通に会話をしていたから聞こえたんだろう、別に隠すことでもないので肯定する。
その後は隣の男を中心に同室の他の患者にも、元嫁との事を根掘り葉掘り聞かれて、少々うんざりしてきたのでトイレに逃げた。
入院中に暇なのは分かるが、プライベートな事を何でもかんでも聞かれて答えるつもりはない。
適当に時間を潰してから部屋に戻ろう、スケさんに聞きたい事もあるし、どこかゆっくり出来る場所を探した。
『それじゃ、ちゃんと説明してもらおうか』
『はい、マスターへの炙り出しが二重三重の罠だったので、あまり相手の思惑通り動きたくなかったんです』
『俺って罠にかかってたの?』
『そうですね、まだ警戒されています、いきなりキョロキョロしないで下さい』
罠にかかっていた事と警戒されている事を知って、周りを確認しようとしたら念動で頭を固定される。
『ごめん‥‥、でも、なんでバレたんだ?スケさんの念動で見えない様に倒したのに』
『ワタシも気がつくのが遅れたのでマスターだけが悪いんじゃありません。
マスターがウサギ男達を無視しないと読みながら、無視出来ない様に細工をしてましたし。
偽者が現れてから、ネットで世間を煽っていたのも罠の1つでしょうね』
『いったい幾つ罠が仕掛けられてるんだよ』
『分かりません、複数の罠を仕掛けてどれかに引っ掛かればいいという考え方でしょうから。
ネットで煽る時は、実際に流れたマスターのウサギの被り物をコラージュする手の込みようでした。
ワタシが死体の人形を潰した事を知っているので、元々目に見えない攻撃も想定していたと思います。
だから、マスターが直接現れたら手間が省けるくらいの考えで、ウサギ男の偽者を何人も用意したんでしょう。
統計を取って気長に罠にかかるのを待って、候補者が絞れたから用意していたウサギ男達を一気に使って試したんです。
少しでも怪しい動きをしていたら、さらに疑われるところでした』
『それで俺の動きを止めたのか、普通のおっさんはいきなり襲われて対応なんて出来る訳ないからな。
それで、腕を折ったり打撲まで必要だったのか、回復魔法も治癒魔法も使うなって言うし』
『はい、あれだけ叩かれて無傷や軽傷なのは普通じゃあり得ませんし、すぐに治るのもあり得ません。
まだ疑いが完全に晴れてないですけど、警戒の度合いは下がったと思いますよ』
『それにしても、見えない攻撃があるかもしれないで統計を取るとか、使い捨てに出来る人が何人もいるって、大きな組織なんじゃないか』
『組織の大きさは判断が出来ませんけど、使い捨てなのは間違いないですよ。
暴れていたウサギ男達は全員、暴れる少し前からの記憶がないみたいなのです。
洗脳や操作等のスキル、スキルに似た何かを使って関係ない人を動かしただけの本当に使い捨てです』
『酷いな‥、自分の意思とは関係なく暴れさせられて、警察に捕まるなんて。
俺、知らずに無実の人を何人か捕まえる手伝いしちゃったじゃないか、なんで教えてくれなかったんだよ』
『止めないと被害が増えるだけですし、マスターは責任を感じる必要はないです。
それに、暴れさせられていたのは、全員マスターと背格好が似た同年代の人ばかりなんです。
偽者のウサギ男の見た目をマスターに近づけるだけじゃなく、操る過程もマスター探しの一部だったと思います』
話を聞いて俺は頭を掻く、俺にはどの行動になんの意味があるかさっぱり分からない。
『ありがとう、スケさん、俺だけだったら罠に全部引っ掛かりそうだよ』
『お礼の必要はないです、マスターとワタシは一蓮托生なんですから。
それにワタシも全部の罠は回避出来なかったですから、候補者にまでなってしまったのがその証拠です』
『それでもスケさんのお陰でまだ候補者なんだろ?
このまま嵌められ続けるのも気に入らないな、なんとかやり返したいんだけど』
俺がそう言うと、頭の中でスケさんがニヤリと笑ったような気がした。
『当たり前です、せっかく罠を用意してくれたんですから、上手く利用してあげましょう』
その前に入院中のダンジョン転移をなんとかしないと、俺達は作戦会議をして部屋に戻った。
ベッドの上で夕食を食べて早めに眠る、隣の男には大の大人が病院の就寝する時間前に寝るなんてと呆れられたが、関係ない。
夜中に起きて新しいスキルを取得する、今までは全く必要がなくてスケさんの許可が下りなかったユニークスキルの真分身。
俺はさっそく真分身を使ってベッドで寝てる様に指示をする。
無事にダンジョン転移を乗り切ったら、偽者を操っていた奴に一泡吹かしてやる。




